20 どうせ制服が義務なら、こういうのがいいよな
朝食後にピアリ達と別れた俺は、入校式に出るために一旦自室に戻ると準備を整え、講堂へ向かった。
入校式と言っても、来賓が来て長い挨拶をダラダラ聞くとかじゃなく、メディア校長の挨拶と職員による今後の学生生活の注意点等の説明程度だと聞いている。
講堂に入ると、既に新入生が数十人はいるだろうか。
ステレオタイプな体育会系や魔法を得意としてそうなインテリタイプの他、どう見ても冒険者には向いて無さそうなタイプは、研究職か生産職希望の生徒なのかな。
冒険者予備校と一口に言っても、様々な教育を受けられるという事で、各地から入校希望者が集まるそうだ。
もっとも、王都周辺は凶暴な魔物等は少ないので、自分の身一つで冒険者として成り上がりたいタイプは、最初から他の地域の冒険者ギルドに登録しているらしい。
どうやら出遅れたらしく、空いている席は少ない。
一番後ろの長机の席が空いていたので、そこに座る。
長机には先に二人の新入生がいて、軽く挨拶した。
「どうも、俺はリョウヤっていうんだ。よろしく」
「こちらこそよろしくな。俺はレイズ。こいつと同郷で冒険者を目指してるんだ」
ゲームやアニメだと、いかにも主人公って感じの男だ。
「こいつとは何よ。あたしはノノミリアっていうの。このレイズのお守役ってところかな。よろしくね」
外ハネの髪が印象的で気が強そうな猫耳の女の子が自己紹介する。
同郷って事は、二人は幼馴染って事なのかな。
……うむ、幼馴染み属性とか憧れるな。
思い出すと前世でも異性の幼馴染みがいた気がするが、色々な意味で触れてはいけない系の人だったので、敢えてここでは語るまい。
そうこうしてると教壇にメディア校長が立ち、挨拶が始まった。
異世界でも、こういう挨拶ってつまらないものだな。
同じく、隣でつまらなさそうにしているレイズに小声で話しかけてみた。
「なぁ、この制服ってクソダサくない? さっさと脱ぎたいんだけど」
「ああ、俺もそう思ってたところだよ。なんだかお前とは気が合いそうだな」
二人で意気投合して握手していると、レイズの反対隣りに座っているノノミリアも同意してきた。
「やっぱり、この服って可愛くないよね。どうにかならないかなぁ……」
リリナさん曰く、このジャージの制服は対物理防御、対魔法防御の術式が付与されていて、安全面は折り紙付きだから新入生は我慢して着てほしいそうだ。
俺も先日の事件の時に着ていれば、煙男とはもっと楽に戦えてたのかな……。
ふと思いついて、俺は鞄から筆記用具を取り出して制服のデザイン案を落書きしてみた。
「どうせ制服が義務なら、こういうのがいいよな」
前世では仕事でデザインの真似事もしていたので、少しは絵心があったつもりだ。
「男子はこんな感じで……と」
「お前、絵が上手いな」
「本当だ。なんだか可愛い絵だね」
横から覗き込む感じで、レイズとノノミリアが感心している。
そのまま適当にデフォルメしたキャラを描いて、ブレザーっぽい制服を描き上げてみた。
学ランはちょっとこの世界観には似合わないと思うので除外。
「……ほうほう。興味深い。それで女子は?」
「えっと、女子はこんな感じで……」
こちらもブレザータイプの制服を描いて、セーラー服もいいなと思ったので追加する。
意外と筆が乗ってきたので、楽しくなってきたな。
「こんな感じの制服もいいよなって思うんだよ。どう思う?」
「なるほどな。中々興味深かったぞ」
「……?」
顔を上げたら目の前にメディア校長が立っていた。
レイズとノノミリアは、そっぽを向いて他人の振りをしている。
「リョウヤ、分かってるな。後で私の所へ来い」
俺の落書きを没収すると、メディア校長は教壇の方へ戻って行った。
図書館の一件で無茶苦茶叱られた記憶を思い出し、一気に気分が落ち込んだ。
しかも、周囲から思いっきり注目を浴びてるし……。
