表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/103

集団戦  邪眼の魔族

 ダージン視点


 (これは、無理ですね)


 砂煙で姿は見えないが、鬼と犬の気配がここから遠ざかって行くのを感じ取り、鬼の命を落とすのを諦める。


 (犬の魔族には、上手く揺さぶりをかけられ始めていたんですけどね)


 言葉を使い上手く心を動揺させる、判断を鈍らせられ始めていたのに、目の前にいる幼女姿の魔族のせいで、少ない魔力と傷ついた体を鞭うち、何とか光明が見え始めた策を潰されてしまった。


 (さて、これからどうしましょうか)


 新たなに姿を見せた幼女姿の魔族。

 無傷のあちらに比べ、心身ともにボロボロの私では相手にならないだろう。


 (先程犬の魔族にやったように言葉で揺さぶる……、いえ、この幼女魔族には揺さぶりをかけようとするだけ無駄でしょうし)


 外見で目の前の魔族を幼女と呼んだが、見た目通りの年齢だと思ってはいない。

 魔族を相手に、パッと見の外見の特徴などほんの一部しか当てにならない。

 いきなり背中から羽が生え飛んできたり、腕が増えたり、口から触手を吐きだしてくるなど、見かけではわからない攻撃をしてくるものも少なくないのだ。

 だから魔族と戦う時に、注意するのはその中身。


 (軽く様子を見るために仕掛けてみた口撃(・・)に対してあの反応、言葉づかいは子供っぽいけど、間違いなくこの魔族は頭が切れる。

 肉弾戦を仕掛けてきた鬼とは違い、後方から支援や魔法を使って戦う魔族でしょうね)


 短い会話から、素早くそこまで分析する。


 (なら、ここは無理に戦おうとせず、引かせてもらうとしましょう)


 犬の魔族と2体1の状況になったにもかかわらず、こちらを攻撃してこなかった事を考えると、ここで私が逃げるために後退しても追っては来ないはず。

 そう判断し、ゆっくりと後ろに下がる。


 「あれ?メーサと戦わないの?」

 「えぇ、あなたが来る前にたくさん戦いましたからね。

 これ以上は遠慮しますわ」

 「老体には、あの程度の運動でもきつかったんだね」

 「あなたにとってあの程度だったのかもしれませんが、仲間を二人も失い、他の仲間も大小数々の怪我をするような運動は、私に限らず人間にとってかなりきついものなのですよ。

 決して私の年齢のせいではありませんから、そこは間違えないで下さいね」


 そうですとも、まだ私は華の女盛りなのですから。

 決して歳のせいなので疲労が早いわけでは無いのです。そこだけはしっかり訂正しておきます。


 「ふ~ん、そうなんだ。

 メーサ他にも何人かの人間と戦った事あるけど、他の人間達もすぐに疲れてたもんね。

 ほんと人間って弱いの!すっごく弱いの!!」


 可愛らしく満面の笑みを浮かべて幼女は毒を吐く。

 そして、幼女魔族の言葉は人間にとって否定できない、紛れも無い事実だ。

 一部の人間を除けば、人間って種族は弱い。

 でもその弱さがあるからこそ、強くなれる。


 (弱さを知っているからこそ、私達は強くなれるのですよ)


 そう心の中でつぶやき、ゆっくりと後ろに下がろうとして異変に気付く。

 下がろうとした足が動かない、いや全身が動かない。


 「どうしたの?後ろに下がらないの?」


 笑みを浮かべた幼女魔族がきいてくる。


 「それとも動けないの?」


 その言葉と、獲物を捕らえたかのような捕食者の目で確信を持つ。

 この幼女魔族が私に何か仕掛けたのだ。


 (一体何をされました?魔法?いえそれは無いはず、彼女が現れてから魔法を使われないように警戒していました。魔法をかけたそぶりは無かったし、魔力も変動が無かった。つまりこれは魔法によるものでは無い。

 だとしたら、何かしらのスキル。

 動きを止めるスキルはいくつかある【影縫(シャドークリップ)い】、【石膏(デッサンモデル)】、【筋肉讃歌(ポージング)】でもこういったスキルは条件として、相手に一度接触しないと発動しない。

 私は一度として彼女と触れていない、なら他のスキル。

 体に触れず、こんなことができるスキルで考えられるのは……)


 「逃げようとするときは、相手の挙動に注意しないといけないの。

 つまり相手をよく見るってこと、それならメーサにとってこれ以上ないほどスキルをかけやすい状態なの」


 こちらを見る幼女魔族の目が、爛々と輝いている。


 「じゃ…、邪眼も……ちですか」


 邪眼。

 相手を見ることによって発動するスキルの総称をこう呼ぶ。


 「そうなの。メーサの目は相手の動きを止める【石化(ストーンアイ)の瞳】なの。

 でも大丈夫、力を弱くしてるから身動きは取れないだろうけど死ぬことはないの」


 その言葉と共に幼女魔族の瞳は私から外れ、私の後ろ通路の出口の方に向けられる。

 それまで普通だった彼女の髪が不気味にうねり、一本一本が細長い蛇となり、通路の先に向かってシャーシャーと威嚇の鳴き声を上げる。


 「でも、それはそっちが何もしなければの話なの。

 どうする?メーサと戦う?それとも交渉でもする?」

 「…そう聞いてくるからには、無意味に戦わずに、交渉する余地があると考えていいんだな」


 後ろを向けないので姿は見えないが、その声を聞いて安心する。


 「俺はこれ以上仲間を失いたくない。

 交渉で問題が解決するなら、そうしようじゃないか魔族よ」


 私達の隊長達が駆けつけてくれたんだ。




 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇



 コウラ視点


 俺は視線を幼女魔族から離さないまま(もちろん邪眼対策として、邪眼抵抗の力を持つ魔道具を発動させている)、静かに後ろで武器や魔法を使おうと構える隊員達に、武器を下ろすように指示を出す。

