62 周囲の視線に負けずに愛をつらぬいて下さいね
元の姿に戻って早々に、何故か俺はメンバールームで反省会なる物に参加させられていた。
ピアリとの件もあって、内心それどころじゃないのだが……。
そんでもって、ちゃんと男の姿に戻れた事を確認するという名目で、みんなが俺の事をベタベタとさわってくる。
その中で一番触っていたのは、ロワりんである。
「セキこも良かったけど、やはりセッキーの姿がしっくり来るね☆」
どうでもいいけど、ボディタッチが過剰じゃないですかね……。
女の子に触られて悪い気分はしないけどさ。
「わたくしの性転換薬は自画自賛するほど完璧でしたの。次回はどのようにアレンジしましょうか」
メルさまはどれだけ俺を実験台にしたいのですかね!?
「気軽に実験台とかやめてくれませんかね? そもそも魔石の粉末とか摂取したら、副作用とか出るんじゃないですか?」
まさか、あの猫耳が魔獣の魔石の効果だとは予想もしてなかったよ。
「セッキーさんはご存知ないのですか? 魔石の粉末は高価な薬の原材料としても珍重されるのですよ。ですから、用量・用法を間違えなければ大丈夫ですの」
魔石は薬にもなるのか……。
普通に知らない事だったので素直に感心してしまった。
だけど、用量・用法を間違えたら毒だったんじゃないか?
俺が殺されるとしたら、メルさまが犯人の可能性が大だな。
俺達のやり取りを興味無さそうに見ていたミっちゃんが口を開く。
「ところでピアっちが凄く機嫌がいいみたいだが、昨晩は何かあったのか?」
いきなり核心を突かないでくれませんかね。
挙動不審の俺とは対照的に、ピアリはニコニコしている。
「ん~? 別に何もしていないし、リョウヤ君とは何もなかったよ?」
それは思いっきり何かあったと、言っている様なものじゃないですかねえ。
あの後、ピアリは俺に何をしたのか言わなかった。
俺としては、ピアリと今後も親友として付き合いたいのだが。
さっきからリリナさんが不穏な表情で俺の方を見てるし……。
「まさかピアリ君、リョウ君に手を出していないよね……」
リリナさんから、何やらどす黒いオーラが出てる気がするのは気のせいだよね、きっと。
このまま修羅場に突入して、俺がサークルクラッシャーになってしまうのだけは避けたいので、本当に勘弁してください。
「仮にだけど、ピアリ君が手を出していたら、私もリョウ君に手を出す権利はあるよね?」
……なんで、そういう考えに至るんですかね。
「それなら、私にだって権利はあるよね☆」
ここぞとばかりにロワりんが参戦してきた。
お願いだから面倒事を増やさないで。
「ならば私も……と言いたいところが、セッキーとはそんなに接点が無かった!!」
ミっちゃんが頭を抱えて落胆する。
無理に会話に入って来なくていいから、大人しくしていてくれ。
「接点ならば、わたくしにもありますの。先日セッキーさんと二人きりの密室で色々としましたの。さしずめ、二人の共同作業ですの」
メルさまが不敵な笑みを浮かべる。
こんな所に伏兵が!
リリナさんとロワりんが、ゆっくりと俺の方へ振り向く。
逆に無言なのが怖いんですけど。
「誤解ですって! メルさまが師事してる薬師の先生の工房で、回復薬作りを手伝った話ですよ!」
「まぁ! セッキーさんってば、ひどいですの。その話は二人だけの秘密にしましょうねと言ったはずなのに……」
なんでそこで火に油を注ぐ真似をするかなぁ。
そもそも自分でバラしたんじゃないかよ!
「リョウ君ってば……」
「キミって奴は……」
あああああ! もうこの人達、超面倒くせえ!
