攻略に挑む者・前編
ポークス視点
「入り口付近には罠らしいのは無いっすね」
ダンジョンの入り口を見つけた俺達はすぐにはダンジョンに入らず、慎重にシーフである俺が罠の有無を確認することから始めた。
「まぁ入り口付近に罠なんて普通ないわな」
「いえいえビーラフさんそれは油断ですよ。
情報屋によるとダンジョンの中には入り口付近から罠だらけのダンジョンもあるそうですから、慎重に調べていく必要がありますよ」
重そうな鉄の鎧を着込んだビーラフさんの軽口を魔法使いであるチーキンさんがやんわりとたしなめる。
この二人は幼馴染で共に冒険者をしており、調度シーフが欲しかった所に冒険者になり立てだった俺を見つけ、それ以来三人でチームを組んで冒険をしてきた。
二人のおかげで俺はシーフとして成長できたと思う。
「そうか、確かにそんなダンジョンがあったのなら用心が必要だな。
ポークス罠の確認は頼んだぞ」
「任せて下さいっす」
だからこそ俺を仲間に入れた恩を返すためにも頑張って仕事をしていくっす。
普段呑気でおっちょこちょいのビーラフさんだがチームのリーダーとしてかなり頼りになる。
罠の有無を調べ終わると、俺達三人は俺を先頭に後ろにビーラフさん、最後尾がチーキンさんの順に並んでダンジョンを進んでいきます。
進行スピードは慎重に罠の確認をしていることもあってかなりゆっくりっす。
ダンジョンに入ってから30分ほど経ったでしょうか?入り口が視えない所まで進んで来ましたが今のところ罠は無く、敵も出てきません。
ですが、緊張しているせいかいつもより疲れてしまいます。
俺は疲れた目をつむり、両手で揉んで休めます。
罠発見にはかなりの集中力がいるので、このまま疲れたまま進むと罠を見逃してしまうかもしれないっす。
俺が何度目かとなる目を揉んでいるのを見て、ビーラフさんがここで休息をとるといいました。
敵がいないとはいえ、こんな所で休憩して大丈夫でしょうか?
「周囲は警戒をしておくから、ポークスは少し休め」
心配そうにあたりを見渡したからでしょう。ビーラフさんが胸を張ってそう言ってくれたおかげで、俺はその場に腰をおろしゆっくりと休憩することができます。
腰をおろして俺は荷物の中に入れていた水筒を取り出し、水を飲み水分を補給します。
俺が休んでいる間両サイドでそれぞれ警戒していた二人が、警戒しながら会話を交わしています。
「今のところは何もありませんね」
「そうだな。だがそれは俺達の油断を誘う罠かもしれない。
適度に休息をとりながら今のペースで進んで行こう。
ポークスも疲れたら無理せずにすぐに言えよ。無理してもいいことなんかないからな」
「了解っす」
確かに無理しても意味無いっすからね。
臆病と思われるぐらいの慎重さが一番生き残れるコツですから。
「しかしダンジョンの中は異様に体力も精神も消耗しますね」
「確かにな、普通に敵が出てくればそれなりに疲れを実感できるのだが、こうもじわじわ削られるのはきついな」
「俺としてはこの壁の蛇ノ目模様がうざいっすね。
罠の確認をしているときにチラチラ視界に入るから、なかなか集中できないっすよ」
「わざわざ壁に模様なんか描くんだ、それが目的なのかもしれないな」
「そうですね、模様自体は特に魔力も感じないただの模様ですからね」
仕掛けは無いのだが、常に見られている気がして精神力を削られるっす。
しばらく俺が休んだ後、交代で二人も休憩して再び俺達はダンジョンを進みだした。
変わらない通路を黙々と罠のチェックをしながら進んでいく。
そんな罠のチェックをしてるとき、通路の奥から何かがこちらに来る足音が聞こえた。
「何か来るっす」
俺がそう言うと、二人はそれぞれ剣と杖を構えて戦闘態勢をとる。
もちろん俺も短剣を握り、身を低くしていつでも動ける態勢をとるっす。
そんな俺達三人の元に徐々にだが近づいてくる足音がはっきり聞こえてくるようになる。
「一体じゃないな。
この足音の数からして複数だな」
「そうですね。それとこの足音の仕方からしておそらく四足歩行の生き物でしょう」
まだ姿が見えないうちから足音だけで二人は、そう予想を立てる。
