9 そんな面白そうな子だったら、友達になれたらいいな
〜ピアリ視点〜
自分でも分かっているけど、ボクはこんな容姿だから誤解を受けやすい。
入校早々から、男子に告白された事も何度かある。
ボクが男だと分かった途端に告白して来た男子は離れてしまうが、中には友達になろうって言ってくれた人もいた。
でも、それも結局はボクの体が目当ての興味本位だった。
女の子は普通に仲良くしてくれたけど、やっぱりボクが男だから寮室もお風呂も別々。
寮はもちろん男子部屋だったが、同室の人達とはそれなりの距離を保てていた。
それがある日の夜、ルームメイトの一人に襲われた。
大柄で、まるでオークみたいな男だった。
男でもいいからと言って押し倒されたけど、そんなの恐怖と絶望しかない。
ボクは必死で抵抗して逃げ出したよ。
でも、他のルームメイト達はオーク男を恐れて見なかった振りを決め込んでいた。
そのオーク男は貴族にコネのある商家の息子だったから、仕方ないのだろう。
だけど、ボクにとっては周囲の人間全員に見捨てられた気分になった。
もうその寮室にはいられない。
仲の良かった女の子達に匿ってもらったけど、いつまでも迷惑を掛けられない。
女子寮は無理だとしても、せめて一人部屋をお願いしたところ、冒険者予備校側から個室の空きがないと言われてしまった。
ボクみたいなタイプは、どちらの性別として扱ったらいいのか判断に悩むのだろうな。
それでもボクに理解を示してくれていたメディア校長が、個人的な判断で個室の使用許可を出してくれたのだ。
狭い部屋で悪いが我慢して使ってくれ、と色々と面倒を見てくれるベルゲル先生に物置だった部屋に案内してもらえた。
そして、引っ越しは冒険者予備校職員のリリナさんが手伝ってくれた。
ちなみにボクを襲った男は、退校になったと後で聞いた。
ボクを匿ってくれた子達が何かしたみたいだけど、怖いので詳しくは聞かなかった。
それから表面上は平和な冒険者予備校生活を送って一年近くが経とうとした頃。
『今度面白そうな奴が入校してくるから期待しとけよ』、とニヤリと笑うベルゲル先生の言葉にボクはちょっとだけ楽しみにする。
……そんな面白そうな子だったら、友達になれたらいいな。
生徒の多くが卒業や春休みで帰省したりして、校内の人が少なくなったある日の事。
ボクは人がいない時間帯を見計らって大浴場に向かった。
他に誰かがいると、お互いに気まずくなるからね。
脱衣所で服を脱いでると誰かが入ってきた気配がする。
失敗したなぁと思い、顔を向けるとそこにいたのは見知らぬ男の子だった。
目が合った男の子は、慌てて謝ると外に出てしまった。
悪い事をしたかなと思ってると、男の子がまた入って来て、『ここ男湯ですよ』なんて言ってきた。
その時に限って何故かいたずら心がわいてきたボクは、ちょっと彼をからかってみる事にした。
……調子に乗ってしまった。
彼の反応が可愛くてつい悪ふざけをしていたら、最終的に逃げられてしまったのだ。
自分がされたら嫌なのに、やったら楽しくなってしまった事に反省。
翌朝、いつもの様に目覚めが悪かったけど、狭い部屋では二度寝をする気も起きない。
なので、ちょっと早いけど朝食を食べに向かった。
食堂には昨日の男の子がいた。
声を掛けようか一瞬迷ったけど、意を決して明るく挨拶をした。
勝手な思い込みだけど、ボクの事を変な目で見ない友人として、接してくれそうな気がしたからだ。
残された時間は分からない。これから楽しい思い出をたくさん作れたらいいな。