いい加減、大声で文句を言おうと思った時だった。
「みなさんずるいですよう。セッキー君と色々仲良しで、私だけのけ者みたいじゃないですか!」
アンこ先輩が目に涙を浮かべて身体を震わせていた。
これはガチ泣き寸前かもしれない。
「アンちゃんごめんね! 仲間外れにするとかじゃないの!」
「そうだよ! ちょっとした冗談だから泣かないで?」
「わたくしも、調子に乗り過ぎましたの。ごめんなさい」
リリナさんとロワりんとメルさまが慌てて先輩を慰める。
あの悲しそうな表情を見たら謝るしかない。
それだけ彼女の涙は凄まじい威力だったのだ。
「ははは、私も接点がなくてのけ者だけどな!!」
「ミっちゃんさんは、少し黙っていてくださいの」
「……はい」
ミっちゃんがメルさまに叱られている。
最近、彼女達の立ち位置がよく分からない。
「ほら、リョウ君もアンちゃんと仲良くしてあげてね」
「そうだよ。セッキーはアンこ先輩を接待する重要な役割だから、しっかり役目を全うするんだぞ☆」
「一瞬でもアンこさんを不快にさせたら、素敵なお薬飲をませますからね?」
リリナさんはともかく、ロワりんとメルさまは理不尽だろ。
元はと言えば、この三人が悪ふざけしなければこんな展開にならなかったのに。
「ち、違うんですよう! 私はただ、みんなと同じ様にセッキー君と仲良くしてもらいたいだけなのです……」
先輩が慌てて俺達の間に入ってきた。
ほらあ、みんなが悪ノリするからだぞ。
「先輩、気にしないでください。今度色々な所に遊びに行きましょうね」
俺が先輩に笑いかけると、先輩も微笑んでくれた。
やっぱり可愛いなあ、もう。
「セッキー、私も遊びに行きたいぞ!」
「ミっちゃんさんは、ちょっと黙っていてくださいの」
「……はい」
メルさま、そんな扱いをしていたら、ミっちゃんが拗ねてしまうぞ。
ふと気付くと、ずっと大人しかったピアリが俺を見て微笑んでいる。
この不敵な笑みは、何か嫌な予感がしなくもない。
「やっぱり、キミは女の子に優しいんだね」
「……何が言いたいんだよ?」
「ボクは、そんなキミの事が大好きだよ」
満面の笑みで再度告白されてしまった。
それよりも、ここでそれを言うのか!?
そんでもって、みんなが俺達を見て絶句しているのだけど。
てっきり色々言われるかと思ったのだが、みんなが集まってヒソヒソと話し始めてしまった。
俺とピアリは放置である。
そして、『あーでもない、こーでもない』と白熱の議論をしている。
よく分からないが、こうしていても仕方ないので、ピアリに改めて気持ちを聞いてみる事にした。
「なあ、こういう事を聞くのは野暮だと思うけどさ、ピアリの言う『好き』はラブじゃなくて、ライクの方だよな?」
昨夜の事は忘れていないが、やはり確認しておきたかった。
だけど、これでラブの方とか言われてしまったら、どう反応したらいいのだろう。
当の本人は可愛らしく首を傾げ、人差し指を顎に当てて考える素振りをしている。
……どう見ても、女の子にしか見えない可愛いらしい仕草だと思うので、脳が余計に混乱する。
「そこはリョウヤ君のご想像にお任せするよ」
そうきたかー。
まったく、一番卑怯な答えだよ。
だから、俺も敢えてズルい返答をする。
「友達としての好きだと、受け取っておくよ」
そんな俺の返答にピアリは、曖昧な笑みを浮かべる。
この選択肢で間違っていないはずだと自分の中で何度も思い返していると、ロワりんが俺の肩を抱いてきた。
「おうおう、お二人さんよう。いい雰囲気を出してるじゃないの~」
あなたはどこぞのチンピラですかね。
呆れてると、リリナさんがロワりんの頭をペシンと叩いた。
「バカな事をしてるんじゃないの。あのね、私達話し合ったの。愛の形は様々だと思うから、リョウ君の気持ちを尊重するわ」
「セッキーさん、周囲の視線に負けずに愛をつらぬいて下さいね」
「セッキー君、私も応援してますからね!」
メルさまにアンこ先輩まで何を言ってるんですかね……。
それにしても、皆さんの瞳がとても優しいのが、なんだか恐ろしいのですけど。
「男同士だって、なんの問題も無いぞ! むしろ飯が美味い!!」
ミっちゃんが喜色満面の笑みで高らかに叫んでいる。
うん。君の笑顔がナンバーワンだ。
しかし、本当にどうしてこうなった……。
いい加減に頭を抱えたくなった頃、ピアリがおかしそうに笑いだした。
「みんな、何を考えてるのさ。ボクはリョウヤ君の事が友達として好きなんだよ。そんな事がある訳ないじゃない。ね? リョウヤ君」
「あ、ああ……」
「なんだよ~。セッキーもピアッチも紛らわしいなあ。ほら、リリナもみんなも解散、解散!!」
ロワりんの声と共にみんな解散していく。
そんな中、ピアリが無理して笑っていた事に俺は気付いていたのだった。




