城田エレナ・女優@USA
「チッ!」
このクソガキ共。
城田エレナは舌打ちしながら、雑居ビルの狭い階段で足を止めた。
制服のネクタイをだらしなく緩め、タバコを吸いながら階段を占拠している3人の男子高校生。
その頭髪は色とりどりで、エレナはわずかに眼を細めると盛大に溜め息をついてハイヒールの踵を床に打ち鳴らした。
不良高校生め、どきやがれ!
カツンと乾いた音が響いたが、彼らの弾けるような笑い声にかき消され、エレナの存在に気付く者は誰ひとりとしていなかった。
……重い。
エレナが持って降りようとしている段ボール箱の中身は大量の服で、この雑居ビルの一階にオープンしたばかりの服屋『ジュリエット』の商品である。
エレナは、1日だけ親友が立ち上げた店『ジュリエット』のオープンセールの手伝いにきていたのだ。
二階に借りている事務所兼倉庫から商品を下ろす作業の最中、この邪魔な不良共に階段を占拠されてしまった。
早くどけっつーの!
エレナは階段の幅ギリギリサイズの段ボールを持ったまま、カツカツと踵をならして降り進むと、そこにたむろしている不良高校生に向かって言い放った。
「邪魔なんだけど!」
凛としたエレナの声がビルの壁に跳ね返って響き、3人のうち二人の男子高校生がエレナを見上げた。
「おーっとぉ!ゴメンネー、お姉さん。てゆーかうわっ、すっげー美人!」
「なに、オネーサン芸能人?!てかこのビル、上から人なんて降りてきたりするんだあ!」
バカか。
全く……もうひとり邪魔なヤツがいるんだけど。
エレナはあと三段で一階に着くという位置で、階段の真ん中に腰を下ろしたままの背中を見つめた。
「そこの銀髪のキミ、どいてくれない?」
エレナは背後から声をかけたが、男子高校生はピクリとも動かず、あとの二人はその状況を楽しむようにニヤニヤと笑った。
…はっはーん…バカにしてるわけだ。
大人、舐めんなよ。
エレナは大きく息を吸うと、片足を上げて銀髪男の背中のど真ん中をガツンと蹴った。
「ってぇっ!!」
「どけっつってんのよっ!」
「んだと、このブス!!」
床に膝をついたあと、体勢を立て直した銀髪男の横をすり抜けようとして、エレナはピタリと足を止めた。
ちょっと待て。
ブス、ですって?
階段にドサッと段ボールを置くや否やエレナは銀髪男に近寄って正面に立つと、その顔を見上げた。
……無駄に背の高い男。
それからおもむろに彼のネクタイを掴むと、グイッと自分の顔に引き寄せて、エレナは男のコンタクトレンズを入れたグレーの瞳を至近距離から覗き込んだ。
「ブスかどうか……よく見てから言ってもらえる?!」
「おい、大丈夫かよっ」
「蹴り入れたぞ、この女!」
銀髪男はチラリと仲間二人に眼をやると、静かに口を開いた。
「お前ら先に行け。後で合流な」
「おっけ」
「ここでこの女、食っちまうなよな!」
「いいから行けって」
「へいへい。後でな」
タバコを床にぶつけるようにして捨てると二人は外へと出ていき、後にはエレナと銀髪男だけが残った。
エレナは男子高校生のネクタイを掴んだまま、再び至近距離からその顔を睨んだ。
「大人をバカにすんじゃないわよ」
「…………!」
銀髪男は息を飲んでそんなエレナを見つめた。
「あんたさあ高校生でしょ?!親に金払ってもらって学校行ってる分際で何サボってんの?親の気持ち踏みにじるんじゃないわよ。カッコ悪いっつーの!」
「…………」
……カブる。不良で馬鹿な弟の玲哉と、凄くカブる。
エレナは眼を見開いて何も言わない男を見ていたが、イライラして更に続けた。
「私、アンタみたいな男が一番キライなのよね。世の中舐めんなよ!って感じ。しっかりしなさいよ!こんなところでサボってるなんて人生もったいないわよ?!夢とか、ないの?」
銀髪男はやっと口を開いた。
「……お前は……あるのかよ」
エレナは至近距離から銀髪男を見つめたまま、ニヤッと笑った。
「私は女優になるの。母国アメリカでね」
そう。
私の夢はアメリカで女優になること。
なってみせる、絶対に!
城田エレナ、二十歳と二ヶ月であった。




