28話 ~チョーズン・テン~ 選ばれし10人、あるいは選ばれしおっぱいたち
エマを連れてシャングリ・ラの部屋に戻ると、案の定、いきなりヴァニラとロッティに嫌味を言われた。
「まさか私まで置いて行かれるとはな」
「わらわに黙っていくとは、さぞ楽しかったろう」
寝坊したのが悪い! とはさすがに言えない。
そういう文句はゾーイに言って欲しいな。
「で、何なの、その娘は?」
クレオがエマを見ながら聞いてくる。
何なのと言われても、普乳なんだけど……
「普乳を連れて来たに決まってるだろ」
若干キレ気味にゾーイが答える。
「普乳っていうか……普通」
リエルの言う通り、普通の娘だからね。
「その娘、花売りなのニャ。見た事あるのニャ」
どうやらニケは見た事あるらしい。
その通り、何でもないたたの花売り娘なのだ。
「皆さん、昼食の準備が出来ました。続きはお食事をしながらでどうでしょう?」
「そうだね、アリス。そうしよう」
続きは昼食を取りながら、となった。
「エマです。よろしくお願いします」
そうそうたるメンバーを前に、エマは緊張気味にあいさつをした。
もちろん“おっぱい”の話ではない。
このパーティー、他人から見れば凄いメンバーなのだ。
僕からしたら、別な意味でヤバい集団でしかないけど。
「で、結局何者なんだ?」
ヴァニラが不思議そうに聞いてくる。
何者って言われても、さっきから普通の娘って言ってるし、それ以外の何者でもないんだけど。
「わたしはただの一般人ですけど……」
「一般人? 冒険者ギルドにいったんだろ?」
「ギルドに普乳がいなかったんですよ」
それなりの冒険者を連れて来たかったけど、普乳じゃなければ意味ないからね。
「だからって、ゾーイ……その辺の小娘を連れてくることないだろ?」
「街にもいなかったんだ、仕方ないだろ。だったらヴァニラ、お前がもう一度行ってこいよ」
「普乳なんてどこにでもいるんじゃないのか? 普通の乳だぞ」
その普通が普通にいないんだってば!
普乳なんて簡単に見つかる……そう思っていた時が、僕にもありました。
「ヴァニラ……残念だけど、普通じゃないと普乳じゃないみたいなんだ」
「普通じゃないと普乳じゃない? 何なんだそれは」
おっぱいの判定基準は、所詮魔剣の勝手な判断だ。
魔剣と同調し始めたから分かったことなんだけど、おっぱい判定はおっぱいだけでは決まっていない。
人物そのもののイメージが含まれているみたいなのだ。
「例えばだけど、普乳の大きさのおっぱいって、どれくらいだと思う?」
「どれくらいって言われてもな……」
「でしょ? 判断なんて人それぞれ何だよ」
「まあ、そうだろうな」
「この魔剣は、おっぱいだけでなく、その持ち主の全体的なイメージを加味して決めているみたいなんだ」
そのイメージすらも魔剣の判断なんだけどね。
「つまり……どういう事だ?」
「分かりやすいところで言うと、グレモリーの魔乳かな? 妖魔だから魔乳なんだ。妖魔じゃなければ超乳だったかもね」
「分かったようで分からんな」
「ヴァニラは美人だから美乳なの。同じ大きさで同じ形の人がいたとしても美乳判定とは限らないよ」
「ほ、ほう」
美人と言われてヴァニラの顔がにやけている。
「何だ? わらわは美人じゃ無いと申すのか?」
いや、そういう訳じゃなくてね……
「例えばの話しですよ。ロッティも他のみんなも充分すぎる程美人ですから」
ロッティの場合、大きさがそれ以前の問題なのだから、どんなに美人でも美乳判定はされるはずもない。
「そういう事で、普通じゃければ普乳じゃないんですよ。それともう一つ。実は何も判定されないおっぱいも、たくさんあるみたいなんです」
「判定されないだと?」
「実際判定した訳じゃないので何とも言えないんですが、少なくとも僕には、何も感じないおっぱいがたくさんあります」
魔乳、超乳、爆乳、巨乳、豊乳、美乳、微乳、貧乳、無乳、そして普乳。
この10のおっぱいは、限られたおっぱいなのだ。
「つまり、普通だけど普通にはいない、普通のおっぱいか……貴重だな」
そう、ヴァニラの言う通り、普乳ですら普通だけど普通じゃないのだ。
全部魔剣の判断の話だけど。
「皆さん全員そうなんですけどね」
「よし分かった。普乳とて簡単には見つからない。と言うより、強い奴には普乳はいないと考えた方がいいのかな?」
「そういう事です」
「だから言っただろ、ヴァニラ」
「済まんな、ゾーイ」
「まあいいじゃない、その辺で。それよりこれで10人揃ったのよね?」
クレオの言う通り、これで全てのおっぱいが完全制覇された。
今すぐにでも魔王を倒しに行けるのだ!
「これからすぐにでも出発するのかニャ?」
「いや、まだだな」
すぐに向かうかと思いきや、ゾーイの意外なその一言。
まさか……
まさかだよね?




