52 ちょっと待ってくれ、心の準備が……
採寸するために別室へ向かうロワりんが被服学科の子達に囲まれていた。
「この服って、どこのお店で売っているのですか?」
「もしかしてオーダーメイド品とか?」
フリルの多いロリータ系の服が珍しいのだろうか。
確かに他に着てる人って、見たことが無いよな。
囲まれてチヤホヤされているロワりんは、満更でもない様子だ。
でも褒められているのは、あなたじゃなくて服ですよ。
「この服はね、私の地元にふらっと現れた服職人に仕立ててもらったんだよ。だけどその人は、またすぐどこかへ行ってしまったので詳しい事は分からないんだ。ごめんね」
その服職人とやらは何者だろう。
これも異世界絡みの匂いがする案件ですなぁ。
「あのさ、もし差し支えなかったら、この服を貸してもらえないかな? 私達で再現してみたいんだ」
被服学科の子達を代表してアイシャさんが、ロワりんに服の貸し出しを頼んでいる。
やっぱり、新たな技術やデザインを目の当たりにすると、燃えてくるのかな。
「ちゃんと返してくれるなら構わないよ。この服は私も気に入ってるからね。それと再現できたら、新たに仕立ててもらえないかな?」
「それはもちろん。完成したら一番にプレゼントするよ!」
アイシャさんや他の子達の瞳が好奇心で輝いている。
なんだかいいな。こういうのって。
彼女達のやり取りを見ていたら、エリオ先生が俺の背中を指先で撫で回してくる。
「いきなり何するんですかね……」
「あらぁ。君はやっぱり服作りに興味があるんじゃなくて?」
「ありませんから、お構いなく」
すぐにエリオ先生から距離を取った。まったく油断も隙もない人だよこの人は。
「でも何もしないで待ってるのもヒマでしょう? また新しい服のデザイン画でも描いてみない?」
確かに言われてみたら、待ってるだけではヒマだし、何もしなかったらエリオ先生の相手をさせられそうなので、適当に描いてみる。
取り敢えず、美少女ゲームとかに出てきそうな制服を適当に描いてみて、それから調子に乗ってゴスロリ系や地雷系っぽい服も描いてみた。
この系統はロワりんに似合いそうだ。
そう思って、絵のモデルをロワりんにしてしまった。
「……ねぇ、貴方。このデザインはどこで学んだものなの?」
俺の落書きを手にしたエリオ先生が真面目な顔で聞いてきた。
ちょっと調子に乗り過ぎたかな……。
「前にもメディア校長に同じ事を聞かれたのですけど、実家の蔵書にあった本の挿絵を参考にしたんですよ」
そう言って誤魔化したけど、あれは納得してる顔じゃないよなぁ……。
「本当にそうなの? まあいいわ。それで、このデザイン画はもらえないかしら? 勿論ただとは言わないわ。そうねぇ。彼女達の制服の製作費と交換はどうかしら?」
ただの落書きなんだけど、破格の条件を提示されたので喜んで譲った。
製作の手間や人件費を考えると、申し訳なくなってくるが、先生は制服を作るのも良い経験になると言ってくれた。
そんなやり取りをしていたら、隣の部屋から大きな袋を持ったノノミリアとテルノが出てきた。
約束していた服をもらったのか、ノノミリアは上機嫌そうだった。
「あたしの方はもう済んだけど、あっちは大変そうだよ」
「そうですね。ミサキさんの制服選びは、一筋縄でいかなさそうでしたね」
二人がそんな事を言っていると、隣の部屋からミっちゃんとロワりんの声が聞こえてきた。
「ちょっと! これは裾が短すぎないか!?」
「大丈夫だって。取り敢えず、セッキーの感想を聞いてみようよ?」
「ちょっと待ってくれ、心の準備が……」
ミっちゃんから借りたのか、ジャージ姿のロワりんがミっちゃんを引っ張って出てきた。
眼鏡を外したミっちゃんはセーラー服風のワンピース姿だ。
かなり膝上のスカート丈が気になるのか、裾を引っ張って足を隠そうとしている。
普段は肌露出が少ないので気付かなかったけど、ミっちゃんってかなりの美脚だ。
思わず見惚れてしまった。
「えっと……どう思う?」
顔を真っ赤にしたミっちゃんが上目遣い気味に聞いてきた。
これがギャップ萌えと言う奴か!
これは破壊力が強すぎるぞ……。
「脚が凄く綺麗ですね」
うっかり心の声が漏れてしまった。
涙目になったミっちゃんが隣の部屋に引っ込んでしまった。
そして何故かふくれっ面をするロワりんも隣の部屋に戻ってしまう。
エリオ先生とノノミリアとテルノの三人が俺を見て呆れ顔になっている。
今のは俺が悪いのか!? 素直な感想だぞ!
