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デビルズ・ダンジョン ~悪魔に頼まれダンジョン造り~  作者: 夢見長屋
動きだした世界、プロジェクト開始
34/103

初めての侵入者

 ハック視点

 

 (ここがダンジョンか、魔族が地上に侵攻するために拠点として造られたって聞いてはいたが、案外中は俺様が普段探索している古代遺跡と変わらないんだな)

 

 神託があった日、酒場でダンジョンを攻略して神の褒美をもらうのは俺だと言った言葉を、酒場にいた人間全員本気にしてはいなかった。

 所詮は酒に酔った男の戯言として笑われ、流されたのだ。

 全員に笑われ新しい酒の肴にされた俺は、自分を笑った者、自分の言葉を信じなかったものを見返すため、本気でダンジョンを攻略することにした。

 

 まずは街にいる腕利きの情報屋に大金を払い、近場にあるダンジョンの情報を買う。

 情報屋は神託が下されてからまだ数時間しかたっていないというのに、すでに何件ものダンジョンの情報を持っており、それらの情報をあらかた買う頃には手持ちの金はほとんど消えてしまった。

 

 情報屋から得られた情報で、俺は今いる場所から近い範囲にあるダンジョンは三つあることがわかった。

 

 一つはすでに西方にある大国。

 だがこのダンジョンにはすでに大国の兵士が入り口を固め封鎖しているため、冒険者は攻略する事はおろか入ることすら出来ないと言われた。

 なら向かうとしたら残りの二つのうちどちらかだ。

 一つはこの街からそれほど遠くはない所に出現したダンジョン。

 人通りの多い街道沿いに出現したらしく、すでに何人もの人間が攻略に乗り出し、いくつかの情報が入っている。

 

 「僕の所にも、結構情報を売りに来る人も買いに来る人もいたから、明日以降攻略に乗り出す人がもっと増えると思うから行くなら急いだ方がいいよ」

 

 と情報屋が駄賃代りの情報をくれた。

 そして残る最後のダンジョンはここから数日かかる場所にある街の付近の山に出現したらしい。

 このダンジョンに関しては、まだ情報が入ってきたばかりなので中がどうなっているか情報が何もないとのことだった。

 

 「中の事教えてくれたら、普段より高く買うよ。

 神託のおかげかダンジョンに関する情報を買いに来る人が多いから、新しいダンジョンの情報は高く売れるんだよ」

 

 俺は少し悩んだ後、最後に聞いたダンジョンに向かうことにした。

 一つ目は論外、二つ目のダンジョンはすでに攻略に乗り出している者がおり、今後も何人もの攻略者がダンジョン内に入る事を考えたら、なかで他の冒険者と揉め事が起こる可能性もあるし、下手したら俺よりも先に攻略してしまうものが出てくる可能性もある。

 それならば、誰も知らないダンジョンの攻略に挑んだ方が周りに気兼ねなく好きなように動けるし、誰も知らないダンジョン内の情報を高値で売ることもできる。

 金が尽きかけていた事も決め手となり、俺は最後のダンジョンに行くことにした。

 

 そう決めた俺は宿屋で先に休んでいた舎弟であるバムを叩き起こし、朝街の門が開くと同時にダンジョン付近にある街に向かった。

 

 

 

 

 

 数日後ダンジョン近くにある街にたどり着いた俺達は、宿で一晩だけ強行で進んできた疲れた体を休め、夜が明けるとともに急いでダンジョンがあるという山に向かった。

 本来冒険者が古代遺跡などに挑む時は、もっと念入りに準備をしてから挑むものなのだが、今の俺はそんな悠長なことをしている暇は無かった。

 体を休めた宿でそれとなく宿の亭主にダンジョンのことを聞き、まだ目的のダンジョンに挑んだ者達がいないと聞いはいたが、それでも、もしかしたら今朝にでも先に攻略を開始する奴がいるかもしれないと思ってしまい、落ち着いて準備などできなかったのだ。

 

 山を進み始めて日がだいぶ登り始めた頃、ようやくお目当ての入り口を見つけた。

 

 「なんだか気味が悪いっすね」

 

 入り口を覗いた舎弟のバムがそう気味悪そうにつぶやく。

 

 「そりゃそうだろう、なんたって魔族が潜んでいるんだからな。

 なんだバム、ビビってるのか?」

 「そ、そりゃ魔族がいるかもと思うと怖いですよ……」

 「なに心配すんな、この俺様の二つ名を知ってるだろ?

