加護の正体
ヤードの布告に狂信者はニヤニヤとした笑みを浮かべ、それまでうるさかったのが嘘のように黙ってこちらに近づいてきた。
「アラーネア、準備はいいな」
「もちろん」
近づいてくる狂信者を見ながら小さな声でヤードが聞くと、アラーネアがうなずく。
「そうか、ならばお前はいつでもしかけられるようにしておけ、クロコディルいくぞ!!」
クロコディルを呼び掛け狂信者に向かい走り出す。
傷を負ってはいけないという不利な状況では接近戦は不利だが、あいにくヤードは接近戦以外できない。
近づいてくるヤードに向かい狂信者が腕を振るう。
まだかなりの距離があるというのに振るわれた腕を見て、その腕の延長線上に愛刀を構える。
ガンッ、何かが愛刀に当たる音と共に愛刀を持った腕に衝撃が走る。
「なるほどそれがお前の武器か」
ヤードの視線の先、そこには狂信者の指から1メートルほど伸びた鋭い爪があった。
「ずっとモニターを見て不思議に思ってたんだよ。
なんでお前は無手なのに斬る事ができたのかってな」
モニターを見ていた限り狂信者は武器らしい武器を持ってはいなかった。
それなのに腕を振るっただけで切り刻まれたのだ。
最初は手刀の一種かと思った。
鍛えられた手刀はそれだけ鋭い切れ味を持つ事がある。
だがヤードにはどうしてもそう思えなかった。
鍛えたら確かに鋭い切れ味を持つ事ができる。だが狂信者の姿を見る限り鍛えた様子など無い。
ならば一体どうやって斬っているのか。
「爪っていうのも体の一部、どんどん成長して伸びていく。
ならその伸びる爪を強制的に回復させればどうなるのか?
答えがそれだろう」
強制的に回復させた結果、男の爪は長く鋭いまさに刃の様なものになったのだ。
「しかもだ、」
そう言って近づこうとするヤードに再び狂信者の爪が振るわれる。
それを今度は受け止めず斬り落とす。
「斬り落としてもまた爪は生えてくるわけだ」
斬り落としたはずの爪が一瞬にして元に戻る。
「あははははははははははははは、よくその愚かな頭でわかったね。
そうだよ。君たちみたいな化け物を切り刻んでいたのは私の爪さ。
私が愛の神ラブ様から受けた加護は【愛ある傷に感謝を】、私が傷つけた相手は私に感謝してその傷を癒そうとする力を私に譲渡してくれる」
「感謝だと?」
「そうだよ、感謝だよ。
その愚かな頭では理解できないだろうがね。
私はお前たちみたいな化け物にも常に慈悲を与えているんだよ。
この世界にお前たちみたいな者は要らない。
だからこの世界から消してやろうと、私が自ら動いて殺してあげているんだよ。
最後の瞬間私が自らが殺してあげるんだ。
感謝の一つも私に捧げながら、その命を私のために最大限に利用されて死ぬのは当り前だろう?」
「……独りよがりの独善だな」
これが狂信者。
こちらの気持ちを考えることなく、自分の考え、都合で動く者。
「一瞬で殺せばそれだけ強力な回復力を、じわじわ殺せば少量ずつの回復力をそれぞれ私の力となるのですよ。
だからいくらでも爪は切っても構いませんよ。
先程いたクソ犬からしっかり力を貰っていますから、すぐにまた生えますので。
しかも、さらに成長してねぇーーーーーーーー」
腕を素早く振り、斬り刻もうとするがヤードはそれを全て愛刀で防ぐ。
「成長するだと?」
「そうですよ。
やはり愚かな頭ではそこまで考えつきませんか。
私には加護の他にも素晴らしいスキルがあるのですよ。
それが【驚異成長:一部】体の一部分だけですが、私の体は驚異的な成長をしていくんですよ。
それが証拠にこの爪を見てみなさい。
斬り落とされても、また生やせば以前よりも強くなっていく。
今の私の爪はそこら辺の名刀以上の強さがありますよ」
確かに先ほど以上に狂信者の爪は固い。
下手に何とも斬れば、いずれ斬れなくなるかもしれない。
「わかりますか?
これこそまさに偉大な私にふさわしいスキルと言うものなのですよ。
このスキルがあるからこそ、ラブ様は私に目を付けて加護を下さったのです。
どうですわかりましたか?
わかったらさっさとその体を私に捧げ、感謝しながら死んでいきなさい!!!」
攻撃速度が上がっていく。
片腕での攻撃だったのが両腕を使い始めたのだ。
クロコディルが隙を見て牽制を入れているおかげでいまだに傷を負わずに済んでいるが、このままではいずれ傷を負ってしまう。
「ヤード」
その時背後からアラーネアの声が届く。
どうやら準備ができたようだ。
愛刀で狂信者の爪を弾き一端距離をとる。
そして大きく息を吐きだし呼吸を整えると、笑みを浮かべて狂信者に賛辞を贈る。
「確かにすごい力だな。
神の加護に、お前の能力、その二つが合わさってかなり強力な力となっている」
ヤードの称賛の声に狂信者は喜色の笑みを浮かべる。
「えぇ、そうでしょう、そうでしょう。
なんだ愚かな頭かと思っていましたが、意外とわかる者だったようですね。
いえそれともこれほど愚かな者にもわかるほど、私のスキルと神の加護が偉大だったということでしょうか」
恍惚とした表情の狂信者に、なおもヤードは笑顔のまま言う。
「本当にすごいと思うよ。
でもだからこそ残念だな。
そのスキルかなり中途半端だよな」
その言葉に喜色満面にしていた狂信者の顔が固まる。
「【驚異成長:一部】、一部って何?
全身驚異成長するなら恐ろしいけど、一部、しかも爪だけってかなり笑えるよな」
「…………れ」
それまで聞いた事のないような低い声で狂信者がつぶやく。
だがヤードは話すのを止めない。
「神に目を付けられた?
本当は違うんじゃないか?
本当はそのスキルを憐れまれて贈られたんじゃないのか?」
「……まれ」
狂信者の顔が喜色から怒りに真っ赤に染まっていく。
「本当にすごいスキルなら、お前が一人でここに来ることなんてないだろう。
可哀想にな。
お前さん中途半端なスキルと神に憐れまれた残念さのせいで仲間なんていないんだろう?」
「黙れ!」
体中が怒りに震え、不気味な気配が立ち上る。
「勘違いするなよ、イカレ野郎。
お前は偉大なんて存在じゃない。
ただの狂った哀れな存在だ!」
「黙れーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」
絶叫と共に狂信者は武器である爪を振りかざしこちらに接近してくる。
その顔と気配はまさに狂信者にふさわしい、禍々しいものだ。
だがそんな狂信者を見ながらも、ヤードには焦りは無い。
「本当に哀れだな。
こんな簡単な挑発に乗るなんて」
接近しヤードを間合いに入れた狂信者が腕を振るおうとする。
だがその腕は振り下ろされることは無い。
「ほんに愚かなのはどちらかのう?
いくら爪が名刀並みとは言え、腕はそうではないであろうに」
アラーネアが仕掛けた糸が狂信者の腕を絡み縛る。
「お主は習わなかったのか?
迂闊に他人の住み家に踏み入るなと?
ここはワシの巣の中じゃ」
アラーネアが張り巡らせた巣に狂信者が捕らえられた。
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