人類の敵となった【超越者】に対する【討伐令】
2036年6月7日午後12時37分
「「辰上の御子?」」
天乃と遊上が同時に疑問の声を挙げる。
それに対し、英莉が、一瞬、時間を確認する素振りをし、口を開く。
「うむ。時間は少しばかりならあるし、状況の把握は重要じゃ。
辰上について手短に説明しておくか」
「では、この天空は、その時間を利用して校内でお嬢様の行方の手がかりを捜索してきます」
「そうじゃの。説明役は二人も不要か。よい、許すぞ。うぬは、うぬの使命を果すがよい。ただ、わっちから言えるのは、これは、そこまで心配するような事態ではないということじゃ。大船に乗った気でおれ」
「――とりあえず、四限が終わったら、ここに戻ってきます。それでは」
そういって、一瞬、何か言いたげな表情をした天空は、結局何も言うことなく、その場から離脱する。
その場から天空の姿が消えたのを確認し、英莉は口を開く。
「では、説明をするか。まず、辰上とは、あの召喚体の主――狗飼などと同じ原型術師の家系じゃ。特化しとる系統は支配特性じゃの」
「待って。日本の原型術師の家系って、右鏡、御堂、狗飼の御三家に、四星、新保、円瑞、邑雀を加えた全部で七つよね? 辰上なんて聞いたことないわ」
「それは正確ではない。それらに、中藤、辰上、芭蕉、比津島、絃留を加えた全部で十二が正しい。
これらは、後継者不在で歴史から消滅した家系じゃがの」
疑問の声を上げる遊上に対し、英莉が説明を補足する。
「原型術師の血は濃く、血縁者であればそれだけで原型術師としての性質を帯びると言われておるが、世代を経るごとに徐々に希釈され、能力が落ちていっとるそうじゃ。
ひと昔前は、それを避けるために、本家の後継者が分家から配偶者を募って、近親婚を繰り返すことで血の濃さを保っていた時代もあったそうじゃが、現代に近づくほどにその風習は廃れた。実際、現在も残っとる原型術師は、いわゆる御三家の面子を除けば、ほとんどが全盛期の半分未満の能力しかないほどじゃという話じゃ。
じゃがな、稀におるんじゃよ。
――ここでは、その現象を『先祖返り』と呼ぶが、原型術師の尖った『起源』に必要以上に近づき、魅かれてしまう者がのぉ」
原型術師は、特定の特性に特化した性能を持っているが、その他の特性には一切適性がない。
その理由は、原型術師の『魂に刻まれた原初の方向性』『抗うことのできぬ根源的な衝動』『渇望の出ずる場所』――ともいわれる『起源』がその特化している特性の方向性一色であるからだと推測されている。それは、全方位への可能性を捨て、一点の極致へと至るための代償でもあった。
「先程述べた辰上の御子も、この『先祖返り』を起こしておる。ある者の見立てでは、歴代後継者の中で、最も辰上の一族が持つ『支配』という『起源』に近づいた者の一人なんじゃそうじゃ。
そのせいでともいうべきか、彼奴は、自らの『起源』に完全に呑まれておる。彼奴は、元は大した力も持たない普通の魔術師じゃったはずなのじゃが、ある時期を境に急速に『起源』に近づいていった。これにより彼奴の中には新たな人格が生じ、その新しい人格が身体を『支配』するに至った。
この時点――つまり約三年前じゃが、彼奴は魔術協会から【超越者】の認定を受け、正式に【討伐令】が懸けられたのじゃ」
「【討伐令】って……マジ?」
「マジじゃ」
血の気の引いた顔色で質問する遊上の言葉に、英莉はどこか他人事のように軽い調子で返す。
「なんか新しい単語がいっぱい出てきたな。
――魔術協会、【超越者】、【討伐令】ってのは全部初耳だ」
「簡単に言うと、国際的な魔術師の互助機関が、辰上ってのが超やべえ奴だからみんなで協力してブッ殺しましょうって宣言したってことよ」
