61 女の子になった。ついでに猫耳も生えた・5
自分の部屋に戻ると、丁度ピアリもベッドに入るところだったみたいだ。
私も自分のベッドに潜り込もうとしたら、突然声を掛けられる。
「ねえ、今夜は一緒に寝ていいかな?」
彼の言葉に心臓が跳ね上がってしまった。
いきなり何を言い出すのだろう。
でも別に嫌じゃない。一緒に寝てもいいかなと思ったけど、ふと思い直す。
やっぱり、こういうのは良くないと思うのですよ。
今は思考も女の子寄りになってしまっているので、普段と同じ判断ができているかどうかは分からない。
とにかく、雰囲気に流されてはいけないと思った。
「あのさ、ピアリは何故私と一緒に寝たいの?」
まさかこんな事を聞かれるとは思わなかったのだろう。
絶句してしまったみたいだ。
しばらくしてから、ゆっくりと口を開いた。
「……キミの事が好きだからって理由じゃダメ、かな?」
その返事は卑怯だよ。
普段の私は男の子である。その私に対しても同じ事が言えるのだろうか。
仮に同じ事を言われても、困ってしまうのだけど。
「やっぱり、私の体が目当てだから?」
自分でも意地悪な聞き方だと思う。
男の子だった時は、そりゃ女の子の体に興味があったと思うよ。
でも……なんだろう。
ピアリには、そういう目で私の事を見てほしくなかった。
異性として興味が無い?
それは自分でも分からない。
多分、友達でいてほしいのだと思う。
それにここで異性として接してしまったら、私が元に戻った時に今まで通りに接する事ができるのか不安だ。
「それは違うよ! 体目当てじゃない!!」
彼は強く否定する。
良かった。少し安心した。
だけど、不安が全て無くなった訳じゃない。
「最初にも言ったけどさ、キミの事が好きだから」
申し訳ないけど、心のどこかで信用しきれていない。
好きだと言われてもよく分からないし、体目当てじゃないと言うのに、なんで一緒に寝たいのだろう。
やっぱり、おかしいよね。
部屋にしばらく沈黙の空気が流れ、どの位の時間が経ったのだろうか。
ピアリが再び口を開いた。
「……ごめん。少し嘘をついたよ」
やっぱり。
でも下手に嘘をつかれるよりは、素直に言ってくれた方が嬉しい。
「あのね、本当はキミの魔力が目的だったんだ」
……なんですと。
私の魔力だって?
急に魔力を吸い取られた時の事を思い出してしまった。
そうだよ、唇を奪われて魔力まで奪われてしまったのだった!
おのれピアリめ、許すまじ!!
「キスをしてしまった時の事だけど、どうしても我慢できなくなってしまって……」
「それは分かったけど、なんで私にキスをした時に魔力を吸ったの?」
その質問をした途端、ピアリが緊張で強張ったのが分かった。
「どうしても……キミの魔力が欲しかったんだ」
「理由を教えてくれる?」
「ごめん……今は話せない。いつか必ず伝えるから。虫の良い話だと思うけど……お願いだよ」
ピアリが苦しそうに答える。目を固く閉じて震えているのが分かった。
理由はどうあれ、ピアリが苦しんでいるのを見たら私も苦しくなる。
「うん……分かった。話せる時が来たら教えてね。約束だから」
私の言葉にピアリが驚いたように目を見開き、そのまま泣き崩れてしまった。
そこで泣かないでよう。こっちも困るのだけど。
「ほら、男の子なんだから泣かないで!」
「うん……。でも最近は『男のくせに』とか『女のくせに』って言ってはいけないんだよ……」
人がせっかく慰めてるのに雰囲気ブチ壊しだよ!!
もうなんなの!? 新手の嫌がらせ!?
