表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Replica  作者: 根岸重玄
登校騒乱編
30/286

幕間の出来事

?年?月?日??時??分


「やぁ,『殺し屋』。彼はどうだった?」

「『運び屋』か。

 ゲームをドロップしたはずの君が声をかけてくるなんてな」


 瀕死のジェーンを肩に抱えた『殺し屋』に声をかけたのは,『運び屋』と呼ばれた男だった。

 『運び屋』と呼ばれたその男は,30代後半の小太りの男であった。

 白のタンクトップにジーパンという恰好であり,その示す手には何も持っていない。


「まあね。僕はこのゲームから降りたけど,このとおり。

 権能は失っていないからね。暇つぶしがしたいのさ」


 そういうと,次の瞬間には『運び屋』は()()()()()()()(かじ)っていた。


「ふふふ,相変わらず便利そうな権能だ。

 手品にしか見えんのが,あれだが。

 さて,立ち話に付き合ってあげたいが,私はまずはこの娘を治療しなければ」


 そういった『殺し屋』は肩に抱えたジェーンを指差す。


「あぁ,そうだったね。彼女も重傷だった。

 どうする?“運ぼう”か?」

「いいのかい?

 私に肩入れするなんて。他のプレイヤーがなんというか」

「構わないよ。

 僕と同じくドロップした『復讐(ふくしゅう)屋』なんかも自由にやってるだろ?」

「彼は,もともとこのゲームに参加する気がないようだから,君とは違うさ」


 そういって『殺し屋』は肩を(すく)める。


「それで? 彼女をどうする?」

「遠慮なく頼もう。

 彼女を“運んで”くれ」

「あいよ」


 そういった次の瞬間には『殺し屋』の肩からジェーンは消滅する。


「彼女を治療室に“運んで”おいた。

 確認しに行くかい?」

「いや,信用しよう。

 それより,何か変わったことはないかな?」

「さあね。

 最近はどのプレイヤーも大詰めに入っていて,なかなか情報が入ってこないんだ」

「三代目『仲介屋』はどうかね?」

「そちらはどうなのかな?

 彼が一番辛い立場のはずだが,まったく動く気配がない。

 じっと座って眺めているよ。彼の駒と盤面を」

「ルールを理解していないわけではあるまい。

 彼なりに考えがあるということか」

「だと思うね。

 『仕切(しきり)屋』も彼には期待しているらしいし」

「そうかね。私はどうするか」


 それは『殺し屋』にとってはただの独り言だったのだが,『運び屋』は予想外にその話題に乗ってくる。


「君とっては,そうだね。

 『壊し屋』,『占い屋』,『金融屋』。

 そして,一応,『仲介屋』。

 このあたりが難敵という感じかな」

「ふふふ。君は本当によく盤面が見えている。

 なぜドロップしたんだい?」

「もともと,争いが好きじゃないのさ。

 それに,勝ちを目指す以外の道があると教えてもらったからね。

 『薬屋』とは違うさ」

「あぁ,彼女は本当に悲惨だったね。

 あの状態から再起可能な目はなかった。

 今はどうしているのかな。

 ゲームが続いている以上,彼女もいるのだろう?」

「そうだね。彼女はこちらには戻ってないよ。

 この前の『仕切(しきり)屋』の招集にも現れなかっただろう?」

「そういえばそうだな。

 ちなみに,君は私に協力する気はあるかい?」


 それは『殺し屋』にとっては,ほんの軽口だったが,ここでも『運び屋』は予想外の回答を示すのだった。


「対価次第,だね。

 僕が納得する対価を支払うなら,なんでも,どこにでも,必ず“運ぶ”と誓おう」

「――君は……

 ふ,ふふふ,ふふふふ。

 面白いプレイヤーが現れたものだ。

 君も,まだまだドロップしていないじゃあないか」

「ドロップ宣言は撤回できないよ」

「なるほどな。それが君の強みか。

 だが,これでゲームは面白くなった」

「そういってくれると,君に声をかけた甲斐があったよ」

「ちなみに,私以外にも声をかけているのだろう?」

「そうだね。まだドロップしていないプレイヤーには声をかけているところさ。

 さっきも言ったけど,やることがなくてね。暇なんだ」


『運び屋』はニヤリと笑う。


「せっかくの権能――“運送”を(くさ)らせるのもどうかと思うしね。

 とはいえ,君は浅木への干渉権は使い切っただろう?