天乃の疑問に対し、今度は遊上が答える。
「ブッ、殺……って」
「いや、茶化しちゃったけど、これって結構マジなのよ。過去に【討伐令】が出たケースはさすがに少ないけど、これは魔術世界における『人類の敵』認定なの。発令されたら最後、【討伐令】対象者が死ぬか、人類が絶滅するかっていう瀬戸際になってる状況だそうよ? 有名なのは、『複製事件』の首謀者かしらね。
ただ、なるほどね。それが本当なら、あらゆる魔術を再現できるってのも、強ち誇大広告じゃなかったってことかなぁ。
でも、変だね。さすがに三年前なら、私も覚えてそうなものだけど、【討伐令】が出たなんて聞いたことがないわ。それに、【討伐令】が出てるのに、今まで放置されてたの?」
「うむ。それは、【討伐令】が懸けられ、それが公表される前に彼奴の無力化に成功したからじゃ。無論、無力化したとはいえ、まだ生きておったから、【討伐令】自体は発令されたままじゃが、差し当たっての危難はないとのことで、関係者に箝口令が敷かれ、公表は見送られた」
「ん? だったら、英莉ちーは何で知ってるの?」
そのとき、四限目の終業のチャイムが鳴る。その乾いた音が静寂を破り、現実の時間を引き戻した。
英莉は、遊上の質問には答えず、背後を気にするような素振りをして、向きを変える。
「ふむ。時間じゃな。どうじゃった?」
「そうですね。校内を隈なく捜索しましたが、手がかりはありませんでした」
英莉が向いた方向に天空が突如として現れる。その表情は、焦りと無力感に沈んでいた。
「これで四限が終わりました。帰宅前のホームルームにお嬢様がいないとなると、お嬢様の失踪が発覚します」
「やはり、それは避けられんか」
「えーーっと、ちょっといい?」
英莉達が現状確認をしていたところ、遊上が英莉に声をかける。
「なんとなくの流れで今回の件に一切無関係なはずの私はここまで関わっちゃったわけなんだけど。これって警備隊とか狗飼さんの実家とかを頼っちゃいけない縛りでもあるわけ? ないんなら丸投げすべきなんじゃない?」
警備隊は、そもそも魔術犯罪に対抗するための組織であるし、狗飼家のような原型術師は、その魔術師としての完成度・稀少性・唯一性・連続性などから、魔術が世界に発覚する前から魔術師たちのまとめ役を担っていた。
現在もその名残で、国から魔術犯罪の捜査・捕縛・処断について、一定の特権が付与されている。
これらの事情を加味すると、遊上の意見は、これ以上ない正論であり、正攻法であった。
「なるほど、小娘よ。なかなかによい着眼点じゃ」
「英莉ちーはいつになったら私のこと名前で呼んでくれるの?」
「……松田さん?」
「遊上真理ですぅ!! 誰よそれ!?」
「ええい、細かい奴じゃな。そのような些事でわっちの記憶領域を圧迫させようとするでないわ。さて、話を戻すが」
「戻されたッ!!」
「むろん、わっちも最終的にはそうすべきじゃと思うとる。じゃが、今打てる手は今打っておくに限る。特に、今回の相手は、数が頼りの警備隊相手には滅法強いし、なんだかんだで狗飼では相性が良すぎるからこそ、総合的に見て最悪というのが、わっちの見立てじゃ。
故に、それらの正攻法では後手に回り過ぎる。本命までの時間稼ぎがせいぜいじゃろう」
そう述べる英莉を遊上は難しい表情で見返す。
「えぇぇ。でも、うーん。
確かに、【討伐令】の出た【超越者】の相手ってことになると、協会から派遣された専門のチームでないと対処は難しいかぁ」
「辰上家の者は、……【討伐令】対象者なのですか?」
そういって話に入ってきたのは、天空である。その声には隠しきれない緊張が混じっていた。
「さよう。今回の相手は、既に『人類種の敵』となった者じゃよ」
