初めての侵入者・撃退編
ヤード視点
(まさかこんなにもあっさり罠にかかるとはな)
木の影に隠れて様子を窺っていた俺は思わず笑ってしまいそうになり、慌てて口を押さえる。
前スーラとメーサが模擬戦で戦ったのは参考にし、今度はメーサ役をスラりんがすることになった。
今まで散々警戒させておいて、最初に出てきたのがスライムなら一気に気が抜けるだろう。
スラりんはプロジェクト開始前にゴンラと特訓したおかげか回避することに関してだけ言えばかなり上手くなっている。あんな怒りにまかせた大振りの攻撃など当たるはずもない。
そしてまんまと相方と引き離し、ウットカゲがいる木まで逃げる。
スラりんに気を取られ、木に擬態しているウットカゲに気づかずに攻撃をまともに食らったというわけだ。
(口で言うのは簡単だが、ここまで上手くいくとはな)
引き離す事ができれば恩の字と考えていた俺にとってはまさに行幸だ。
(仲間が悲鳴を受けてようやく危険に気づいたようだな)
それまで仲間を眺めていた男が慌てて駆け寄ろうとするが、そうはさせない。
俺は魔狼達と共に木の影からゆっくりと姿を現す。
(攻撃してこないか)
ダンジョン内で仲間にしきりに励ましていたから、俺が現れても構わず向かってくると思ったんだがな。
どうやらそれなりに場数を踏んでるようだな。
「ほぉ、これまでの様子からすると魔狼達をものともせず仲間のもとに駆け寄るかと思ったんだがな」
挑発交じりに声をかけてみる。
だが男は眉をひそめるだけで攻撃してこない。
「お前みたいな薄汚ねぇゴブリンがいるんだ、用心しねぇはずがないだろう!」
それどころか逆にこちらを挑発してくるとは面白い。
「薄汚いとは心外だな。
こう見えて俺は風呂が好きでな、毎日入ってるんだぜ」
主殿が風呂を作ってくれたからな、あれは気持ち良いもんだ。
風呂に入りながら酒を飲むのは最高だと思う。
それにしても挑発には乗ってこないが、男の思考は手に取るようにわかるな。
俺を警戒しながらも、視線がチラチラと後ろにいる男にいっている。
助けたいんだろうが、残念だがそれは無理だ。
俺は今か今かと待ち構えている奴に合図を送る。
「そうそう、挨拶がまだだったな。
ようこそ我が主のダンジョン『ウワバミ』に。
まぁ、冥土の土産になるぐらいは愉しんで死んでいけ」
俺の合図にそれまで我慢していたアナコンダイが一気に倒れている男を締め上げる。
おうおう、ありゃ全身の骨が逝ったな。
悲鳴をあげることすら許されず丸飲みとは豪快じゃないか、結構結構。
丸飲みされた男から視線を戻すと目の前の男は突然のことに唖然としてるよ。
おいおいいいのかい?敵を前にしてそんな無防備になって。
これからのことを考えて、どれくらいの実力か知りたいから俺はわざと声を出し男の意識を戻す。
「まずは一人。
次はお前さんの番だぞ」
その声でようやく男は武器を構えた。
「てめぇ、よくもバムを!」
そう言いながら男は手に持った斧を振るってくる。
(ふむ、威力はありそうだが遅いな)
しっかり観察しながら避ける。
ヤードが避けるたびに男は雄叫びをあげながら斧を振るうがまったく当たる気配がない。
やがて斧を振りすぎたせいか男はその場でぜぇぜぇと大きく息を吐き乱す。
(あれだけ叫んでいたから体力にも自信があるのかと思ったのだが、ただ単に頭に血がのぼっていただけか)
叫ぶことで力が上がることはあるが、逆に体力の減りを早くすることになる。
(次は実際に威力を感じてみるか)
「なんだもう終わりか?
