表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Replica  作者: 根岸重玄
登校騒乱編
51/286

分断

2036年6月7日午後2時46分


 停留所(ていりゅうじょ)到着(とうちゃく)したエリザベートは,「合流(ごうりゅう)までもうちょい時間があるな」と()べると,天乃(あまの)に再び『魔人(まじん)(かせ)』を使用するように指示することで,英莉(えり)としての姿(すがた)へと(もど)る。

 英莉(えり)(いわ)く,午後4時以前に英莉(えり)全盛期(エリザベート)の姿を(たも)ち続けると,英莉(えり)の身体を構成(こうせい)している『(やみ)眷属(けんぞく)』に不具合(ふぐあい)が生じるため,連続(れんぞく)稼働(かどう)できる時間は意外(いがい)(みじか)いとのことである。

 よって,いざというときにガス(けつ)を起こさないように,このように節約(せつやく)できるところでは積極的(せっきょくてき)英莉(えり)姿(すがた)(もど)る必要があるとのことだ。


「ところで,どうして目的地(もくてきち)手前(てまえ)合流(ごうりゅう)することにしたんだ?

 こっちは空から仕掛(しか)けたらいいんじゃないのか?」

正規(せいき)の方法で入国せんと,《(おう)(ほう)》による《自動(じどう)迎撃(げいげき)》が発生するんじゃよ。ちなみに,これは『法』による《罰則(ばっそく)》ではなく,『国』という機能(きのう)付随(ふずい)する侵犯(しんぱん)行為(こうい)に対する無差別(むさべつ)攻撃(こうげき)じゃ。

 ニンゲンでないわっち単体では,そもそも領空(りょうくう)(かこ)防空圏(ぼうくうけん)に立ち入ることすらできんが,ニンゲンである主殿(あるじどの)(かか)えておれば,まあ,領空(りょうくう)侵犯(しんぱん)くらいはできるじゃろう。

 じゃが,その場合には問答(もんどう)無用(むよう)対空(たいくう)兵器(へいき)に《迎撃(げいげき)》されるから,撃墜(げきつい)不可避(ふかひ)じゃぞ」

「へえ,領空(りょうくう)概念(がいねん)があるんだな。ちなみに,対空(たいくう)兵器(へいき)って?」

「ああ,それは――いや,待て。

 主殿(あるじどの)よ。気づいておるか? この場所――」

「え? ああ,これは……人払(ひとばら)いかな?」


 天乃(あまの)は,英莉(えり)の言葉に,“魔術師(まじゅつし)(ごろ)し”と呼ばれる魔眼(まがん)(あた)りを見渡(みわた)しながら人払(ひとばら)いの起点となる箇所(かしょ)捜索(そうさく)する。

 しかし,結論(けつろん)から言うと,人払(ひとばら)いの術式(じゅつしき)起点(きてん)となっている場所は見当たらなかった。


「しかし,ここは浅木(あさき)じゃぞ。これだけ堂々と人払(ひとばら)いを掛ければ,ここに何かあると警備隊(けいびたい)喧伝(けんでん)しとるようなもんなのじゃが」

「いや,どうやら隠蔽(いんぺい)もしてるみたいだな。ここは人のいない空白地帯(くうはくちたい)だが,外から観察(かんさつ)する限り,そうは見えないように偽装(ぎそう)もされてるんだ。

 実際,オレも外からは気付かなかった。浅木(あさき)はそこらへんに魔術(まじゅつ)痕跡(こんせき)があるからな。近づいて(じか)に見ないと,魔術(まじゅつ)痕跡(こんせき)があるからといって,魔術(まじゅつ)起動中(きどうちゅう)かはわからない。

 んで,これは,周囲(しゅうい)土地(とち)そのものが人払(ひとばら)いの性質(せいしつ)(そな)えているように見える。周囲(しゅうい)を見たが,魔力反応(まりょくはんのう)が一番()いのは,この足元(あしもと)の地面全体だ。