英莉が淡々と事実を述べると、天空の表情が少し曇る。
空気を読んだわけではないが、遊上は即座に英莉に対して疑問を口にする。
「で、でもさぁ、私たちだって別に【超越者】専門の対策チームってわけじゃないんだからさあ。なにもできなくない?」
「ふむ。実はそうでもないというのが、わっちの見立てじゃ。じゃが、この話をする前にもう少し説明が必要となる」
「――英莉様。少しよろしいでしょうか? 相手が【討伐令】対象者というのであれば、この天空はすぐにでも動くべきだと思うのですが」
「落ち着けい。さっきも言ったが、まだ慌てるような段階ではない。うぬの主は、確実に無事じゃ。むしろ、厚遇を受けておる可能性すらあるな」
「厚遇?」
英莉の予想外の言葉に、天空が首を傾げる。
「まず、現状の確認をするぞ。一応、ここ浅木にも高ランク魔術犯罪者への対抗措置はある。
戦略級程度なら何とかしてみせるんじゃろうが、如何せん、かの【超越者】相手にどれだけできるかは、やってみんとわからん」
「うーん。本来ならそれも過剰戦力なんだろうけどねえ。世界に二十人もいないようなレベル6に対する備えなんていらないでしょ、常識的に考えて」
「それを遊上様が仰るのですか」
「ちょっと白々しいのぉ」
「おっほん」
「?」
遊上の言葉に対する英莉と天空の反応の意味が分からず、今度は天乃が首を傾げる。
「とにかく! それだけの戦力でも足りないかもしれないっていうのよね? その辰上の御子とやらを相手取るには?」
「うむ。諄いようじゃが、浅木の保有する戦力も、また、彼奴に対して相性が悪い。ちゅうか、そもそも彼奴に対して相性が良いといえる者は、極僅かしかいないんじゃがな」
「ますます私たちが何かできるようには思えないんですけどぉ」
遊上が悲痛な声を上げるが、英莉は気にしない。
それどころか、英莉は遊上の言葉に首を横に振る。
「何をいうか。奇しくも、ここにおるわっちらこそ、彼奴に対抗しうる唯一にして最大の戦力となってしまっておるのじゃよ。わっちらは、それぞれの理由で、彼奴に対して相性が悪くないのじゃ」
「え゛、私も? 戦力に入ってる?」
「無論、無論」
顔を青くして嫌がる遊上に、英莉は無表情ながらも、明らかに愉悦交じりの喜色を含んだ声で遊上に告げる。
「まず、最初に述べておく。彼奴の固有魔導は、対ニンゲン特効術式なのじゃ。ニンゲンのみを対象とする代わりに、ニンゲンに対して絶大な効果がある術式となっておる。故に、通常戦力は、これでほぼ無力化される。数があろうと質がよかろうと、それがニンゲンであるというだけで、彼奴に対峙すると、不利が付いてしまうというわけじゃな」
「じゃあ、ムリじゃん!!」
「うっさいわ。よく考えてみぃ、ここにはニンゲンは二人しかおらんじゃろ?」
「確かに、この天空も英莉様も人間ではありません」
「だ、だったら、私と慎ちゃん要らなくない!? 二人で何とかしてよ!」
ほとんど悲鳴のような声で遊上は懇願するが、英莉は一顧だにしようとしない。
それどころか、追い打ちをかけるように遊上にとって絶望的な話を続ける。
「そうしたいのは山々なのじゃが、わっちらだけでは彼奴の膝元までは辿り着けんのじゃ。わっちらは、ニンゲンではない故にな」
「なによそれ!? 人間以外しか対抗できないのに、人間以外は接触できないってこと!?」
「ニンゲン以外しか対抗できないというのは大げさじゃが、本気を出した彼奴に人外のわっちらでは接触すら叶わないというのが現実じゃ。わっちらが彼奴に近づくためには、ニンゲンの協力が不可欠なのじゃよ」
「つまり、人間ではない英莉が辰上とやらに近づくことはできないけど、人間であるオレの持ち物としての英莉ならば、オレと一緒に辰上に近づくことができるって話か?」
