表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Replica  作者: 根岸重玄
登校騒乱編
71/286

雹霞の視点

 

 2036年6月7日午後4時38分


 風華(ふうか)雹霞(ひょうか)は、足を確保するため現在第14学区にある警備隊(けいびたい)派出所(はしゅつじょ)まで来ていた。

 もちろん、『飛翔(ひしょう)』で現場に向かうのが手っ取り早くはあるのだが、着いた時点でガス欠でしたでは話にならないからだ。


「思ったより手間取(てまど)ったな」

「あちこちに人払(ひとばら)いの術式(じゅつしき)があったからね。仕方(しかた)ないよ」


 だが、思ったよりも妨害(ぼうがい)が多く、二人は思った以上に疲弊(ひへい)してしまっていた。


「とりあえず、ここにある自動車で現場に向かう。

 流石(さすが)自動(じどう)運転(うんてん)に人払いは通用(つうよう)しないだろう」

「了解でーす」


 雹霞(ひょうか)早速(さっそく)ナビから目的地である()(すい)総合(そうごう)研究所(けんきゅうじょ)を設定し、自動(じどう)運転(うんてん)モードで車を発進(はっしん)させる。

 目的地までは約10分である。


「さて、風華(ふうか)よ」

「何?」


 風華(ふうか)は助手席で肩を落としながらも、いつものように端正(たんせい)な表情を保っていたが、雹霞(ひょうか)の声に若干(じゃっかん)警戒(けいかい)(にじ)ませる。


天乃(あまの)(しん)のことをどう思う?」

「……それ今、聞くの?」

「何、単なる雑談(ざつだん)だ。昨日、一緒にいただろう?」


 風華(ふうか)は視線を()らし、車窓(しゃそう)の向こうに流れる風景を見つめた。6月の陽光(ようこう)(かたむ)きかけており、街のビル群に長い影を落としている。


「さぁね、偶然(ぐうぜん)会っただけだし」

「それにしては親密(しんみつ)そうだったが」

「気が合ったという意味ならそうね。

 どこかで会ったことあるのかしら?」

「そんなはずなかろう。馬鹿なことを言うな」

「む、どうして雹霞(ひょうか)()ぇがそんなこと断言(だんげん)できるの?」

「あ、いや。浅木育ちのお前と今年来たばかりのあいつが顔見知りなわけないだろ?」

「それでいえば、雹霞(ひょうか)()ぇも彼とは知り合いだったみたいだよね?

 どこで知り合ったの?」

「あーっと、間森(まもり)だ。奴を通じて何度か会っただけだ」

「どうして? 用もないのにそんなことするタイプじゃないじゃん」

「――守秘(しゅひ)義務(ぎむ)を発動する。これ以上は話せん」

「なんで自分から振った話題で沈黙(ちんもく)しちゃうのよ?」


 雹霞(ひょうか)はそれに答えず、代わりに、ナビの表示が目的地までの残り時間を「3分」と示していることを確認する。


雹霞(ひょうか)()ぇ、そろそろ着きそうだよ」

「ん、まぁ、お姉ちゃんとしてはいつでもお前の心配をしているという話だ」

「え? そんな話だったっけ?

