38 え? 今の俺が悪いんですかね!?
緊張した面持ちのレイズとノノミリア、それにテルノが立つ横に俺も並ぶ。
校長室自体は何度かきているので、あまり緊張はしなかったが、テルノなんかは顔面蒼白で気の毒になってくるな。
場を和ますために、この場で一発ギャグでもしてみようかと思ったけど、流石に空気を読んで大人しく黙る。
俺達が全員揃ったのを確認すると、メディア校長が口を開いた。
「急に呼び出して済まなかったな。昨日の校外実習の件について君達から何が起きたのかを直に聞きたい。……魔物の群れが急に現れたのは本当なのか?」
済まないと思うならお茶のひとつぐらい用意してくれたって、いいんじゃないですかね?
俺達は昨日の事件の功労者ですよ。
……まあ、冗談はさておき。
校外実習で魔物の集団に襲われた件は、やはり異常事態だったのだろう。
それで無ければ、こうして朝から事情聴取まがいの事はされない。
さて、なんと答えたものだろうね。あれは明らかに罠か何かだったと思う。
だけど、生徒に仕掛ける罠にしてはかなり物騒だったよな。
まさか、最初から俺達を殺す気だったとか……?
少し悩んでいると、最初にノノミリアが答えた。
「あたしが指定された場所で見つけた大きな魔石を手にした途端、魔石が光って気付いたら周囲を魔物の群れに囲まれていました」
ノノミリアが説明すると、初めて見る顔の講師も『他の生徒達も同じ事を言っていた』と校長を見て頷く。
他のグループも同じ罠にはめられたって事か。
これは笑えない事態でございますな。
「ふむ、そうか。……魔法の観点からはどう見る? ベルゲルよ」
校長に話を意見を求められたベルゲル先生が、いつにも増して苦々しい表情で口を開いた。
「もしかしたら、魔石が置いてあった場所に魔物を召喚するような術式が仕組まれていたかも知れませんね」
おいおい、それって思いっきりブービートラップみたいなものじゃないか。
誰がなんのつもりでそんな真似を……。
その場の全員が黙り込んでしまう中で、テルノが遠慮がちに発言する。
「わ、私は許せません。皆さんが必死に戦っていたのに、デザロ先生が弱者は不要だと言ったんです……」
確かに、あの発言は俺もカチンときたな。
悔しそうなテルノの表情を見て校長達が重々しく頷く。
「……やはり、そういう事になるだろうな」
校長のつぶやきに、今まで黙っていたレイズが訪ねた。
「それって、どういう事ですか?」
「デザロがやり過ぎたって事だよ」
メディア校長が苦虫を噛み潰した様な表情で答えた。
やっぱり、あの男の仕業だったのか。
なんでまたこんな手の込んだ事を……。
校長達の説明では、強者こそ正義とする思想のデザロは以前から少々過激な言動が目立っていたそうだ。
それでも厳しく冒険者を育成する姿勢は、一部の予備校関係者達から評価されていて、多少の目に余る行為等は黙認されていたとの事。
今回の件も、『冒険者を目指すのは強い者ではなければいけない』と校外実習で弱い生徒を排除しようと仕組んだのではないかとの事であった。
だからと言って、あれは下手すれば死人が出ていたかもしれない罠だ。
本当ならば、断じて許される行為じゃない。
実際、去年の校外実習でも似た様なトラブルはあったらしく、その事に対して意見した班の生徒にデザロが手を上げようとした事件があったらしい。
もっとも、その生徒達に逆襲されたとかで事件はウヤムヤになってしまったが、流石に今年の件は看過できないレベルだそうだ。
実際に重傷を負った生徒もいた。メルさまの回復薬が無かったら、どうなっていたことか……。
重苦しい空気になった中で校長が、ひと際大きな声で呼びかける。
「何か言いたい事はあるか、デザロ」
すると、校長室の奥の扉から当の本人が苦々しい表情で俺達の前に姿を現した。
どうやら今までの会話を聞かされていたみたいだ。
デザロを見て、テルノの表情が固まっている。
そりゃそうだ。デザロを許せないとか言ってしまったんだからな。
いざとなれば、俺達でテルノは守る。そのくらいの覚悟は持ち合わせているからな。
それはさておき。
その場の全員の視線がデザロの頭部に集中する。
あれはやっぱり、ヅラだよな……。
「改めて聞こう。今回の件はお前が仕組んだ事だな?」
校長の視線がデザロに向けられる。
それに一瞬たじろぐも、ふてぶてしい表情を変えずにデザロは答えた。
