悪友の真相、宙を割く魔力の翼
2036年6月6日 午前10時52分
思考が空白となった天乃に、水無月は続きを語り始める。
「自慢じゃないけど、アタシ生まれつき魔術に対する耐性みたいなのがあってね。この程度の幻覚なら全く効かないのよ。だから、アタシにとっては、あの間森は初めの段階から黒で確定だった。一緒にいたアンタも初めは黒だと思ったけど。なんてゆうか、アンタはアタシの術式に対して無防備すぎた。それに、裏がある雰囲気がなかった。決定打はなかったけど、白の可能性があると思ったの。だから、アンタと二人きりになって見極めることにしたの」
「あ」
天乃は間森と別れる寸前に行われた会話を思い出した。確かに、水無月が主導して二人が行動するように誘導していたような気がする。
「結果、アンタの行動は白寄りだったわ。そうなると、アンタの立ち位置が分からなくなる。だから、あの鎧にアタシが狙われているという前提で何度かカマをかけたんだけど、それに対してもアンタは素直にその前提を妄信しなかった。他にもアタシを庇って怪我したり、学生証の件でもボロを出さなかった。アタシは白いカードを提示したのに対し、アンタは正確に学生証に見えるカードがどっちかを当てたわ」
「ちょっと待ってくれ。その話を前提とするといろいろ変わってくる」
(……あの啓吾は偽物で)
(……堂々とオレに接触してきて)
(……警備隊を避けるように人気のないところにオレを誘導して)
(……そういえば、あの『召喚』っていうのは本当にあの犬を呼び出すものだったのか?)
(……あの直後に水無月が現れて、甲冑が現れて)
(……甲冑はすべてこっちに向かってきて)
「……なぁ、その場合、狙いはオレってことになるんじゃないか?」
「やっぱり? アタシもそう思う訳よ。巻き込まれたのは、アタシの方だったんじゃないかってね」
「待ってくれ。オレに狙われる心当たりなんて――」
ふと、天乃の脳裏に偽の間森との会話が再現される。
『入学して二か月足らずで魔術による攻撃で記憶喪失になったってことになったら、どうよ』
『守護霊システムはそういった意味では失敗できないプロジェクトだったんだろうぜ』
『あぁ、そのせいで予定が狂っちまった』
「――なくはない、か。守護霊システムだ。オレは、守護霊の欠陥の証拠となるかもしれないんだ」
「そういえば、アンタの守護霊が機能してないんだっけ。なるほどね。だったら怪しいのは責任者である第三高の理事の百目鬼理事かしら。いえ、だったら雹霞姉ぇが直接来るはず。わざわざ間森のしかも偽物なんかを寄こす必要はない。
となると、百目鬼理事の弱みを握りたい他の理事の仕業と考える方がまだ妥当かしら。敵の目的は殺害ではなく捕縛かしらね。それとも、確保できれば死体でも構わないのかしら。はぁ……」
水無月が面倒そうにため息をつく。
「つまり、アンタはキナ臭い権力闘争の道具にされようとしているってゆう感じなんじゃないの?」
「浅木ってもしかしなくても真っ黒だったりするのか?」
「そうね、少なくともただの教育機関の集合体ってゆうのは建前だわ。ここじゃあ大学の自治とかゆって本国の法律も一部適用されないことになってるからね。やりたい放題とはゆわないけど、ある程度非合法な研究も普通にこっそり行われてるわ」
「……さようかい」
「とにかく、間森と離れた理由はわかってもらえたかしら?」
「待ってくれ。今整理する」
(水無月によると、彼女は初めから啓吾が啓吾でない誰かに見えていた。オレは記憶がなく、啓吾とは初対面の状態――仮に偽物だとしても違和感なく本物と思うだろう。また、学生証も幻覚による偽造だという。だったら啓吾はもちろん黒だろう)
「どう? 理解してもらえたと思うけど」
(だが、それは水無月の言葉がすべて本当だった場合だ。何らかの理由で水無月が黒であり、オレに啓吾が黒だと思い込ませようとしている可能性。……合理的な理由は全く思いつかないが、可能性としてはある。啓吾が黒であり、水無月が黒でないことを証明する手段はないものか)