そしてその予想通り、姿見えた相手は二匹の翠色の毛並みの狼。
「狼の魔獣ですか、毛の色からして風系の力を持っているのでしょう。
かなり動きが早いと思いますから注意して下さいね」
チーキンさんの言葉に俺達はうなずく。
二匹の狼は俺達の前まで来ると、身を屈めて唸り声を上げる。
普通の狼と違いかなりの威圧感があるっす。
でも、そんな威圧感もビーフンさんには通じないようで、
「どうした狼ども、唸るだけでかかってこないのか?」
剣を構えたまま挑発していきます。
言葉を理解するからわからないっすけど、それでも二匹の狼たちは自分達が馬鹿にされたというのがわかったのでしょう。
一鳴きすると二匹同時に突っ込んできます。
「俺が一体仕留める。
ポークスは無理に倒そうとしなくていいからもう一体の相手を、チーキンは援護を」
「「了解」」
狼達が動き出したと同時にビーフンさんから出た指示に俺は行動するっす。
丁度狼達も左右にわかれて一体一の状態になったので、俺は短刀で威嚇しながら狼の出方を窺います。
身を低くして足を狙った噛みつきをひらりと避けると、反撃とばかりに背中に短剣を刺そうしたっすけど、狼もまた素早く短剣をかわします。
チーキンさんの言った通り動きがかなり早いっす。
横目でビーフンさんの様子を窺うと、攻撃してきた狼に合わせて剣を振ろうとしているようですが、見事に空振ってます。
幸いにもビーフンさんが身につけている鎧のおかげで狼の攻撃も効いていないようっす。
しばらくそんな攻防を繰り広げていると、それまで後ろで戦闘を窺っていたチーキンさんが魔法を唱え始めます。
「二人とも少し我慢して下さい『バイマス』」
チーキンさんがそう言った途端、俺の体が急に重くなったっす。
この魔法は一定の範囲にいるものの重さを増す魔法っす。
そのせいで体重が増し動きづらくなりますが、それは敵も同じこと。
狼達もバイマスの魔法を受けて、先ほどまでの速さが無くなってるっす。
「この魔法はキツイんだよな」
そう言いながらもビーフンさんは先程と変わらないように動いています。
バイマスはあくまで重さを増すだけなので、重さに負けない筋力さえあれば関係ないっす。
ビーフンさんは剣を振り上げて一気に狼達を倒そうとします。
このままいけば余裕で倒せる。
そう思ったっすけど、なぜか俺は目の前にいる狼達に余裕があるように感じたっす。
その余裕に疑問を覚えると、さらに疑問が浮かんできたっす。
ビーフンさんに狙われている狼はじっと迫りくる剣を見ているっす。
けどもう一匹は?
なんで仲間の方を見ていない。
どうして俺の後ろを見ている。
もう一匹の視線を負って後ろを見ると、そこにはチーキンさんがいた。
チーキンさんもビーフンさんの標的である狼の方に目がいっている。
だから気付いていない。
チーキンさんの後ろに出来た影、その影からまるで出てくるように黒い狼が姿を現したことに。
俺は黒い狼の姿を見た瞬間叫んだっす。
「チーキンさん後!!」
その声に慌ててチーキンさんが後ろを振り返します。
そこには影から姿を現した黒い狼が首に噛みつこうと飛びかかってくる所でした。
チーキンさんが何とかかわそうとしましたが間に合わないっす。
俺もとっさのことで声だけは出せたけど、あとは何もできなかったす。
チーキンさんがやられる。
そう思ったとき、銀色に光る物体が黒い狼の肩に刺さり、飛びかかられるのを阻止するっす。
銀色の正体はビーフンさんの剣。
ビーフンさんはあの時、目の前にいる狼に止めを刺すよりもチーキンさんを守るためにその剣を使ったす。
そして無手になったビーフンさんはすぐさまチーキンさんに駆け寄り、その身を壁として追撃を防ぎます。
剣の刺さった黒い狼は血を流しながらも、戦意は衰えずこちらを睨んできます。
「ポークス、お前はそっちにいる翠色の狼を警戒しろ!」
そうビーフンさんが倒さなかったために、いまだに二匹の狼は健在なんです。
いつの間にか俺達は狭い通路で、三匹の狼達に前後挟まれてしまった状況になっていたっす。
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