24 聞いてよう、ピアえも〜ん!
さて困った。
冒険者予備校に正式に入校したのだが、俺はこれから何を学べば良いのだろう。
漠然と冒険者になるとは言ったものの、一体何を目指せば良いのかが、いきなり分からなくなってしまったのだ。
何をしても良いという、自由過ぎる校風も考え物かもしれない。
魔力量はあるが、特に魔法が使える訳でもない。
魔力剣が出せると言っても、剣術に秀でている訳でもない。
魔力による身体強化は、本気で格闘技をやってる相手に手も足も出なさそう。
当たり前だが、生産職のスキルも特に無い。
……ひょっとして、いきなり詰んでる?
思い切ってベルゲル先生に相談してみたのだが、いきなり呆れられてしまった。
それでも先生は真面目に答えてくれた。
「普通に生活するだけの賃金を求めるのなら、俺の助手に雇ってやる事もできるぞ。ちなみに俺の研究は、慢性の魔力欠乏症の患者の治療方の確立だ。蓄魔石の魔力を使って日常生活が送れるようにならないか研究しているのだ」
先生って、そんな研究をしていたんだな……。
正直、普段から何をやってる人なのか分からなくて謎だったんだけど。
助手の話は意外だったけど、最初から妥協してしまうのは、なんだか違う気がする。
「迷ったなら、まずは誰かの役に立つ事を探してみたらどうだ? 冒険者の仕事は己の冒険心を満たすだけではない。困った人を助けるのも、立派な冒険者の仕事だ。それこそ、冒険者にこだわらなくてもいいと思うぞ」
困った人を助けるか……。
護衛の仕事や魔獣の討伐は人の役に立っているが、それが本当に自分がやりたい事なのか、どうもしっくりこない。
「せっかく入校したんだ。大いに悩め。どうしようもなくなったら、また俺のところに来い」
大いに悩めか。確かにこういった事は、学生に許された特権だよな。
前世での俺は、なんとなく学校を出て、なんとなく就職してしまった。
もう少し、真面目に自分と向き合ってみるか……。
同期ではどうなんだろうと、一般教養の座学で一緒になったレイズとノノミリアに聞いてみた。
「俺が学びたいのは剣術だ。地元でも剣の稽古は続けてたし、ここでは実技訓練の講義をメインに受けようと思う」
「あたしの場合は魔法だね。元々得意だったのもあるけど、レイズと組む時のバランスを考えてそうなるかな」
レイズとノノミリアは迷いなく答えた。
自分達が学ぶべき事を最初から見据えているんだな。
「二人ともやりたい事が決まってて凄いな。俺は今になって、自分が何に向いてるのか分からなくなったよ……」
「おいおい、今からそんなんで大丈夫かよ?」
「リョウヤ君って、絵が描けたじゃない? そっち方面を伸ばしてみたら?」
「それは冒険者に全く関係ないよ……」
俺は机に突っ伏した。
そして、絵で思い出した。新しい制服のモデルを頼まれていたんだっけ。
丁度いいや。この二人に頼んでみるか。
悩むのは後にしよう。
「話変わるけど、二人にお願いしたい事があるんだ。いいかな?」
「急になんだよ?」
「あたしで力になれるなら、手伝うよ?」
「新しい制服の試作品の試着モデルをお願いしたいんだけどさ、どうかな?」
新しい制服と言った所で二人の目の色が変わる。
「もしかして、あの絵の制服を作るのか? それならいいぜ!」
「試作品って、色々な種類があるの? もちろん、あたしも構わないよ」
良かった。これで『興味ない』とか言われたら、目も当てられない。
「助かるよ。ちなみにこの件は、他言無用で。まだ公式発表じゃないから」
「なんかお前、普通に生産職をやった方がいいんじゃないか?」
「あたしもそう思う」
だから生産職のスキルが無いんだってばー。
現状は単なるお使いみたいなものだし。
そんなやり取りをしながら、試着の日時を二人に伝える。
これで俺の使命は終わったぞ、と小さくガッツポーズを取った。
「それよりもさ、リョウヤってパーティーに登録したのか? まだなら、早くしないとあぶれるぞ」
「あたし達は、もう先輩達の冒険者パーティーに登録してもらったよ。クエストで実戦も経験できるみたいで、今から楽しみなんだ」
……ん? パーティー登録ですとな?