 これじゃあ,外からは(だれ)も気づけないと思うぞ」

「わっちらのように空から来ん限り,ここには辿(たど)り着けんということか?」

「そうだろうな。さっき防空圏(ぼうくうけん)の話が出たけど,実際に人払(ひとばら)いの効果があるのは,外周(がいしゅう)だけなんだろうぜ。

 外周付近(がいしゅうふきん)の地面に何かが(せっ)したら,何らかの方法でその内側(うちがわ)には入って行けなくなるんだと思う」


 天乃(あまの)が現状と魔眼(まがん)を通じて見た景色(けしき)から,起こるであろう現象(げんしょう)推察(すいさつ)する。


「うむ。では,狗飼(いぬかい)眷属(けんぞく)を待つか。もうそろそろ着くはずじゃが」

移動手段(いどうしゅだん)徒歩(とほ)なら,人払(ひとばら)いに(はじ)かれるような気もするけど」

主殿(あるじどの)よ。召喚体(しょうかんたい)はニンゲンではないんじゃから,人払い(・・・)(はじ)かれる道理(どうり)があるまい」

「ん……それもそうか。だけど,その理屈(りくつ)なら,車とかが入って来てないのはどう説明するんだ?」

運転手(うんてんしゅ)はニンゲンじゃろうが」

「人は地面(じめん)には接していないけど,車を介して接したという判定(はんてい)になってるのかな?」

「おそらく,そうなんじゃろ。何かに騎乗(きじょう)していればセーフでは,意味がないしの。

 とはいえ,大抵(たいてい)のニンゲンは浮いておらんから,地面(じめん)起点(きてん)にして,空までは仕掛(しか)けなかったんじゃろ。

 実際,《(おう)(ほう)》がニンゲン以外の侵入(しんにゅう)(こば)むという仕組(しく)みからすると,ニンゲンだけを(はじ)人払(ひとばら)いと組み合わせるというのは,この場所そのものの隠蔽(いんぺい)という観点(かんてん)から見ると,非常に()(かな)っておる。

 うぅむ,どうなっとるんじゃ。やはり,わっちの知る過去の情報(じょうほう)は当てにならんと考えた方がよいのかもしれんな。あの時に見た辰上(たつかみ)御子(みこ)には,このような合理的な思考(しこう)ができるというイメージは一切持てなかったぞ」

「――お待たせ(いた)しました」


 上空から天乃(あまの)達の近くに着地した天空(てんくう)は,目的地である研究所(けんきゅうじょ)建物(たてもの)見据(みす)えながら,天乃(あまの)らに声を掛ける。


「うわ,びっくりした」

「ふむ,着いたか。では――

 ――ッ!!」


 天空(てんくう)の突然の登場に天乃(あまの)(おどろ)いたが,英莉(えり)は事前に察知していたのか,何事もなかったかのように天空(てんくう)に向かって話しかける。

 しかし,そこまで口にしたとき,英莉(えり)はいつもどおりの無表情(むひょうじょう)のままであったが,不意(ふい)に,手の届く位置(いち)にいた天乃(あまの)を片手で容赦(ようしゃ)なく文字通(もじどお)りに投げ飛ばした。

 直後,天乃(あまの)頭部(とうぶ)が存在した場所に高速の金属(きんぞく)(かい)飛来(ひらい)する。そして,その射線(しゃせん)上の地面には,1つの小さな(あな)穿(うが)たれる。

 一方で,投げ飛ばされた天乃(あまの)は,不意打(ふいう)ちに(ひと)しい衝撃(しょうげき)を受けながらも,地面に着く際に咄嗟(とっさ)に受け身をとることに成功する。そして,地面に落ちた衝撃(しょうげき)でくぐもった(うめ)き声を()らしつつも,体勢(たいせい)(ととの)えようとする。


「そこから動くな,主殿(あるじどの)ッ! 銃撃(・・)じゃ!!

 弾道(だんどう)からして,ほぼ12時――研究所(けんきゅうじょ)方角(ほうがく)ッ!」


 英莉(えり)の言葉を受け,天乃(あまの)は地面に()せたまま,すぐさま周囲に魔眼()()らす。

 ちょうど,前方に見えていた研究所(けんきゅうじょ)からの射線上(しゃせんじょう)建物(たてもの)存在(そんざい)する配置(はいち)まで投げ飛ばされていたらしいことに気付いた天乃(あまの)は,一先(ひとま)安堵(あんど)(いき)()く。


(周囲に魔術(まじゅつ)起動(きどう)した痕跡(こんせき)はない。つまり,()()()銃撃(じゅうげき)ってことかよ。

 実際,オレにはそれが一番脅威(きょうい)なんだけどな!!)


