↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Replica ― Amphitheatrum Ideale ―  作者: 根岸重玄
登校騒乱編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/428

拠点構築型魔術の罠、分断された侵入者

 2036年6月7日 午後2時46分


 停留所に到着したエリザベートは、「合流までもうちょい時間があるな」と述べると、天乃(あまの)に再び『魔人(まじん)の枷』を使用するように指示することで、英莉(えり)としての姿へと戻る。

 英莉(えり)(いわ)く、午後4時以前に英莉(えり)全盛期(エリザベート)の姿を保ち続けると、英莉(えり)の身体を構成している『(やみ)の眷属』に不具合が生じるため、連続で稼働できる時間は意外と短いとのことである。

 よって、いざというときにガス欠を起こさないように、このように節約できるところでは積極的に英莉(えり)の姿へと戻る必要があるとのことだ。


「ところで、どうして目的地手前で合流することにしたんだ? こっちは空から仕掛けたらいいんじゃないのか?」

「正規の方法で入国せんと、《(おう)(ほう)》による自動迎撃が発生するんじゃよ。ちなみに、これは『法』による《罰則》ではなく、『国』という機能に付随する侵犯行為に対する無差別攻撃じゃ。ニンゲンでないわっち単体では、そもそも領空を囲む防空圏に立ち入ることすらできんが、ニンゲンである主殿(あるじどの)を抱えておれば、まあ、領空侵犯くらいはできるじゃろう。じゃが、その場合には問答無用で対空兵器に迎撃されるから、撃墜不可避じゃぞ」

「へえ、領空の概念があるんだな。ちなみに、対空兵器って?」

「ああ、それは――いや、待て。主殿(あるじどの)よ。気づいておるか? この場所――」

「え? ああ、これは……人払(ひとばら)いかな?」


 天乃(あまの)は、英莉(えり)の言葉に、“魔術師(まじゅつし)(ごろ)し”と呼ばれる魔眼(まがん)で辺りを見渡しながら人払(ひとばら)いの起点となる箇所(かしょ)を捜索する。

 しかし、結論から云うと、人払(ひとばら)いの術式(じゅつしき)の起点となっている場所は見当たらなかった。


「しかし、ここは浅木(あさき)じゃぞ。これだけ堂々と人払(ひとばら)いを掛ければ、ここに何かあると警備隊に喧伝しとるようなもんなのじゃが」

「いや、どうやら隠蔽もしてるみたいだな。ここは人のいない空白地帯だが、外から観察する限り、そうは見えないように偽装もされてるんだ。実際、オレも外からは気付かなかった。浅木(あさき)はそこらへんに魔術(まじゅつ)の痕跡があるからな。近づいて(じか)に見ないと、魔術(まじゅつ)の痕跡があるからといって、魔術(まじゅつ)が起動中かはわからない。んで、これは、周囲の土地そのものが人払(ひとばら)いの性質を備えているように見える。周囲を見たが、魔力反応が一番()いのは、この足元の地面全体だ。これじゃあ、外からは誰も気づけないと思うぞ」

「わっちらのように空から来ん限り、ここには辿り着けんということか?」

「そうだろうな。さっき防空圏の話が出たけど、実際に人払(ひとばら)いの効果があるのは、外周だけなんだろう。外周付近の地面に何かが接したら、何らかの方法でその内側には入って行けなくなるんだと思う」


 天乃(あまの)が現状と魔眼(まがん)を通じて見た景色から、起こるであろう現象を推察する。


「うむ。では、狗飼(いぬかい)の眷属を待つか。もうそろそろ着くはずじゃが」

「移動手段が徒歩(とほ)なら、人払(ひとばら)いに弾かれるような気もするけど」

主殿(あるじどの)よ。召喚体(しょうかんたい)はニンゲンではないんじゃから、()()()に弾かれる道理があるまい」

「ん……それもそうか。だけど、その理屈なら、車とかが入って来てないのはどう説明するんだ?」

「運転手はニンゲンじゃろうが」

「人は地面には接していないけど、車を介して接したという判定になってるのかな?」

「おそらく、そうなんじゃろ。何かに騎乗していればセーフでは、意味がないしの。とはいえ、大抵のニンゲンは浮いておらんから、地面を起点にして、空までは仕掛けなかったんじゃろ。実際、《(おう)(ほう)》がニンゲン以外の侵入を拒むという仕組みからすると、ニンゲンだけを弾く人払(ひとばら)いと組み合わせるというのは、この場所そのものの隠蔽という観点から見ると、非常に理に適っておる。うぅむ、どうなっとるんじゃ。やはり、わっちの知る過去の情報は当てにならんと考えた方がよいのかもしれんな。あの時に見た辰上(たつかみ)御子(みこ)には、このような合理的な思考ができるというイメージは一切持てなかったぞ」

