団体さんが来られたようです
DDMの黒は、最近ようやくゆったりとした朝を迎えられるようになっていた。
先日襲撃してきた狂信者のせいで荒れてしまったダンジョン内の環境、傷ついてしまった多くの仲間の治療、今後来る可能性がある狂信者を上回る実力者への備え、それらの対応を狂信者撃退後すぐに取りかかり、一週間ほどずっと働き詰めだったのだ。
だがその働き詰めのおかげで、ようやく安定したダンジョン生活の見通しも出来てきたので、最近は以前と同じようにぐっすりと寝て体を休ませ、朝は気持ちよくゆっくりと起き一日の始まりを迎えていた。
今日も昨日と同じように、朝まどろみから目覚め始ようとしている頭に、扉の向こうからムースが作る朝食の良い匂いが漂ってきて、その匂いに釣られるようにゆっくりと意識を覚醒させていく。
そんな変わらない朝を迎えるつもりだった。
そう、だったのだ。
現実はそう都合よく行かない。
ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!
「っっっ痛ぇ!!」
まだ覚醒しきっていないまどろみの中にいた最中に、突如頭の中に連続して【侵入者警報】が鳴り響く。
それにより強制的にまどろみタイムが中断され、無理やり意識を覚醒させることになった。
「ざっけんな!こんな目覚ましいるかーー!!」
寝起きは良い方な黒でも、さすがにこんな風に無理やり起こされると怒りがわいてくる。
跳ね起きたままの姿勢で、怒りのまま思いっきりベットに拳を叩き付ける。
「マスター、何かありましたか」
怒声が聞き付けたのだろう、朝食の準備をしていたムースが、包丁片手に慌てて部屋に飛び込んでくる。
その包丁とエプロンには、朝から肉を調理していたせいか紅い血が付いていており、寝起きの状態で見るには少々刺激的な姿となっていた。
「大丈夫だムース。
ただスキルが発動して、無理やり起こされただけだから。
それよりまだ朝食の準備中だろう。急いで朝食を作ってくれないか。
朝早くから来た不作法者の侵入者達の相手をしないといけないみたいだからね」
「畏まりました」
頭を下げムースはすぐに朝食を作りに下がる。
黒の方は赤い血が付いたムースを見たせいで怒りが治まり、すぐにこれからの事について思案し始める。
(まずは侵入してきた奴の確認からだな)
侵入してきた者を確認するために、モニターがある部屋に向かう。
今も鳴り響いたスキルのせいで頭が少しズキズキし、手で額を押さえてしまう状態だが、今はそんな状態など気にしてなどいられない。
(俺は侵入者警報の音は最低限にしていた、それなのにこんなに音が鳴り響くなんて……。
よっぽど強い奴が侵入してきたのか?)
【侵入者警報】は強さによって鳴る音の強さが変わるように設定していた。つまり頭を痛めるほど音が鳴り響いたということは、かなりの強さの敵が侵入してきたのではないか?
危機感を募らせながら、ダンジョンに侵入してきた者をモニターに映す。
そして、そこに映った光景を見て黒は思わず顔が引きつってしまった。
「あぁ、なるほど……。
侵入者警報があんなにも鳴るはずだ」
モニターに映っていたのは何十人という同じ制服を纏いった人間が、武器を片手にダンジョンを進んでいく光景。
4,5人のチームでダンジョンに挑んでくる者はいた。
だからいつの間にか、ダンジョンに挑んでくる者達は多くても一度にそれくらいの人数だと思っていたのだ。
「強い奴が現れたからあんなに鳴ったんじゃなくて、集団で入ってきたせいで連続で警報が鳴り響いたって訳ね」
連続して入ってきたせいで侵入者警報があんなにも鳴り響くことになったのだ。
「しっかし、今度は団体様が相手か……」
想像していなかった人数でのダンジョン侵入に、急いで今後の対策を考え始める。
今後の対策の中で黒は一番初にあることを決めていた。
「無理やり目覚ましてくれたんだ。
そのお礼はしっかりさせてもらうぞ」
寝起きはいい黒でも、あんな起こし方をした相手は許すことはしない。
それからすぐに通信を使い、ダンジョンの主要メンバーを集める。
まぁ通信を使わなくても、朝食の時間になればみんな自然に集まってくるのだが、今回はいつもより早めの朝食にするので通信を入れ集めたのだ。
「みんなおはよう。
食べながらでいいからまずはこれを見てくれ」
朝食の席に付いたみんなに、モニターを付け現在ダンジョンに侵入してきている連中の姿を見せる。
ちなみにだが今日の朝食はいつも通り、ステーキに、唐揚げ、ハンバーグなど朝から重い献立となっていた。
(それでも黒以外はそれが普通の様で、ペロリと食べるのだが)
「すっごいの、ダンジョンに人がたっくさんたっくさんいるの!!