すぐにあの蛇の腹を裂いたら仲間を助られるかもしれないのにな」
「てめ~」
ワザと皮肉めいたことを言うと、狙い通り男は顔を真っ赤にして怒り俺めがけ一直線に斧を振るってくる。
それを今度は逃げることはなく、短刀で受け止める。
(以外に重い…)
予想以上の威力に完璧に受け止めるのはあきらめ、威力を受け流すためにワザと吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた俺は背後に合った気に背中から思いっきり打ちつける。
「はっはっはっ、どうだ見たか薄汚ねぇゴブリンが。
俺様は『剛腕のハック』様だぞ。攻撃さえ当たればお前なんて楽勝なんだよ」
ワザと吹き飛んだことにも気付かずに男は高らかに勝ち誇る。
俺はその勝ち誇る声を聞き、何かが切れた。
主に言われ、これからのためにワザと戦いを長引かせ実力を測っていた。
その結果が背中を木に打ちつけ、さらに馬鹿を調子に乗らせることになった。
「もういいよな」
「あぁ?」
木に打ちつけられた姿勢で俺はつぶやく。
俺のつぶやきに男はまだ生きていたのかといった声をあげるが今はどうでもいい。
必要なのは主の許可だ。
『ごめんねヤード、もういいよ。
好きにヤッていいからね』
主から通信で許可が下りる。
それで十分。
さぁ冥土へ連れてってやるよ。
◆◆◆◇◇◇◆◆◆
ハック視点
今まで調子に乗っていたゴブリンを吹き飛ばして俺は高らかに自分のことを誇った。
ゴブリンの分際で調子に乗るからだ。
さて次はあのでかい蛇だ。
バムが生きているとは思わないが、せめて供養だけでもちゃんとしてやるのが兄貴と呼ばれた俺の責任だろう。
でかい蛇に向かおうとしたとき、木に叩き付けたゴブリンが小さくつぶやいた。
「あぁ?」
なんだあいつまだ死んで無かったのか。
仕方ねぇ、今度はしっかり頭をかち割ってちゃんと殺してやるよ。
そう思い斧に握りしめると、手に激痛が走る。
なんだ?そう思い斧を握りしめた手を見るとそこには斧はなく、それどころか手も無く、ただ手首から勢いよく血が飛び出ていた。
「手ーーーーー!!!!」
なんで俺の手が無くなってんだよ!!
なんで、どうして、一体いつ?
訳がわからない。
そんなとき俺の近くから声がかけられる。
「お前を殺さないとな仲間が危ないんだ。
俺より弱くて、それでも必死になって頑張んばってた奴らが、お前みたいなやつのせいで危険な目に合うわけにはいかないだろう?」
いつの間にか近くにいたゴブリンがそんな事を言う。
何を言ってるのか意味はわからないが、こいつが俺の手を奪ったに違いない。
「この野郎!!」
俺は残った手を握りしめ殴りかかる。
利き手ではないとはいえ剛腕と呼ばれる腕だ、かなりの威力を持つ。
だが目の前のゴブリンは避けようともせず、頬にまともに拳を喰らう。
普通の人間が喰らえば顎が砕ける。
だがそのゴブリンはその場から一歩も動くことなく、逆に殴った腕を握りしめる。
「確か『剛腕のハック』とか言ってたな。
まさか今程度の力で剛腕とか言ってるんじゃないよな?」
そう言いながら握りしめた腕に力が込められていく。
「なっ、は、離せこの野郎!!」
あまりの強さに俺はそう言いながら振りほどこうと必死になるが、掴まれた腕はびくともしない。
「お前が剛腕なら、俺は何だろうな?」
俺は掴まれた腕のあまりの痛さにその場に膝をついてしまう。
掴まれた場所は血が止まり真っ赤になるどころか黒く変色している。
そしてゴッキと言う音と共に俺の腕は握り砕けた。
「ギャーーーーーーーーーー」
辺りに俺の悲鳴が響く。
だがその声を聞いてもゴブリンは顔色一つ変えない。
ゴブリンは砕けたことでようやく腕を離すと、今度は俺の頭を握りしめる。
痛みで涙と鼻水を垂れ流す俺は、頭を握られ恐怖におちいる。
「お、おい。まさか……」
俺の恐怖にひきつった顔を見て、ゴブリンの顔が凶悪に歪む。
「俺は義の文字を背負う者。
弱きものを守るためならばいくらでも力を発揮しよう」
その言葉を合図に力がどんどん込められていく。
抵抗しようにも俺にはもう自由に動く手は無い。
あまりの痛さで抵抗もできない。
視界が赤く染まってきた。
鼻からは血が勢いよく噴き出てる。
あ~、頭蓋骨にヒビが入り始めたな。
恐怖で抵抗できない俺は、徐々に壊され死が近づいてくるのをはっきりと意識させられた。
(あ~、俺ってホント馬鹿だったな)
後悔混じりにそう考えたとき、頭蓋骨が破壊されそのまま脳を握り潰されることを最後にハックは考えることもできなくなった。
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