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Replica  作者: 根岸重玄
登校騒乱編
35/286

魔力競技

 2036年6月7日午前10時50分


 終業(しゅうぎょう)のチャイムが鳴る。

 現在はちょうど2時間目が終わった時間である。


「ふむ,では,今日はここまでとする。

 これから実習の時間だ。各自準備をして所定の位置に移動しろ」


 第三高1年1組の魔術まじゅつの座学を担当する伏見鋼一(ふしみこういち)はそれだけ述べて教室を去る。

 後に残された生徒は,一様に弛緩(しかん)した空気を放ち始める。

 実習というのは,実際に魔術まじゅつを使ったり,魔力まりょく操作の訓練(くんれん)を行ったりする時間なのであるが,魔力まりょくの暴走を起こさなくなった者にとっては,体育と同様には学校が公式に認めている息抜きと考える生徒が多いのである(もっとも,体育も実習も決して息抜きが目的ではない)。

 そんな中,他の生徒と同様に実習を息抜きとしてしか考えていない見た目小学生の少女――水無月(みなづき)風華(ふうか)は自分の席で欠伸(あくび)をしていた。

 水無月(みなづき)格好(かっこう)は他の生徒と同様に第三高校の制服姿なのだが,水無月(みなづき)だけはなぜか冬服の上着を羽織(はお)っている。

 実は,この上着は水無月(みなづき)が保有する魔導書――『虚空の旋律(コクウノシラベ)』の外見が変化したものである。

 とはいえ,『虚空の旋律(コクウノシラベ)』はいわゆる禁書の部類に入る封印(ふういん)推奨(すいしょう)の魔導書であるため,水無月(みなづき)は学校に保有していることを申告していない。

 それどころか,魔導書を保有するための(しか)るべき手続きも一切踏んでいないので,完全に違法状態である。

 そんな水無月(みなづき)は,次の実習のために体操服に着替えようと更衣室(こういしつ)に向かう準備をしていた。


「うへぇ,疲れたぁ。

 ふぅちゃぁん,助けてぇ。

 さっきの授業,先生がなに言ってるかわかんなかったよぉ」


 準備をしていた水無月(みなづき)涙目(なみだめ)で抱き着いてきたのは,狗飼(いぬかい)朱音(あかね)である。

 狗飼(いぬかい)は,黒髪のショートカットの少女で,その年齢に似つかわしくない豊満な肉体で水無月(みなづき)を押しつぶす。

 そのままぬいぐるみのようにぎゅうぎゅうと抱きしめられていた水無月(みなづき)は,抱き着く友人に苛立(いらだ)ちを覚えつつ,律儀(りちぎ)に返答する。


「……あのね,魔方陣(まほうじん)は一応アンタの専門分野でしょうが」

「だってね,だってね,わたくし,そんな難しいこと考えてるわけじゃないもの。

 あんなの適当にやったら上手くいくじゃない?」

「……こぉの,天才がぁ!」

「えぇぇぇ,なんで怒るのぉぉぉ。

 ふぅちゃん絶対カルシウム足りてないよぉぉ。

 だからちっちゃいまんまなんだよ?」


 狗飼(いぬかい)に押しつぶされていた水無月(みなづき)が苛立ちと共に()える。

 狗飼(いぬかい)水無月(みなづき)がなぜ怒るのかわからないと天然で的確に地雷を踏み抜き,水無月(みなづき)をさらに(あお)る。

 これで本人的には悪意なく思ったことを口にしているだけというのがなお性質(たち)が悪い。


「こいつッッッ,やはりここで殺しておくべきか」

「はいはい,そこまで。水無月(みなづき)も,落ち着いて?