「そのとおり。相変わらず無駄に察しがよいのは、主殿の長所じゃな」
英莉は、天乃の言葉に、表情を変えることなく満足げに頷く。
「つまり、私には天空ちゃんを運べって話なの?」
「まあ、そうなるの。じゃが、嫌というなら辞退してもらって構わんぞ。主殿がおれば事足りる話じゃし。別に、一人が複数の人外の眷属を所有しておっても不思議ではあるまい?」
「うん、そうね。さすがに【討伐令】の出た【超越者】の相手なんてしたくないし。目の前にすら出たくないし。いつも通り、私は後方待機ってことにしてほしいなあ、なんて思うんだけどぉ。……ちなみに、私と慎ちゃんが相性が悪くないっていう理由は?」
「うむ。単純に、戦力にならないのがよい」
「はい?」
英莉の言葉に、遊上は目を丸くする。そのあまりに身も蓋もない理由に、思考が停止した。
「彼奴の特性を思い出せ? 支配とニンゲン特効――これだけの情報でも、彼奴の術式の正体にある程度当たりがつけられるのではないか?」
「あとは、他人の魔術が使えるんだっけ?」
「それは副次的な効果じゃとも言ったはずじゃが?」
「えーーっと、人を支配する術式?」
「三十点じゃな」
「英莉ちー、辛くない?」
「間違ってはおらぬが、何の情報も増えとらんじゃないか。まあ、よいわ。彼奴の術式は――」
「――絶対王政の国、とか」
「え?」「国?」「――正解じゃ」
天乃のつぶやきに、遊上が疑問符を浮かべ、天空が反駁を唱えるのと同時に、英莉は驚嘆する。
「いやはや。わっちは主殿の考えがある程度読めるが、主殿もわっちの考えることがわかるようにでもなったのか? それとも、記憶が戻ったりでもしたか?」
英莉は持ち前の無表情を活かしながら、何でもないようなことのように振る舞うが、その内心は驚嘆に満ちており、声も若干上ずってしまっていた。
「当てずっぽうだよ、こんなの。たまたま、思い浮かんだことを口にしただけだ。オレの『人を支配する者』のイメージが王だったっていうのと、特定の対象の領域への侵入を防ぐっていうのが、入国拒否みたいだなと思っただけで、深い意味はなかったんだけど」
「ふむ。なんか、全然納得いかんし、若干の疲労感すら覚えるが。まあよいじゃろ。彼奴の固有魔導の名称は、《王の法》という。
これは文字通り、彼奴が《法》を定め、彼奴を王とした国を築く魔術じゃ。彼奴が国と定めた範囲におるニンゲンは全員、彼奴の定めた《法》によって、行動を制限される。そして、彼奴の《法》に反した者には《罰》が下る。
――そういう術式じゃ」
「なによそれ? やりたい放題じゃん」
遊上が横暴だ、ズルだと抗議の声を上げる。
「わっちに文句言われてものぅ。じゃが、さっきも言ったとおり、《王の法》にも抜け穴はある。《法》がニンゲンを縛る概念である以上、わっちらのようにニンゲンでないものは《法》には縛られん。
まあ、故に、《法》に縛られないモノは、そもそも入国できないようになっておるのじゃが。それにもさらに例外はあるということじゃ。先ほど主殿が述べたようにな。そして、肝心の《罰》じゃが、これは力ある者の力を削ぐ類いのものが多い。
魔力や体力を奪う《財産刑》、特定の行動を封じる《自由刑》、脅威そのものを取り除く《没収》が《罰》のほとんどを占めとるはずじゃ。
直接の攻撃とできるのは、苦痛を与える《身体刑》と命を奪う《死刑》だけじゃが、これは上位の刑罰なので、そうそう《法》に引っかかることもあるまい。
こういう事情で、魔術を扱えず、戦力にも乏しい主殿や小娘ならば、刑もほとんど影響がないじゃろうと考えた。まあ、そういう意味で、相性は悪くないと言ったのじゃ」
