076.峠を超え宿場町へ
要塞馬車が峠を上りきって少し下がった地点で、その日の移動も終了した。それまで三日間かけて来たが目的地まであと何日かかるのかを聞いたところ「五日」といわれた。この世界の一日は地球の二十六時間ぐらいらしく、タクヤもアサミも少しずつ生活リズムが狂っていたというか、なれるのに時間がかかっていた。この場合は時差ぼけというべきものなのだろうか。
「なんだって、生活のリズムが違うだと? まあ、そのうち慣れるだろう! なんだって、この世界の言葉をしゃべっているじゃないかよ! 知恵の実を食べただけでここまでマスターしているんだから、なかなか見込みあるよ二人とも」
そういって要塞馬車の老夫婦に褒められたが、いわれるとおりにいつの間にかこの世界の会話も読書も、何不自由なくこなしていることに気付いた。
要塞馬車が止まったのは、山道の途中の宿場町みたいなところだった。そこは宿屋や飲食店が街道沿いに立ち並んでいたが、変わった点といえば周囲が高い城壁のような石垣に囲まれているところだった。
「なあに、心配することは無い。この石垣は破局戦争直後の動乱時期に築かれたものじゃよ。いまでは、強い季節風から宿場町の家屋を守るぐらいにしか役に立っていないさ」
そうヴァリラディスは説明してくれたけど、この世界に来てからはじめて遭遇した多くの人々が生活する町であったので、いろいろと興味がわいていた。
この夜はヴァリラディスと一緒に出かけることになった。この外出がこの世界に来て老夫婦以外の人と会うはじめての機会だった。この時二人が目にしたのは様々な外観をした人々だった。それはまるでSF映画のワンシーンのようだったが、町の雰囲気は日本の明治時代ぐらいの感じだった。
電気による照明が街路を照らし、飲食店か酒場かはわからないけど、人々の楽しそうな声が陽気な音楽と一緒に広がっているのが聞こえていたけど、とても楽しそうだった。
「おじさん、これからどこにいくんだよ」タクヤがそういったが、ヴァリラディスはここよここよといわんばかりの勢いで、ある一軒家へと入っていった。