「あのね、ボク本当にキミの事が好きだったんだと思う。男同士だったから言い出せなかったけど、キミが女の子になった姿を見てから、どうしても我慢できなくて。……ごめんね」
いきなりガチの告白されてしまった。
これは私にどうしろというのか。
「……男の時の私でも好きなの?」
少し意地悪な質問をした。
私が男だった時は、少なくともピアリに恋愛感情なんて持たなかった。
「男とか女とか関係ないよ。キミという存在が好きだったのだと思う」
うへえ、性別の壁を乗り越えてくるタイプかー!
これは結構重い話だなぁ……。
でも、ピアリの気持ちは嬉しいと思った。
「分かった。今夜だけ恋人になってあげるから」
とんでもない事を口走ってしまった気がするけど、男に二言は無い。
って、今の私は女だったよ。
ピアリが私の事を抱きしめて『ありがとう』とつぶやいた。
そして、また泣いていた。
この泣き虫屋さんめ!
抱きしめられた私は、いつの間にか睡魔に襲われていたのだった。
◆◆◆
気が付いたら俺は何もない神様空間にいた。
ちなみに神様空間とは、勝手に俺が名付けた空間である。
「……リョウヤ君。一体、何をやってるの? ぶっちゃけ、今日の君にはドン引きしたのだけど」
神様が俺の事を憐れんだ目で見てくる。
はて? 俺は何かやらかしたのだろうか。
頑張って記憶の糸を手繰り寄せてみる。
…………。
まさか、あれを全て見られていたのか……!?
自分の行動を今更思い返すとヤバい。激しくヤバい。
急に恥ずかしくなってきた。
いや、恥ずかしいってレベルじゃない!!
なんなの!? あの如何にも『私は女の子です!』みたいな思考と行動は!!
「うわわわぁー!!」
俺は恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆いゴロゴロと転がり回った。
目が覚めたら夢オチって事になりませんかね?
「ばっちり見ていたから、夢オチなんて無いよ。しかし、女の子の身体になるぐらいで心まで変わっちゃうなんて、面白いよね〜」
神様が俺の一縷の望みを断った。
明日から、みんなにどんな顔をして会えばいいんだろう。
「それに、あんな無防備にまがい物の子に自分の身を委ねちゃうなんて、正直信じられないよ」
俺、あの後にピアリに何をされたのだろう?
考えると怖くなってきた。
……ちょっと待て。まがい物?
神様の言葉に引っ掛かりを感じた。
「神様、まがい物って、ピアリの事ですか!? そもそも、まがい物ってなんですか?」
「……僕、そんな事は言ってないよ。気のせいじゃないかなぁ」
明らかに『しまった』という顔をしていた。これは絶対に何かを知っているはずだ。
「それよりも明日の事を心配した方がいいよ。それじゃあね──」
あ! くそっ。今回も逃げられてしまった。
◆◆◆
……目が覚めた。もう夜が明けたみたいだな。
隣ではピアリが穏やかな寝息を立てている。
やはり夢オチにはならなかったか。俺は暗い気持ちで上半身を起こした。
なんか妙に冷えるなー。
気付いたら全裸だった。
枕元には、きちんと畳まれた女物のパジャマと下着が置いてある。
無論、脱いだ記憶は無い。
途端に冷や汗がダラダラ垂れてくる。
「おい! 起きろピアリ! お前、俺に何をしたんだ!?」
俺は幸せそうな寝顔のピアリを揺さぶった。
「ん〜? 朝からそんなに求めないでよ〜」
寝ぼけて抱き着いてくるピアリを引き剥がし、頬っぺたを両手で引っ張る。
「起きろ! 寝ぼけるな!」
「いたい、いたい! って、あれ? リョウヤ君? おはよう。無事に元の姿に戻れたんだね」
「そんな事はどうでもいい。昨日の夜中、俺に何をしたんだ? 正直に答えてくれ」
「えっ!? それは……ごめんね。ボク顔を洗ってくるね!」
そう言うと、ピアリはそそくさとベッドから出て行ってしまった。
「ちょっと待ってくれ! 本当に何をしたんだよぉ!!」
早朝に俺の叫び声だけが響き渡るのであった。
セキこ編・完