 ここで狗飼(いぬかい)を殺すと,今までのあなたの積み上げてきた我慢(がまん)という名の努力が水泡(すいほう)()すよ?」


 そういって仲裁に来たのは,緋澄(ひずみ)眞琴(まこと)である。

 緋澄(ひずみ)は,茶髪のハーフアップで,後ろの髪の一部だけを上げて残りは降ろしている髪型の少女であり,今にも物理的に噛みつかん勢いの水無月(みなづき)に自制を呼びかけている。


「……眞琴(まこと),積み上げる作業って不毛よね。

 崩れるときは一瞬なのに,どうして皆頑張れるのかしら。

 アタシには理解できない」


 水無月(みなづき)は,既に当初の目的を見失い,ただの愛玩動物(あいがんどうぶつ)()でるように抱きしめてくる狗飼(いぬかい)によって,為すがままに髪をぐしゃぐしゃにされながら遠くを見つめている。


「それはきっと高みに辿り着きたいからだね。

 高いところからしか見えない景色があんのよ。

 っていうか,そんな形而上(けいじじょう)の話をしてるわけじゃないんだって。

 ほら,狗飼(いぬかい)も。

 さっきのはちょっと言い過ぎ。(あやま)んなさい」

「えぇぇぇ,なんでぇぇ。

 わたくし,悪くないもん」

「こいつッッ!!」


 再びキレそうになる水無月(みなづき)(げん)を遮ったのは,どこからともなく現れた1人の()()()()姿()()()()であった。


「お嬢様? 世の中,悪いと思っているから謝るものではありませんよ?

 謝ることによって物事が円滑(えんかつ)に進むとわかっているから,心にもない謝罪をするのです。

 今お嬢様は岐路(きろ)に立たされています。

 この天空(てんくう)は,ここで謝っておくのがよろしいかと愚考(ぐこう)しますが」


 メイドに『お嬢様』と呼ばれた狗飼(いぬかい)はメイドの言葉を吟味(ぎんみ)するように黙考(もっこう)する。


「……なるほど?

 つまり,ここでわたくしが大人の対応をすることで,物事が円滑(えんかつ)に進むのね?」

「はい,万事(ばんじ)(とどこお)りなく」


 学校の教室にメイドがいるという不自然さはこの際もはやどうでもよく,その会話は当然周囲にも丸聞こえであったわけだが,狗飼(いぬかい)はそのようなことを気にする様子もなく,慈愛(じあい)の表情を(たた)え,水無月(みなづき)に向き直る。


「ふぅちゃん,ごめんね?」

「素晴らしい」


 手放しで主を称賛(しょうさん)するメイドを見なかったことにし,ここで,『納得(なっとく)できるか!』と叫ぶのは容易(たやす)いことだが,水無月(みなづき)としては,主である狗飼(いぬかい)を立てるために全ての泥を(かぶ)った苦労人であるメイドに同情せざるを得ない。

 いや,このメイドはそれくらいのことを当然計算に入れて周囲に聞こえるように話したのだろうが。


「…………わかった。今回はこれで手打ちよ」


 結局毎度のパターンかと思いつつ,水無月(みなづき)(ほこ)(おさ)める。


「わぁい。さすが天空(てんくう)ね」

「いえ,この天空(てんくう)はお嬢様の決断と水無月(みなづき)様の()()()()()()こそがこの状況を生み出したものと愚考いたします」

謙遜(けんそん)することないのにぃ。

 でも,勝手に出てきちゃだめだよ?

 わたくしが怒られるんだからね?」

「いえいえ,表に出るときはきちんと選んでおりますので」


 天空(てんくう)と呼ばれたメイド服の女性はしれっとそんなことを(のたま)う。


「相変わらず,自由な召喚体(しょうかんたい)ね。

 主が命じていないのに出てくるとか」


 緋澄(ひずみ)が言う通り,このメイド服姿の女性――天空(てんくう)狗飼(いぬかい)使役(しえき)する召喚体(しょうかんたい)である。

 召喚体(しょうかんたい)とは,擬似(ぎじ)生命を呼び出す魔術まじゅつの一種である『召喚(しょうかん)』により,顕現(けんげん)した擬似生命体の総称(そうしょう)である。


