波乱のいとこ会。開始。
12月28日――会社が正月休みに入った。
いとこ会の日程は、1月3日の午後8時に決定。
陽太郎と優子は、その準備を整え、会場である白木屋へと向かっていた。
玄関の前で、優子はどこか浮かない表情をしていた。
「……苦手なんだ、こういうの……」
優子がうつむきながら言った。
「大丈夫だよ。ちゃんとフォローするからさ」
陽太郎は優しく声をかけ、彼女の背を軽く叩いた。
その言葉に、優子は少しだけ笑顔を見せる。
マンションのチャイムを鳴らすと、由美が子どもの桜ちゃんを連れて出迎えてくれた。
「いらっしゃい。ご無沙汰してますー!」
「おお、由美ちゃん。こっちこそご無沙汰。」
「いつも主人がお世話になっております……」と、優子もぎこちなく挨拶する。
由美はにこやかに扉を開け、2人を迎え入れた。
恒例のいとこ会。まずはお年玉タイムだ。
陽太郎はポケットからポチ袋を取り出し、桜ちゃんに手渡した。
「はい。おじさんからのお年玉だよ。」
「ありがとー!……あのお姉ちゃんからも、もらった!」
桜ちゃんが指差した先には、1人の女性――
しゃがみ込んでお年玉を配るその後ろ姿。
タイトスカートからのラインが、妙に目を引いた。
「きゃっ! ちょっと!!」
振り返ったのは、あの女――
山本まどかだった。
「見てたでしょ? わたしの……お・し・り」
「えっ……い、いや、違っ……」
「……手、伸ばしてたよね? まさか……触りたかった?」
まどかがウィンクを交え、からかうように囁く。
「陽太郎? ポチ袋ないのに、何手伸ばしてんの?」
優子の声で、陽太郎は我に返った。
まただ……現実に戻された。
(まさか……あの時のプレゼンの妄想が、まだ尾を引いてるなんて……)
しかし、それは妄想では終わらなかった。
「……君は……テクニカル・ソデックの佐藤陽太郎くん?」
「まさか……Power Windの社長、山本まどかさん……?」
「そう、私たち――結婚したんだよ。10月に」
と隣にいた男、翔太が続けた。
知っていた。付き合っていたことは。
だが結婚までしていたとは……
それも、ついさっきまで妄想の中で手を伸ばしていた相手が――
「大丈夫? 顔、真っ赤だよ?」
「おじさん、りんごみたい~」と桜ちゃん。
言われれば言われるほど、陽太郎の顔はさらに赤くなった。
「山本まどかです。陽太郎さんとは、会社のプレゼンでお世話になったのよね。」
まどかはあどけない笑顔でウィンクを飛ばす。
その視線を見た優子の目は……少し冷たかった。
乾杯のあと、料理と会話が進む。
ふにゅっ……肘が何か柔らかいものに触れた。
ハッとして隣を見ると、まどかがサラダを取り分けていた。
白ワインのグラス越しに映る、彼女の胸元と、指の動き。
(落ち着け……これはただの……親戚の集まりだろ……)
「SEO対策の時だよね。プロジェクター、刺さらなくてさ」
「ふふ、あれ本当に焦ってたもんね」
笑い合う2人の横で、優子が静かに席を立った。
「ちょっと、トイレ行ってくるね。」
「あ、ああ……」
その表情が、どこか寂しげだったことに、陽太郎は気づけなかった。
話題は再び仕事へ。
お互いに酒が進む。
「……よいしょっと」
まどかが椅子を引き、陽太郎の近くへすっと寄ってくる。
(これは……妄想?……いや、違う。これは……現実だ。)
まどかは左手を差し出し、薬指に光る指輪を見せてきた。
「翔太がくれた、結婚指輪。かわいいでしょ?」
小悪魔のように微笑むその顔に、陽太郎の鼓動が高鳴る。
「……陽太郎くんのは? 見せて?」
その目に誘われるように、自分の左手を見せる。
「ふふっ、なんだかお揃いみたいね」
まどかは、彼の指にそっと手を重ね、恋人繋ぎのように絡ませた。
その瞬間、周囲の喧騒はすべて遠のいていた。
ワイングラス、笑い声、親戚の談笑――すべてが薄れていく。
ここにあるのは、ただふたりの時間だけ。
……そしてその頃。
トイレに向かったはずの翔太が――
まっすぐ、廊下の奥にいる優子のもとへ歩いていた。