「登録って初耳なんだけど……」
「お前がメディア校長に呼び出し食らってる時にパーティー加入の勧誘があったから、そこでみんな登録していたぞ」
そういえば、盛大に勧誘していたな。
「ええっと、パーティーって自動的にどこかに振り分けられて登録されるんじゃないの?」
「違うよリョウヤ君。パーティーは自分で選んで加入するんだよ。それも強制だからね」
ノノミリアの言葉で血の気が引いた。
そんな話、まったく聞いてないんですけど。
「あのさ、二人のパーティーって……まだメンバー募集してる?」
「あー、悪い。俺達二人で定員だったんだ……」
「ごめんね。リョウヤ君も早くいいパーティーが見つかるといいね」
二人が申しわけなさそうに謝る。
完全に出遅れたわ……。
こういうのって、後からだと入りにくいんだよな。
新入生同士ですぐにグループができちゃうし。
この後レイズ達は、先輩達とのミーティングがあるとの事で別れた。
俺は寂しく一人で食堂に向かうと、ピアリと女子三人組の姿があった。
こういう時に気心の知れた相手を見つけると安心するよな。
「聞いてよう、ピアえも〜ん!」
ダッシュして背後からピアリに抱きついた。
「うわぁ!? って、いきなりどうしたのリョウヤ君。それにピアえもんって、なんなの!?」
「実はいきなり進路に迷ってしまって……。それとパーティーに入り損ねた。後、ピアえもんの事は気にしないでくれ」
「ええっと……話は聞くから、まずは放してくれないかな?」
なんだか頬を染めたピアリが困惑している。
男同士なんだから、そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないかよう。
「……尊い」
ミっちゃんがそんな俺達を見て鼻血を垂らしていた。
◆◆◆
「……なるほどね。自分が何に向いているか分からなくなって、進路に悩んでしまったと。実はボクも似たような物だけどね」
「え? ピアリもそうなの?」
「だって、他の三人が凄すぎて、自分は何をやったらいいか分からなくなったんだよ」
ピアリが日替わりランチのつけ汁うどんを食べながら、三人組の方へ目を向ける。
それはそうと、この異世界はつけ汁うどんまであるのかよ……。
「ピアっちは十分私達の助けになってるぞ」
キツネ耳のミっちゃんがたぬき蕎麦をすすりながら答える。
……そこはキツネうどんじゃないんだな。
「そうだよ。気にする事はまったく無いからね☆」
ロワりんがカレーうどんの汁を派手に飛び散らせてウインクする。
後でちゃんとテーブルを拭いてね。
「ピアっちさんは、常にわたくし達のフォローをしてくださっていますの」
メルさまが上品にフィッシュサンドを食べて微笑む。
というか、この流れで麺料理じゃないのかよ。
俺なんて、ロワりんに勝手に素うどんにされたんだぞ。
しかも汁なしで本当にうどんのみなのだ。
俺に何か恨みでもあるんですかね。
「みんな、ボクの事を褒め過ぎだよ」
俺が汁なし素うどんに悪戦苦闘している横で、ピアリは照れ笑いをしていた。
少しでいいから、汁をくれませんかね……。
「セッキーは、どの講義を受けたらいいか分からないのだよな。私からのアドバイスは、『そんなもの受けるな』だ」
ミっちゃんがとんでもない事を言い出した。
「ここの冒険者予備校ってさ、単位とか無いし、あくまでも結果なんだよね。自分が何を成し遂げたかが大事だよ☆」
ロワりんも真面目な顔でアドバイスをしてくれる。
「そうですの。例えば生産職なら回復薬だったり、武器や防具等を作ったり。冒険者を目指すなら魔獣を討伐したりといった結果ですの。講義を受けただけでは、結果は残せませんの」
メルさまも実例を挙げて分かりやすく説明してくれた。
「三人が極端ってのもあるから、あまり参考にならないかもしれないけど、ボクとしては座学の講座は受けておいた方がいいと思うよ。最低限の知識があれば応用も利くから」
……そうだな。
ここはピアリの言う通りだ。まずは基礎から勉強してみよう。
それにしても、みんなはもう独学で色々な事を学んでいるのだろうか。
「じゃあ、今はみんなは何をやってるんですかね?」
「引きこもり時々素材集めだ」
「適当に魔獣討伐☆」
「薬品の精製や調合ですの」
三者三様の答えだった。ミっちゃんはおかしいけど。
素直に感心していると、ピアリがそっと耳打ちをしてきた。
「実はあの三人って、多くの講義で出禁になってるんだよね……」
みなさん、本当に何をやらかしたんですかね。
「それはそうと、リョウヤ君。パーティーはどうしたの? 入り損ねたって言ってたけど……」
ピアリに言われて一番大事な事を思い出したのだった。