 まぁ、ありがと」


 二人を乗せた車は、()(すい)総合(そうごう)研究所(けんきゅうじょ)外縁(がいえん)へと静かに進入していく。

 その瞬間、5階の窓ガラスが割れ、巨大な狼が車のボンネットにぶつかると、(きり)のように四散(しさん)する。


「無事か、風華(ふうか)!?」

「うん、今の、たぶん天空(てんくう)だと思う」

狗飼(いぬかい)家の?」

「そう。“狂魔狼形態(モード・フェンリル)”見たことある。

 どうやら思った以上に大事になってるみたいね」

「そして、ビンゴというわけか。

 私はここから上に向かって例の大暴れの様子でも(なが)めながら狗飼(いぬかい)令嬢(れいじょう)を探す。

 風華(ふうか)下層(かそう)建物内(たてものない)を探せ。

 目的はあくまで狗飼(いぬかい)家の令嬢の身の安全の確保だ」

「わかった。気を付けてね」

「誰に言ってる?」

「大好きな雹霞(ひょうか)()ぇに」

「――やめろ、急に恥ずかしくなった」

「――アタシも」


 互いにダメージを負う二人が現実に戻るのは一瞬だった。

 窓ガラスが次々割れ、狼が降り(そそ)いでくるからである。


「では、いってくる」

「あとでね」


 そういって2人は()(すい)総合(そうごう)研究所(けんきゅうじょ)に入っていき、上下に別れて狗飼(いぬかい)の捜索を開始する。


 2036年6月7日午後5時8分


(あれは、伏見(ふしみ)間森(まもり)!? 何やってんだ、あいつら?)


 上階に進んでいた雹霞(ひょうか)目撃(もくげき)したのは、伏見(ふしみ)間森(まもり)決闘(けっとう)模様(もよう)だった。

 間森(まもり)が見えない(かべ)を盾に伏見(ふしみ)に銃弾を撃ち込んでいるが、伏見(ふしみ)にそれが通じた様子はない。


(まぁ、いいか。どういう状況でこんなことになってるかは知らないが、伏見(ふしみ)は殺しても死なないし、間森(まもり)は死ぬまで付き合うようなタイプじゃない)


 雹霞(ひょうか)はどちらも死ぬことはあるまいと即断(そくだん)し、そのまま二人をスルーしてさらに上階へと進んでいく。

 ()(すい)総合(そうごう)研究所(けんきゅうじょ)は8階建ての建物であり、雹霞(ひょうか)は8階から順にすべての部屋を開け、狗飼(いぬかい)を探すことにする。

 そうやって再び5階に戻って来たとき、(おどろ)きの名乗りを聞いた。

「そうさな、(あらた)めて名乗ろうか。

 ()(あゆ)む者、吸血(きゅうけつ)(しゅ)頂点(ちょうてん)異界(いかい)大怪異(だいかいい)――エリザベート=ナイトウォーカー、以後よろしくのぉ」

「――随分(ずいぶん)とまァ、大物の登場(とうじょう)じゃねェか。

 人類(じんるい)(しゅ)の敵、『討伐令(とうばつれい)対象者(たいしょうしゃ)が、どういう了見(りょうけん)でまだ生きてやがる!」

(エリザベート=ナイトウォーカー!?

 天乃(あまの)(かささぎ)が討伐したとされている大怪異(だいかいい)か!)


 雹霞(ひょうか)の知る限り、エリザベート=ナイトウォーカーは天乃(あまの)(かささぎ)という人物によって数年前に討伐されているはずだ。

 天乃(あまの)(かささぎ)は討伐者でありながら時計塔(とけいとう)侵入(しんにゅう)事件を企てるなど(つか)みどころがない人物であり、時計塔事件以降、消息(しょうそく)が不明となった人物である。

 天乃(あまの)姓であることから、天乃(あまの)しんとは親子関係が疑われていたが、両社に血縁(けつえん)関係(かんけい)がないことはDNA鑑定(かんてい)の結果、判明(はんめい)している。

 ただし、二人は一緒に行動していたと記録(きろく)されていることが多い。

 天乃(あまの)(かささぎ)がエリザベート=ナイトウォーカーを討伐(とうばつ)したのも北欧圏(ほくおうけん)だったはずであり、天乃(あまの)しんが同行していた記録が残されている。

 雹霞(ひょうか)物思(ものおも)いに(ふけ)っているうちに、伏見(ふしみ)とエリザベートの戦闘が開始されていた。

 それは互いに不死身(ふじみ)であるからの応酬(おうしゅう)であった。

 拳を交えては互いに腕ごと吹き飛ばし、蹴りで胴を断ち切ったかと思えばカウンターで首を断ち切られる。

 どちらからともなく哄笑(こうしょう)(ひび)き渡り、互いの肉体を(けず)っていく。

 どう考えても不合理な戦いであるが、互いにもうそんなことは一切考えていないであろう。

 雹霞(ひょうか)はこれもスルーすることとし、4階へと向かう。

 狗飼(いぬかい)はまだ見つからない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