「まぁ、……ドンマイ」
「頑張ってね」
裏切り者の二人に励まされた。こんちくしょう。
それから入校式も終わり、在校生のパーティーメンバー勧誘が始まった。
いわゆる、部員募集とかサークル勧誘みたいな物だ。
新入生が勧誘を受けているのを横目に、俺は一人、重い足取りで校長室に向かう。
校長室のドアをノックすると返事があったので、ドアを開けて入室する。
中ではメディア校長が待ち構えていた。
入校初日から叱られるのは、気が重いなぁ……。
「リョウヤ、この服のデザインはどこから得た知識だ?」
俺の落書きを手にしたメディア校長から、いきなり問い質された。
予想外の言葉に呆気に取られてしまったが、冷静に考えればこの世界にはブレザーもセーラー服も存在しないはずだから、不審に思われたのかもしれない。
流石に前世で好きだったアニメとかライトノベルの挿絵が元ネタです、なんて言えないので、実家で読んだ本で……と苦しい言い訳をしてみる。
「そうか。実はだな、これと似た衣装が描かれている書物に心当たりがある」
そう言って、メディア校長は俺の魔力測定で使った水晶版を操作しだした。
何かフリック入力してるっぽいけど、まるでタブレット端末でネット検索してるみたいだな。
「……ネットですか?」
思わず聞いてしまった。
これで余計に不審に思われてしまっただろうか。
「よく知っているな。これは魔導ネットワークといわれる情報網で、まだごく一部の者にしか開示されていない技術なのだがな。ベルゲルにでも聞いたのか?」
「ええ、まぁ……」
取り敢えず、誤魔化せた。
と言うか、ネット環境ってあるんだな。後でさわらせてもらえないかなぁ。
「それでだ。この書物なのだが見た事はあるか?」
示された水晶版のタブレットには、そのまんまのライトノベルやマンガの表紙画像が並んでいる。もちろん読んだ事のある作品もあった。
「ええ。いくつかはあります」
つい懐かしくて、思わず素直に答えてしまった。
「どこで見た?」
メディア校長が胡乱な目を俺に向ける。
「えっと……父親の蔵書です」
何かヤバそうな空気になってきたので、また適当に誤魔化すことにした。
「ほほう。これらの書物はな、図書館の無限回廊の現在の最高到達深部にある書架から回収された物なのだが、文字は解読できず、絵柄も扇情的な物が多いため禁書扱いで封印されてるのだ。……そのような代物が君の実家にあるとは不思議だなぁ」
かなりマズイ。完璧に怪しまれている。
ここで、『ぶっちゃけ俺は転生者です』と言えば信じてくれるのだろうか。
頭がおかしい奴として、拘束される可能性さえもあるかもしれない。
リリナさんにも頭が可哀想な奴だと思われてしまう。
そんな事態になったら、俺は本気で泣くぞ。
なので、誤魔化しに徹することにした。
……でも、なんだってそんな本が無限回廊の奥にあるんだろうな。
「俺の父親は考古学者なので、古代魔法王国の遺跡から変な物を持ち帰る事も多かったんです。もしかしたら、その時の発掘品だったのかもしれませんね」
適当にでっち上げてみたが、不自然ではない嘘だとは思う。
「なるほどな。古代遺跡では、まだまだ未知なる物が発掘されている。あり得ない事では無さそうだ。まあ、そういう事にしておこうか」
一応は見逃してくれたって事なのかな。
信用はされてないみたいだけど。
そんなやり取りをしていると、ドアからノックの音が聞こえる。
「入ってくれ」
メディア校長が入室を促すと、一人の男が入室してきた。
俺は思わず仰け反りそうになった。
それは、素肌の上に直接ジャケットを羽織り、サスペンダーで吊ったズボンという姿のおかっぱ頭で青髭が目立つ、ガタイのいい三十前後ぐらいの男性だった。
早い話が濃いオネエ系の人だ。
その人が俺を見て一言。
「あら、カワイイ男の子ね」
それが彼(?)の第一声だった。




