21 そんなすぐにできるんですか?
うむ。見た目に反せず、お約束のキャラで逆に安心してしまう。
「エリオ、そこのリョウヤが先程見せたデザイン画を描いたのだぞ」
メディア校長が俺を指しながら、エリオと呼んだ濃いオネエ系の人に向かって言った。
「まあ! あなたがこれを描いたの!? 素敵じゃな~い!」
濃い人が迫ってきた。
近い! 近いよ! 圧がとんでもなく凄い。
圧倒される俺をよそに、濃いオネエのエリオさんが俺の事を上から下までなめ回すように観察してくる。
「そこでだ。入校初日で悪いのだが、リョウヤにはこれからエリオと共に被服学科に出向いてもらって、この制服案をプレゼンしてきてもらいたい」
え? 何を仰ってるのか分からないんですけど……。
被服学科とかプレゼンとか、いきなり言われても状況がよく飲み込めない。
そもそも、入校初日で悪いと言っておきながら、絶対にそんな事を思ってないよね。
でもまあ、ここで文句を言っていも仕方ないか。
聞くだけ聞いておきましょうかね。
実家の蔵書問題を蒸し返されても困るし。
「制服案のプレゼンって、なんですか?」
「お前は今着ている制服が気に入らないのだろう? ならば、自分の気に入る物を作ってこい。そういう事だ」
「ちょっと待ってくださいよ。制服を作れって言われても服作りなんてしたこと無いし、そもそも裁縫すらほとんど経験無いんですけど!」
メディア校長がいきなり無茶振りしてきた。
確かにこのジャージは嫌だけど、新しい制服を作れだなんて無茶にも程がある。
「そこは私達の仕事よ。あなたはこのデザインを詳しく私達に説明してくれればいいの」
エリオさんが人差し指を立ててウィンクしながら言ってきた。
なんだろう。絵面は酷いけど、妙にしっくり来るポーズだな。
校長とエリオさんから詳しく話を聞くと、制服のジャージがダサくて生徒に不評というのは予備校側も把握していたが、どういった物にすればいいのかを決めかねていたそうだ。
下手に外注に出すと、中抜きや利権も絡んできて金額的にも面倒くさい事になるし、うっかり著名なデザイナーが担当になると、謎の圧力でリテイクが出しにくくなって不満が残る結果になったりする懸念から、中々依頼に踏み切れないらしい。
そういえば、前世の世界でも『なんでこんなデザインが採用されたんだ』みたいな事がよくあった気がする。
出来レースとか、そういう大人の事情って多いのかな。
それで今回たまたま、一生徒である俺の落書きを見たメディア校長が一目で気に入って、この機会に話を進めようって事になったらしい。
しかし、随分と急すぎじゃない?
「それはそうと、封印指定の書物に載ってる様なデザインなんて使って大丈夫なんですかね?」
懸案事項と思われる事を小声でメディア校長に聞いた。
「それを知っているのは、ごく一部の人間だから大丈夫だろう。それと盗作と思われないぐらいにはデザインを変えておけよ」
そんな適当でいいのかよ……。
まぁ、仮にトラブルになったら「リスペクトしました」「オマージュです」「トレースしてません」とでも言い張るか。
トレパクはいかんよな。うん。
善は急げと言われ、早速エリオさんと被服学科に向かう事にした。
「改めて、私は被服学科講師のエリオよ。よろしくね」
「新入生のリョウヤです。よろしくお願いします」
「ちなみに私、こう見えてもドワーフ族だからあまり気にしないでね」
「あ、……はい」
何を気にしなくていいのだろう。確かに身長はドワーフとは思えないぐらいに大柄だ。
もう色々と突っ込みどころが多すぎて、どう反応していいか分からない。
きっと前衛的な人なんだろう、そう思う事にした。
校長室を出て廊下を歩いていると、前方からブラウスにひざ丈のフレアスカートという装いのリリナさんが、すまし顔で歩いてきた。
そして、すれ違う際に俺達に会釈していった。
仕事モードの彼女に一抹の寂しさを感じて後姿を目で追っていると、リリナさんが振り返って小さく手を振ってくれた。
やだ、こんなのときめいちゃうじゃないか。
そんな俺達のやり取りに気付いていないエリオ先生が、ぼそりとつぶやく。
