閑話 小さなエイユウの大冒険
オレはエイユウになるんだ!!
あの日、頭にカミサマからシンタクってやつが聞こえて大人達が慌ててた日、オレはワルいマゾクを倒してエイユウになるんだとココロに決めた。
なのに、どうしてこんなことになってるんだよ。
「ねぇ、もう帰ろうよ~」
「そうだよ、危ないよ」
近所に住む子分達を引き連れ、噂のダンジョンってところに入ったのはいいが、薄暗い不気味な通路を歩くだけで怖くなり、最初は笑いながら進んでいたのに今では一塊りに集まってブルブル震えながら進んでいる。
オレはみんなのリーダーでもあり、子分達をここまで連れてきたセキニンってやつもあるから、ビビ様子を見せないように必死に手に持った棒を構えながら先頭を歩く。
この棒で畑で悪さをしているネズミを追い払ったり、となりの区に住む肉屋のケリンたちのグループと戦ったりして今まではとっても心強く思ってたのに、今はものすごく頼りなく感じてしまう。
ダメだダメだ。
弱気になってどうする。
こんなんじゃ、本に出てくるようなエイユウになれっこない!
気持ちが落ちそうになり、オレは首を横に振り弱気を吹き飛ばす。
それにこんなモタモタしてたら先に入った冒険者のオジちゃん達がエイユウになっちゃう。
オレの家は宿屋をやっている。
安く泊まれるのに料理がおいしいと街で評判の宿屋だ。
それもそうだろう。
なんたってオレのトウチャンが毎日腕によりをかけて料理を作ってるし、カアチャンが一生懸命隅々まで掃除をしてるんだ。
オレだって毎日イヤイヤだけど家の手伝いをしてるんだ、評判になるのは当たり前だい!
そんなオレの宿屋に一昨日冒険者の二人組が来た。
冒険者の人達が泊まりに来るのはおかしく無かったけど、その二人は他の冒険者の人達と比べてなんだか妙にそわそわしてたんだ。
だからオレは気になってこっそり様子を窺ってたんだ。
なんたってオレはエイユウになる男だからな!
悪いことをしそうな奴は、しっかり見張っとかないといけないんだ!
そうやって手伝いの合間にチラチラと様子を窺ってたら、食事のときに二人が小声で反し始めたんだ。
周りには酒を飲んだ客達が大勢いて賑わってたから二人が小声で話し出すと、何を離しているかまったくわからない。
だからオレは注文を聞きに行くフリをしてこっそり盗み聞きしたんだ。
(そん時トウチャンが「自分から手伝いを始めるなんて成長したじゃねぇか」って褒めてたらしい。
オレは盗み聞きするので忙しくて気付かなかったけど)
それでオレはなんとか二人の会話を聞きとることができたんだ。
小声だったから「ダンジョン」「山の中腹」しか聞きとることができなかったけど、俺にとってはそれで十分だ!
ダンジョンが近くにあるなんてオレがエイユウになるチャンスじゃないか!
次の日朝早くからその冒険者の二人は出かけていった。
オレはそれを知ると急いで近所の子分達を集めてダンジョンに向かった。
けどオレが知っているのは「山の中腹」ってことだけだったから、その日はダンジョンが見つけられず、仕方なく家に帰ることにした。
冒険者の二人はその日宿に帰ってこなかった。
オレはまだエイユウになるチャンスがあるとほっと胸をなでおろした。
次の日、また子分達を集めてダンジョンに向かった。
昨日探していない所を探したからか、思ったより早くダンジョンを見つけることができた。
入り口は見つけただけなのに、オレ達は皆腰が引けてしまっていた。
だがここまで来たらあとには引けない。
「おい、今からオレ達はエイユウになるんだ!
こんなとこで怖がってどうする!行くぞ!!」
オレは棒を掲げてダンジョンに入って行く、それに引きつられて子分達も後についてくる。
それからダンジョンを少し進んだが何も出てこないことでオレ達の中で安心感が生まれ、「なんだよ全然平気じゃないか」「まったくだぜ」「きっと未来のエイユウに怖がってるんだぜ」なっていいながら進んでいたのだが、長い長い変わらない通路を歩くうちに会話が減って来てだんだん不安になって来た。
そして子分の一人が足を止め、
「ねぇ、もう帰ろうよ~」
と泣きそうな顔でいい出したとき、不安が一気に押し寄せてきた。
オレ達は一塊りにならなければいけないほど振るえ、自分達の立てる足音にすら怯えていた。
オレも怖かったが、何もせずに帰るなんて臆病な真似できないと思ってしまい、怖がる子分達を引っ張って何とか前に進む。
けれど、やはり恐怖には勝てなかったのだろう。
オレ達の足は止まってしまう。
このままじゃ駄目だ!
オレは何とかみんなを元気づけようと手に持った棒を掲げいつものように大声で励まそうとした。
だがオレが声を出す前に通路の奥からマゾクの恐ろしい声が聞こえてきた。
「「「「「ウォーーーーーン」」」」」
その声を聞いた瞬間、オレの心臓は潰れると思うくらい縮み、小便を漏らしてしまう。
だが今のオレにはそんなことどうでもよかった。
「ワーーーーーーー」
恐怖で大声を上げながら、手に持っていた棒を放り捨て入って来た方に向かって走り出す。
子分達も泣き叫びながら一斉に逃げ始めた。
何とかダンジョンから出られたオレ達は、そのまま山道を転びながらそれでも全力で街に逃げ帰る。
街に変えると泥だらけで小便を漏らした子供達を見て、大人達が慌てて駆け寄ってくる。
そうして駆け寄ってくれた大人達に理由を話すと、顔を真っ赤にして怒られてしまった。
「子供がそんな危ないことをするな!!!」
オレ達はその場に正座させられて集まった大人達から説教を喰らうことになった。
そして、説教を聞かされているとき話を聞き付けたトウチャンとカアチャンがこちらに走って近寄って来た。
トウチャンはオレの顔を見るなり思いっきり殴って来た。
いつもは怒っても頭にゲンコツぐらいなのに、今日はホホを思いっきり殴られてオレは正座していた場所から吹っ飛んでしまう。
殴られてクラクラする頭を上げると、まだオレを殴ろうとするトウチャンを他の人達が数人がかりで止めていた。
それを見ていたオレをいつの間にか傍まで来ていたカアチャンが泣きながら抱きしめてきた。
いつも元気で笑顔のカアチャンが泣くのをオレは始めてみた。
そしてカアチャンの泣き顔を見たら、なんだか胸が苦しくなって、気付いたらオレは声を上げて泣き出していた。
カアチャンはそんな大声で泣く俺を泣きながら強く抱きしめてくれる。
トウチャンもいつの間にそばにいて、ただ黙って俺とカアチャンを力いっぱい抱きしめてくれる。
その後泣き疲れたオレはいつの間にか眠ってしまった。
起きたら次の日になっており、改めてオレはトウチャンとカアチャンにこってりと怒られた。
そして街のみんなに心配をかけた事と、もう二度とこんなことをしないようにという罰を込めてオレと子分達は今街のドブ掃除をしている。
こんなことがありみんなはオレがエイユウになるのを諦めたと思っているかもしれない。
でも俺はあきらめたわけじゃない。
オレはエイユウになるんだ!!
カアチャンをもう泣かせることが無いような。
トウチャンから一人前と認められるような。
二人の息子として誇れるような。
そんなエイユウにオレはなるんだ!!!
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