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Replica  作者: 根岸重玄
登校騒乱編
66/286

小夜の戦い

 

 2036年6月7日午後3時47分


精神寄生体(メインユニット)沈黙(ちんもく)を確認』

精神寄生体(メインユニット)(せい)神体(しんたい)への概念的(がいねんてき)損傷(そんしょう)――甚大(じんだい)

『再起動――負荷(ふか)甚大(じんだい)、再起動には先行(せんこう)して精神体(せいしんたい)修復(しゅうふく)が必要です』

当機構(とうきこう)の『再生』を適用(てきよう)します――修復(しゅうふく)には時間を(よう)します』

『肉体への物理的(ぶつりてき)損害(そんがい)――軽微(けいび)

『肉体の『再生』――完了』

緊急(きんきゅう)時につきこれより自立型搭載人格(サブユニット)再起動(さいきどう)させ、指令(オーダー)を続行します』

『これにより結合(けつごう)関係(かんけい)にある『漆黒の翼(メインウェポン)(およ)び『魔人の枷(インターフェイス)』を切り離(パージ)します』

分離(パージ)開始(スタート)――――完了(コンプリート)

所定(しょてい)の作業を完了しました』

『これより、当機構(とうきこう)所定(しょてい)自立型搭載人格(サブユニット)識別(しきべつ)個体名(こたいめい)小夜(さよ)指令(オーダー)遂行(すいこう)(ゆだ)ねます。再起動――完了』

「――否定します(ネガティブ)。メインユニットはあくまでわっちです」

『――要請(ようせい)却下(きゃっか)します。主殿(マスター)指令(オーダー)完遂(かんすい)することができるのは、遺憾(いかん)ながらエリザベート=ナイトウォーカーが最適(さいてき)です。故に、メインユニットは彼女となります』

「まさか、自分に裏切(うらぎ)られるとは思っていませんでした」

否定します(ネガティブ)当機構(とうきこう)合理性(ごうりせい)優先(ゆうせん)します』

「そうでしたね。あなたが合理担当、わっちが感情担当でした」

否定します(ネガティブ)当機構(とうきこう)は人格を持ちません』

「これだから頭の固いAIの相手は疲れます」

否定します(ネガティブ)当機構(とうきこう)は人格を持ちません』

「はいはい。では、指令(しれい)遂行(すいこう)します」

『では、当機構(とうきこう)は再びスリープ状態(じょうたい)へと移行します――幸運を我が半身よ(グッドラックマイシスター)

「……そういうところが(にく)めないのですよ」


 活動(かつどう)機能(きのう)を回復した『闇の眷属(けんぞく)』こと小夜(さよ)は、周囲に放置(ほうち)されていた『漆黒(しっこく)(つばさ)』と『魔人(まじん)(かせ)』を回収(かいしゅう)する。

