45 魔法が使えないのなら、宝の持ち腐れだよね
改めて周囲を見渡すと、皆がボロボロの状態だった。
無傷なのは、アンこ先輩とノノミリアぐらいだ。
重傷を負ったロワりんの治療と回復のため、しばらく休憩することした。
その間に、ケフィンとレイメイさんが魔狼討伐の報告と死骸の後処理を頼むために一旦村へ戻る。
残りは魔狼の魔石回収と手の空いている者は周囲の警戒だ。
アンこ先輩の探知魔法によれば、周辺に脅威となる存在は感じないとの事だが油断はしない方がいいのだろう。
俺はミっちゃんと魔石回収に向かう。
それにレイズとノノミリアも同行する。
「ところでセッキー。いつからあんな戦い方をする様になったんだ?」
ふいにミっちゃんが変な事を聞いてきた。
「いや、俺もよく分からないんですよ。無我夢中だったので体が勝手に動いたので……」
実際そうとしか言えない。
でも、ミっちゃんの欲しい答えは違ったみたいだ。
「聞き方が悪かったな。魔力を多用した戦い方って事だよ。魔力剣を発現させながら身体強化をしての高速移動及び打撃攻撃だ。あんな魔力の使い方なら、普通だったらとっくに魔力切れになってると思うぞ」
あの状況で俺の事をどこまで観察していたんだろう。ちょっと怖くなったよ。
「へぇ。リョウヤはそんな戦い方をしていたのか」
「あたし、この前の校外実習で魔力供給をしてもらったけど、普通に何度もしてくれたよね? リョウヤ君の魔力量ってどうなってるの?」
俺達の会話を聞いていたレイズとノノミリアが興味津々の顔だ。
こんな時に面倒な方向へ話を持っていかないでくれませんかね。
「なんだかよく分からないけど、魔力量が普通の人より多いみたいなんだよね。魔法は全然使えないけど」
転生者だからなのかは分からないが、他に説明しようがない。
神様がくれた唯一の能力だったのかなぁ。
「なるほど。セッキーの魔力量が多いのならば、納得はできるかな」
「でも、リョウヤ君が魔法が使えないのなら、宝の持ち腐れだよね」
ミっちゃんは納得してくれたみたいだけど、ノノミリアは地味にひどい事を言ってくれる。
「さて、お喋りはそこまでにして、さっさと魔石を回収してしまおうぜ」
レイズの言葉を合図に俺達は、それぞれのグループが討伐した魔狼から魔石を回収する。
魔狼自体が大きいので、魔石も比例して大きい。
校外実習でのアギト蜂やマルムシとは比べ物にならない。
魔狼でこの大きさなのだから、巨大魔狼の魔石はとんでもない大きさなのだろうな。
それこそ、家が一軒建つぐらいの価値だったりして……。
捕らぬ狸の皮算用ってことわざがあるけど、それでも顔の表情が緩んでしまう。
「……これはおかしいな」
巨大魔狼の死体を調べていたミっちゃんが首をかしげる。
何かあったのかな?
「確かにおかしいッスね」
「本当だ……」
レイズとノノミリアも不思議そうにしている。
俺だけ除け者にするなよう。
「えっと、何がおかしいんだ?」
「魔石が無いんだよ、セッキー」
なんですと。
流石にこんな状況で、ミっちゃんは冗談を言うタイプではない。
現にレイズ達も頷いている。
「魔石が無いと、何かマズい事でもあるの?」
そりゃ苦労して倒したのだから、金になる魔石が無いのは大変な事ではある。
俺の純粋な疑問に、三人が『はあ?』という表情になった。
「あのさ、セッキー。魔獣にとって魔石は『魂』その物だ。その魔石が無い状態で動けるなんて有り得ない」
「そんなの子供だって知ってる常識だぜ?」
「リョウヤ君、もっと勉強した方がいいんじゃない?」
まったく、ひどい言われようだ。
俺は異世界転生したんだから、こっちの常識に疎いんだよ。
「じゃあ、実は魔獣じゃなくて只の大きい普通の狼だったんじゃないか?」
俺の言葉に三人の表情が固まった。
それからすぐに、可哀想な人を見る様な目を俺に向けてくる。
「どうしたら、そんなバカげた考えに至るのだ。そんなんだとリリナさんが悲しむぞ」
なんでそこでリリナさんを持ちだすんですかね、ミっちゃん。
「こんな化け物みたいな普通の獣がいたら、おかしいだろ」
「リョウヤ君。あたし、本気で君の頭が心配になってきたのだけど……」
二人もそんな目で俺を見ないで!!
