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集団戦  接触

 コウラ視点


 「諸君おはよう。

 一晩ダンジョン前とはいえ体を休めたんだ、体調の方は大丈夫だろうな?」


 早朝、朝食を食べ終わり装備を身につけ整列した隊員の前に立った俺は、軽い感じでみんなに声をかける。

 そうして声を掛けながら、整列している隊員の顔を窺いそれぞれの状態を確認していく。


 (顔色を見る限り、緊張してか不安だったのか分からないが十分に休めなかったって奴らが6割ってところか。

 まぁ、ダンジョン前で一夜を明かしたんだ。こんな状況になれてない奴にとっては、体力的にはどうにか休まる事が出来ても、精神的な負担は結構あったんだろうよ)


 コウラ自身は幼い時から、故郷の村のそばにある森から凶暴な獣や魔獣が昼夜問わず出てくる環境で育っていたために、これぐらいの状況では精神的に負担にならず、しっかり体を休めることができ、体力、気力ともに万全の状態だ。

 同じように、スラムで育った隊員や経験を積んだ中年の隊員などの4割もこれぐらいでは負担など無かったのだろう。やる気に満ちた表情をしている。


 (やる気が満ちている奴らは良いが、不安が残っている連中をこのままダンジョンに進ませるわけにはいかないな)


 不安ってやつは厄介で、普段なら失敗しないような行動で失敗し、注意力が散漫し、思わぬ出来事があった場合正常な反応ができなくなってしまう。


 (一人の時はそいつの一人のせいだが、周りに味方がいる場合足を引っ張ることになるからな、ここは一つ不安を上書(・・・)きするとするか)


 そう決めると、それまでの軽い調子の気配を消し、戦場に立つような殺伐とした気配に変える。

 その気配の変化を感じ、隊員達の表情も一気に引き締まる。


 「これから俺達はダンジョンに挑む。

 最初に言っておくが俺達のドリンク隊に与えられている命令は、ダンジョン内にある宝を持って帰ることだ。魔物との戦闘はあくまでそのための過程にすぎない。

 だから無駄な戦いはしない、無駄な戦いをして怪我などしないように、ましてや命を落とすような事が無いように、戦いを避けられるなら避けていく」


 命を落とさないように戦いを避ける、その言葉に不安そうにしていた隊員数名の表情が明るくなる。

 しかし、まだ俺の話は終ってはい無い。


 「だが、必要とあればみんなには命を掛けて戦ってもらう。

 その際に傷を負うもの、犠牲になるものも出るだろう。

 だがそれらは全て俺達に与えられた命令をこなすためだ。

 全員、覚悟を決めておけ!!」

 「「「 了解!! 」」」


 隊員全員が声をそろえて返事をする。

 犠牲と言う言葉で再び不安そうな表情に戻った隊員も、周りの隊員につられるように腹から無理やり声を出して返事をしている。

 そうして腹から声を出したことによって、やる気が出てきて不安を押しつぶす。


 (どんなに不安そうにしていても、ここにいるということは覚悟をしてきたということだ)


 覚悟が無い奴は最初からここになど来ずに逃げ出している。


 (だがいざダンジョン入るとなると、どうしても不安から覚悟が鈍ってしまうからな)


 俺がダンジョンに入る前に脅しのような言葉をかけたのは、そう言った不安で覚悟が鈍っている隊員に改めて覚悟を決めさせ腹を括らせるためだ。


 (無理やり気合を出させて不安を誤魔化すなんて騙しているようだが、これも犠牲を少なくさせるって言う隊長の責任だからな)


 そっと返事をするときに一番初に腹から声を出した隊員に視線を送ると、その隊員は作戦が上手く行ったかのようにニヤリと笑う。


 (事前に事情を話してサクラを仕込んでおいて正解だったな)


 コウラも作戦がうまく行ったと、バレないようにニヤリと笑う。




 改めて隊員全員の覚悟が決まったところで、今後の作戦について説明をする。


 「以前ダンジョンに挑んだ事がある奴ならわかっていると思うが、最初のダンジョンの通路はかなり狭い。

 大体人が二人並んだらいっぱいいっぱいだ。

 そこで、人数をA班、B班、C班と三グループに分け、グループごとに一定の間隔を開けながら進んでいくことにする」

 「みんなで一列に並んで進まないんですか?」

 「こうも狭い場所だとみんなで並んで進んだ場合逃げることもできなくなるからな、何か起きた場合の事も考え、少しでも危険を分散するためにグループごとで進むんだ」


 そう説明した後、21名の隊員を三グループに分けていく。

 一番先頭を進むことになるA班はウーロンがリーダーになってもらい、危険察知や足が早い隊員をメインとした斥候型の班。

 次に進むのがB班、リーダーは俺が務め全体の様子を見ながらA班やC班に指示を出していく。

 最後に最後尾になるC班、リーダーはガタイの大きいヘプシが務め、後方からの奇襲を注意してもらいながら、いつでも後詰ができるように遠距離攻撃ができる隊員がメインになっている。


