復活の大怪異、其は人類種の大敵なれば
2036年6月7日午後5時20分
(――わっちは何をしておる)
『……精神体――修復、完了』
(――気を失っておったか)
『至急応答せよ――エリザベート・ナイトウォーカー』
(これは、『闇の眷属』の声じゃな)
『肯定します――現在、当機構の自立型搭載人格が敵性個体と交戦中』
(小夜がわっちの代わりに?)
『肯定します――戦況、敗色濃厚、原形の維持すらままならず』
(なッ!? 時間はもう夜じゃろ?)
『肯定します』
(わかった。早くわっちに代われ)
『否定します――当機構のリソースにその余裕はありません。貴殿の助力を願います』
(どうすりゃいいんじゃ)
『不明――不明、情報不足』
(うぬらしくもない。焦っておるのか?)
『肯定します。肯定します。肯定します。このままでは個体名:小夜が破壊されてしまいます』
(くっ、かか。よかろう。わっちも嘗ての大怪異の成れの果て。理解のできない恐怖こそがその本質よ。救ってやろうじゃないか。宿主もろとも)
『――お願いします、どうか私の姉妹を助けてください』
2036年6月7日午後5時23分
ここにきて、目の前で起こった奇怪な現象に伏見の動きは止まる。
「やってみるもんじゃのぉ」
金髪金眼の美女ことエリザベートは両手を握ったり開いたりしながら調子を確認している。
現在の身体年齢は二十代前半といったくらいである。
「ところで、参ったとすら云わせんのは、ちと流儀に悖るのではないか? “不滅の英雄”よ」
そういってエリザベートが伏見を睥睨する。
「誰だァ、神聖な一騎打ちに水を差しやがるのは」
「く、かか。一騎打ちと思っていたのはうぬだけよ。小夜は『闇の眷属』の総力をもって貴様を潰すと言わなんだか? わっちも『闇の眷属』の能力の一部じゃよ。で、あれば何の問題もないじゃろ」
「いや、そんなことは云ってなかったが。まァいいぜ。で? 実際どう逆転してくれんだァ」
伏見が不敵にもエリザベートを挑発するが、エリザベートは傲岸な態度を改めることはない。
「逆転? 異なことを、わっちが表に出てきた時点で既に逆転ならしとる。小夜を虐めてくれたツケは払ってもらうぞ? そうさな、改めて名乗ろうか。
夜を歩む者、吸血種の頂点、異界の大怪異――エリザベート・ナイトウォーカー、以後よろしくのぉ」
「――随分とまァ、大物の登場じゃねェか。人類種の敵、【討伐令】対象者が、どういう了見でまだ生きてやがる!」
「あっ、やっべ。今のなしじゃ。わっちは通りすがりのただのエリちゃん!! よろしゅうお願い申し上げるのじゃ」
「通るかッ! んなもん!」
伏見がエリザベートとの距離を一瞬で詰め、エリザベートに殴りかかる。
それをエリザベートは軽く片手で受け止める。
「んお!?」
「まず、認識を正そうか。小夜とわっちをごっちゃにされては適わん。この状態のわっちの体は特別製でな。ベースである『闇の眷属』を『漆黒の翼』でコーティングしておる。貴様に毀棄できない魔導書を破壊する術はあるのか? ないのであれば、そもわっちを傷つけること能わぬぞ?」
エリザベートはそのまま伏見の腕を高速で回転させ、伏見の腕を容易く捩じ切る。
「くッ、《正常稼働》」
伏見がそう呟くと、エリザベートの手元に残っていた伏見の腕が消え、伏見の腕が現れる。
「なるほどのぉ。貴様のそれは『再生』ではなく、欠損を元に戻す魔術なのか」
「だったら、どうなんだ。確かに、俺はお前を傷つけられねぇのかもしれねぇ。だが、それはお互い様って感じだが?」
「それはそれでよかろう。わっちの目的は時間稼ぎ。千日手はむしろ望むところじゃ」
「……確かに、お前の言う通り、立場が逆転しちまったようだな」
それはエリザベートが伏見に向けた言葉であった。
逆転ならとうに済んでいると。
「何か誤解しておるようじゃが」
そういうと、エリザベートは伏見に嗜虐的に笑いかける。
「わっちは千日手で終わらせるつもりなど毛頭ないぞ? 云ったろう? 小夜を虐めたツケを払わせるとな。少なくとも、同じ目には合ってもらうぞ。“不滅の英雄”よ」




