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千客万来

 「今日から君の名前は『アラーネア』だ」

 「ありがとうございます」

 「そして君は『クロコディル』だ」

 「感謝の極みです」

 

 俺の前でジャイアントスパイダーとマッドアリゲーター、いや今はアラーネアとクロコディルと名がついた二人は、揃って片膝をつき頭を下げる。

 彼等の二つ目の願いは名前が欲しいとの事だったので、二人に合う名前を送った。

 本当ならアラーネアにはアラクネと付けたかったのだが、アラクネは蜘蛛系の種族の名前らしくその名を付ける事ができなかったので、ラテン語で蜘蛛を表すアラーネアと名付ける事にした。

 クロコディルの方もフランス語でそのまま鰐という意味の名前だ。

 

 「先の戦いは見事だったよ。

 実力は間違いなくある。あとは経験を積んでいけば二人とも今みたいな中途半端な人型じゃなくて、完璧な人型の魔族に進化できるはずだ。

 そして昨日わざとダンジョンのお宝を持って帰らせた効果で、今朝からダンジョンは侵入者で大賑わいだ。

 おかげで経験もどんどん積めるはずだから、これからも頑張ってくれ」

 「「 了解です(じゃ) 」」

 

 二人は嬉しそうに声をそろえて返事を返す。

 

 

 

 現在ウワバミは先ほどアラーネアに言った通り、今までの閑古鳥が鳴く状態が嘘だったように大賑わいを見せている。

 わざわざ高価な物を持ち返らせたかいがあったというものだ。

 大広間に戻りムースが差し出してくれた飲み物に口をつけつつモニターを見れば、ダンジョンのあちらこちらで仲間が侵入者達と戦いを繰り広げている。

 

 

 

 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

 「ちっ、こいつら普通の魔狼よりも動きが早え」

 「無理に剣を振り回すな、お前は壁役になって守りに集中しろ。

 俺が隙を見て矢を当てる」

 

 大きな剣を構えた男と弓を構えた二人組の侵入者相手に、ウインドウルフが素早い動きで立ち回る。

 剣を構えた男が腰を落とし、牙や爪の攻撃に耐えウインドウルフの注意を惹きつけて後方から矢を撃とうとしていたが、弓を構えた男の背後に出来た影からシャドーウルフが姿を表し奇襲をかける。

 

 「ぎゃっ」

 

 奇襲に気付けなかった弓使いは、襟首に思いっきり噛みつかれ短い悲鳴を上げその場に倒れる。

 

 「どうした!?」

 

 背後から聞こえた仲間の悲鳴に剣を構えた男が驚いて振り返ってしまう。

 その一瞬の隙をウインドウルフは見逃さず剣を握る手に噛みつき手首の肉を噛み千切る。

 手首の肉を噛み千切られた事で剣を落してしまった男は、痛みに脂汗を流しながらもすぐに腰に差してあった予備の短剣を引き抜き、再び飛びかかろうとしていたウインドウルフを牽制する。

 ウインドウルフは短剣を向けられた事で一端距離をとるが、それでもその視線は男から一瞬たりとも話すことは無く、背後にいるシャドーウルフと連携してゆっくりと男を追い詰めていく。

 仲間と連携して距離を保ちつつ、隙ができたら果敢に攻めるを繰り返し狩りの要領で魔狼達は確実に侵入者達を仕留めていく。

 

 

 

 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

 「駄目なの、せっかく来たのに逃げようなんて甘いの!あまあまなの!

 一回死んで、その甘ったれた根性を地獄で叩き直してくるといいの!」

 

 密林エリアではメーサが侵入者グループの一人と目を合わせて動きを止めながら、笑顔で毒舌を吐く。

 幼い見かけに騙されて、ホイホイと油断して近寄って来た彼等は上空から奇襲するホッピングスネークに陣形を崩され、ある者は草むらから現れたポイズンスネークに集団でかまれ毒に苦しみ、ある者はジャジャに巻き付かれ全身の骨を折られ悲鳴を上げることもできずに丸飲みされる。

 そして蛇達に殺される者達の中で一番可哀そうな死に方をすることになるのは、メーサに目をつけられたものだろう。

 

 「そう言ってもメーサはとっても優しいの!

 死んで地獄で根性を叩き直す前に、生きている間にもちゃんと反省させてあげるの!」

 

 手に持ったスラりんを身動きがとれない侵入者の顔に押し付ける。

 スラりんの粘体のボディが鼻と口に密着し呼吸ができなくなる。

 完全にスラりんが密着した事を確認したメーサが視線を外す。

 自由に体が動かせるようになった男は、すぐに鼻と口を塞ぐスラりんを引きはがそうとするが、指は粘体の体を滑り引きはがすこともできず、呼吸の出来ない苦しさで顔を真っ青に染めながら地面をもがき苦しみのた打ち回る。

 

 「苦しみながらよく心に刻んで欲しいの。

 悪い事はしちゃダメだよ」

 

 メーサは真っ青な表情で目を見開いて死んだ男に、満面の笑みを浮かべてそう告げた。

 

 

 

 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

 「なかなかいい腕だな」

 「うるせぇよ、ゴブリンごときが!」

 

 短刀を振るいながらヤードがそう告げると、短刀の攻撃をかわした相手は吐き捨てるようにそう言い返し、お返しとばかりに剣を振るってきた。

 

 「一体どうなってんだよ?