 「それじゃ行くぞ!!」


 こうしてドリンクの面々はダンジョンへ足を踏み入れ進んでいく。






 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇


 ホウジー視点


 (う~、やっぱりダンジョンは怖いニャ)


 ダンジョンの先頭を進むA班、その中でもさらに一番前を進むホウジーはあたりを注意深く窺いながら前に進んでいく。

 茶色の短い髪にクリっとした大きな目、そして周りの隊員に比べてかなり幼いホウジーだが、その索敵能力は隊員全員から信頼されていた。


 (前に来た時も思ったニャけど、この壁に描かれている蛇の目の絵が邪魔ニャ)


 罠が無いか注意深く探っていると、つい見られているような気がして集中力が途切れてしまう。

 今のところ罠などが無いからいいが、このままではいつか見落としてしまう可能性がある。

 ホウジーは途切れた集中力を回復させるために、目頭を指で押さえ後大きく背伸びをして気持ちを切り替える。


 「大丈夫ですかホウジー」


 そんな姿を見て後ろからリーダーであるウーロンさんが声を掛けてくる。


 「ニャハハ、大丈夫ですよ。

 少し集中力が切れかけただけです、もう切り替えましたニャ」

 「そうですか、ですがあまり無理はしないで下さい。

 あせってもいいことなんてないんですから、疲れたら休息を取りますのでいつでも言って下さい」

 「ありがとうございますニャ」


 笑顔で返事した後に、再び罠が無いか調べ出す。


 (あんな言葉を掛けてくれるなんて本当に嬉しいニャ。

 私みたいな奴にそんな言葉掛けてくれる人なんていなかったからニャ)


 先程のウーロンさんの気使いの言葉を思い出し、嬉しさのあまり頭上にある耳がピクピクと動いてしまう。


 (それに周りの人達もとっても優しいニャ)


 同じ隊員の仲間は、集中して罠を調べるために無防備になっている私を守ろうと、奇襲がいつ起きてもいいように周りを固めてくれている。


 (こんな私でもみんなのために頑張るニャ)


 人間の母と、獣人の父との間に半獣(ハーフ)として生まれたホウジー。

 両親が健在だった幼初期はそれなりに幸せに暮らしていたのだが、事故で両親が亡くなった後辛い生活を送ることになった。

 両親は駆け落ちだったため身寄りが無かったホウジーは、住んでいた家を追い出され、行く場所が無く流れるようにスラムで生活することになった。

 スラムの生活は厳しく、生きるために残飯をあさり、時には盗みを働き食べ物を得て、寝る場所は雨露を何とかしのげるようなボロボロの木材を寄せ集めた場所で寝起きをしていた。

 成長していくにつれ獣人である父の血が強くなり、身体能力が他の人間よりも高くなったおかげで盗みなどしやすくなったが、所詮その場しのぎの生活には違いなかった。

 そんな生活から脱却したくて、ホウジーは高い報酬と身分を問わないこの隊に入団したのだ。


 (スラムにいた時は一人だったニャ、でもここでは一人じゃないニャ)


 両親がいた時のような温かい気持ちをここでは感じる。

 隊員達はそれぞれ事情があるものばかりだったため、幼くしてこの隊に来たホウジーを皆可愛がってくれたのだ。


 (さて、ここまで罠は無いニャ。

 ここまでは以前と同じニャ)


 前回来た時も、罠らしきものは一切無かった。


 (ここからが本番ニャ)


 あらためて気合を入れ直して、獣人の血を活かして五感を研ぎ澄ませる。

 半獣とはいえ、そこは立派に獣人の血を引いており人間とは比べようもないほど鋭敏な感覚を持つ。


 (罠は無しニャ、さて次はっと)


 罠が無いのを確認して足を前に出したとき、前方に異変を感じた。


 (なんニャ、罠は無いはずなニャ)


 見える範囲には罠らしきものは一切発見できない。

 だが五感が前方の変化を察知する。


 後ろから空気が流れていくのを肌で感じる。

 耳が遠くの方で何かを吸い込む音を聞きとる。

 鼻が僅かだが、それまで感じなかった臭いを嗅ぎ取る。


 そして何より、獣人としての本能か、人間としての本能かわからないが、とにかく本能が危険を訴える。


 「敵ニャーーーーーー!!!!」


 大声で敵の存在を訴えた瞬間、前方まだ見えないダンジョンの奥から敵の攻撃が襲ってきた。




 ウワバミとドリンク。

 彼等の接触は、ウワバミによる奇襲によってもたらされた。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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