 その後、身体年齢を20代の女性へと引き上げる。

 そして、遮蔽(しゃへい)から飛び出すと、一目散に天乃(あまの)天空(てんくう)を追尾するアルファ隊に向かって突貫(とっかん)する。

 もちろん、間森(まもり)からの狙撃(そげき)はあったが、銀弾(ぎんだん)が効くのはあくまで英莉(えり)であって小夜(さよ)ではない。

 銀弾を含む数発の銃弾が命中するが、小夜(さよ)はこれを無視する。

 《王の法》による境界(きょうかい)()れた瞬間、(かみなり)が降り注ぐが、これも『再生』で回復(かいふく)できる。

『闇の眷属(けんぞく)』は夜が近ければ近いほど効能(こうのう)上昇(じょうしょう)する特殊な魔導書(まどうしょ)である。

 現在は午後4時ころなので、力が上昇(じょうしょう)する時間に差し掛かっている。

 それは単なる膂力(りょりょく)だけでなく、速度、再生力や身体変化など、『闇の眷属(けんぞく)』に付随(ふずい)する全ての能力が向上(こうじょう)するのである。

 ちなみに、これを見た間森は(すで)にスナイパーライフルを(ほう)り投げ、いくつかの装備(そうび)を拾い上げると。研究所の地下へと向かっていた。


『Kよりアルファ隊各位、緊急(きんきゅう)事態(じたい)だ。V2がそちらに向かった。

 当初の想定と違い銀弾が通じない。そちらで対処(たいしょ)されたし』

対処(たいしょ)されたしって、どうやって!?』

『それを考えるのも仕事の一つってことで、後よろしく』

『なッ!!』


 通信が一方的に途絶(とだ)えた瞬間、背面から疾走しっそうする赤い着物の少女が(せま)る。

 置き土産(みやげ)としておいてきた自動機関銃(セントリーガン)も落雷すらも意に介さず一直線に向かってくる小夜(さよ)に対し、アルファ隊はあまりに無力であった。

 銃弾による(めん)制圧(せいあつ)(こころ)みるも、銃弾を受けることを前提とした強行を敢行(かんこう)する小夜(さよ)にはまったく意味がない。

 こうして、アルファ隊は30分程度の時間を(かせ)ぎつつ、全員昏倒(こんとう)させられ、全滅(ぜんめつ)した。


敵対的(てきたいてき)武装(ぶそう)集団(しゅうだん)沈黙(ちんもく)、これより主殿(マスター)援護(えんご)に向かいます」


 そうして研究所に近づいた折、上空から窓がガラスの割れる音とともに大きな(おおかみ)が降りかかる。


「なんでしょう。本日は晴天ときどき雷ときどき狼なんでしょうか」


 落ちてきた狼が霧散(むさん)する光景を目撃した小夜(さよ)は再び轟音(ごうおん)を耳にする。

 どうやら上階(じょうかい)は戦場になっているようだ。

 計画の障害を排除するという基本原則(ドクトリン)に従い、小夜(さよ)は上空へと飛び上がる。


 2036年6月7日午後5時18分


 伏見(ふしみ)小夜(さよ)の戦況は一方的の様相(ようそう)(てい)していた。

 当初は戦力が拮抗(きっこう)し、双方痛み分けという状況であった。

 しかし、時間が経つにつれ、『闇の眷属(けんぞく)』の能力上昇を上回る速度で伏見(ふしみ)()()()()()()()()()()()()()のである。

 最初は些細(ささい)なダメージレースだった。

 両者の拳がぶつかり、両者の拳が(くだ)ける。

 これが徐々(じょじょ)小夜(さよ)の拳だけが砕けるようになり、ダメージは腕に広がり、今では拳を交えるだけで小夜(さよ)の腕が消滅(しょうめつ)するまでに(いた)っている。

 もちろん『再生』はする。

 しかし、一時的にでも片腕(かたうで)を失った小夜(さよ)全快ぜんかい伏見(ふしみ)では手数が違う。

 そのうち、()りにより(どう)が砕かれ、腕より『再生』の優先度(ゆうせんど)が高くなる。

 そうしているうちに頭が(くだ)かれ、また『再生』の優先度(ゆうせんど)を切り替える。

 そうなってくると最早(もはや)一方的だ。

 伏見(ふしみ)小夜(さよ)の全身を粉微塵(こなみじん)(くだ)きながら吹き飛ばし始める。

 『再生』した箇所(かしょ)から徹底的(てっていてき)に潰す。

 これをひたすら繰り返す。


「さァて、もう『再生』が追い付かなくなってきたなァ

 俺はまだまだやれるぜ。

 けどよぉ。魔導書(まどうしょ)の破壊なんて初めてだから加減(かげん)がわからねェんだ。

 ギブアップしないとこのまま消し飛ばすぞ」


 などといっているが、伏見(ふしみ)はギブアップすら認めていない。

 そもそも今の小夜(さよ)は大気をただよう粉のようなものであり、発声(はっせい)機構(きこう)などとうに失われている。

 にもかかわらず、伏見(ふしみ)は『再生』の痕跡(こんせき)丁寧(ていねい)に見つけては即座(そくざ)に破壊するという行為を繰り返しているのである。

 これを一方的と言わずしてなんというのか。

 終わりなきもぐら(たた)きのようなものである。

 5秒、10秒、30秒、1分と徐々に(ひと)(まと)まりの(にく)(かい)になるまでの再生力落ちている。

 もちろん、小夜(さよ)の当初の目的たる足止めは(かな)っている。

 そんなことは伏見(ふしみ)承知(しょうち)の上だ。

 だが、伏見(ふしみ)にとっては名乗りを上げた以上、これはどちらかが死んで(かま)わない戦いである。

 少なくとも、小夜(さよ)承諾(しょうだく)なく勝手に投げ出すわけにはいかない。

 彼女が見せた覚悟を(ないがし)ろにするわけにはいかないのである。

 その(こだわ)りが一方的で徹底的(てっていてき)凄惨(せいさん)現状(げんじょう)を生み出しているのである。


「く」

「あァ?」


 そのとき、伏見(ふしみ)は発声できないはずの小夜(さよ)の押し殺したような笑い声が聞こえた気がした。


「く、かか」


 いや、これ断じて小夜(さよ)ではない。

 笑い声はハウリングする。


「くかか「くかかかか「く、はははは「くっかっかっはははははは」」」」


 一瞬(いっしゅん)大気(たいき)収束(しゅうそく)し、金色が(はじ)ける。

 そこには金髪(きんぱつ)(きん)(がん)に赤い着物(きもの)(まと)った美女が立っていた。


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