 ゴブリンがここまで強いなんて聞いたこと無いぞ!」

 「そうだろうよ。俺もゴブリンの中で俺以上の強い奴を知らないからな」

 

 悪態をつく男に挑発交じりにそう返す。

 だがその挑発の言葉は事実で、ヤードは自分より強いゴブリンには会った事は無い。

 

 「当たり前だ!そんな簡単にお前みたいな強さを持ったゴブリンがいてたまるかよ!

 お前ほどの強さのゴブリンがたくさんいたら俺達人間は簡単に負けてるよ!!」

 「それもそうだな」

 

 二人はそう言いながらも剣を交えあう。

 一進一退の攻防のように見えるが、実際にはヤードの方が有利であり少し手を抜いているのが現状だ。

 手を抜く理由は簡単、怪我のリハビリを兼ねて軽く流して体の調子を確かめているからにすぎない。

 上段から振り落とされる剣撃を怪我した方の腕に短剣を持ち正面から受けてみたが特に痺れることも無い。

 どうやら完全に腕は完治したようだ。

 

 「そろそろいいかな」

 「あぁ?」

 

 小さくつぶやいた声に相対している男が訝しげな声を上げる。

 

 「いいリハビリになった。

 これはそのお礼と土産話だ」

 

 ヤードはそれまで同レベルに合わせて振るっていた剣速から、倍以上の速さで短剣を振るう。

 男は何が起きたのか反応する事も出来ずにその首を落されて絶命する。

 

 「雑魚だと思っていたゴブリンにも強い奴がいる。

 地獄で話すにはいい土産話だろう?」

 

 

 

 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

 「次はどこが良いかのう?」

 「やめて…、やめてくれ……」

 「うむ、今度は肺の片方を潰して反応を見るとしよう」

 「嫌だ…、やめ、ぎゃぁーーーーーーーー!!!!!!!!!」

 

 鋭いアラーネアの足の一本が男の胸に突き刺さり肺の片方を潰す。

 涙を流し絶叫する男の声を心地よさそうに聞きながら、アラーネアは近くにいたクロコディルに視線を向ける。

 クロコディルは近くで上がる絶叫などまるで聞こえないかのように、目の前にある大量の肉を淡々と口に入れていく。

 

 「クロコディルよ、ワシが一生懸命働いている横で食事をするならせめて美味しそうに食べてくれんか。

 そんなつまらない顔で食事されてはこちらの気が滅入るというものじゃ」

 「別につまらない顔などしてはいない」

 

 口を大きく開き歯に詰まった骨取り除き、次の肉に手を伸ばしながらアラーネアに視線を向けること無く答える。

 

 「ただあまり旨くないなと思っているだけだ」

 「は~、旨くなければ喰わねばいいであろう」

 「それは無理だ。

 喰えるものが目の前にあるのに喰わないなど俺にはできない」

 

 そう言って口を大きく開くと目の前にある肉を丸かじりする。

 クチャクチャとしばらく口の中で噛みしめ味わった後一気に飲み込む。

 

 「それに時々当たりで美味しい肉もあるからな。

 その肉を食べられると思うと手が止まらない」

 

 新しい肉を次から次へと口に入れ食べ始めるクロコディルを見て、アラーネアはまた大きく溜息を吐きだす。

 

 「ワシにはわからん感性じゃな」

 

 そう言ってから、肺を潰した男に視線を戻せば男は呼吸ができずに死んでいた。

 

 「なんじゃもう終わりか、こやつもあまり持たんかったな。

 仕方ない次じゃ、次」

 

 アラーネアは死んだ男をクロコディルの目の前に積まれた肉の一番上に放り投げると、自身の糸で捕らえた次の侵入者を目の前に持ってくる。

 

 「お主はどれぐらいワシを満足させてくれるかのう?」

 

 絶叫と粗食音それだけが二人がいるエリアに響き渡る。

 

 

 

 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

 「大分上手く行ってるね」

 「そうですね」

 

 モニターを見た限り、特に問題は無いようだ。

 全員が自分に合った戦い方をして、安全にそして確実に撃退している。

 問題を一つ上げるとすれば、跡片付け係であるゴンラが「忙しいです~!!誰か手伝って下さい!!」と悲鳴を上げながらダンジョン内をかけずり回っている事だろうか。

 確かにゴンラ一人では大量に出る死体や持ち物の片づけは間に合わないだろう。

 何人か後始末ようにゴブリンを呼び出すべきだろうか?

 

 そんな事を考えているとアラーネアから通話が入る。

 

 「主殿よ、希望通り生きたまま壊れた者が出来ましたぞ」

 「わかった、すぐにムースを向かわせるからしばらく待っててくれ」

 

 俺は準備していた物をムースに持って行かせる。

 

 「それじゃよろしく頼むよ」

 「畏まりました。

 男は荷物を持たせ通路に放置いたします」

 

 ムースは頭を下げて渡された荷物を持って出ていく。

 これも昨日と同じだ。

 自作自演の餌のバラ撒き。

 さすがにこれだけの人数が攻略に来て、誰も何も見つけられなかったら妖しく思うだろう。

 だからある一定の侵入者には餌を持たせて帰らせる。

 もちろんこちらの事を話さないように、まともに会話もできないほど精神をかなり壊してからだが。

 

 

 

 今ダンジョンは俺の計画通り進んでいる。

 この調子で行けば、さらなる発展も早くできそうだ。


最後までお読みいただきありがとうおございます。

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