「――お待たせ致しました」


 上空から天乃(あまの)達の近くに着地した天空(てんくう)は、目的地である研究所の建物を見据(みす)えながら、天乃(あまの)らに声を掛ける。


「うわ、びっくりした」

「ふむ、着いたか。では――――ッ!!」


 天空(てんくう)の突然の登場に天乃(あまの)(おどろ)いたが、英莉(えり)は事前に察知していたのか、何事もなかったかのように天空(てんくう)に向かって話しかける。

 しかし、そこまで口にしたとき、英莉(えり)はいつもどおりの無表情(むひょうじょう)のままであったが、不意(ふい)に、手の届く位置(いち)にいた天乃(あまの)を片手で容赦なく文字通(もじどお)りに投げ飛ばした。

 直後、天乃(あまの)頭部(とうぶ)が存在した場所に高速の金属塊(きんぞくかい)が飛来する。そして、その射線上の地面には、一つの小さな穴が穿(うが)たれる。

 一方で、投げ飛ばされた天乃(あまの)は、不意打(ふいう)ちに等しい衝撃を受けながらも、地面に着く際に咄嗟に受け身をとることに成功する。そして、地面に落ちた衝撃でくぐもった呻き声を漏らしつつも、体勢を整えようとする。


「そこから動くな、主殿(あるじどの)ッ! ()()じゃ!! 弾道からして、ほぼ12時――研究所の方角ッ!」


 英莉(えり)の言葉を受け、天乃(あまの)は地面に伏せたまま、すぐさま周囲に魔眼()を凝らす。

 ちょうど、前方に見えていた研究所からの射線上に建物が存在する配置まで投げ飛ばされていたらしいことに気付いた天乃(あまの)は、一先(ひとま)安堵(あんど)の息を吐く。


(周囲に魔術(まじゅつ)が起動した痕跡はない。つまり、()()()銃撃ってことかよ。実際、オレにはそれが一番脅威なんだけどな!!)


 これが魔術(まじゅつ)的な方法を利用した狙撃であれば、相手が使用する魔術(まじゅつ)の種類にもよるが、御堂(みどう)の《加速砲撃(かそくほうげき)》を回避できたように、天乃(あまの)にはその弾丸の軌道をある程度見切ることもできたかもしれない。

 しかし、天乃(あまの)は、魔術(まじゅつ)的手段を用いない銃撃に対しては、予測も回避もできないことから、あまりにも無力と言わざるを得ない。

 英莉(えり)も、まさかこのような手段を用いてくるとは完全に予想外であり、現状に歯噛みするしかない。

 そして、遮蔽物(しゃへいぶつ)に隠れることもなく、無防備に立ち尽くしているようにしか見えない英莉(えり)天空(てんくう)に対して追撃の銃弾が飛んで来ないことからしても、敵にこちらの情報が筒抜けである可能性が濃厚である。


英莉(えり)、これはもう直接狙撃手(そげきしゅ)を制圧するしかないぞ)


 英莉(えり)にまともな遠距離攻撃の手段がないことを知っている天乃(あまの)は、直接狙撃手(そげきしゅ)のもとに向かって狙撃手(そげきしゅ)自身を攻撃することを英莉(えり)に内心で提案する。

 それを受けた英莉(えり)は、「う、む。そうじゃな。」と白紙になっていた思考を再起動させ、正面を見据えたまま天空(てんくう)に声を掛ける。


「えぇい、狗飼(いぬかい)の眷属よ。主殿(あるじどの)の護衛は任せた! わっちが直接乗り込んで狙撃手(そげきしゅ)を潰す!!」

「いえ、一手遅かったようです。あちら側にいる天乃(あまの)様と分断されました」

「なっ、にぃ」


 天空(てんくう)が言うように、天乃(あまの)英莉(えり)たちの間には、いつの間にか“境界”が出現していた。

 とはいえ、その“境界”によって視界が(さえぎ)られているわけではない。

 おそらく、“境界”を隔てた向こう側と会話をすることも可能であろう。

 ただ、“境界”を越えることは容易ではない。

 “境界”は壁ではないから、物理的に破壊することもできない。

 そもそも、そこには見かけ上は何も存在しないのである。

 ただ、“境界”という名の形而上(けいじじょう)の線が存在するだけなのである。

 だが、それだけでそこを越えることは容易ではなくなくなる。

 “境界”とは、()()()()()()である。


「もしや、あの狙撃(そげき)主殿(あるじどの)遮蔽物(しゃへいぶつ)まで誘導するためのもので、(はな)から分断が目的じゃったのかッ!! しかし、舐められたものじゃな。この程度――」

(待て、それは()()だッ!!)