「……そうだ。俺は最近の王都の冒険者のレベルの低さを本気で危惧している。弱い者を金と時間を掛けてまで教育する意味はあるのか? このままでは、王都で冒険者という職業は無用の長物になりかねない。もっと強い冒険者を育てなければいけないんだ!」
噂程度だけど、俺も耳にした事がある。
王都の周辺は強い魔獣や魔物がいないから平和だと。
そのために高ランクの冒険者は王都にはいないらしい。
だからって……。
「だから、今回のような事をしたのか?」
校長の目が剣呑になる。
その校長の視線をデザロは、真っ向から睨み返した。
「校長はもっと危機感を持つべきだ! このままだと、遅かれ早かれ冒険者予備校は廃校になるぞ!!」
デザロが必死に訴えるのだが、彼が大きく身振り手振りをする度に頭部のヅラがずれたり、元の位置に戻ったりするのでまともに直視できない。
俺は口を固く結んで世界平和の事を考えて耐えるが、非常に危険である。
隣を見ると、レイズはうつむいて肩を震わせてるし、ノノミリアは固く目を閉じて耐えている。
テルノに至っては、横を向いて口を押さえていた。
そして遂にヅラがずり落ちそうになって、デザロが慌てて定位置に戻す。
とうとう俺は耐え切れなくて噴き出してしまった。
案の定、睨みつけられてしまう。
「お、お前の様なふざけた冒険者志望の奴がいるから評判が落ちるのだ!!」
そりゃ理不尽ですがな。
「校長も今一度、考え直して頂きたい! 出資者の方々も、全員が校長の考えに賛同している訳ではないですからな!!」
捨て台詞を残してデザロは部屋から出て行ってしまった。
そして残された全員が俺に視線を向ける。
「え? 今の俺が悪いんですかね!? あんなの絶対に耐えられませんって!!」
俺だけケツバットされる気分なんですけど……。
みんなズルいよ。
ちょっとしたトラブルがあったけど、これからデザロに関しては、改めて事情聴取をして然るべき処罰が下るだろうとメディア校長は語った。
デザロが言い残した出資者云々の話だが、この冒険者予備校は多方面からの援助を受けて運営しているそうだ。
その一部にデザロと深い繋がりがあるとか。
そういう事もあって、デザロが好き放題していたのだろう。
こればかりは俺達にはどうする事もできないので、予備校側に任せるしかない。
そんな会話を挟みつつ、俺達への聞き取りは続いた。
「君達はどうやって、魔物の群れを切り抜けて他の班を助けに向かったのだ?」
そこはやっぱり聞かれるよなぁ。
レイズとノノミリアが無言で俺に視線を向ける。
一応は、俺の魔力供給のスキルを秘密にしてくれるみたいだ。
「えっとですね、レイズとノノミリアの連携で切り抜けたんですよ。まったく凄いコンビネーションでしたよ!」
何食わぬ顔で答えてみた。嘘は言っていない。
実際にレイズ達の力で乗り切ったような物だし。
「ほほう。強力な魔法を何度も放てる魔力量を彼女が有している事か。それは凄いな」
校長の言葉にノノミリアの顔色がどんどん悪くなって、俺に何か言いたそうにしている。
そんな顔しないでくれませんかね。嘘をつくなら、最後までつき通す覚悟を持って欲しい物だ。
俺達の様子を見て、ベルゲル先生が大袈裟にため息をついた。
「冗談はそこまでにしてやれ。どうせ、お前の魔力供給を使ったんだろう?」
いきなりベルゲル先生がネタばらしをしてしまった。
ノノミリアの頑張りを無にしないでくださいよう。
魔力供給と聞いてメディア校長以外の予備校関係者の表情が変わった気がした。
「まあ、大方そんな事だろうと思ったぞ。今回は事件が事件だから詳細は内密にしておく」
メディア校長は内密にすると言ってくれたので、面倒くさい事にならなさそうだ。
「それと、今回の君達の働きに対しての報酬だが──」
回収した魔石の他、生徒達を助けたという事で特別報酬が出るとの事だった。
事務方の職員さんが示した項目がいくつか並ぶ表を見て、俺は三年間の学費・雑費免除を選んだ。
これは随分と太っ腹だぞ!
学費は地味に大きいと思うしね。これが無くなるだけでも心の負担が随分減りそうだ。
テルノは『私も頂けるのですか!?』と驚いていたけど、怪我人の手当も率先してやってたのだから十分もらう資格があると思うよ。
そして俺以外の三人も何かしらの報酬を選び終えると、その場は解散となったのだった。




