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巣に捕らえられた獲物は……

 蜘蛛の糸、一見細いその糸はその細さに比べかなりの強度を持っている。

 もしも蜘蛛の糸の太さが鉛筆ほどあったならば、飛んでいる飛行機ですら捕らえることができると言われている。

 そして現在、人型になったアラーネアが作る糸はそんな強度をはるかに超えた物になっている。


 「な、なんだこれは!!

 何が?何が巻き付いている」

 「クックックッ、今お主の腕に巻き付いておるのはワシが作った糸じゃよ」


 見えない糸に両腕を上げた状態で縛られた狂信者は、必死に糸を解こうと暴れるがびくともしない。


 「クソ、クソ、クソがぁーーーーー!!!!!

 なんだよこの糸、ちっとも切れねぇじゃねぇか!

 普通蜘蛛の糸ってぇーのは簡単に千切れるもんだろうがよぉ!!!!!!」

 「阿呆が、ワシが普通の蜘蛛に見えるのか?」


 親指で自身の体を指しながら、暴れる狂信者を見下ろす。


 「いつだ!

 いつ俺の腕にこんなクソ糸巻き付けやがった!!」

 「ワシは巻き付けてなどおらぬよ。

 糸は元からそこら中に張っておった。

 それにお主が勝手に絡まっていっただけじゃ」

 「なんだと……」


 アラーネアの言葉に罵倒に近い言葉を浴びせかけていた狂信者の言葉が止まる。


 「見えんかったじゃろう?気付かんかったじゃろう?

 お主の腕に巻き付いているワシの糸は、細さは髪の毛よりも細いが、強度は普段の何倍もの強度を誇る特別製の糸じゃ。

 その糸をこの部屋にいたる所に張り巡らせておった。

 たとえドラゴンであろうと、この部屋に張り巡らせた糸に翼を縛られたのなら飛ぶことはできんじゃろう」


 胸を張ってそう誇る。


 アラーネアが持つスキル【糸作製】、【強靭化】、【捕縛】、【蜘蛛の巣】。

 【糸作製】は体内で糸を作るスキル。

 【強靭化】は体内で作られた糸を時間をかける事で鍛える事ができ、普段と同じ細さで何倍もの強さを増す事ができるスキル。

 【捕縛】は獲物を捕らえる事でさらに強度が上がるスキル。

 【蜘蛛の巣】自身を中心に糸を張り巡らせ、獲物がかかるのを待つスキル。張り巡らせた糸は獲物がかかるまで発見されにくくなる。

 それらのスキルを全て使い罠を張っていたのだ。


 仲間が命懸けで稼いだ時間で鍛え上げた罠は一度捕まれば抜けることなどできない。

 アラーネアはそう自信を持っていたし、さらに念には念を入れて腕が動かない狂信者にさらに糸を巻き付けておくことも忘れない。


 「これでもう体は自由に動かせんじゃろう」


 張り巡らせていた糸を回収し、身動きが取れないように糸を体に巻き付け、動きを封じる。


 「なっ、なっ、なんて事しやがるんですかこの化け物蜘蛛が!!

 テメェみたいな化け物が私の体の自由を奪うだと?

 ふざけるな!!!!!

 さっさとこのクソ忌々しい糸を解きやがれ!!

 そしたら私が御礼として首を綺麗に斬り落としてやるよぉぉぉぉ!!!!!!」


 身動きが取れない状態で、裕いつ自由に動く頭を激しく揺らし狂信者がアラーネアに向かって喚き散らす。

 その戯言を耳にして糸を巻き付けたアラーネアだけではなく、近くで警戒していたヤード達も顔をしかめる。


 「この状態でまだそんな事言うか……」

 「やすがは狂信者、頭のネジがぶっ飛んでるのう」

 「もうこいつうるさいから、とっとと殺ろう」

 「そうじゃな」


 クロコディルの言葉に一も二もなく賛同する。

 さすがにこれ以上わけもわからない戯言を耳にしていたくない。

 ヤードは愛刀を、アラーネアは鋭い脚を、クロコディルは巣の鋭い歯が生えた口を大きく開き、三人一斉に狂信者を仕留めにかかる。






 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 神界のとある部屋


 たくさんの美男美女の天使に囲まれたこの部屋の主は楽しそうに目の前にあるダンジョンの様子を映したモニターを見ていた。


 「うふふ、まったくアレ位で勝てる気でいるなんて…………、なんて哀れで可愛い子たちなのでしょう」


 モニターに映っているのは、自身が加護を与えて人間と、それを取り囲む魔族達。

 そして今加護を与えた人間の命は、取り囲んだ魔族達の攻撃により風前の灯となっていた。

 だがそんな絶体絶命の場面を見ていても、部屋の主の笑みは崩れない。


 「私がただ哀れに思ったから、あの人間に加護を与えたと本気で思っているのかしら?

