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Replica  作者: 根岸重玄
記憶喪失編
12/216

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?年?月?日??時??分


 アーサー・リードは傭兵(ようへい)である。

 金で人を殺し,金で人を守る。

 金のために生きるし,金のためなら死ねる。

 そんな彼が損得勘定抜きでその命令に従う者がいる。

 アーサーはその者の名を知らない。

 ただ,その者が『金融屋』と名乗っていることしか知らない。

 それでも,アーサーは『金融屋』が命じるなら人を殺すし,人を守る。

 『金融屋』はアーサーに一つの仕事を命じた。

 浅木(あさき)へ向かい,対象の様子を見て来い,必要とあれば排除せよというものであった。

 その方法はアーサーに一任されたし,アーサーは『金融屋』から仕事に必要な情報を得ていた。

 また,アーサーは『金融屋』から必要な援助として特別な《結界》を借り受けていた。

 その《結界》は,一定時間,特定の空間に別位相を生じさせるというものであり,現在の魔術師(まじゅつし)には再現不能な特殊な《結界》であった。

 アーサーはその《結界》に対象を閉じ込め,排除しようとした。

 アーサーが命じられたのは対象の観察と必要な場合の排除であるが,アーサーは対象の排除しか考えていなかった。

 それというのもアーサーは排除の必要性がないことなどあり得ないと考えていたからである。

 ただし,アーサーは観察任務を果たす必要があったため,《偽装の騎士》を用いて直接対象に接触することとした。

 対象は凡庸な少年であった。

 少なくとも,アーサーがここまで入念な下準備を講じる必要があったのかと疑問を覚えるほどには。

 そして,計画を実行するため,《結界》に対象を連れ込むことに成功した。

 対象は,何の疑念もなくただ,促されるがままにアーサーに従った。

 アーサーは排除の必要性に疑念を覚えたが,さりとて排除しない理由も思いつかなかった。

 そこで,排除を実行することとした。

 しかし,そこで邪魔が入った。

 《結界》には先客がいたのである。

 それは本来あり得ない異常(イレギュラー)であった。

 結果,異常(イレギュラー)が重なり,アーサーは対象の排除に失敗した。

 現在,アーサーはその顛末を『金融屋』に伝えているところだった。




「ご苦労。アーサー・リード。君の意見は大変参考になった」

「そうですか。それでは,引き続き排除を?」


 アーサーは『金融屋』の命令があればすぐにでも引き返し,対象を排除する姿勢を見せる。


「いや,その必要はなかろう。その少年は君から見て凡庸であったのであろう?」

「はい。少年は魔眼(まがん)こそ持っていましたが,水無月風華(みなづきふうか)の介入がなければ確実に仕留められていたでしょう」

「そういう意味ではないのだが」


 『金融屋』は少し呆れたように言い放つ。


「では,いったい?」

「ただの凡庸な少年が,かの十三騎士(アーサー・リード)をもってしても排除できなかったというのは,異常なのだよ」

「それは――」


 何かを言おうとしたアーサーに『金融屋』が言葉を重ねる。


「――わかっている。イレギュラーのせいということだろう?

 だが,あるのかね?

 たまたま《結界》に紛れ込んでいた魔術師(まじゅつし)が。

 たまたま凡庸な少年と相性がいい魔術(まじゅつ)の使い手で。

 たまたま君が敗れるということが。

 そう簡単に起こるのかね?」

「――確かに釈然とはしませんが。それに敗れたわけでは……」


 アーサーは言い訳がましいとは思いながらも正直な気持ちを打ち明ける。


「撤退させられたのは事実であろう? 損切りのタイミングは見誤ってはいけない。

 ここらで我々は手を引くべきだ」

「……わかりました」


 『金融屋』が損切りするというのであれば,アーサーに異論はない。


「それに本当に少年が何かを持っているかは,これから試される」


 『金融屋』は,少し楽しそうにアーサーに告げる。


「どういう意味でしょう?」

「『殺し屋』が動いている」

「彼と彼女がですか?」


 アーサーの言葉には隠しきれない嫌悪の情が見えていた。

 アーサーから見れば,彼らは金のためでもなく,ただ殺したいからという理由で人を殺す本物の人でなしどもだからだ。


「そうだ。あのシリアルキラーどもが動いている以上,我々がこれ以上投資しなくても結果はわかるのだよ。

 どうかね? 引き際としては妥当ではないかね?」

「そう,ですね」

「現状,かの少年の性能だけが不明なのだ。

 それは,()()()()()()()()()()()()()()()()でもある。

 取るに足りない存在ならよし,利用価値があるならなおよしだ。

 ただ,あの新参者の物言いからしてそういう可能性は低いのだろうな。

 私にとっては邪魔にしかならんだろう。

 他の面々も一部は静観するようだし,ここは高みの見物といくよ」

「それでは,私はこれで」

「あぁ,無用な心配だと思うが,出口は間違うなよ」

「わかっています」


 アーサーはその場を立ち去り,まっすぐに出口へと向かう。

 出口付近にてアーサーは一人の女性とすれ違う。


「あら? あんたも来てたの」

「これから帰るところだ」

「へぇ,『殺し屋』のショーは見ていかないの?」

天乃(あまの)に興味はあるが,彼のショーは性に合わない」

「ショーだけに? ふふふ。じゃあね。十三騎士殿」

「あぁ,壮健(そうけん)でな,禁絶(きんぜつ)殿」

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