「……あるな」
「え? 何が?」
「試したいことがある。協力してくれ」
2036年6月6日 午前11時9分
「これで啓吾の黒は確定した。いや、あの啓吾が本物でないことがほとんど確定したというべきか。オマエの話を信じよう」
「そ。まさか、こんな方法で確認可能だとはね。あんた、結構やるわね」
「たまたまの思い付きだ。あとは上に来た理由だったか」
「それは簡単。鎧共を殲滅するためよ」
「殲滅?」
水無月が現在の最大の難問の解決をあまりに簡単なことのようにいったので、天乃は思わず聞き返してしまう。
「そ。面倒だけど、アンタの身柄の安全を確保することが一番雹霞姉の利益になりそうだからね。全く関係なく巻き込まれただけのアタシが、あんたを助けてあげるわ」
「急に恩着せがましくなった気がするけど。勝てない戦いは勝たないんじゃなかったのか?」
「そうよ。だから、勝てる戦いは勝つのよ。あんたの懸念は鎧共の飛び道具に対するアタシの機動力不足でしょ? そんな程度なら何の問題にもならないのよ、実は」
「そうなのか? オマエの術式は自身に対しても有効なのか?」
「そうじゃない。まぁ、ゆっちゃえば、ただの力業で全部解決可能なの」
「は?」
「まぁ、見てなさいって。――連結開始」
そういうと水無月は、無防備に身体を敵の射線上に曝け出す。
「おい、迂闊に立つな!!」
天乃は急いで彼女を引き倒そうとするが、その前に六箇所から飛来したボーガンの矢のようなものが水無月の胴体と頭に直撃する。
「……ってなんだそりゃ!?」
天乃の目の前で、水無月に直撃した矢の形をした何かが霧散する。
(射程と速度の話を聞いたときから大体わかってたけど、やっぱり、魔弾だったわね。だったら、アタシの防壁を貫けない)
魔弾とは純粋に魔力を放出する技術であり、防壁とは同じく魔力で作られた障壁のことである。
(術者と離れて行動するタイプの術式と魔弾は相性が悪い。魔弾は魔力をバカ食いするから。あの速度と威力なら、撃てて二、三発ってとこね。もしかしたら、本物の矢も飛ばせるかもしれないけど、アタシなら被弾しても問題はない)
水無月は驚愕の表情を浮かべる天乃を一瞥すると、何も言わずに建物の端に移動し、身を乗り出すような姿勢をとる。
「おい、落ちるぞ」
「大丈夫、アタシ、飛べるから」
それだけを告げると、水無月は建物の屋上から身を投げる。次の瞬間、天乃は確かに空中を飛翔する水無月を見た。
天乃は知る由もないが、水無月が飛翔している原理は本人の言うとおり、究極の力業である。彼女は落下している自身の肉体を、指向性をもたせて放射する魔力によって無理やり浮かしているのだ。これは魔力保有量の多い水無月だからこそできる、まさしく力業というべき所業であった。
(さっきの射撃の方角からすると、こっちに四体――いたっ、三体)
「いぃ加減、うっとぉしぃのよ! ”我、傀儡の自壊を命ず”!」
水無月の挙動に甲冑の術者も意表を突かれていたのか、大した反撃もできないまま三体の甲冑が膝から崩れ落ちるようにバラバラに崩壊する。水無月はそのまま加速しながら上空に向けて旋回し、次のターゲットを探す。
(鎧共は合計十体。初めに一体、次に二体、続けて一体。屋上から一体を半壊にして――今三体を破壊したから。七体破壊、一体半壊ね。あと、二体)
天乃は、猛スピードで飛翔旋回する水無月を眺めながら、屋上にてすることもなく待機していた。
(すごいな、魔術ってやつは。いや、すごいのは水無月か。俺はできるだろうか。飛べると理解していれば、この高さから跳べるのだろうか)
「……綺麗な翼だ」
思わず、天乃はそう呟いていた。そのとき、バタンという音を立て、屋上へと繋がる扉が開く。
「よう、慎。無事か?」
扉の向こうから現れたのは、間森であった。