 次の標的は誰にするんだい?」

「ふふふ。その情報はこの場合,命よりも重い。

 残念だが,今後の方針は話せないよ」

「そう警戒しなくても,僕は『運び屋』であって『情報屋』じゃないからね。情報で商売する気はないさ」

「いずれにしろ,私の駒(ジェーン)が復帰するまでは静観させてもらうよ」

「それもそうか,君を見ていると,そのあたりの原則を忘れそうになるよ」

「おいおい,こう見えて,私はルールの範囲内の行動しかとっていないぞ。

 “殺人”の権能が便利なことは認めるがね」

「そうかい。

 じゃあ,僕に用事ができたときは,是非呼んでくれたまえ」

「待て,『運び屋』。

 今後の参考のために聞いておこうか。

 例えば,『天乃慎』の心臓にナイフを“運ぶ”ための対価はなんだい?」

「残念だが,そんな面白くない依頼は受けられないよ」

「それは安心した。

 君がその手の依頼を受けるようならばこの場で殺さなければならないところだった」

「……は,はは,そんなに威圧しないで欲しいな。

 僕は,こう見えても中立さ。

 盤面には干渉するけど,ゲームの決め手にはならないようにバランスはとるつもりだよ?」

「では,そうだな。

 このナイフを『天乃慎』の居室の――

 そうだな。食卓の上に突き立てるように“運ぶ”ための対価は?」

「うーん。そうだな。

 それはアリだ。

 そして,対価は1時間だね」

「1時間?」

「1時間――君の駒を貸してもらう。

 とはいっても別に何かをさせようってわけじゃない。

 『その間,君はゲームに参加できない』というペナルティを負ってもらうのさ」

「なるほど,な。

 君は新しい“ルール”になろうというのか」

「そうだね。

 ちなみに,『仕切(しきり)屋』の許可はとったよ?

 本来は不要なんだろうが,一応ね。

 裏ルール『運び屋』――存分に利用してくれ」

「また追加ルールかね。

 このゲームは本当に奥深い。

 だが,君にとってどんなメリットがあるんだい?」

「それは言えないよ。

 だって,言ったら面白くなくなるじゃあないか」

「それもそうだ。

 それを予想してこそ,ということだね」

「そうそう。僕はゲームをドロップしている。

 だが,だからといって景品を諦めたわけじゃあないってわけさ」

「だったら,中立など気取らず,素直に誰かにBETした方が見返りが大きそうなものだが」

「それじゃあだめなのさ。

 僕は――欲張りだからね」

「ほう,面白い。

 ドロップは正直どうかと思ったが。

 実にいいプレイヤーになったな,君は。

 『薬屋』にもこれくらいの不屈の精神を見せてほしいものだ」

「あはは,ある意味彼女が一番不屈なのかもしれないよ?

 だって,彼女――未だドロップしてないじゃあないか」

「……それもそうだな。

 なぜだ?」

「さあね。

 ま,互いにベストを尽くそうよ」

「あぁ,ちなみに,ジェーンを“運んだ”対価は何かな?」

「あれは言ってみればお試し期間ってやつさ,ロハだよ」

「なるほど,(ただ)より高い物はない――ということかね?」

「さあ,どうかな。

 では,僕は行くよ。

 まだ,『壊し屋』に会えていないのでね」

「彼は君に協力を求めることなどなさそうだがな。

 彼の権能――“破壊”は型破りすぎる」

「そうかもね。

 でも,一応ね。

 声をかけておこうと思うわけさ」

「そうか。

 ではな,『運び屋』」

「ああ,またね,『殺し屋』」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