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Replica  作者: 根岸重玄
登校騒乱編
69/286

荒魂大顕現、絶つ神

 

 2036年6月7日午後5時20分


 《無貌(むぼう)》の男が魔法陣(まほうじん)の中心に立つ。

 そして、魔法陣(まほうじん)に足元から魔力(まりょく)(そそ)ぎ込むと、魔法陣(まほうじん)が光を(とも)し始める。


「“我は支配の頂点(ちょうてん)偉大(いだい)なる『超越者(ちょうえつしゃ)』の(うつわ)なれば”

 “今宵(こよい)この時をもって器としての役割(やくわり)(まっと)うする”

 “――それこそが()唯一(ゆいいつ)贖罪(しょくざい)なれば“」


 《無貌(むぼう)》の男が詠唱(えいしょう)を開始すると、魔法陣(まほうじん)の光が宙に浮きあがり、幾重(いくえ)にも分裂(ぶんれつ)して《無貌(むぼう)》の男をかこんでいく。


「“世を開き、世を(うつ)ろわせ、世を支配せよ”

 “それが()権能(けんのう)なれば”

 “第伍(だいご)神威(かむい)をここに(しめ)せ”」


唯一(ゆいいつ)贖罪(しょくざい)? 第伍(だいご)神威(かむい)?)


 天乃(あまの)は《無貌(むぼう)》の男の詠唱(えいしょう)にいくつか気になるワードを見つけたが、今はそのようなことを考えている場合ではない。

 ついに、『辰上(たつかみ)亡霊(ぼうれい)』が降臨(こうりん)するのだ。


「“《超越者(ちょうえつしゃ)憑依(ひょうい)降臨術式(こうりんじゅつしき)――――荒魂(あらみたま)大顕現(だいけんげん)()(かみ)》”」


 光が収束(しゅうそく)する。

 その場には、《無貌(むぼう)》の男は既にいなかった。

 その顔はもうはっきりと見える。


(これが『超越者(ちょうえつしゃ)辰上(たつかみ)亡霊(ぼうれい)』!!)


 天乃(あまの)油断(ゆだん)せず魔眼で魔力の流れを辿(たど)り、あらゆる攻撃に(そな)える。

 だが、たっぷり1分が経過(けいか)しても『辰上(たつかみ)亡霊(ぼうれい)』はまだ動かない。


(どうなっている?)

忌々(いまいま)しい」


辰上(たつかみ)亡霊(ぼうれい)』が(はじ)めて言葉を発する。


「人工的に『覚醒者かくせいしゃ』を作るだと?

 そのためにこの俺にやられ役をしろと?」


 底冷(そこび)えするような声で『辰上(たつかみ)亡霊(ぼうれい)』は(つぶや)く。


「くははははははは。よいよい。そこまでは。

 余興(よきょう)としては十分だ。あくまでそこまでであれば、な」


辰上(たつかみ)亡霊(ぼうれい)』はそこで初めて天乃(あまの)を見る。


「だが、俺は貴様が気に食わん。(あわ)れで矮小(わいしょう)(ごみ)(むし)よ。

 他人(たにん)に流され、()かれたレールの上を進んで。

 そんなに『超越者(さいきょう)』を打ち(たお)す『覚醒者(ふじょうり)』が欲しいのか。

 貴様は今どこにいる。貴様の(まこと)はどこにある」


辰上(たつかみ)亡霊(ぼうれい)』は天乃(あまの)に問いかける。

 それに対する天乃(あまの)の回答は決まっていた。


「正直に言う。オレは『覚醒者(かくせいしゃ)』の力とやらには一切興味がない」

「ほぉ」

「ただ、英莉(えり)が誰かにいいように(あやつ)られていたから助けたかっただけだ」

「それは、わざわざ『覚醒者(ふじょうり)』を手にしなければ(かな)わぬことなのか?」

「さぁな、それが今回の一件の元凶(げんきょう)で、解決の一助(いちじょ)になるなるなら、(どく)を皿ごと飲み下すまでだ。

 アンタの事情(じじょう)など知ったことか」

「なるほど、なるほど。よかろう、俺は貴様を『敵』と認めたぞ。

 俺にとっての『敵』とは秩序(ちつじょ)(みだ)す者だ。

 俺の()いた法を乗り()える者だ。

 だから、今から本領(ほんりょう)(しめ)そう。我が術式――《王の法》のな」


 そう言った瞬間(しゅんかん)、『辰上(たつかみ)亡霊(ぼうれい)』の魔力(まりょく)(ふく)れ上がる。

 それは天乃(あまの)にとってはある(しゅ)幻想的(げんそうてき)光景(こうけい)であった。周囲の世界が『辰上(たつかみ)亡霊(ぼうれい)』の魔力の色に()め上げられていく。おそらく、天乃(あまの)魔眼(まがん)でなければその変化の様子は見えなかったであろう。

 だが、確かに世界は()り替えられていった。

 《王の法》が秩序(ちつじょ)()く世界が顕現(けんげん)する。

 『超越者(ちょうえつしゃ)』と化した『辰上(たつかみ)亡霊(ぼうれい)』による《王の法》がどこまで広がっているのか、この地下室(ちかしつ)からでは確認しようもないが、《無貌(むぼう)》の男の話では世界中に落雷(らくらい)が降り(そそ)危険性(きけんせい)すらある大魔術(だいまじゅつ)ということである。


(何とか、挑発ちょうはつした甲斐かいもあってここまで辿たどり着いたが、ここからどうすればいい?