「いえ,緋澄(ひずみ)様。

 このお嬢様の場合,出過ぎた真似というものが推奨(すいしょう)されるのですよ。

 いや,本当に」

「?」


 首を(かし)げる狗飼(いぬかい)に『そういうとこだぞ。』というツッコミが(のど)から出かかった水無月(みなづき)緋澄(ひずみ)(かろ)うじてこれを飲み込む。


「じゃあ,移動しよう。これから実習だからね」

「まこちゃんこういうとこ真面目(まじめ)よねぇ。

 わたくしは実習って苦手ぇぇぇ」

「そりゃ,あんたは普段天空(てんくう)を出すことしかしないから,ペースとか考えなくていいもんね」


 緋澄(ひずみ)狗飼(いぬかい)水無月(みなづき)が教室を出ていき,天空(てんくう)がそれに付き従う。

 この3人(と1人?)こそが今年度の第三高校の新入生の魔術まじゅつ部門における圧倒的な成績優秀者である。


 魔術まじゅつにおける成績は,基本的には使用可能な魔術まじゅつ,保有魔力まりょく量,魔力まりょく操作の熟達(じゅくたつ)度合(どあ)い,その他の事情を総合考慮して決められる。通常は5段階評価で,下から,レベル1=最下級(E級),レベル2=下級(D級),レベル3=中級(C級),レベル4=上級(B級),レベル5=最上級(A級)となっている。

 そして,第三高――浅木大学付属第三高等学校は,一芸に特化した魔術師まじゅつしばかりが集められているというのが,世間(せけん)の認識である。

 あくまで傾向(けいこう)であるが,第一高には万能者(ばんのうしゃ)が,第二高には優秀者(ゆうしゅうしゃ)が,第三高には特化者(とっかしゃ)が,第四高には劣等者(れっとうしゃ)が,第五高には欠陥者(けっかんしゃ)が,第六高には破綻者(はたんしゃ)が,第七高には研究者が集められているとされている。

 勿論,あくまで傾向なので,例外は存在する。

 とはいえ,そういう意味でいえば,水無月(みなづき)狗飼(いぬかい)緋澄(ひずみ)の3人は典型的(てんけいてき)な第三高生――特化者(とっかしゃ)である。

 水無月(みなづき)は『王宮勅令(おうきゅうちょくれい)』,狗飼(いぬかい)は『天空召喚(てんくうしょうかん)』,緋澄(ひずみ)は『(いばら)女王(じょうおう)』という魔術まじゅつしか使えない。

 それにもかかわらず,水無月(みなづき)狗飼(いぬかい)は既にレベル5=最上級魔術師まじゅつしに該当するし,緋澄(ひずみ)にいたっては()()()()()(),世界に20人といないレベル6=戦術(せんじゅつ)(S)級魔術師まじゅつしの1人である。

 レベル6は,レベル5が最上級と呼ばれていることからもわかるとおり,本来的な基準における最上位を越える存在と認知されていることを意味する。

 戦術級(せんじゅつきゅう)魔術師まじゅつしとは,たった1人で従来の常識を覆し,それが1つの戦術として確立(かくりつ)し,機能してしまうほどの異常者にしか送られない称号(しょうごう)なのである。

 緋澄(ひずみ)は,その常識外の化け物(イレギュラー)の中でも最年少で選ばれた最新の戦術級(せんじゅつきゅう)魔術師まじゅつしである。

 それも,戦時ではなく,平時において認定されたという点でその異常さは際立っているといえる。

 他の戦術級(せんじゅつきゅう)魔術師まじゅつしは主として戦争に投じられ,一定以上の成果を上げた者なのである。

 そういった意味で,緋澄(ひずみ)は,唯一戦争を知らない戦術級(せんじゅつきゅう)魔術師まじゅつしでもある。


 その世界に20人といない戦術級(せんじゅつきゅう)魔術師まじゅつしは,魔力まりょく操作の緻密(ちみつ)さがものをいう競技――『送球(そうきゅう)』において,水無月(みなづき)狗飼(いぬかい)にダブルスコア以上の差を付けられて惨敗(ざんぱい)していた。


 『送球』とは,魔力まりょくを込めることで,ある程度自在に操作することができる『魔球』を筐体(きょうたい)越しに操作し,特定のコース上を走らせるという競技である。

 この競技の得点は,スタート地点からゴール地点まで運ぶ上での時間得点からコースの壁にぶつかった回数と接着(せっちゃく)面積の合計から算出されるコース得点を引いたものから算出される。

 したがって,わかり(やす)()べるのであれば,コースの壁に可能な限り接触させることなく,可及的(かきゅうてき)(すみ)やかに『魔球』をスタートからゴールに送る競技ということになる。