「もうこんなのは着ないからな!! 普通のにしてくれ!!」
「私にも何か別の服は無いの!?」
隣の部屋に戻った二人の大声が聞こえるが、何をやってるんですかね……。
「やっぱり、これが一番落ち着くな……」
結局ジャージ姿に戻ってしまったミっちゃんは、無難なブレザータイプの制服を選んだようだ。
「せっかく可愛かったのに、もったいない……」
後ろで被服学科の子達が残念そうにつぶやいてる。
そしてロワりんは、何故か新たな服を着ていた。
清楚な白いパフスリーブのブラウスにハイウエストの濃紺のスカートのコントラストが眩しい。
「どう似合う?」
ロワりんがいたずらっぽく笑う。
俺は素直に頷いた。
ツインテールでこのタイプの服は、想像以上に破壊力があるな……。
これでピンクと黒の系統でアレンジすればもっと似合いそうだ。
衝撃を受けている俺にアイシャさんが説明してくれた。
「この服、前に君が提案した制服のボツ案が勿体なかったから、試しに作ってみたんだよね。サイズも合ってたみたいだし丁度良かったよ」
私服を貸す代わりに、こっちの服を借りたのか。
本人はすっかりお気に入りだな。
「ところで、あのミサキって子の脚は本当に綺麗だったね。女の私でも惚れ惚れしてしまったよ」
アイシャさんの視線にミっちゃんが引き気味だ。
でも実際、綺麗だったのは間違いない。
みんなで頷いてると、ロワりんが小悪魔っぽく笑った。
「そりゃそうだよ。永久脱毛剤でムダ毛の処理したんだからね〜」
なんですと。
例の回復薬の失敗作の脱毛剤の効果なのか!?
途端にその場の全員がロワりんを取り囲む。
「ちょっと、その脱毛剤って何!?」
「お願い、教えて!!」
「どこで売ってるの?」
アイシャさんはともかく、ノノミリアやテルノまで食い付いている。
女子にとって、ムダ毛の処理は死活問題なのだろうか。
「ねえ、私にも教えてぇ!!」
……エリオ先生までもかよ。
ミっちゃんの方を見ると、涙目で震えている。
そんなに恥ずかしがる事は無いのになあ。
「あのさ、セッキー」
「なんですかね?」
「私、剛毛じゃないからな? 本当だぞ? 手足のムダ毛は、うぶ毛程度だったからな?」
「う、うん……分かったよ」
別にそこまで気にしてないから、わざわざ言わなくても良かったのに。
だけど、今までジャージを愛用していたのって、手足を見せたく無かったからなのかな?
それなら納得である。
そんなこんなで、脱毛剤騒ぎが一段落した後、またもやロワりんが素っ頓狂な声を上げた。
「ちょっと、これってなんなの!?」
どうやら、机の上に置いてある俺の落書きを見付けたみたいだ。
そういえば、彼女をモデルに描いてたんだっけ……。
「なんで私っぽい人物が描かれているの? いや、それはともかく、この制服みたいなのって?」
「それは彼が描いた物よ。新しい制服案ってね。被服学科に欲しい人材なのだけど、冒険者志望って、本当に惜しいわね」
エリオ先生が残念そうに溜息を吐く。
ミっちゃんとロワりんに落書きの経緯を説明したら、呆れられてしまったけど、俺が冒険者を選んだ事については満更でもない様子だった。
「ところで私、新しい制服はこれがいいのだけど、作れるかな?」
ロワりんが落書きを見て、大きなリボンが印象的な、いかにも美少女ゲーム的なセーラー服を指定した。
それに対してアイシャさんが頷く。
「問題ないよ。それよりも、こっちの服だね……」
アイシャさんが落書きのゴスロリ系の服を凝視している。
もしかして作る気なのかな。
「君さ、この服の三面図を描いてくれないかな? すぐじゃなくていいからさ」
……これは雰囲気的に断れないよなぁ。
結局デザイン画は後日に渡す事を約束して、エリオ先生の部屋を後にした。
帰り道でノノミリアがボソっとつぶやく。
「やっぱり、ミサキさんは脚を出した服が似合うと思うんだけどなぁ……」
「ノノミリア。いきなり何を言うのだ。そんな格好が私に似合う訳がない」
ミっちゃんは頑なに拒否する。
確かに綺麗な脚をしていたから似合うと思うけど、それぞれの価値観とかあるからなぁ。
無理強いはできないな。
「でもさ、セッキーも似合うって言ってたのだから、着てみればいいじゃない☆」
ロワりんがナチュラルに俺を巻き込んでくる。
面倒ごとを増やさないでくれよう。
「……だったら、少しは考えなくもない」
ミっちゃんが俺の方をチラッと見て頷いた。
あれ? 普通に拒否するかと思ったのだけど。
提案したロワりんとノノミリアも意外そうな顔だ。
ノノミリアとも別れ、メンバールームに戻ると留守番組に新たに制服を仕立ててもらえる事を大まかに報告した。
最後にロワりんが『セッキーのお姉ちゃんになりました』とぶち込んでくれやがったけど。
リリナさんが飲んでいたお茶を盛大に噴いていたが、大丈夫だろうか……。