 これが魔術(まじゅつ)的な方法を利用した狙撃(そげき)であれば,相手が使用する魔術(まじゅつ)種類(しゅるい)にもよるが,御堂(みどう)の《加速砲撃(かそくほうげき)》を回避(かいひ)できたように,天乃(あまの)にはその弾丸(だんがん)軌道(きどう)をある程度見切ることもできたかもしれない。

 しかし,天乃(あまの)は,魔術(まじゅつ)的手段を(もち)いない銃撃(じゅうげき)に対しては,予測(よそく)回避(かいひ)もできないことから,あまりにも無力と言わざるを得ない。

 英莉(えり)も,まさかこのような手段(しゅだん)(もち)いてくるとは完全に予想外(よそうがい)であり,現状に歯噛(はが)みするしかない。

 そして,遮蔽物(しゃへいぶつ)(かく)れることもなく,無防備(むぼうび)に立ち()くしているようにしか見えない英莉(えり)天空(てんくう)に対して追撃(ついげき)銃弾(じゅうだん)が飛んで来ないことからしても,敵にこちらの情報(じょうほう)筒抜(つつぬ)けである可能性が濃厚(のうこう)である。


英莉(えり),これはもう直接狙撃手(そげきしゅ)制圧(せいあつ)するしかないぞ)


 英莉(えり)にまともな遠距離(えんきょり)攻撃(こうげき)の手段がないことを知っている天乃(あまの)は,直接狙撃手(そげきしゅ)のもとに向かって狙撃手(そげきしゅ)自身を攻撃(こうげき)することを英莉(えり)に内心で提案する。

 それを受けた英莉(えり)は,「う,む。そうじゃな。」と白紙(はくし)になっていた思考(しこう)再起動(さいきどう)させ,正面を見据(みす)えたまま天空(てんくう)に声を掛ける。


「えぇい,狗飼(いぬかい)眷属(けんぞく)よ。主殿(あるじどの)護衛(ごえい)(まか)せた! わっちが直接乗り込んで狙撃手(そげきしゅ)(つぶ)す!!」

「いえ,一手遅かったようです。あちら側にいる天乃(あまの)様と分断(ぶんだん)されました」

「なっ,にぃ」


 天空(てんくう)が言うように,天乃(あまの)英莉(えり)たちの間には,いつの間にか“境界(きょうかい)”が出現していた。

 とはいえ,その“境界(きょうかい)”によって視界が(さえぎ)られているわけではない。

 おそらく,“境界(きょうかい)”を(へだ)てた向こう側と会話をすることも可能であろう。

 ただ,“境界(きょうかい)”を()えることは容易(ようい)ではない。

 “境界(きょうかい)”は(かべ)ではないから,物理的(ぶつりてき)破壊(はかい)することもできない。

 そもそも,そこには見かけ上は何も存在(そんざい)しないのである。

 ただ,“境界(きょうかい)”という名の形而上(けいじじょう)の線が存在するだけなのである。

 だが,それだけでそこを()えることは容易(ようい)ではなくなくなる。

 “境界(きょうかい)”とは,()()()()()()である。


「もしや,あの狙撃(そげき)主殿(あるじどの)遮蔽物(しゃへいぶつ)まで誘導(ゆうどう)するためのもので,(はな)から分断(ぶんだん)が目的じゃったのかッ!!

 しかし,()められたものじゃな。この程度――」

(待て,それは国境(・・)だッ!!)

「――ッ!?」


 天乃(あまの)からの伝達(でんたつ)を受け,天乃(あまの)()()ろうとした英莉(えり)の足が止まる。


(多分,オレのいるところは,既に《(おう)(ほう)》の射程内(しゃていない)だ。

 オマエの言っていた“正式な手順(てじゅん)()んだ入国審査”とやらは受けてないが,多分,これは間違いない。

 おそらく,あの研究所(けんきゅうじょ)とオレのいた場所までの区間が《(おう)(ほう)》によって,“併合(へいごう)”されたんだ!!)

「あの瞬間(しゅんかん)国境線(こっきょうせん)変動(へんどう)したということか!? 確かに,()()()()()――というのは“常識(じょうしき)”じゃが。

 くっ,つまり――」

(そうだ。これは類感魔術(るいかんまじゅつ)仕組(しく)みと同じだ。

 おそらくだが,人払(ひとばら)いが掛けられている範囲(はんい)が本来の国境線(こっきょうせん)だったんじゃないかと思う。そこを()えて,分割(ぶんかつ)して切り(はな)しておき,タイミングを見て“併合(へいごう)”し直したんじゃないだろうか?

