表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Replica  作者: 根岸重玄
登校騒乱編
78/286

不死と不壊

 

 2036年6月7日午後6時9分


 (くだ)けた床に、()ぜる魔力の残響(ざんきょう)が響く。

 拳と魔力の応酬(おうしゅう)は、すでに十数合を超えていた。


「――くはっ、てめェ……どこまで鉄壁(てっぺき)なんだよ」


 伏見ふしみ)は、額から流れる血を(ぬぐ)いもせずに笑った。

 その笑顔には、苛立(いらだ)ちよりも興奮(こうふん)が浮かんでいる。

 目の前の美女――エリザベート。

 金髪金眼きんぱつきんがん美貌(びぼう)白磁(はくじ)の肌、そして全身を(おお)う装甲《漆黒(しっこく)の翼》。

 その身体は、人間ではない。魔導書《闇の眷属(けんぞく)》が形を成したものである。


「そなたこそ、しぶといのぅ。いくたび肉を砕かれても、すぐさま再生するとは――」

「これが《正常稼働(オールグリーン)》。俺が死なねェのは、仕様(しよう)なんだわ」


 再生と拒絶。

 殴っても通らない。焼いても効かない。

 不死(ふし)不壊(ふえ)――この戦いに終わりは存在しなかった。


「ところでうぬ、ここにはなぜ来たのじゃ?」


 エリザベートが、ふと問いを投げる。


「……あ?」


 伏見ふしみが一瞬、動きを止める。


(ああ……そうだ。俺は狗飼(いぬかい)を……探して……)


 だが、すぐに笑う。


「はは、クソッたれ……。

 いいじゃねェか、少しぐらい楽しんだってよッ!!」


 再び拳を振りかぶり、エリザベートに叩き込まれる。


「うむ。実に壊しがいのある男よ。

 そなたも――小夜(さよ)の痛みを、思い知るがよい!」


 そのときだった。


「――我、汝らに伏臥を命ず(ぶっ倒れろ)


 まるで空間そのものに命令が下されたかのような、

 透き通った少女の声。

 次の瞬間、伏見ふしみも、エリザベートも、反射的にその場に(ひざ)をついた。


「ッ、ちょっ……!? ()()()()!?」


 声の主は、制服のまま立ち尽くす――水無月(みなづき)風華(ふうか)であった。

 そして、その(ひとみ)には怒りが浮かんでいる。


「アンタ、ここで何してんのよ?」

「いやっ……そ、そりゃァ……」


 伏見ふしみ(うめ)くように答えたが、(あらが)うことはしなかった。

 伏見ふしみは第3高校の教師ではあるが、本来は水無月(みなづき)の実家の用心棒(ようじんぼう)という立場であり、教師をしているのは水無月(みなづき)の義父である右京(うきょう)の意向である。すなわち、学校を出ればその力関係は一瞬で逆転(ぎゃくてん)するのだ。

 一方、エリザベートは()したまま顔を上げ、水無月(みなづき)をまじまじと見つめていた。


「ほう……そなたが、命令を下したのか。

 なかなかの威力(いりょく)じゃな」


 水無月(みなづき)はエリザベートを(にら)み返す。


「……誰よ、アンタ。アタシの先生(・・)に何してたの?」

「名乗るほどの者でもないが……わっちを“エリザベート”と呼ぶ者もおる。

 そなたこそ、何者じゃ? その魔術(まじゅつ)、見事なものであったぞ」

水無月(みなづき)風華ふうか

 アンタの事情は知らないけど――今日は、ここまでにしなさい」


 エリザベートは数秒沈黙(ちんもく)した後、くつくつと笑った。


「ふふっ、これは興味深い……実に、興味深いのう」

「てめぇ、まだやる気じゃねぇだろうな……」


 伏見ふしみ警戒(けいかい)しながら(にら)み返すが、エリザベートはゆっくりと立ち上がり、魔力を解いた。


「十分に楽しませてもらった。

 小夜さよの件も、ある程度の痛みを与えただけでも、多少は気が晴れた」

「ちっ……この借りは、返すぞ」

「楽しみにしておるぞ。伏見ふしみ鋼一――“不滅の英雄”よ」


 エリザベートはその場を去る。

 水無月(みなづき)伏見ふしみに向き直った。


「ほんと、バカなんだから。まったく……」

「……すまねぇ、お嬢。少し、熱くなりすぎたみてェだ」

「次に戦いたくなったら、アタシにちゃんと許可取ってからにして」

「……へい」


 水無月(みなづき)は、ため息をひとつだけついた。

 そして、ようやく訪れた静寂(せいじゃく)が、壊れかけたフロアに舞い降りた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