大量なの!!殺し放題なの!!」
「こりゃまた団体さんで……」
「今後の事を考えると、忙しくなりそうでござるな」
モニターを見たメーサ達はそれぞれの感想を口にするが、その中には誰一人として負けると思っているものはいない。
(狂信者との戦いを乗り越えたおかげかな。生き残った事で自信がつくのはいいことだ)
たとえ何もできずにボロボロにされたとしても、生き残ったという事実が彼等に自信をもたらす。
弱肉強食の魔族にとって生き残るという事はそれだけで力なのだ。
「まぁ見てわかる通り今回相手するのは団体さんだ。
総勢21名の人間、しかもそれぞれがしっかりとした装備をしていて、何が起きても対処できるように色々な道具も準備もしているように見受けられる」
装備を見ると剣や槍、盾に弓など各自の得意な武器を持っており、その使い込まれた感じから彼等が素人では無いとわかる。
背中に背負った袋の中身はモニター越しではわからないが、その膨らみ具合とここまで準備万端の様子を見れば、ダンジョン挑戦に必要と考えられる物をいろいろ持って来ている事が想像できる。
何より黒が、注目したのはその行動だ。
「あれだけの人数がいて、行動に乱れが無い。
よっぽど普段から訓練しているか、もしくは指揮官がいいんだろう」
人数が増えればそれだけバラつきが出てくる。
それなのに彼等はそのバラつきが少ない。
「おそらく両方だろうな。
列の中心にいるあの男が一番上だろうよ、良い指揮だ」
モニターを見ていたヤードが、一人の男を指してそう評す。
「訓練していても、どうしてもバラつきは出てくる。
それをいかに少なく、いかに修正するかが頭である指揮官の役割だ。
あの指揮官はそれがしっかりできてる」
「そうでござるな。
しかも足運や重心の取り方を見ると、指揮だけでは無く個人的な腕の方も相当に立つで御座るな」
スーラも中心にいる男の実力を高く見る。
二人の意見に黒も同意見だ。
「腕の立ついい指揮官にまとめられた集団か……。
下手に戦おうとすると負けるかもしれないな」
「そんなことないの!!」
負けかもといった瞬間、メーサが大声で否定する。
「メーサ負けないもん!!
今度はぜったいぜったい負けないもん!!」
握り拳を固く握り、強い意志の宿る目で黒にそう宣言をする。
今度はそんな言葉が出てくるってことは、メーサの中でまだ狂信者に負けた事を引きずっているのだろう。
「わかっているよ。
俺達は負けない、絶対に勝つ。
そうだろう?」
「うん、勝つの!!」
優しく頭を撫でながらそうメーサに聞くと、メーサは元気よくそう答える。
「それで、何か策を考えているんだろう?」
「あぁ、今回はウインドウルフ達の通路での奇襲は多分出来ないだろうからね、一から策を考え直したよ」
基本戦力を削って削って安全に確実に倒していくという戦い方をしている黒にとって、狭い通路を活かしたウインドウルフやシャドーウルフの奇襲作戦はおおいに役にたっているのだが、今回は狭い通路を埋め尽くすようにいるあの集団相手だと、奇襲も上手くいかないと判断してやらない事にする。
「それではどう戦っていくで御座るか?」
「まぁそこは環境を生かしつつ、広い場所で戦っていくことになるだろうね」
「それはつまり総力戦になるって事かい?」
数で攻めてくる相手に、こちらも数を当てる。
それは戦における基本的な対応かもしれないが、こちらの戦力でまともに正面から戦える人数を考えるとそれはできない。
(現在まともに戦えるとするなら、ヤードにスーラ、それにメーサあとはそれぞれの眷族達になるか、アラーネやクロコディルが万全の体調なら正面から戦うのも考えたかもしれないけどね)
負けるとは思わないが、それなりの被害も出る。
そう判断し考えていた策を説明する。
「いや、今回もいつも通り削りながら戦っていくよ。
ただし、無傷では済まないと思う」
安全に戦いたいと思っているが、そう上手く行くとは思っている。
特に今回の相手の様に、準備を万全に整えてきた相手に無傷で勝てるなど微塵も思っていない。
「それじゃ、説明するね」
そう言い黒はこれからの作戦について説明を始めた。
奇しくも、黒の考え方は侵入してきた団体の隊長コウラと似ていた。
片方は戦力を削るために策を弄し、片方は削りに来る事を予想し減らそうと知恵を絞る。
会いまみえる前からすでに戦いは始まっていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
評価やブックマーク、感想などいただけると嬉しいです。
番外編を削除させていただきました。
今回の章が終わったら改めて書き直し載せたいと思います。
また78話から82話まであった閑話をまとめて2話にしました。
これからもこんなことがあるかもしれませんが、よろしくお願いします。




