51 私も制服を着てみたいな……
あの事件以来、パーティーでの活動が停止になってしまったので、俺は割と真面目な学生生活を送っている。
座学の講義を真面目に受けたり、アンこ先輩と図書館で調べ物をしたり、ケフィン達が時折誘ってくれる実戦的な稽古に参加してボロボロにされたり、食堂の職員さんに手渡したヨシエさんのレシピノートの新作の味見をしたりと結構忙しい。
ちなみに先日のベルゲル先生に笑わされた件だが、無事に和解した。
あの場の空気が重すぎて、先生なりに和ませようとしてくれていたらしい。
無論、メディア校長にしっかりバレていたらしく『いい歳して何をやってるんだ!』と叱られたとそうな。
本当に何をやってるんだか……。
そんなこんなで、学生らしい生活を満喫していたのだが、一つ問題点が浮かんできた。
リリナさんとロワりんの件だ。
普段は二人の仲はとても良いのだが、俺が関わるとお互いが遠慮してるみたいで妙に気まずくなってしまう。
そのお陰で、俺の方までどちらか二人だけで会うのに緊張するようになってしまった。
こんな事で悩むなんて、ラブコメの主人公ぐらいに他人事だと思っていたのだが……。
ちなみにピアリ達は、面白がって見ているだけなので役に立たない。
まあ、険悪な雰囲気になるよりは良いのだけどさ。
わざわざこの世界に来てサークルクラッシャーになるとか嫌だなぁ
という訳で、ここ最近は真面目に健全な学生生活を送っていたのだ。
問題を棚上げしているとも言うのだけどね。
それとは別に気になっていたのが、ロワりんの制服だ。
先日の魔狼討伐の際に駄目にしてしまったので、私服のロリータっぽい服で過ごしている。
それはそれで可愛いのだけど、彼女のコケティッシュな制服姿も好きだったので、なんとかしてあげようと思って行動に移すことにした。
決して、制服の短いスカートから時折見えてしまうパンツが楽しみだった訳では断じてないからな。
善は急げと早速行動に移る。
あくまでも、世話を焼く感じで自然に話を持ち掛けるのだ。
「制服を新調しませんか?」
メンバールームでみんなとダラダラしていたロワりんに声を掛ける。
「へ? いきなり制服だなんてどうしたの?」
キツネにつままれたような顔で返されてしまった。
確かに唐突すぎたな。主語は大切だ。
昔、その事で誰かに注意された記憶があった様な……って、そんな事はどうでもいい。
「ほら、討伐依頼で制服を駄目にしちゃったじゃないですか。だから新しいのを作りに行きませんか?」
早い話が、被服学科のエリオ先生の所へ行ってお願いするだけなんだけどね。
討伐の報酬も無事に支払われたので、費用は俺が負担しようと思っている。
断じて、俺が制服姿を見て楽しみたいからでは無いからな。
ちなみにだが、魔狼の魔石は売却されて手数料を引いた分が分配された。
大きな声では言えないが、それなりの額になったので懐には結構余裕があったりもする。
「新しいのを作ると言ったって、どこで? 購買部以外にセッキーは伝手でもあるの?」
「それがあるから、お誘いしているのですよ」
ちょっとドヤ顔気味で言ってみた。
特に意味はないけど。
俺達の話を聞いていたミっちゃんが、何かを考え込んでいる様子だ。
「制服か……私もそろそろ作ってもらおうかな?」
ミっちゃんは何故か頑なにジャージで過ごしてるが、可愛い制服とかに興味が出てきたのかな?
「だったら、ミっちゃんも一緒に行きますかね?」
ロワりんと二人きりにならないのなら助かる。
ヘタレな自分が少し嫌になった。
「そうだな。せっかくなので、お願いしたい」
「じゃあ、私も新しいのを作ってもらおうかな☆」
そうして二人の同意が得られたので、エリオ先生の所に向かおうと準備しようとしていると、リリナさんがポツリとつぶやいた。
「私も制服を着てみたいな……」
だけど、みんなから『それはちょっと……』みたいな反応をされて落ち込んでしまう。
「みんなリリナさんに対して、それは酷くないか!? 俺は絶対に似合うと思うぞ!」
「リョウ君、いいのよ。自分でも似合わないと思ってるから。ただ言ってみただけだから……」
そんな彼女を気の毒と思ったのか、メルさまが自分のブレザーの制服を取り出した。
「あのう、着てみますか?」
「いいの!? ありがとうメルさん!!」
めっちゃ笑顔である。
本当に着たかったんですなあ。
試しにメルさまのブレザーを試着してみたリリナさんだが、第一印象がセクシーな映像に出演する女優さんでした。
いくら美人なお姉さんでも、学生服は流石にコスプレ感が否めない。
他のみんなも、その妙な違和感に戸惑っていた。
それでもアンこ先輩が褒める。
「とても……すごくお綺麗ですよ」
なんて優しいのだ。思わず涙が出てしまう。
だけど、決して似合っているとは言わない所が余計に居たたまれなくなってしまうのだ。
……大丈夫。俺的にはまだまだいけますよと、心の中でエールを送っておいた。
落ち込む彼女のフォローは、ピアリとメルさまに任せて俺達は生産職学科のある区域に向かう。
もう夕方に近いから、エリオ先生も講義が終わっている頃だろう。
確かノノミリアが、校外実習で一緒の班になったテルノに服を作ってもらうみたいな話をしていたから、ついでに誘ってみるかな。
ケフィン達のメンバールームに顔を出したら丁度ノノミリアがいたので、挨拶もそこそこに事情を話すと二つ返事で付いてきた。
レイズが『俺は二度とあんな場所に行かないからな』と不機嫌顔だったけど、連れて行ったらエリオ先生が喜ぶだろうなぁ。
ロワりん、ミっちゃん、ノノミリアに俺という顔ぶれでエリオ先生の所へ向かう。
途中でノノミリアが興味津々な顔で質問してくる。
「ねぇ、リョウヤ君とロワりんの関係ってどうなったの? でも本命は別にいるんでしょ?」
いきなりド直球かよ!