 何が罰になるかわからない以上、迂闊(うかつ)刺激(しげき)できない

 だが、何かあるはずだ。法にれず、『辰上(たつかみ)亡霊(ぼうれい)』に効くものが。

 落ち着いて思い出せ、今までの話を。何か矛盾点(むじゅんてん)はないか。

 何でもいい。いつもの“直観(ちょっかん)”でもいい。何かッ!)

「なんだ、来ぬのか? ならばもう終わらせるぞ?」

「待て、その前に――」

「その道理(どうり)はない」


 天乃(あまの)に向かって何かをしようとした瞬間(しゅんかん)天乃(あまの)の口から出た言葉は、『辰上(たつかみ)亡霊(ぼうれい)』の意表(いひょう)を突くものであった。


「――お前、誰だ?」


 2036年6月7日午後4時31分


「はい、次の方」

見舞(みま)いに来た」

「では、こちらの書類にご自身のお名前とご住所、患者(かんじゃ)のお名前などの必要(ひつよう)事項(じこう)を記入してください」

「申し訳ないが、そのような時間はない。(やぶ)医師に水無月(みなづき)烈火(れっか)が見舞いに来たと伝えてくれ。それで通るはずだ」

「――ですが」

(たの)みます」

「わかりました。一応、確認してみます」


 浅木(あさき)大学(だいがく)付属(ふぞく)総合(そうごう)病院(びょういん)の受付に来た烈火(れっか)はそういうと、待合の椅子(いす)に腰掛ける。烈火(れっか)帯同(たいどう)していた藤堂(とうどう)もその隣に無言で腰掛ける。

 約5分後、壮年(そうねん)の男性医師が烈火(れっか)のもとに歩いて来る。

 それは天乃(あまの)の主治医でもある医師であった。


「君がアポなしで来るとは、よほど急ぎの事情(じじょう)かね?」

「心当たりはありませんかね、(やぶ)さん?」

「ま、ないといえば嘘になるかな。

 とはいえ、君にわざわざ報告する事柄(ことがら)でもなかったからね」

「それはどうかな。彼は?」

「病室におるよ。見舞いに来たのだろう?」

「では、案内(あんない)を頼む」


 烈火(れっか)はそういうと立ち上がり、藤堂とうどうには座って待つよう指示(しじ)を出す。

 そのまま烈火(れっか)(やぶ)に連れられ、地下にあるとある病室に案内される。

 (やぶ)はそのまま病室の扉を開き、烈火(れっか)を引き連れて室内に入っていく。


「やぁ、元気かね? 相庭(あいば)君」

「あぁ、爽快(そうかい)な気分だ。

 頭から他人の声がしないとはこれほどに快適(かいてき)なのだな」

相庭(あいば)宗次郎(そうじろう)だな」


 烈火(れっか)挨拶(あいさつ)もなくベッドに横たわる男に声をかける。


「そうだが、誰だ?」

「一応、ここでの君の治療費(ちりょうひ)を支出しているものだ。

 質問がある。ここに『辰上(たつかみ)亡霊(ぼうれい)』はいるか?」

「いや、俺は(すで)解放(かいほう)された」

「では、今はどこに?」

「さあな」


 烈火(れっか)それを聞き取ると、(やぶ)に向かって話しかける。


(やぶ)さん、あなた以外に思いつかない」

「まぁ、そうだろうね。間違ってはいない。

 私は目の前の1を救うためには全力を()くす。

 希望を失っていた彼を救うためには患部(かんぶ)から腫瘍(しゅよう)を取り(のぞ)く必要があった」


 腫瘍(しゅよう)とは、『辰上(たつかみ)亡霊(ぼうれい)』のことであるとすぐに(さと)った烈火(れっか)は多少の怒りを込めながら(やぶ)に言葉をぶつける。


「その腫瘍(しゅよう)移植(いしょく)した誰かが今どこかで暴走(ぼうそう)しているとは思わないのか?

 それで何人(なんにん)犠牲(ぎせい)になるか、考えないのか?」

「考えないね。もちろん、被害(ひがい)にあった者らは全力(ぜんりょく)(すく)うとも。

 それが生きている(かぎ)りにおいてね」

「わかった。あなたの立場とポリシーは理解した。

 だが、それで俺の義妹達(いもうとたち)が傷つくことがあったら後悔(こうかい)させるぞ」

「それは(あずか)り知らぬことだ。だが、断言(だんげん)しよう。

 君が私に何をしても私が後悔(こうかい)することは決してないだろうと」

信念(しんねん)忠実(ちゅうじつ)なことで」

「でないと医者などやってられん」


 烈火(れっか)皮肉(ひにく)にも(やぶ)飄々(ひょうひょう)とした態度を(くず)さない。

 まったく悪びれる様子すらない(やぶ)に対し、烈火(れっか)は本題に入る。


「で、腫瘍(しゅよう)移植(いしょく)した相手は誰だ?」

「一応、守秘(しゅひ)義務(ぎむ)はあるのだがね」

「俺と交渉(こうしょう)するつもりか?」

「いや、止めておこう。白状(はくじょう)するよ。

 相庭(あいば)一臣(かずおみ)。そこにいる相庭(あいば)君の双子(ふたご)の兄だ」


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