悪客来訪
それからもダンジョン『ウワバミ』は、休むことなく来る侵入者達を次々に迎撃していった。
ちなみにムースの説明によるとこの世界も元の世界と同じ、一日は24時間、一週間は7日、一年は365日で回っているそうだ。
一週間で入ってきた侵入者の数は150人弱、他のダンジョンに比べることができないので侵入してきた人数は多いいか少ないか分からないが、俺の中では一日20人ほど仕留められた事はDP的にも上出来だと思う。
もちろん今後の事を考えて侵入してきた人間を全てを迎撃した訳では無く、約1割の15人ほどは徹底的に壊し、次の獲物を誘うための餌を持たして丁重にお帰り願っている。
「まぁ、いい肩慣らしにはなったな」
ヤードなどは腕のリハビリも兼ねていたので、迎撃するたびに体の調子が良くなり嬉しそうだ。
ちなみに迎撃だが、ダンジョンにいる全員に等しくやらせている。
割合としては、スーさん&魔狼組、メーサ&蛇組、ヤーさん、クモワニコンビの四チームに分かれ3:3:2:2の割合で迎撃に当たってもらっている。
ヤードやアラーネア&クロコディルなどはもっと闘いたいと言ってくるが、彼らには比較的に強そうな連中を相手してもらい、弱そうな連中にはスーさんとメーサに相手してもらっている。
おかげで皆大きな怪我も無く、順調に経験を積み成長していっている。
「そんなわけで、次の段階に進みたいと思う」
侵入者たちがいない時間に、ダンジョンにいる名前持ちのみんなに大場屋に集まってもらい俺はそう告げる。
「次の段階とは何でしょうか?」
「まぁ、一言で言うとダンジョンの強化だな」
今のままでもこれまでと同様の侵入者程度なら十分通用すると思うが、これからもその程度の侵入者しか来ないという甘い考えは止めておいた方がいい。
常に最悪な状況を想定して動き危険を未然に防いでおく、それが俺のスタンスだ。
「まずは新たな仲間を召喚しようと思う」
「狙っている魔族でもいるのか?」
「狙っているって訳じゃないけど、こんな仕事をしてもらいたい、もしくは合っている魔族を呼びたいと思っているよ。
まずは鍛冶ができる者だね」
現在使われていな小部屋の中には、今まで来た侵入者たちから剥ぎ取った武器や防具などの金属類が山の様に詰まっている。
ヤーさんやスーさんに使いたい武器や防具があれば好きに使っていいよと言ったが、二人は自前の武器に満足しており特に使うことも無かった。防御力に不安があるメーサにも何か合う防具がないかと探してはいるのだが、ダンジョンに侵入してくるのはどいつもこいつもガタイがいいものばかりで、まだメーサには合う防具は見つからない。
使わないとはいえ武具や防具をこのまましまっておくのももったいないので、再利用するために鋳溶かし造り直す事ができる存在が欲しいのだ。
「次に仲間にしたいのは料理人ができる者」
「マスターそれは私が、」
料理人と言った瞬間、すぐさまムースがそう言ってきたがそれを手で制す。
「ムース、君の気持は嬉しいけど今のままだと、君の負担が大きすぎていずれ倒れちゃうよ」
日々侵入者を相手に戦っているヤーさん達は体を動かすせいだろう、みんなよく食べるようになった。
とにかく戦い終わった後はヘロヘロになりながらも食卓につき、食卓に並ぶものを手当たり次第に口に入れ体力回復させようとしているのだ。
それこそ見ているこっちがお腹一杯になるぐらい本当によく食べる。
そして、それらの料理を作るためにムースは大忙しなのだ。
大量の料理を作るだけではなく、日々の雑用に俺のサポート、他にもダンジョンに散らばっている皆への細かな指示など、目の回るような忙しさの仕事をしている。
そのため最近のムースは少し顔色が悪い気がする。
「ムースにもしもの事があったら俺が困るからね」
「マスター……」
俺の言葉にムースが頬を真っ赤に染める。
気のせいかその目の恥にうっすらと涙まで浮かんでいる。
「どうでもいいですよ。俺は口にはい――」
そんな感動の場面で、空気を読まず台無しにするような台詞を吐こうとしたクロコディルの口を、アラーネアの糸が一瞬で縛りあげ強制的に黙らせる。
(馬鹿者!少しは空気を読まんか!!)
(空気なんて腹の足しにならんもんは知らん!!