 この競技において,重要なのは,可能な限りコースの壁に『魔球』を接触させないことである。

 減点対象となるコース得点は高めに設定されており,5回の接触またはおよそ5秒以上の接着で得点は0以下になるように設定されている。


「また負けた」

「わたくしも,『送球』に関しては,ふぅちゃんには絶対勝てません」


 体操服姿の緋澄(ひずみ)狗飼(いぬかい)は,つまらなさそうにゴールさせた『魔球』を無理矢理逆走させている水無月(みなづき)を見ながら述べる。

 水無月(みなづき)は体操服でも相変わらず長袖姿であるが,その上着は,もちろん,水無月(みなづき)の持つ魔導書――『虚空の旋律(コクウノシラベ)』の外見が変化したものである。

 本日の水無月(みなづき)の記録は100点が本来の上限のこの競技において246点という驚異の記録を叩き出していた。

 ちなみに,狗飼(いぬかい)は192点,緋澄(ひずみ)は94点である。

 なぜ,100点以上の点数が出ているのかというと,この競技においては,時間得点は一定の時間以下のタイムが出た場合,すべてが100点となるという弊害(へいがい)があった。

 しかし,水無月(みなづき)狗飼(いぬかい)は入学後の初回の測定(そくてい)において100点となるタイムを大幅に短縮したタイムでのゴールを連続で出してしまったのである。

 そこで,教職員たちが協議した結果,全てのタイムに割合に応じた得点を設けることにした。

 その結果,100点以上の得点が点数として評価されるようになったのである。

 勿論(もちろん),通常は100点をとれるということは起こらない。

 どれだけうまくやったとしても,緋澄(ひずみ)の点数ほどになるのが(せき)の山なのであり,水無月(みなづき)狗飼(いぬかい)が異常なのである。

 そんな異常な点数を叩き出した水無月(みなづき)はというと,何の感慨(かんがい)もないようで,既に『送球』の結果に興味を示すこともなかった。


「次,なんだっけ?」

「えぇっと,次はねぇ,『遠投(えんとう)』だよぉ」

「でも,その前に天空(てんくう)がまだ『送球』よ」


 体操服姿の水無月(みなづき)たちとは異なり,メイド服姿の天空(てんくう)は『送球』の筐体に手を触れる。

 狗飼(いぬかい)の召喚した天空(てんくう)は,召喚体(しょうかんたい)の身でありながら,魔術まじゅつを扱えるという他の召喚体(しょうかんたい)にはありえない特性を持っている。

 狗飼(いぬかい)の扱う魔術まじゅつ――『天空召喚(てんくうしょうかん)』は召喚魔術まじゅつの中でも特に異質(いしつ)であり,自我(じが)を持ち,記憶を引き継ぐという特性を持った『天空(てんくう)』という名の召喚体(しょうかんたい)を自在に召喚することができるという魔術まじゅつである。

 第三高は,この特殊な召喚体(しょうかんたい)に対しても,特例で魔術まじゅつ実習への参加を認めていた。

 その天空(てんくう)は,『送球』の筐体(きょうたい)に触れた手をすぐに離して『魔球』の操作を終了してしまう。


「いえ,終わりましたので,次に向かいましょう」


 天空(てんくう)魔力まりょくを受けた『魔球』は,特筆すべき程の速度ではないものの,ひとりでに正確な挙動(きょどう)(えが)き,1度コースの壁に接触したものの,目標タイムを少し過ぎてゴールした。

 その得点は72点である。

 この4者の中では最低得点であるが,100点が本来の上限であることからすれば十分に高い。

 また,通常であれば,筐体(きょうたい)越しに『魔球』を操作するのが常識である『送球』という競技において,継続して筐体に手も触れていないのにゴールに向かって挙動を変えさせるなどそれだけで異質であり,天空(てんくう)の異常性を際立たせている。

 実際,目の前で自動的に動く『魔球』を見て他の生徒はギョッとした顔となり,その現象を不気味(ぶきみ)がっていた。


「器用なもんね」

「いえいえ,この天空(てんくう)の実力では,とてもお嬢様方のような精緻(せいち)迅速(じんそく)な挙動などできませんので。

 ちょっと趣向(しゅこう)()らしてみただけです」


 水無月(みなづき)の言葉に天空(てんくう)が答える。

 もっとも,実際のところ,天空(てんくう)の過去最高記録は,155点なので,この天空(てんくう)の言は完全に謙遜(けんそん)なのだが。

 ただし,水無月(みなづき)は,先程まで異なり,次に向かおうとする足を止め,考えを(めぐ)らせている。


趣向(しゅこう)()らしたって……皆ビビってんじゃん」

「おや? 『皆』とはどこの有象無象(うぞうむぞう)のことでしょうか?

