32 これなら全員集まってお話ができますよ!
昼食を終えて戻ると、リリナさんの新しい部屋の清掃もある程度終わらせていたので、後は荷物の運び込みと整理ぐらいだ。
そちらはアンこ先輩とメルさまがリリナさんを手伝うことになった。
残った俺達は、新たなメンバールームを占拠するガラクタの撤去作業だ。
魔力で身体強化が使える様になったので、大きな壊れた家具とかは窓からどんどん外に放り出していく。
かさばる物はあらかた片付けたので、後は細かい物なのだが、色々と珍しい物があるのか、ロワりんとミっちゃんが宝探しを始めてしまった。
「これ、『猫と私』の初版じゃないか! こんな貴重な本を見付けられるなんてラッキー☆」
「こっちには神事に使われた銅鏡があるぞ。いただいてしまおう」
そんな二人を見て、ピアリが苦笑していた。
「これは片付けあるあるだね……」
まあ、よくある事ですな。
俺は大して興味を引く物が無かったので、どんどんガラクタを処分していると、壊れた机の引き出しの中から綺麗な魔石みたいなのが埋め込まれた、シンプルな装飾の三十センチぐらいの棒みたいなのが出てきた。
「これ、なんだろうな?」
俺のつぶやきを聞きつけたミっちゃんが横から覗き込んでくる。
「それは魔力剣の柄だな。なかなかの業物のようだ」
魔力剣の柄ねぇ……。俺には単なる装飾された棒にしか見えないけど。
「ねえ、魔力で剣を作れるリョウヤ君にピッタリの武器なんじゃないの?」
ミっちゃんの反対側から顔を覗かせたピアリは興味津々って感じだ。
あれ……?
俺が魔力の剣を使うって、ピアリに教えた事あったっけ?
そもそも、まだ誰にも見せた事は無いはずだ。あの銀髪の女の子以外。
……まあ、俺の記憶違いなのかも。細かい事は気にしないでおこう。
ピアリは言うだけ言って、他へ行ってしまった。
「セッキーは魔力剣を使えるのか。だったら、それに魔力を込めてみてくれ」
ミっちゃんに言われた通りに柄を握り、魔力を流す。
……だが、反応がない。
もう壊れてるんじゃないか?
「心がこもっていないな。それだと応えてくれないぞ」
ミっちゃん、むちゃくちゃな事を言わないでくれよ。
「セッキー、時を経た物には魂が宿るという話を知っているか?」
「それって、付喪神の事?」
確か、古い道具に精霊が宿るみたいな話だった気がする。
「ほう、よく知っているな。私の地元では割と有名な事象なのだが、ここではまったくと言っていい程に知られていない」
ミっちゃんが驚きで目を丸くしている。
前世の世界でもおとぎ話みたいなものだったから、こっちの世界では知る人も少ないのだろう。
「それで話は戻るが、その柄も古い物だ。魂が宿るにはまだ年月が足りないと思うが、それでも意思の片鱗を感じる」
「はあ……」
ミっちゃんは何を言いたいのだろう。
「セッキー、柄に呼びかけるつもりで魔力を注ぎ込んでみてくれ」
「まさか、この柄に意思があって、応えるとでも?」
そうだと言わんばかりに、ミっちゃんが大きく頷く。
そんなバカな事、とは言えない。そもそも、ここは異世界だからな。
前世の常識は通じないだろう。
改めて手にした柄を見つめる。
しかし、呼び掛けるってどうすればいいんだ?
取り敢えず、心の中で呼びかけてみよう。
もしもーし、聞こえますかー?
……へんじがない。ただのしかばねのようだ。
──いてっ!
急に柄にピリっとした電気みたいなのが走った。
まさか、反応した!?
もしもーし、聞こえてるなら返事してー。
……うんともすんとも言わない。
だったら、今度は格好良く呼びかけてみよう。
今こそ封印した俺の中二パワーを見せてやる!
『古の時代より伝わる呪いの柄よ! 我が呼びかけに応じてお前の力を示せ!!』
──いててててててっ!!
思いっ切りビリビリきたんですけど!?
「おい、セッキー! 大丈夫か!? いま柄が光ったぞ!」
「大丈夫だよ、ミっちゃん。なんとなく柄との意思疎通のコツが掴めそうだ」
「意思疎通って、本当に大丈夫なのか? 付喪神の話は半分冗談だったんだが……」
冗談だったのかよ!!