「なによそれ? 《死刑》があるんなら、軽い犯罪を設けて片っ端から《死刑》にすればいいじゃん。呼吸罪とか作ればいいんじゃないの? すごいじゃん。そしたら、最強じゃん」
このように、やさぐれ気味にぼやく遊上の発言に対し、英莉は表情には出ないが、呆れた声を出す。
「何を聞いておったのじゃ、小娘よ。彼奴の魔術は、国を作るモノなのじゃぞ?よいか? 国の要素とは、領域・主権・人民じゃ。
故に、領土と王権は最悪彼奴1人でもよいかもしれんが、臣民なしでは国として成り立たん。
国ではないなら、王権に紐付けられとる《法》も機能せん。
よって、臣民全員を《死刑》にする《悪法》など定められるわけがないじゃろ?」
「うーん。なんか、その訳わかんない既存の概念に縛られてるものに対してマウントとっていく感が、すごぉくいつもの魔術戦っぽくてヤだなー、私ぃ」
英莉の説明に、遊上がげんなりした声を出す。
「まあ、既存の概念を用いる術式に対する正攻法ではありますが、だからこそ、対抗策を用意しているのではと、この天空は考えますが」
「うーむ。正直、それは出たとこ勝負じゃな。なに、彼奴の固有魔導はわっちとうぬには通じぬのじゃから、速攻で片を付けるしかあるまいよ。ただ、先ほどのうぬの心配を解消しておいてやろう。うぬの主は、人質ついでに『臣民』として選ばれた可能性が高い。彼奴の王国を構成する要素なのじゃから、余程のことがない限り、危害を加えられることはないじゃろう」
「余程のこと、ですか」
英莉の説明を受けても、なお、心配な様子が解消されない天空の態度に、英莉は訝しんだ目を向ける。
「なんじゃ? 何を懸念しとる?」
「いえ、杞憂ならよいのですが。お嬢様は、その、他人を無自覚に煽る性質を持っていまして。人の本質的な加虐性を引き出す才能に長けているのです。辰上の【討伐令】対象者を煽っていなければよいなぁと」
「……なんとういうか。さすが、狗飼の娘じゃ。じゃから、狗飼と辰上とでは相性が良すぎるので、総合的に見て最悪といったのじゃ」
「そういった意味で、やはりこの天空としては、お嬢様の救出を急ぎたいのですが――」
「待ちなさい。話は聞かせてもらったわ、途中からだけど」
天乃達が驚いて声のあった方を向くと、校舎の物陰から、制服姿の少女が出てきた。
その少女の髪型は、茶髪のハーフアップで、後ろの髪の一部だけを上げて残りは降ろしており、その顔は――
「え? 遊、上さん? が二人?」
天乃が困惑した声を出すと、遊上と全く同じ見た目をした少女が蔑むような声を出す。
「はあ? 何訳わかんないこと言ってんのよ、天乃慎。まさか、記憶でも吹っ飛んだっての? いまさら自己紹介が必要な間柄ってわけでもないでしょうに」
その声に、わなわなと震えていた遊上がぼそりと震えた声を出す。
「お姉ちゃん、何しに来たの?」
(お姉ちゃん?)
――『私、一卵性双生児なのよ。でも、姉は魔術を使えるのに、私は使えない。このクラスの設立目的を考えたら、私が一番価値の高いサンプルってわけ』――
天乃が思い出したのは、遊上と初対面の時に聞いたそんな話であった。
「何って? 実習が終わっても狗飼も天空も帰ってこないから、探してたのよ。
そしたら、こんなところで天空が天乃慎と何か話をしてたみたいだから、こっそり様子を見てたの。そしたら、なんか【討伐令】やら、『お嬢様の救出』やら聞こえてきたからさ。気になって出てきちゃったってわけ。
――それで、私にも、詳しく聞かせてもらえるのよね、天乃慎?」
そういって、世界に二十人といない戦略級魔術師の一人――《荊の女王》こと緋澄眞琴は嗜虐的に微笑んだ。
その美しくも残酷な笑みは、さらなる波乱の幕開けを告げていた。




