攻略に挑む者・中編
チーキン視点
「ありがとうございます」
私は影から出てきた黒い狼の攻撃を避けようとして崩した態勢を戻しながら、前に立つビーフンに礼を述べます。
「礼はいい、それよりも援護を頼む」
ポークスは剣を投げてしまったため、今は予備のために持っていた短剣を構えている。
扱いなれていない訳ではないが、それでも普段使っている剣に比べたら使い勝手が悪いのだろう。
それに現状がかなり悪い。
油断していた訳ではないが、それでも一方通行の通路で背後から奇襲など考えもしていなかった。それにもし近づいてくるものが居ても足音や気配でわかると高をくくっていた所もあった。
それがあの黒い狼は影から出てきたため、足音もせず気配も影から出て来てようやく感じられたくらいだ。
そうしてこちらと狼達がしばし互いの出方を窺うために睨み合っていると、ビーフンと相対していた黒い狼の影からまた一匹新しい狼が出てきた。
「どうやら黒い狼は闇属性のようですね。
視る限り影の中を自由に動けると言った能力でしょう」
「やっかいだな」
知らないうちに影から出てくるのは確かに厄介だ。
新しく出てきた狼は、もう一匹の肩に刺さった剣の握りを咥えると一気に引き抜く。
剣を抜かれた狼はこちらを警戒しながらも、抜かれた瞬間小さく呻く。
そうしてこのままこう着状態がしばらく続くかと思われたとき、通路の奥から遠吠えが響いてきた。
狭い通路だけあってその声は壁を反響して耳を打つ。
狼達は奥から聞こえた遠吠えに答えるようにそれぞれ短く吠えると、翠色の狼達は背を見せ一目散に奥に去り、黒い狼達は影に沈みこむように姿を消した。
その際しっかりと黒い狼はビーフンの剣を咥えて影に潜って行ってしまった。
狼達の姿が無くなっても私達はしばらく警戒を解かなかった。
狼達の方が優勢だったのに去る理由がわからなかったからだ。
これももしかしたら何かの罠なのか?
その思いが心に合ったため警戒を解けなかったのだ。
十分ほど経っただろうか、あたりを警戒していたビーフンがゆっくりと口を開く。
「あたりには誰もいないな」
「そのようですね」
私の答えで、私を含めた三人は一気に警戒を解き力を抜く。
「まさか背後からの奇襲とはな」
「えぇ、あの時ポークスさんが声をかけてくれなかったら危なかったですね」
「俺もたまたま狼の視線を見て気付いただけっすよ。
まさかあんないきなり敵が出てくるとは思わないっすよ」
たまたまでもなんでも気付いてくれて助かりました。
しかし、今後また背後に現れたとき気付くかどうか微妙ですね。
「これからどうしますか?」
「このまま帰るのも選択の一つだが、あいにく俺は剣を盗られたままだからな。
このまま帰ったら大損だ。
せめて剣を取り返すか、それに見合う対価を手にしたいところだな」
「でも命あっての冒険者っすよ。
先がどうなってるのかわからないっすから、ここは一度戻って仕切り直した方がいいんじゃないっすか。
ここのダンジョンに出てきた魔物について情報屋に売れば少しっすけど金にはなると思いますし」
ビーフンとポークス両方の意見とも正しい。
前衛を務めるビーフンにとって愛剣を盗られたのはかなり痛いだろう。
だがここで取り返そうと無茶をするのが一番危ない。
ここは慎重に行動していき、なおかつ損をしない行動をしていきたいところだ。
「チーキンお前はどう考える?」
「私はもう少しダンジョンを進むべきだと思います」
私がそう言うとポークスが何か言おうと口を開きかけるが、それを手で制す。
もちろん、無条件で進むと言うわけでは無いのだ。
「さっきポークスが言ったように、先ほどの魔物についての情報を売れば少しは金になるだろう。だがそれでは到底ビーフンの剣とは釣り合わない。
だからもう少し金を稼ぐためにも、進むべきなんだ」
「でもそれは危険じゃないっすか」
「確かに危険だ。
だから制限を付けよう。
あと一刻ほどダンジョンを進む、何も成果が無くても一刻したら絶対に戻る。
あとはビーフンが危険と判断したら、その時を持ってあきらめる。
これでどうだろうか?」
ビーフンならば自分の剣大事さに判断を間違うと言うことはないだろう。
ポークスもそこのところは良くわかっている。
しばらく考えて私の提案に賛成する。
「そう言う訳だ。
あと一刻だけダンジョンを進もう。
君の判断を信頼しているよ」
「任せておけ。
剣も大事だが、それよりも俺はお前らの方が大事だからな、判断を誤るようなことはしない」
ビーフンは笑顔でそう言い切る。
こういう所で素直にそう言えるからこそ、彼は信頼できるんですよね。
それから私達は隊列を少し変えて再びダンジョンを進み始めた。
戦闘は変わらず罠を確認するためにポークスだが、背後からの奇襲に備えるために私とビーフンの並びを変えた。
「其処踏まないで下さいっす」
しばらく歩くと通路に罠が出始めた。
ポークスによるとどれも簡単に解除できる罠ばかりだそうで、罠の自体も即死にいたるようなものではないそうだ。
「即死はしないっすけど、それでもかなり痛いっすよ」
落とし穴や矢が放たれる仕掛けの罠らしいが、どれも傷を増やすことが目的に設置されてるようだ。
傷を増やして、疲労でも狙っているのでしょうか?
そんな事を考え、罠を避けながらダンジョンを進んでいく。
最初に行った制限の一刻がもう少しで来てしまう。
そんな時通路の先の様子が変わっているのが見えた。
「どうやら通路も終わり見たいっすね」
同じく通路の先の変化に気づいたポークスがそうつぶやく。
「こんな場所だ、ただ変わるだけではないだろう。
皆用心しろ」
ビーフンの言う通り、ただ変わっているなんてありえないのだ。
あきらかにこちらを仕留めるために待ち構えているに違いない。
三人はゆっくりと通路の先に進む。
そして先の様子の全貌が分かった時、思わず戸惑ってしまった。
それまでの石でできた狭い通路とは打って変わって、木々が所狭しと生えた密林のような空間が広がっていたのだから。
だが戸惑ったのも一瞬すぐにあたりを警戒する。
こんな木々が密集し視界が悪い所だ、どこからなにが出てくるかわからない。
私の考えたと同じ事を二人も考えたのだろう。私と同時にすぐに周りを警戒する。
「えっ、あれ」
しばらくあたりを警戒していたのだが、不意にポークスが変な声を上げる。
「どうしんですかポークス?」
周囲を警戒しながらそう尋ねる。
「いえ、あの、あれってビーフンさんの剣じゃ?」
ポークスはいまだに自分が見つけた者に確証が持てずに、戸惑いながらそう告げる。
そして私とビーフンはポークスの言葉を聞き、すぐにポークスの見ている方に視線をやる。
するとそこにはポークスの言った通りビーフンの剣があった。
ただし明らかに罠だとわかるくらい堂々と地面に刺された姿で。
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