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Replica  作者: 根岸重玄
登校騒乱編
37/286

前哨戦

2036年6月7日午前11時50分


 終業のチャイムが鳴る。

 現在はちょうど3時間目が終わった時間である。


「はい。それでは,次の時間は実習の見学の時間ですから,全員移動してください」


 授業を終えた賀上(かがみ)は,1年10組の教室から出ていく。

 他の生徒が移動の準備を始める中,天乃(あまの)は,隣に腰かける英莉(えり)に声をかける。


「なんか,監視がなくなったな」


 天乃(あまの)を見張っていた遠隔(えんかく)魔術(まじゅつ)が,今は跡形もなく消えさっていた。

 英莉(えり)は,タブレットを操作しながら,目を離すことなく天乃(あまの)に返事をする。


「そうじゃのぉ。()きたのかのぉ」

「いや,授業に飽きたのはお前だろ?

 もはや守護霊(ガーディアン)への擬態(ぎたい)すらしてねぇじゃねぇか。

 どこの世界にタブレットを弄って暇つぶしするAIがいるんだよ。

 周りも疑いの目で見始めてるぞ,多分な」

「わっちには関係ないのじゃあ。

 そこら辺の問題は百目鬼に丸投げするからのぉ」

「気の毒に」


 英莉(えり)は,タブレットから目を外し,天乃(あまの)を見やる。


「ところで,次は実習の見学とかいうとったか。

 正直,わっちは参加せん方がよいと思うがの」

「どういうことだ?

 いろんな魔術(まじゅつ)が見れるんだろう?」

「そうか。主殿(あるじどの)が興味あるというなら止めはせんよ。

 ただ,そうじゃな,酔わないように覚悟はしとくんじゃな」

「酔う?」

「そういう表現を用いとったのは主殿(あるじどの)じゃ。

 なんでも,その魔眼(まがん),大量の魔術(まじゅつ)を同時に見ると気分が悪くなるそうなのじゃ」

「なるほどな,そんな弊害(へいがい)があるのか」

「まぁの。そんなことはほとんど起こらんが,実習はこの学校におる1年生全員が参加するらしいからの。

 1組が約30人として,9組で約270人か。

 この学校の1年生だけでこれだけの魔術(まじゅつ)師がおる。

 それらが一堂に会して魔術(まじゅつ)を使うわけじゃ。

 無論,1室に集まるのではなく,それぞれ系統の似通(にかよ)った者同士で固まって別室でするらしいのじゃが」

「詳しいな」

「まぁの。これには少々興味があってな。

 事前に聞いとったのじゃよ」

「興味?」

「あぁ。まぁ,期待外れじゃったがな。

 ところで,そろそろ向かおうか。

 人も(まば)らになってきたしの」


 教室に残っていたのは,天乃(あまの)英莉(えり)を除けば間森(まもり)遊上(ゆがみ)だけである。

 残っていた二人は帰り支度を始めている。


「え? 2人とも,帰るの?」

「当たり前だろ?

 あんなもん見て何が楽しいんだか」


 間森(まもり)が極めてどうでもいいというように言い放つ。


「私もパース」


 遊上(ゆがみ)間森(まもり)に続こうとしていたが,天乃(あまの)の様子を見て考え直すかのように口を開く。


「っと思ったけど,その様子だと(しん)ちゃんは参加するのかぁ。

 ……うーん。この事情を口で説明するのは難しいわね。

 やっぱり,私は参加するか」

「そうか。俺は,そうだな。

 ちょっと相庭(あいば)何某(なにがし)とやらに探りを入れてきてやるよ」

「例の遠隔視の警備隊員(けいびたいいん)ね。

 素直に答えるとは思えないけど」

「そこはほら,俺ってば一応警備隊(けいびたい)にもパイプあるからさ」


 間森(まもり)はこう見えて浅木の治安を維持する組織『警備隊(けいびたい)』においてアルバイトをしているのである。

 警備隊(けいびたい)は人不足の傾向があり,事務職員を学生のアルバイトで(まかな)っているところもあるのだ。


「ま,期待せずに待ってろよ」

「じゃあ,私たちはいくわ」


 そういって遊上(ゆがみ)間森(まもり)に別れを告げ,天乃(あまの)の腕をとって一緒に教室を出ようとする。

 そうしたところ,天乃(あまの)の空いた逆側の手をガシッと英莉(えり)が掴む。


「待てい。

 さらっとわっちを放置しようとするな」

「あれ,英莉(えり)ちーも来るの?」

「当たり前じゃろ。

 わっちはこれでも主殿(あるじどの)守護霊(ガーディアン)ということになっておる。

 なぜ,ついてこない前提なんじゃ」

「いや,興味ないのかと思って」

()なことをいう。

 主殿(あるじどの)のことだぞ?

 興味があるに決まっておろうが」

「そうなの?

 英莉(えり)ちーって,前はそんなに(しん)ちゃんにべったりじゃなかったじゃない」

「あのな,さすがにわっちも記憶を失くして右往左往しとる主殿(あるじどの)を放っとくような真似はせんぞ?」

「ふうん,そうなんだ。

 まぁそれならそれでいいんだけど」


 そういって,遊上(ゆがみ)は何やら含みを持たせたうえで言葉を切る。

 英莉(えり)は口にはしなかったが,英莉(えり)天乃(あまの)に着いて回っているのは,天乃(あまの)の存在強度が低下していることも関係がある。

 簡単にいうと,現在の天乃(あまの)には死に(やす)いという土壌(どじょう)があるのである。

 言葉を交わしながら静かに火花を散らす遊上(ゆがみ)英莉(えり)の間で立ち尽くしている天乃(あまの)間森(まもり)が声をかけてくる。


「なんか,両手に華だが,前途多難だな,(しん)

「こっちはなんとか上手くやるよ」

「そうか。あと,真理がいるから大丈夫だと思うが,『(いばら)』には気を付けろよ?」

「『いばら』?」

「じゃな」


 言いたいことだけを言って間森(まもり)が鞄をもって立ち去る。

 どうやら本当に下校するらしい。


「あー,じゃあいくか?」

「そうね」

「うむ」


 天乃(あまの)の提案に,遊上(ゆがみ)が組んだままの天乃(あまの)の腕を引き,英莉(えり)が逆側の手を強く握る。


「あの,歩きにくいんだけど」

「気にしないで」

「気にするな」


 天乃(あまの)の精一杯の言葉は,重なる声にかき消された。

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