 うふふ、そんなつまらない理由で私が加護を与えるはずないのにね」


 そう言い、慈愛に満ちた笑みで加護を与えた人間を見る。


 「この程度の愛の試練、あなたなら簡単でしょう?

 自身の事をわかってもらえず鬱屈とした感情を、常に周りを気にして自身の気持ちを抑えていたあの頃を、笑われて、殴られて、泣きながら過ごした日々を、あの暗くて救いが無かった日々をまたあなたは経験するつもりなの?

 違うでしょう?

 あなたは私の加護を受けて愛を知ることができたはずよ。

 だから見せてあげなさい、何も知らない目の前の者達に。


 あなたの抑えつけていた感情を。

 伝えたかった思いを。

 満たされなかった欲求を。


 そして、愛の力を!!!!!!!!!!!!!」


 歌うように、讃えるように、信奉するように部屋の主は告げる。



 そしてその言葉通り、狂信者は取り囲んでいた魔族達に見せつける。






 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆






 縛られて身動きが取れず、糸は千切れるはずは無かった。


 自身が全力を挙げて作り上げた糸にそれだけ自信を持っていた。

 先歩と言った通り、ドラゴンでもこの糸で縛ったら千切られることなく身動きが取れなくなると思っていた。


 だからこそ予想外だった。


 糸は千切れる事は無かった。

 千切れたのは狂信者の腕の方だった。


 「痛ってーーーーーーーーーーーな、このクソ化け物ども!!!!!!!!!!!!」


 鮮血を撒き散らしながら狂信者は叫ぶ。


 「この痛みは絶っ対倍以上にして返してやるからな!!!

 覚悟しておけよこのクソ化け物ども!!!!!!」


 次々に捕らえていた糸から自身の体を千切って抜け出していく。

 そのあまりのイカレた行動に振り下ろそうとしていた脚は止まっていた。

 ヤードだけは狂信者の行動を見ても眉をひそめただけで、愛刀を止めず躊躇なく首めがけて振り下ろしたが、その愛刀を狂信者は口で受け止める。

 もちろん歯で白刃止めのように受け止めたわけではない。

 狂信者は白刃止めをしようとしていたのだろうが、間に合わず顔の半分ほど斬られて愛刀は止まる。


 「いひゃいな、こにょはげもごどのぎゃ!!!!!」


 顔を半分に斬られながらも気を失うことなく、普通にしゃべり続ける。


 「黙れよ」


 そんな狂信者を無視してヤードは顔の半分で止まった愛刀をさらに押し込もうとする。

 だが、愛刀はピクリとも動かない。


 「ひやはねぇーーーーーーーーーー!!!!!!!!」


 動かない事でわずかに動きが鈍ったヤードの腹に、狂信者は新しく生えた腕を捩じりこむ。


 「ごふっ」


 ヤードの口から血が溢れでる。


 「ヒャハ!ヒャハ!ひゃひゃひゃひゃははははははははははっはははっはははははははははははっははっはははは」


 狂ったように笑いながら何度も何度も腹に腕を突き入れ体の中を掻き回す。


 「ヤード!」


 アラーネアとクロコディルが助けようと接近する。

 それを見た狂信者はようやく腕を突き入れるのを止め、腕を抜き距離をとる。

 地面に血だらけで崩れ落ちるヤード。


 「ひゃりはいにゃ」


 顔に埋まった愛刀を力任せに引き抜く。


 「まさか、あのていで勝てるとでも思ってたのですか?

 さすが化け物ども、低能ですね~。

 あの程度で私が負けるはずないじゃないですか!!!!!!!!!!!!!!」


 蜘蛛の巣から抜け出した狂信者がその本領を発揮する。

  


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