「――ッ!?」


 天乃(あまの)からの伝達(でんたつ)を受け、天乃(あまの)に駆け寄ろうとした英莉(えり)の足が止まる。


(多分、オレのいるところは、既に《(おう)(ほう)》の射程内だ。オマエの云っていた“正式な手順を踏んだ入国審査”とやらは受けてないが、多分、これは間違いない。おそらく、あの研究所とオレのいた場所までの区間が《(おう)(ほう)》によって、“併合”されたんだ!!)

「あの瞬間に国境線が変動したということか!? 確かに、()()()()()――というのは“常識”じゃが。くっ、つまり――」

(そうだ。これは類感魔術の仕組みと同じだ。おそらくだが、人払(ひとばら)いが掛けられている範囲が本来の国境線だったんじゃないかと思う。そこを敢えて、分割して切り離しておき、タイミングを見て“併合”し直したんじゃないだろうか? その国境(こっきょう)は、人間以外は越えられないんだろ? 確か)

「――罠、ということか。初めから、主殿(あるじどの)だけを《(おう)(ほう)》の中に招き入れるための」

英莉(えり)様。状況を伝え聞くに、天乃(あまの)様は既に敵の魔術(まじゅつ)の射程内に入ってしまわれているということですか?」


 一見、(ひと)(ごと)(つぶや)いているようにしか見えない英莉(えり)に対し、天乃(あまの)と会話中であるという状況を正しく理解している天空(てんくう)が声を掛ける。


「うむ」

「この天空(てんくう)たちは、天乃(あまの)様の付随品という(てい)をとることで、《(おう)(ほう)》の内側に侵入するというのが、当初のプランだったはずです」

「そうじゃの」

「いかがいたしますか? 国境付近で天乃(あまの)様と合流できれば、内側に引き込んでいただけるものなのでしょうか?」


 冷静に策を()天空(てんくう)に対し、英莉(えり)は一瞬考え、首を横に振る。


「いや、試してみる価値くらいはあるじゃろうが、あそこに狙撃手が居座っておっては、主殿(あるじどの)が国境付近まで近寄れまいよ。それに――」

「やはり、考える時間は与えてくれませんよね」


 天空(てんくう)がそう呟いた瞬間、英莉(えり)達の視界に武装した歩兵(ほへい)の集団が映りこむ。

 その数は、およそ十人。

 全員がガスマスクのような覆面で顔を覆っており、手にはアサルトライフルを携帯している。その内、前衛とおぼしき四人が油断なくアサルトライフルの照準を英莉(えり)達に合わせながら、駆け足程度の早さで徐々に距離を詰めて来ている。


「むぅ、事ここに至っては、仕方あるまい。おい、時間がないので、説明はせんが、うぬには早速、先刻の絶対服従の誓いを果たしてもらうぞ」

「この天空(てんくう)(げん)とは内容が微妙に(こと)なりますが」


 天空(てんくう)は一応反論するものの、時間がないのは英莉(えり)の云うとおりであるので、即座に用命を聞く体勢へと移行する。


「わっちからの命は一つだけじゃ。主殿(あるじどの)を護衛せよ」

「それは……(うけたまわ)りましたが。現状、天乃(あまの)様のもとに辿り着けないから、それが難しいという話では?」


 英莉(えり)の言葉に、天空(てんくう)は当然の疑問(ぎもん)を投げかけるが、英莉(えり)の不敵な表情は崩れない。

 英莉(えり)は、「うむうむわかるわかる」と(ざつ)に頷くと、ちょいちょいと天空(てんくう)を片手で招き、もう片方の手を自分の口元(くちもと)に近づけ、耳打ちをするような仕草をする。

 目の前に敵が迫っている状況(じょうきょう)悠長(ゆうちょう)な、と天空(てんくう)は内心思ったが、ここで抵抗して時間を浪費するのは()けるべきだと判断し、即座に膝を折り、目線を英莉(えり)に合わせると、顔を背け、耳打ちを聞きとる体勢をとる。

 英莉(えり)は、耳打ちをするために口元にまで上げていた手を、そのまま天空(てんくう)の顔の側面につけると、天空(てんくう)を招いていたもう片方の手で天空(てんくう)の顎に触れる。

 天空(てんくう)は、英莉(えり)の手が顎に()れたことに疑問を感じたが、続く英莉(えり)の言葉にすべての意識(いしき)を持っていかれたため、この疑問は即座に霧散することとなった。


「では、()()ね」


 英莉(えり)のそのような言葉と共に、天空(てんくう)の顔面は首から嫌な音を立てて180度以上回転し、頭部があらぬ方向にねじ曲がる。

 天空(てんくう)の意識はそこで途切れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。