第五十五話 新しい紙
ルミシャ
ティユラが歩けるようになって、しばらくして。
二人で、あの丘にのぼった。
木は、あいかわらず大きかった。
見上げても、てっぺんは分からない。
枝という枝に、あの子の一生が揺れていた。
あたしは、新しい紙を一枚、取り出した。
二千年で、はじめてだった。
あの子以外の手が、この木に願いを結ぶのは。
なにを書こうか、すこし迷って。
いちばん上の、あの子の最後の一枚を見上げた。
『ちゃんと、おばあさんになったよ。 会いたかった。』
だから、それに返した。
『ネルフィ。 あたしも、会いたかった。』
二千年、返せなかった返事を。
会えないと、知っていて。
届かないと、知っていて。
それでも、あの子がそうしたように。
筆を止めて、すこし考えて。
もう一行、足した。
『でも、もう大丈夫。 あたし、ちゃんと生きるよ。』
迎えに行く、でも。
会いたい、でもなく。
はじめて、これからの言葉を書いた。
ティユラが、となりで見ていた。
「私も、いい?」
うなずいた。
ティユラも、一枚もらって、なにか書いた。
見せてくれなかった。
ネルフィのときの、あたしみたいに。
二枚を、手の届くいちばん高いところに、並べて結んだ。
あの子の最後の一枚の、すぐ下に。
風が吹いた。
あの子の一生と、あたしたちのはじまりが、いっしょに揺れた。
いつか。
あたしも、ティユラも、ちゃんとおばあさんになって。
この木の、てっぺんに手が届かなくなるころ。
そのときはきっと、約束は果たされている。
んふふ、って。
どこかで、あの子が笑った気がした。




