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カースドウェスタン  作者: フライング豚肉
十字架にかかるモノ
10/10

異能の一族

ハヅキを迎えてもやる事は変わらない。

賞金の為に人を殺し、今日もジョギーはビンゴブックを片手にシシーと荒野を駆ける。


「あぎっ!?」


胡乱な男が手にした肉切り包丁は空を切る。

かわしたジョギーはかわし様にその腕にボウイナイフを突き立て、


「へべ」


額に発砲。

男はたたらを踏んで下がり、どちゃりと伏す。

荒野に立つ簡素な小屋の前、リボルバーをくるりとホルスターに仕舞い、懐からビンゴブックを取り出してバツを付ける。


「『食人鬼カースン』っと。そんなに人が食いたきゃ地獄で続けときな」


そして耳を切り取り、指笛を吹く。

と、シシーが駆け寄って来てそれに跨るハヅキは転がる死体に息を呑む。

そんな事知った事かとジョギーは構わずシシーに跨り、ハヅキを膝前で揺らしながら近場の街を目指す。


「じ、ジョギー?」


ハヅキは小さく振り向いた。

そして後ろに流れて行く死体とジョギーとを見遣り、怯えた眼差しを送る。


「これが俺の仕事だ」

「しごと?」

「ああ、クソ掃除だよ。ここにゃ文字通り掃いて捨てるほどクソが転がってる。別に珍しくねぇ、賞金稼ぎなんざごまんといらぁ」

「……?」


人を殺して金を貰うと言う文化が無いハドゥーン。

そも、そんな文化は忌むべきものであり、当然と受け取る事こそが間違いである。

その齟齬を理解しないジョギーはやがて適当な街に辿り着き、酒場に入る。


「……らっしゃい」

「牛乳、二つ」


無愛想な店主に無愛想に答え、店主は訝しみながらもそれを出す。

小さな街故に人はそれ程おらず、きぃきぃと風に軋む音が響くばかり。

小さく厄介な荷物が増えても、どこに行っても色は変わらない呪われた新大陸の寂しさを体現した様な酒場。


「ねぇお兄さん、あたし買わない?」

「失せろブス」


擦り寄って来た娼婦を退け、葉タバコを吹かす。

そして店主を見た。


「おい、保安官は居ねえのか?」

「……隣町に出てる」

「チッ、ビクター以上にクソだな」


賞金を得るには至らないと悟ったジョギーはどうするか考える。

傍らのハヅキは時折何か言いたげにジョギーを見ながら牛乳を飲んでいたがジョギーは無視していた。

何故か苛立って仕方ない昨今、それを逆撫でする様に娼婦は酒場の人間に誰彼構わず声をかけている。


「おぉいバース!今日の分貰いに来てやったぜぇ!」


と、どかりと戸を蹴破る勢いで男が三人現れた。

見ると店主は怯えながら、ライフルを肩に置く男達を見ている。


「う、ウルフ…!も、もう無ぇんだ!ここにゃ何もねぇんだ!た、頼む!」

「あぁ?誰のおかげでここでやってけてるって思ってんだ?この『クレイジーウルフ』がチンピラ追い出しに居てやってっからだろが!ボケた事言う前にさっさと何か出せや!」


がっと店主に詰め寄る男。

どうやら搾取するチンピラらしい。

しかし、その名前を聞いてジョギーはコップを置いた。


「『クレイジーウルフ』…」

「あん?ンだこのカッペは?」


呟きを聞いた男はジョギーに寄る。

しかし構わずジョギーはくつくつ笑い、連れの内一人は訝しんで残りは額に青筋を立てる。


「何ニヤけてんだよ兄ちゃん。ここにテメェの席はねぇ。さっさと荷物置いて消えな」

「悪ぃ悪ぃ、思い出し笑いだ。クレイジーウルフ、ね?」


そして、懐から一枚のビンゴブックを取り出して見せる。


「奴さん、随分前に俺が三つ目の目ん玉プレゼントしてやったんだがな?」


そこには、クレイジーウルフのビンゴブック。

そしてそれにはばつ印がついていた。

ぶわりと冷や汗を流す男の後ろ、訝しんでいた男が何かに気付いてはっとなる。


「じ、『三つ目職人のジョギー』…!ポンチョを着た茶髪…!」

「大正解だ、チンピラ坊主ども…!」


言った瞬間、詰め寄っていた男のライフルを掴んだまま腹を蹴飛ばして後ろの男達にぶつけ、ライフルを奪ってレバーアクションを起こす。

そこに弾は無かった。


「あらら、弾切れか?じゃあ弾こめてやるよ」


ガンベルトの弾を装填し、じゃきりとレバーを起こして向ける。


「そら、火遊びにしちゃ過ぎてるな?これで撃てるぜ」


恐怖に引き攣る顔のまま男達は下がる。

偽物の賞金首に本物の賞金稼ぎ。

たじろぐ男達は、蹴飛ばされた男の背後の連れがわずかにレバーアクションの音を出す。


「チッ!」


間髪いれずジョギーは飛び出し、ライフルを奪われた男をまず殴り飛ばし、それを盾にライフルを構えた男の木の部分にボウイナイフを突き刺して剥がし、動転したその鼻面を蹴り飛ばした。

残された一人はへなへなと崩れ落ち、ジョギーはポンチョの汚れを払う。


「……大したもんだ。騙り屋のお前らも、騙されたお前もな」


静寂の酒場の中で言い、ジョギーは男を背後に座り直す。

そしてへたり込んでいた男は、


「な、舐めんなオラぁ!」

「!?」


ちゃっとリボルバーを構えた。

それだけは唯一弾があるらしく、狂気に呑まれながらもその銃口はジョギーに向く。


(っべ!本物持ったガキだったか!)


油断したと構えるが遅い、銃弾は放たれ、


「ジョギー!■■■■■■■■!」

「!?」


ハヅキが何かを叫んだ瞬間、銃弾がバリアの様な物で弾かれた。

呆気にとられる二人、しかしジョギーの復帰は早かった。


「ッ!」


リボルバーが火を噴き、発砲した男に三つ目の眼窩が開く。

復帰した残り二人は伏した仲間さえ見捨て、慌てて走り去った。

残されたジョギーは、リボルバーを仕舞いながらハヅキを見ていた。


(今のが……ハドゥーンの力ってのか?)


ハヅキは何か異能を発揮したのか、小さく肩を震わせながら両手を地に付け、やがて気を失って倒れた。

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