だが、この柄には確実に意思を感じるぞ。
さっきのは怒ってたみたいだし。呪いの柄と呼んだのがマズかったかな。
柄さーん。お返事してくださいよう。
俺に魔力剣を使わせてくださいよう。
……ダメだ。まったく反応が無くなってしまった。
へりくだってもダメなら、おだててみるか。
『大いなる柄さん、あなたのその素晴らしい力を見せてくださいよう』
あ、少し反応があった。
よし、次は厳かにお願いしてみよう。
『古の時代から伝わる大いなる存在よ、どうか我にその力を与えたまえ』
突然、柄に埋め込まれた魔石が鈍く光り出した。
これで反応しちゃうのかよ。よく分からんものですな。
「やったな! これでセッキーがこの魔力剣の所有者と認識されたはずだ。後は刃をイメージしてみてくれ」
ミっちゃんに言われた通りにすると、柄から魔力の刀身が発現した。
なんだかビームサーベルみたいでカッコいいな。
「凄いじゃないか。なかなか良い魔力の剣だぞ」
確かに素晴らしい魔力剣だ。大いなる柄は伊達じゃない。
なので、この柄はオオツカさんと名付けよう。
今、なんだか抵抗された気がするが、まずは試し斬りだ。
外の転がっているガラクタを叩っ斬ってみる。
……が、上手く斬れない。棒でガンガン殴りつけている感じだ。
「あれ? なんで斬れないんだ?」
「あー、これはまだ魔力を上手く集束できていないな……」
ミっちゃんが言うには、魔力剣は見た目より使いこなすのが難しい武器らしい。
それなりの訓練が必要との事だった。
なによりも、精神の集中と鋭い刃のイメージが大事だとか。
「ところで、この魔力剣の柄はもらっちゃっていいのかな?」
「ベルゲル先生は部屋の物は全て処分して良いと言っていたので、構わないのではないか? どのみち、それはセッキーが登録してしまったからな」
それならと、ありがたくオオツカさんを頂いてしまう事にした。
ロワりんの方も、ガラクタの山から色々な物を発掘して懐に入れてるみたいだし。
そんなこんなで、部屋の不用品を全て外に出し終えると、リリナさん組と合流してメンバールームの清掃も滞りなく済ませる。
そして、放置されていたテーブルや椅子も清掃して並べ終えた頃には、すっかり日が暮れていた。
ようやく片付いた我がパーティー用のメンバールームは、見違えるように綺麗な部屋になっている。
その部屋の中央で、アンこ先輩がひとしきり感激していた。
「ここは広いですね! これなら全員集まってお話ができますよ!」
部屋はフローリングで小上がりの板の間もある。
トイレの他に小さな浴室や洗面台に簡易キッチンまであるので、普通に住める環境だ。
「いいなあ。私の部屋、こっちが良かったな……」
リリナさんが悔しそうにしているが、あなたの部屋も相当広いですよ?
そして、タイミングを見計らったかのようにベルゲル先生が顔を出した。
「大体終わったか? ちょっと遅いが差し入れだ。今日は珍しい、たい焼きだぞ」
なんと、たい焼きですとな。
こだわる人は天然物か養殖物かを気にすると言うが、俺はそこまではこだわらない。
だが、中身がカスタードクリームとは油断していた。
中身にはこだわりたかった。まあ普通に美味しいんですけどね。
余談だが、天然物は一匹ずつ焼き、養殖物は複数を一度に焼き上げるタイプである。
「本当にここは広いですの。思わず住んでしまいたくなりますの」
メルさまがたい焼きを食べながら、ベルゲル先生の事をチラッと見る。
「それは流石に許可できんぞ」
「えー。いいじゃんそれぐらい。ブーブー」
ロワりんが大人げないと言うか、子供じみた文句を言っている。
……あなたは何歳なんですかね。
「駄々をこねても無理な物は無理だ」
「だったら、休日の前などに宿泊するのは駄目だろうか?」
ミっちゃんが割と現実的な提案をする。
「まあ合宿という名目ならば、大目に見ない事もないが……悪い事に使うなよ?」
なんだかんだ言って、ベルゲル先生は甘いので助かる。
これがメディア校長に知られたら、むちゃくちゃ叱られそうだけど。
「ここの建物は大きいお風呂もあるから、後でみんなで入るといいよ」
ピアリがそう言うなり、早速女子達を連れて浴室を見に行ってしまった。
先生が何か言いたそうな顔をしているが、俺にはどうする事もできなかった。