 部隊の仲間は、目の前に敵がいる中で武器を下ろすことに躊躇いを見せるが、身動きがとれないダージンの姿と、俺が任せろと大きくうなずくのを見て、指示に従い武器を下ろす。


 ≪コウラ隊長、ジャスミがブラウンの遺体を確認したそうです≫

 ≪…そうか≫

 ≪ウーロンさんは酷い重症ですぐに手当てしないと命の危険性があります。ミントとウオッカの二人は、全身に傷を負い爆発の衝撃で気を失っているようですが、幸い命の心配はないようです。

 それと…、やはりこの部屋の何処を見渡してもペッパーの遺体は無く、それと思われる肉片が散らばっているとのことです≫

 ≪わかった。

 部隊の仲間全員に不用意に動かないように連絡をしておいてくれ、これ以上俺は仲間を失いたくない≫

 ≪了解です≫


 相手にばれないために、【念話(トーク)】を使える部下が直接頭に声を送ってきた。事前に【遠見(ロングアイ)】と【透し】のスキルを使えるジャスミに、部屋の様子を素早く確認してくれと指示を出していたおかげで、先に部屋に進んだ第一小隊の様子を把握することができた。


 「武器は全員下ろした、これでこちらに戦意が無いとわかってくれたか」

 「確認したの、それじゃ交渉を始めたいと思うの」

 「待ってくれ。その前に仲間の治療をさせてくれ、仲間が今どんな状況か分からないが、あんな爆発があったんだ無事だとは思えない。

 すぐに傷の治療をしないと命の危険があるかもしれない」


 隊員の状況はわかっているが、あえてここは何もわかっていない振りをしてそう言う。


 「そんなのメーサの知った事じゃないの。

 仲間の事が心配なら、サッサと交渉を始めた方が賢明なの」


 (チッ、仲間の命がかかっているっていうプレッシャーを与える気か)


 こちらが圧倒的な不利な条件で、交渉しようとしてくる。


 (それも仕方ねぇか。

 ここはこいつらの巣だ。そんな所に無遠慮に入ってきたのは俺達の方だからな、最初っから不利なのは当たり前か。

 だが、もう一つの方は飲んでもらうぞ)


 「わかった。だが交渉をするためにこっちは戦意がないことを示すために武器を下ろした。

 ならそっちも戦意がないことを示すために、隠れている他の魔族を下げさせてくれ」


 俺の言葉に、始めて幼女魔族の表情が変わる。

 【念話(トーク)】では、ジャスミから隠れている魔族についての報告は無かった。

 ジャスミのスキルは信用している。

 だが俺のスキル【直感】が働きどうも首がうずいてしまう。

 そこで一つカマをかけてみたわけだが、


 (どうやら当たりのようだな)


 首のうずきが止まり、俺のカマが当たっていた事を証明する。

 そしてそれはつまり、ジャスミのスキルでもわからないほど優れた者がいるということでもある。

 それを証明するように、いつの間にか白い大蜘蛛が俺達のすぐそばまで接近していた。


 「なんじゃ、上手く【隠密】で気配を消しておったと思うのじゃが。

 はてさて、ワシの【隠密】が未熟じゃったのか、それともお主らの中に優れた気配察知のスキルを持ったものがおるのか、なかなか微妙な所じゃな」


 大人の背丈と変わらないほどの大きさなのに、声を出すまで誰も近くにいた大蜘蛛に気づくことができなかった。

 白い蜘蛛はこちらを観察するように、紅い八つの目でじっと俺達の事を見つめる。

 感情が浮かばない、無機質な紅い目に思わず背筋に冷たい汗が流れる。


 「アラーネア、彼等に戦闘の意志は無いの。だから下がってて欲しいの」

 「わっかた、わかった。

 そう急かさんでも、すぐに下がるわ」


 幼女魔族に言われて、白い蜘蛛は俺達のそばを離れる。

 その際小さな声でこうつぶやく。


 「お主がこの人間どもの隊長じゃな。

 なかなか強そうじゃし、すぐに武器を下げた判断もなかなかのものじゃ。

 もし、仲間が死んだ事で判断力を失い、ワシらを襲ってこようとしておったら、今頃ワシの巣に捕らえられ、泣き叫び、命乞いをする未来しかなかったじゃろうからな」


 カッカッカッと牙を鳴らしながら、白い蜘蛛は幼女魔族のそばまで下がっていく。


 「それじゃあ交渉を始めるの」


 その言葉を合図に、俺達の最後の戦いが幕を開けることになった。


最後までお読みいただきありがとうございます。

評価やブックマーク、感想などいただけると嬉しいです。


皆様のおかげでブックマーク500人達成できました。

この作品を書き始めて早一年、これからも頑張っていきたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