 少なくとも,向上心があれば,水無月(みなづき)様のように,この天空(てんくう)の用いた技術を特定しようとするでしょうに」


 緋澄(ひずみ)の言葉に,天空(てんくう)辛辣(しんらつ)な答えを返す。

 緋澄(ひずみ)が『あはは……』と曖昧(あいまい)な笑みを浮かべていると,水無月(みなづき)が『送球』の筐体(きょうたい)に向かって歩き出す。


「つまり,こうゆうこと?」


 そういって,水無月(みなづき)筐体(きょうたい)の方に一切目を向けることなく,天空(てんくう)の方を見ながら,筐体(きょうたい)に手を(かざ)し,すぐにその場を離れる。

 145点。

 それが,水無月(みなづき)の叩きだした点数であった。


「お見事」

「っていうか,私,これにも負けてんじゃん」


 自分と同じ方法で上回る成果を出した水無月(みなづき)を手放しで称賛(しょうさん)する天空(てんくう)と,この分野における圧倒的な差を感じて項垂(うなだ)れている緋澄(ひずみ)は,『あれ? わたくしの勝ちぃぃ。』と喜んでいる狗飼(いぬかい)を半目で見つめていた。

 水無月(みなづき)は,勝ち(ほこ)狗飼(いぬかい)に若干の苛立ちを覚えながらも,緋澄(ひずみ)天空(てんくう)に声をかけて次の『遠投』の筐体(きょうたい)を目指す。


 魔術まじゅつの実習は,主に魔力まりょく(あやつ)る訓練と実際に魔術まじゅつを使用し,向上させる訓練とが存在する。

 魔力まりょく操作に(なん)を抱えていると,魔術まじゅつを使用する際に暴走を起こし,魔術まじゅつを暴発させるという危険があるのである。

 本来的に教育機関である浅木では前者の訓練を目的としており,前者に重点が置かれている。

 魔術まじゅつに関する座学を行うのも,原理を理解し,魔力まりょくを自在に操ることを目的としているのである。

 先ほど水無月(みなづき)らが行っていた『送球』や次に行う予定の『遠投』といった競技はそれぞれ異なる魔力まりょくの操作を要求されるものであり,通常,卒業までにこれらで一定の得点をとることを目標(もくひょう)としている。

 そういった意味では,水無月(みなづき)らは入学の時点で既に全競技で目標得点に到達しており,これらに参加する意義は少ないのだが,さりとて学校の本来的な目的である魔力まりょく操作の訓練をおろそかにすることも許されないということで,参加が義務づけられている。


 競技は6種類,魔力まりょくの緻密な操作を要求される『送球』,魔力まりょくの指向性と出力を要求される『遠投』,魔力まりょくの暴走を抑止することを要求される『妨害(ぼうがい)』,身体に魔力まりょく(まと)わせる技術を要求される『装甲(そうこう)』,唯一の対人形式で()け引きも要求される『対戦(たいせん)』,全ての技量を高度に要求される『飛翔(ひしょう)』である。ただし,『飛翔(ひしょう)』に関しては卒業のための必須(ひっす)要件とはなっておらず,一度もこの競技に参加することなく学校を卒業する者も多い競技である。

 実際,現在『飛翔(ひしょう)』に参加できる資格を獲得しているのはこの中では水無月(みなづき)天空(てんくう)だけである。

 狗飼(いぬかい)は『妨害』と『対戦』,緋澄(ひずみ)は『妨害』のスコアが足りないのである。


 水無月(みなづき)たちは続けて『遠投』の競技に向かい,すぐに競技を開始する。

 この日の『遠投』の記録は,狗飼(いぬかい)が最高得点を叩き出していた。

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