 その国境(こっきょう)は,人間以外は()えられないんだろ? 確か。)

「――(わな),ということか。初めから,主殿(あるじどの)だけを《(おう)(ほう)》の中に(まね)き入れるための」

英莉(えり)様。状況(じょうきょう)を伝え聞くに,天乃(あまの)様は(すで)に敵の魔術(まじゅつ)射程内(しゃていない)に入ってしまわれているということですか?」


 一見,(ひと)(ごと)(つぶや)いているようにしか見えない英莉(えり)に対し,天乃(あまの)と会話中であるという状況(じょうきょう)を正しく理解している天空(てんくう)が声を掛ける。


「うむ」

「この天空(てんくう)たちは,天乃(あまの)様の付随品(ふずいひん)という(てい)をとることで,《(おう)(ほう)》の内側に侵入(しんにゅう)するというのが,当初のプランだったはずです」

「そうじゃの」

「いかがいたしますか?

 国境付近(こっきょうふきん)天乃(あまの)様と合流(ごうりゅう)できれば,内側に引き込んでいただけるものなのでしょうか?」


 冷静(れいせい)(さく)()天空(てんくう)に対し,英莉(えり)は一瞬考え,首を横に()る。


「いや,(ため)してみる価値(かち)くらいはあるじゃろうが,あそこに狙撃手(そげきしゅ)居座(いすわ)っておっては,主殿(あるじどの)国境付近(こっきょうふきん)まで近寄(ちかよ)れまいよ。

 それに――」

「やはり,考える時間は(あた)えてくれませんよね」


 天空(てんくう)がそう(つぶや)いた瞬間,英莉(えり)達の視界に武装(ぶそう)した歩兵(ほへい)の集団が(うつ)りこむ。

 その数は,およそ10人。

 全員がガスマスクのような覆面(ふくめん)で顔を(おお)っており,手にはアサルトライフルを携帯(けいたい)している。その内,前衛(ぜんえい)とおぼしき4人が油断(ゆだん)なくアサルトライフルの照準(しょうじゅん)英莉(えり)達に合わせながら,()け足程度の早さで徐々に距離(きょり)()めて来ている。


「むぅ,事ここに(いた)っては,仕方(しかた)あるまい。

 おい,時間がないので,説明はせんが,うぬには早速(さっそく)先刻(せんこく)絶対服従(ぜったいふくじゅう)(ちか)いを果たしてもらうぞ」

「この天空(てんくう)(げん)とは内容が微妙(びみょう)(こと)なりますが」


 天空(てんくう)は一応反論(はんろん)するものの,時間がないのは英莉(えり)の言うとおりであるので,即座(そくざ)用命(ようめい)を聞く体勢(たいせい)へと移行(いこう)する。


「わっちからの(めい)は1つだけじゃ。主殿(あるじどの)護衛(ごえい)せよ」

「それは……(うけたまわ)りましたが。現状(げんじょう)天乃(あまの)様のもとに辿(たど)り着けないから,それが難しいという話では?」


 英莉(えり)の言葉に,天空(てんくう)は当然の疑問(ぎもん)を投げかけるが,英莉(えり)不敵(ふてき)表情(ひょうじょう)(くず)れない。

 英莉(えり)は,「うむうむわかるわかる」と(ざつ)(うなず)くと,ちょいちょいと天空(てんくう)を片手で(まね)き,もう片方の手を自分の口元(くちもと)に近づけ,耳打ちをするような仕草(しぐさ)をする。

 目の前に敵が(せま)っている状況(じょうきょう)悠長(ゆうちょう)な,と天空(てんくう)は内心思ったが,ここで抵抗(ていこう)して時間を浪費(ろうひ)するのは()けるべきだと判断し,即座に(ひざ)を折り,目線を英莉(えり)に合わせると,顔を(そむ)け,耳打ちを聞きとる体勢(たいせい)をとる。

 英莉(えり)は,耳打ちをするために口元にまで上げていた手を,そのまま天空(てんくう)の顔の側面(そくめん)につけると,天空(てんくう)(まね)いていたもう片方の手で天空(てんくう)(あご)()れる。

 天空(てんくう)は,英莉(えり)の手が(あご)()れたことに疑問を感じたが,続く英莉(えり)の言葉にすべての意識(いしき)を持っていかれたため,この疑問は即座(そくざ)霧散(むさん)することとなった。


「では,()()ね」


 英莉(えり)のそのような言葉と共に,天空(てんくう)の顔面は首から(いや)な音を立てて180度以上回転し,頭部があらぬ方向にねじ曲がる。

 天空(てんくう)意識(いしき)はそこで途切(とぎ)れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