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集団戦  蜘蛛は静かに待ち望む

 アラーネア視点


 「それじゃあ交渉を始めるの」


 メーサの背後で、ワシは侵入者達が何かしら不審な行動をとったらすぐ動けるように、それとわからないよう戦闘の構えをとりながらその交渉の宣言を聞いていた。

 正直に言えば、こんな交渉などしたくも無かったのじゃが、主殿の決めた事、ワシは大人しくその指示に従う。


 (もう少し早くワシに声をかけて下されば、あやつら全員巣に捕らえたものを)


 狂信者と戦って以降、鍛えに鍛えてきた自慢の糸は、見えないほどの細さでありながら、その強度は並大抵の力では切ることもできない。

 唯一の欠点として、その糸を拈出するのに時間がかかるということぐらいだ。


 (それにこの姿、ワシはこの姿が好きじゃないというのに)


 進化して人型の姿を持つ事ができたワシにとって、この進化前の蜘蛛の姿はあまり好きでは無い。

 進化前、蜘蛛の姿で体験したあの絶食という地獄を思い出してしまうし、人の姿になれた今、指がない足では細かい事ができず不便だし、何より味覚、嗅覚、などが人型をとった時よりも格段に落ちてしまうのがいただけない。

 これでは、串刺しにしたときにあふれ出る血の味や、あの恐怖に怯えた時に発する臭いなどを存分に感じることができずに、楽しさも生きているという実感も半減してしまう。(ちなみに視覚の方はこの姿の方が僅かに視野が広く、聴覚、触覚の方はあまり差異がない)


 (まぁ、主殿の言っている事もわかるのじゃがな。

 わざわざこちらの実力を相手に見せる必要も無い。ただの巨大な蜘蛛と思って侮ってくれたら儲けもの。全ては敵を欺くために)


 この姿を見せた時、言葉を発したのも欺くためだ。

 ただでさえ厄介な【隠密】を持つ敵、その敵が言葉をかわすほどの知能もある。

 それだけでかなり上級な魔獣の一種だと思い込む。

 弱いものはいつだって、自分より上の存在の底を知ろうとせず、思考をそこで止めてしまう。


 (ただ、何人かは思考を止めずにさらに警戒を強めたみたいじゃがな)


 それもまた策の内。

 そうやって警戒を強めたものは、要注意人物としてこちらも警戒を持てる。


 (あぁ、戦いたい。

 戦ってみたいものじゃ)


 視線は交渉をするメーサを向いているが、油断なくこちらの気配を窺っている者がいる。

 そいつらとなら、きっと狂信者の時の様な、生きていると実感が持てるような戦いができるはずだ。


 (じゃが、主殿からの指示じゃ。

 ここは我慢、ワシはメーサの護衛に専念せねばならん)


 こちらから仕掛けることは許されない。

 欲を出して、戦おうとすればヤードの二の舞になってしまう。


 (本来計画であれば、あやつが先鋒で敵の戦力を計り、次のエリアすなわちクロコディルの住処である泥地で、ワシとあやつ二人で全員仕留めるはずじゃったのじゃが)


 それをヤードが無駄に張り切り、戦いに夢中になり、しなくてもよい大怪我を負ったことから、計画を大きく変更することになった。

 もとから主殿は、この侵入者達を警戒しておった。

 今回ダンジョンに侵入してきた者達は、これまでに侵入して来た相手とは全然違う。


 『何かしらの目的、もしくは理由があるんだろうね。

 そういう奴らは、慎重で、ずる賢く、何より目的のためならどんな行為でも躊躇わずしてくるから、危険なんだよね』


 主殿はそう言っておったのじゃ。

 そしてその言葉にはワシも同意じゃ。


 (仲間のために、命を投げ出す者がいるのじゃからな)


 魔族達にとっても、自爆してまで自身の意志を通そうとした侵入者の一人は、弱い存在だったが、十分に強いと認めることができる者だった。

 強いものが偉いという、魔族達も認める強さ。

 だが主殿にとっては、そんな強さなど歯牙にもかけない。


 『確かにあの覚悟には感じ入るものがある。

 でも、感じ入るだけで別に脅威を覚えるほどじゃないよ』


 (強さは認めるが、そんな『一瞬』の強さなども恐くは無いらしいからの。

 ダンジョンに住む全ての者達の命を預かる主殿にとっては、そんな一瞬の強さよりも、長い目で見た『継続的』な強さを重視、求めているそうじゃからな)


 捨て身で栄華を刻むよりも、最後まで共にいられる千年王国(キングダム)を、か。


 (カッカッカッ、まこと良き主殿よ)


 いつまでも仲間全員でいたい。そんな主殿の思いが嬉しい。


 (あのセリフを言ったのが、敵の自爆を見て、ヤードの身を案じ、足を心配でガクガクさせてなかったら、ワシも危うかったのう)


 もともと主殿の事は気に入っていたが、下手したら巣に捕らえ貪り喰らいそうなほど心酔していたかもしれない。


 (もっとも、ムースにとっては足が震えているぐらい問題ないみたいじゃったがな)


 無表情ながらも、その瞳に恋する乙女の輝きを灯らせるムースを思い出す。

 ワシが心酔したら、きっとムースと楽しい会話(たたかい)をすることになるだろう。

 それはそれで面白そうだが、さすがにそれは望まない。


 (主殿がいて、仲間達が楽しく過ごせる。

 それが一番じゃからな)


 だから、それを崩そうとする侵入者達を許しやしない。


 (交渉が失敗すれば、すぐさまワシの出番じゃ)


 この交渉の結果によっては、すぐさま戦闘が始まる。

 主様の意向に沿って交渉で事が片付くのもよし、交渉が決裂し戦闘が行われるのも、またよし。

 どちらに転んでも、アラーネアには損は無いのだ。


 メーサの背後から、ワシはただじっと交渉の行く末を待ちわびる。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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