それに空気なんて喰う気にならんからな。はっはっはっ)
小声で口を縛ったクロコディルをアラーネアが怒鳴るが、本人はまったく反省の色が無い。
それどころがつまらないギャグを言い、口を閉じられたまま一人で大笑いしている。
俺は目線で合図を送ると、アラーネアは頷きクロコディルを連れて大部屋から出ていく。
もう一度絶食地獄を味あわせれば、少しは空気の大事さがわかるだろう。
クロコディルが部屋からいなくなり気を取り直した俺は新ためて話を進める。
「さて仲間を増やすこと以外のことだが、ダンジョンの大きさも少し広げていくつもりだ」
人数も増えて、進化する仲間も増えこれからの事を考えるとダンジョン拡張もしておくべきだ。
「何かダンジョンを大きくするに当たり要望とかある?」
「……一つよろしいでしょうか主殿」
スーさんがそう言って手を上げる。
これは珍しい。いつもならみんなの後ろで意見を求められた時以外は静かに話を聞いているスーさんが、一番初めに意見を言ってくるなんて。
「出来れば拙者の眷族達のために、もう一つエリアが欲しいのですがよろしいでござろうか」
「それは別にいいけど、またどうして?」
「その…、雌の魔狼達の中に子供を身籠った者がおりまして、その者どもの出産のために落ちついた場所が必要かと思いまして……」
照れくさそうにそう言うスーさんの言葉に、大部屋にいた皆が歓声を上げる。
「何?オメデタ?出産?それならそうと早く言えよ。
いいよいいよ。すぐにエリア作ってあげるから」
「水臭い奴だな~、こういう目出たい事は早く言えよ」
「すごいの!いつ?いつ産まれるの!?」
「マスターのダンジョン初の新しい魔物ですね」
「皆さんお祝いの言葉ありがとうございます。
多分出産は2ヶ月後ぐらいだと思います」
2ヶ月後か……、産まれたら俺のダンジョン初の魔物だな。
スラりんの分裂は産まれたって感じじゃないから、ちょっとわくわくするな。
そうやって新しい命の誕生を喜んでいるとき、俺の頭の中に警報音が鳴り響く。
スキル【侵入者警報】が発動したのだ。
「侵入者だ。ムースモニターを」
「かしこまりました」
俺が「モニターを付けて」と言いきる前に、ムースが表情が変わった俺を見てすぐに考えを読みモニターを付けていた。
ムースが俺のわずかな変化を読み取ってすぐにこうやってサポートしてくれるおかげで、次の行動に移し易い。
大部屋にいたみんなはダンジョンの入り口が映ったモニターに視線を向ける。
そこにいたのはまだ若い4人組のチームだ。
身につけている装備から見て、戦士、戦士、魔法使い、弓術師だろう。
なかなかバランスのいいチームだ。
「4人か…、誰が相手する?」
「メーサ、メーサ達が相手するの」
「いえここは某達が。
新しい住み家をいただけるのですから、恩に報いるためにもここは某達が一働きしてご覧いたしましょう」
「そう、頑張ろうとするなってスーラ。あんまり肩に力入れるとミスを起こすぞ。
そういう訳でここは俺が行こう」
「ヤーさんその言い方ズルイの!メーサ、メーサが行くの!」
それぞれが、自分たちが戦いたいと言い始める。
揉める仲間達を見ながら誰を行かせるのが適任か考える俺の頭に、先程以上音量で【侵入者警報】の警報音が鳴り響く。
「なんだ?」
密かにこの一週間で俺もDDMとしてのレベルが上がっており、おかげでスキル【侵入者警報】もレベルが上がっていた。
以前は入って来た者等しく同じ音量で警報音が鳴っていたが、現在では入ってきた者の実力によって鳴る音量が変わるようになっている。(ちなみにこの実力とは殺した時のDPの量の事であり、たくさんDPを得られる敵であるほど実力が高いと判明している)
これまで一度も聞いた事のない音量で鳴り響く【侵入者警報】に、もう一度注意してモニターに映る様子を見れば、先程見た4人組がゆっくりとダンジョンを進み始めている背後、それまでいなかった新たな侵入者がモニターに現れる。
「なんだあれは?」
俺の小さなつぶやき、だが緊張をはらんだその声はそれまで誰が戦いに行くか騒いでいたヤード達の耳にも届き、全員があらためてモニター注視する。
新たに表れた侵入者は、フラフラと体を揺らしながらゆっくりと前にいる4人組に近づいていく。
4人組の最後尾にいた弓術師も背後から近づいてくる存在気付いたのだろう。弓を構えながら弓術師が背後の存在を確かめようと振り返り――、
その首を飛ばされる。
胴体から切り離された弓術師の首は、自身の体に何が起きたのかわからないと言った表情のまま地面を転がる。
そしてそれは首が地面に落ちた音で後ろを振り向いた彼の仲間達も同じだった。
振り返えると最後尾にいた弓術師の首は無くなっており、頭があった場所からは勢いよく血が噴き出している。
一体何が起きたのか?
侵入者達のその疑問は、最初からモニターを見ていた俺達も同じだった。
それほどの早業での殺人。
そして何が起きたのか理解できていない三人の首を瞬く間に飛ばしていく。
全ての首を切り落とした侵入者は、首が無くなり力を失い倒れる四人の胴体を見てニヤ~と笑みを浮かべたあと、何事も無かったように体をフラフラと揺らしながらダンジョンの奥に向かい進み始める。
モニターに映った光景を見て、大部屋に沈黙が落ちる。
アレはなんだ?
いきなり現れた異質な存在に混乱してしまう。
そんな俺の耳にヤードの苦虫を噛み潰したような声が届く。
「まさかな……、狂信者が来るとはな」
狂信者。
その存在がウワバミにかつてない悲劇を生みだすことなる。
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