俺が可哀想な人扱いされている横で、ミっちゃんが何かを考え込む素振りをしている。
「……まさか、な」
「ミっちゃん、何か気になる事でも?」
「あ、いや。今では失われた技術らしいのだが、昔は人工的に魔石の無い魔獣を誕生させていた話を聞いた事があってな。まあ、流石におとぎ話の類だろう……」
よく分からんが、昔の人は高度な技術を持っていたのかねえ。
結局、魔石の謎が残ったまま俺達はロワりん達の所へ戻った。
そうこうしているうちに、ケフィンとレイメイさんが村長さんを含めた数人の村人を連れて戻って来た。
討伐の現場を確認した村長さんと村の男達は、思いがけず大事になった状況に慌て、討伐した魔狼の大きさで腰を抜かしていた。
村長さんが言うには、巨大な魔狼は数頭からなる群れを率いていたボスかもしれない。グループのボスがいなくなった事で、恐らくこの地から移動するのでは……との事だった。
そしてロワりんが自力でなんとか身動きができるぐらいに回復したので、俺が背負って村に戻る事になった。
彼女が他の男子に背負われるのを嫌がったので、俺に白羽の矢が立ったのだ。
よく知らない相手よりは、普段から顔を合わせている俺の方が少しは安心なのかな。
魔石を取り出した魔狼の死骸は、村で毛皮と食肉等に加工されるらしい。
追加報酬の代わりとして、加工した物を後で送ってくれるそうだ。
特別に裕福そうな村ではないので、彼らなりの精一杯のお礼として、ありがたく全員でいただく事にする。
ちなみに魔石が消えた件は、みんなにも情報を共有している。
流石にミっちゃんを疑う者はおらず、結局は謎のままで終わってしまった。
恐らく、戦っている最中に砕けてしまったのだろうと無理矢理に納得するしか無かった。
村への帰り道、回収した魔石をアンこ先輩が両手で持ちながら、しげしげと眺めている。
「これは本当に立派な魔石ですね!」
「確かに大きいですの。普通の魔獣とは比べ物になりませんの」
メルさまも、その大きさに感嘆の声を上げている。
この魔石で大騒ぎなのだから、巨大魔狼の魔石が残っていたらどれだけの騒ぎになったのだろうな。
その横でミっちゃんとケフィンが魔石の扱いで話し合っている。
「ケフィン、この魔石は売却しても構わないな?」
「ああそうしてくれ。魔道具の材料にもなるだろうけど、僕達で持っていても使い道が無いからね」
後々揉めそうな話だが、ミっちゃんとケフィンで話を決めてしまっていた。
実際、俺達には宝の持ち腐れになるので売ってお金にする方が正解だろう。
その事に異を唱える者はいなかった。
……それにしても、ケフィンは奇行さえ無ければまともな奴なんだけどなぁ。
とても風呂場で人間風車を嬉々としてやっていた同一人物とは思えない。
そんな事を考えていると、ピアリが魔石を見つめながら独り言の様につぶやいた。
「凄い魔力を秘めた魔石だよね。こういう魔石に強い魔力を込めると、新たな生命が生まれるって話があったなぁ」
魔石豆知識かな? 意外と博識なんだな。
思わず感心してしまったが、周囲の反応は俺とは違った。
「その話は本当なのかい? ピアリ」
ケフィンが初めて聞いた様な表情をしている。
「俺はその話は初めて聞いたぞ」
「私もですね」
ゲンゲツさんとレイメイさんも同意見みたいだ。
「俺達も聞いた事がないよな?」
レイズとノノミリアも顔を見合わせている。
「……あ、あれ? この話って、みんな知らないの!?」
ピアリが心なしか慌てているみたいだ。
何かマズい話なのだろうか。
「私も初耳だな」
「わたくしもですの」
「私も初めて聞きましたよ」
ミっちゃん達も知らないみたいだ。
『私も知らない』と俺の背中のロワりんが言った。
結局ピアリは『単なる都市伝説だよ』と笑って誤魔化していたが、突拍子もない話だったのか、他のみんなもそれ以上は聞く事はなかった。
……魔石から新たな生命が生まれるか。そういう事ってあるのかな。