「今の彼女、リリナっていう職員なのだけど最近変わったのよね。今まで地味な印象だったのに、急に華やかになったというか。あれは絶対に男ができたんだわ。以前は仕事が恋人ですみたいな顔をしてたくせに。一体どんな男なのかしら……」
俺が見惚れていたと思ったのだろうか。
実際そうなんだけど、ここで俺がその相手ですなんて言えないよな。
そもそもが信じてもらえないだろうし。黙っておこう。
生産職学科の校舎がある区域に入り、その中の工房らしい建物に案内される。
ドアに『エリオの衣装研究室』と書かれた部屋に通された。
部屋の中には数人の女子生徒が既に待機していた。
「先生、今日の呼び出しはどういう要件ですか? 私達、早く新入生をメンバーに勧誘しに行きたいのですが……」
あらかじめ呼び出されていたらしい生徒達は、困惑顔だった。
「はーい、注目! あなた達、まずはこの男の子の話を聞いて」
エリオ先生がパンパンと手を叩くと、いきなり俺に話を振ってきた。
人前で話すのは苦手なので、こういうのは本当に勘弁してほしい。
でも、そんな事は言っていられない状況みたいだ。頑張れ、俺。
「えっと、皆さん初めまして。リョウヤと申します。今日はメディア校長に言われて、新しい制服のデザイン案を皆さんに提案しにきました……」
新しい制服のデザイン案という言葉に生徒達の目つきが変わった。
ベリーショートのボーイッシュな女子が勢いよく手を上げる。
彼女がここのリーダーかな?
「私はアイシャ。よろしく。ところで制服って、どんなデザインなの?」
「それはですね……」
俺は先程の落書きを机の上に広げて説明をしようとすると、早速彼女達が身を乗り出して落書きを覗き込んできた。
「何これ可愛い!」
「これだったら、毎日着てもいいかな」
「男子はいいとして、女子はスカートだから下着対策はどうする?」
「それはスカートの下にショートパンツをはいたり、タイツでガードするとかはどうかな?」
「それなら女子用のスラックスも良くない? 男装したい子もいるだろうし。そもそも私がはきたい」
一気に場の空気が変わった。早速議論が始まった様子。
それをエリオ先生が満足気に見ている。
俺は新たにいくつかのデザイン案を提示し、仮採用されたのが男子用ではシンプルなブレザー、女子用ではブレザーの他に、セーラー服、セーラーワンピース等であった。
まあ、男はデザインに凝っても面白くないし、そこまで力を入れなくてもいいと思うのですよ。
女子の可愛いは正義なのだ。
どさくさに紛れて『童貞を殺す服』とかも提案してみたけど、学生用には不向きとの事で却下されてしまった。
割とお嬢様っぽくて、いいと思ったのになあ。
そんなこんなで、俺のすべき事は一通り終わった。
帰り際にエリオ先生を始め、集まった生徒達から被服学科を専攻しないかと誘われてしまった。
嬉しいけど、あくまでも冒険者志望という事で丁重にお断りした。
俺の裁縫スキルなんて、ジャージのズボンゴムの入れ替えやシャツのボタン付けぐらいしかやった事ないレベルだし。
そもそも、このデザインは自分が一から考えた物じゃないので後ろめたいのだ。
「冒険者志望なら仕方がないわね。でも被服学科の子達とも仲良くしてあげてね。この子達は課題やクエストでもない限り、冒険者志望の生徒達とあまり交流が無いから」
エリオ先生は見た目がアレだけど、きちんと生徒達の事を考えているのが分かった。
ここに集まった生徒達もエリオ先生に絶対の信頼を置いているみたいだ。
「こちらこそ仲良くして頂けたら嬉しいです。ところで試作品チェックはどうしますか?」
「それなら……三日後ぐらいには試作品が完成していると思うので、どう?」
「そんなすぐにできるんですか?」
「うちの子達ならやるわよ。あと可能だったら、試着モデルも連れて来てくれると嬉しいわ。この子達だけだと偏りが出ちゃうので」
「分かりました。調整して三日後に伺います」
部屋から出ようとした時、ベリーショートのアイシャさんが声を掛けられた。
「今日は本当に刺激を受けたよ。仕上がりを楽しみにしておいてね」
そう言って彼女は手を差し出したので、俺も握り返して『楽しみにしてます』と伝えて自室に戻った。
……なんだか、大ごとになってしまったな。