しかも本人の前で! そもそもなんでそれを知ってるんだよ……。
「えっと、なんのことかな? ロワりんは良き先輩だよ?」
お約束で白々しく答えてみた。
「男らしくないぞセッキー。堂々と二股だと答えるのだ」
ミっちゃんが容赦の無い発言をブッ込んできた。
ノノミリアに吹き込んだのはこいつか!?
「ええ!? やっぱりそうなの? ……二股はどうかと思うよ?」
ノノミリアがジト目で俺を見る。
なんかもう汚物扱いをされる寸前みたいだな。
「そうは言うけど、俺まだ何もしていないんだけど……」
それを聞いてロワりんが慌てて否定する。
「ちょっと待ってよ! なんでそんな話になってるんだよ! 私とセッキーはそんなんじゃないからね!」
必死に否定する程に逆効果になっているのですけど。
「そんなに慌ててたら、やっぱり何かあるって事じゃないの?」
ノノミリアが疑いの眼差しでロワりんに向ける。
こんな追い詰められた表情のロワりんを見るのは初めてかも知れないな。
その様子をミっちゃんがニヤニヤしながら観察している。
ミっちゃん、後で罰が当たっても知らないからな……。
「わ、私は……セッキーのお姉ちゃんだよ!!」
……姉が一人増えました。
「今の発言は逃げだよねー」
「ああ、姉はどうかと思うよな」
納得していない二人が文句を言うが無視しておこう。
下手に口を挟むと、こっちに飛び火してきそうだし。
そんでもって、顔を赤くしたロワりんが俺と目を合わせてくれなくなってしまったのだった。
そうこうしているうちに生産職学科が集まる区域に入り、工房の一画にあるエリオ先生の部屋のドアをノックする。
返事を待って入室すると、相変わらず濃いオネエ系のエリオ先生に出迎えられた。
「あらあ、今日はキレイどころが大勢ね。それでどうしたのかしら?」
ミっちゃんとロワりんがエリオ先生の圧で固まっている。
流石の彼女達も驚くよな。
俺は先生にロワりんとミっちゃんの制服の件を伝え、ノノミリアはテルノに服を作ってもらう約束の事を伝えた。
「そういう事だったのね。それなら今からみんなを呼ぶから、ちょっと待っててもらえるかしら?」
しばらくすると制服を作った時のメンバーが集まってくれた。
勿論、ベリーショートの髪型のアイシャさんと、地味だけど可愛らしいテルノもいる。
「久しぶりだね。校外実習でテルノの面倒見てくれてありがとうね」
「あの時は色々とお世話になりました」
二人が俺とノノミリアにお礼を言ってきた。
「そんなの気にしないでくださいよ。あたし達も得る物が沢山ありましたし」
ノノミリアも気さくに返事を返している。俺も自然にこんな受け答えしてみたいな。
ふと視線を感じると、ミっちゃんとロワりんが俺の事を見ていた。
そんなに見つめないでくれよう。恥ずかしいじゃないか。
「セッキーって、割と顔が広いんだな……」
「そうだね。結構意外かも」
確かにこの二人は生産職学科とも縁が無さそうだし、仕方がない事なのかも。
でも、こうやって今日知り合ったのだから、この縁を大切にしてほしいな。
「それで制服の製作を希望しているのがあなた達ね」
アイシャさんがロワりんとミっちゃんに近付いて、服の上から体型を目測している様子だ。
ロワりんは今回もセーラー服を希望し、ミっちゃんは似合いそうなタイプの制服を試着して選ぶ模様。
ノノミリアの方はテルノが既に服を試作していたので、チェック及び調整となった。
そんな彼女達を見つめるエリオ先生が、頬に手をあてて憂鬱そうに溜息を吐く。
「……今日はレイズきゅんがいないのね」
「ええ、彼は忙しかったみたいですので」
先生を傷付けないように適当に誤魔化しておく。
「仕方が無いから、今日はあなたで──」
「お断りします!」
「ちょっとお! まだ何にも言ってないわよお!!」
エリオ先生の野太い怒号が部屋に響き渡ったのだった。




