噛み合う歯車...........そして狂いだすーー
ここは、株式会社Power Wind。
その代表を務めるのは、美貌とカリスマを兼ね備えた社長・山本まどか。
彼女の右腕――いや、勝手に「推し活中」の敏腕秘書・野島すみれが、今日も朝から絶好調だった。
すみれ(CHANELのリップ…今日もツヤと発色が暴力的。チークはDIOR、香りは椿……色気で殴ってる……)
「すみれちゃん、今日の予定わかる?」
「はいっ。9時から株式会社吉田との会合、その後12時よりプリエスト社とのプレゼン…」
言いながらも目線は、まどかの口元から太ももまで観察モード。
(ストッキングはATSUGIか?グンゼか…いや勝負の日だ、たぶんATSUGI……)
タブレットを“カランッ”と落とすのも計算のうち。
「す、すみませんっ!」
まどかもかがみ込んで拾いにかかり、目が合う。
「……なにをしようとしてるのかな?」
ネコ目でジャッジを下すまどか。
「ストッ……いやっ、タブレットを拾おうと……!」
すみれは即座に動揺。そんな彼女の背中に――
ドンッ!!
「いたっ!」
「すみれちゃん、いいからタクシー呼んできて」
「は、はいっっ!」
退場しながらも、まどかのパンプスがジミーチュウであることは忘れずチェック。
すみれ(やっぱり……ジミーチュウ……)
タクシー車内にて
まどかがタブレットを取り出そうとした瞬間――
ピロン♪
(やってしまった!マナーモード忘れてた!)
スマホ画面に表示されたのは、
「昨日はお疲れ様でした。」――陽太郎。
すかさずすみれが嗅ぎつける。
「誰ですか?今の」
「えっ? その……取引先の人っていうか……親戚っていうか……」
目が泳ぐまどか。
そのスキを逃さず、すみれがスマホを引き抜く。
「持ち物確認しまーす‼️」
「ちょ、ちょっとやめ……っ!」
すみれはロック番号も暗記済みであっさり解錠。
読み上げ開始。
「昨日はお疲れ様でした。楽しかったです。星綺麗でしたね。」
「やめてえええええ‼️」
ようやく取り返すが、すみれの目はハートマークでいっぱい。
「まどかさん……もしかして……不倫、ですか?」
その直後――
ギュッ!
シートベルトを外し、抱きつくすみれ。
「はぁぁぁ……夫の他にも好きな人がいるなんて……!!
まどかさんって、まさに色気で男を吸い寄せる魔性の女……‼️私もそんな風になりたいです‼️」
あきれ果てたまどか、でもその時、陽太郎の言葉がよぎる。
「星、綺麗でしたね――」
一方その頃――陽太郎の家
昨夜、夫婦喧嘩が勃発していた。
「ビールの缶、捨ててって言ってるでしょ!」
「靴下も脱ぎっぱなし、リモコンも定位置に戻さない!」
「私は帰ってきたらすぐエプロンつけて料理してるのよ‼️」
陽太郎は黙って聞いていた。
(テレビでは漫才番組。「判定は……ブー!」)
「分かったよ、ゴミ捨てくらいやるよ」
それだけ言って、寝室に消える。
そして、同時に。
別々の部屋で、2人の口から出たのは――
優子「翔太さん……」
陽太郎「まどかさん……」
そして、2人はスマホを手に取る。
会合後・再び仕事モード(?)
「次はプリエスタ社のプレゼンね」
「この時のリップはイヴ・サンローラン、チークはジルスチュアートですね。社長の顔が1.5倍輝きます」
「……(話が仕事とズレてる…)」
するとすみれが自分のスマホを差し出す。
「親愛なる陽太郎さんへ……」
「星が綺麗であなたの横顔が忘れられません……」
「また逢瀬を重ねて……」
「……なにこれ?」
「ラブレターの草案ですっ!参考にどうぞ‼️」
「いらないっ‼️」
スマホを取り上げて窓の外にポイッ。
「ぎゃー!まどかさーん‼️」
夜の返信
まどかは静かに、スマホを取り出し、短く打つ。
「星、綺麗でしたね。はい、楽しかったです。機会があれば、また会いましょう。」
すぐに返ってくる返信。
「今日会えますか?21:00、白木屋で。」
まどかはスマホをバッグにしまい、ふわりと微笑む。
一方バー「KJ」では…
オーナー・翔太の元に、優子からLINEが届く。
「昨日はありがとうございました。缶コーヒーのお礼がしたいです。今日会えますか?」
翔太は返す。
「もちろん。店やってます。名前はKJ。場所はここ。」
その店には、今夜どんなドラマが待ち受けているのか――
To be continued...