 『剛腕のハック』様だぞ。

 そんな俺様がついているんだ、魔族なんてあっという間に蹴散らしてやるよ!!」

 

 手に持った大きな斧を掲げて自信満々にそう叫ぶ。

 そうともこの俺様の剛腕と、鋼でできた自慢の斧さえあれば、いくら魔族が強いと言っても敵じゃない。

 

 自分の言葉で自信と気合を入れ、堂々とダンジョンの中へと進んで行く。

 

 

 

 

 

 ダンジョン内は狭い通路造りになっており、それだけである程度行動が制限される造りになっていた。

 

 「バム、俺の後ろについてきながら後方に警戒しろ」

 

 武器を構えながらと通路を進んでいく。

 先がなかなか見えない長い通路、そこをいつ魔族が襲ってくるかと用心しながら進んでいくのは案外体力を消耗する。

 それに通路の壁に描かれている蛇ノ目模様がチラチラと視界に入ってきて、その目につい反応してしまい、誰もいないのに周囲への警戒が強くなってしまい、精神も消耗してしまう。

 

 どれくらい歩いただろう。何も出てこない通路を歩いているだけなのにずいぶんと疲れてしまう。


 (ちくしょう。普段の冒険の時はこれぐらい歩いただけじゃ疲れないのによ)

 

 内心そう思いながら、思わず顔をゆがませる。

 

 「な、何も出てきませんね」

 

 疲労と緊張からか後ろを歩くバムがそうつぶやく。

 俺様よりも体力が少ないバムの顔は、常に周囲を警戒しているせいか、酷い疲労が浮かび真っ青に近くなっている。

 

 (ここらでいったん休んだ方がいいか?)

 

 そう考えたとき、「ウォーーーン」と通路の奥から獣の咆哮が鳴り響く。

 

 「ひっ」

 

 咆哮が聞こえた瞬間、バムが怯え悲鳴をあげる。

 俺は咆哮が聞こえた先を見据え何が起きてもいいように武器を構え、いつでも迎え撃てるように構える。

 武器を構えて一分、二分と過ぎていく。

 緊張のために頬を冷たい汗が流れ、後ろにいるバムの荒い呼吸がやけに五月蠅く聞こえる。

 だが迎え撃とうと構えているのに、敵は一向に姿を現さない。

 

 (ただの虚仮脅しか?)

 

 俺達を脅かすためだけにわざと咆えたのだろうか?

 敵が姿を現さないことに、余計にいろいろ考えてしまう。

 

 「アニキ、もう帰りましょうよ~」

 

 背後から先程の咆哮で弱腰になったバムがそう言ってくる。

 俺もその言葉に思わずうなずきたくなってしまったが、ここで帰ったら何もしないで逃げ帰った臆病ものとしてまた笑われてしまう。

 だから、逃げたくなった気持ちを消すようにバムを怒鳴りつける。

 

 「馬鹿野郎!

 俺達はまだ何の情報も宝も手に入れて無いんだぞ。

 冒険者が手ぶらで帰れるか!!」

 

 そうだ、俺はまだ何も手に入れてない。

 俺はここで一旗あげてあのとき俺を笑った奴を見返してやるんだ。

 その気持ちが俺をダンジョンに奥に向かって足を進める。

 

 「アニキ~」

 

 そんな俺の背中に、泣きそうなバムの声が聞こえてくる。

 

「心配すんな、さっきの咆哮も俺達が怖くて遠くから威嚇しているだけだ。

 姿を見せない所を見るとそこまで強くないはずだ」

 

 そうとも、いまだ姿を見せない相手に怯えていてどうする。

 

 それからさらに数十分ほど通路を歩いて行くと、ようやく狭い通路を抜け木々が生い茂る広い空間へと出た。

 それまでの狭い石造りの通路とからがらりと変わった室内の様子に、俺は戸惑い入り口付近で唖然とし、立ち止まってしまう。

 しばらく唖然とあたりを見ていたが、突如風も無いのに近くの木々が揺れる音が聞こえた事で、意識をはっきりとさせ慌てて戦闘態勢を取る。

 後ろにバムにいたっては手に短刀を持って一応戦えるようにしてはいるが、ビビって腰が引けており、戦力になるとは思えない。

 

 (何かいるのか?)

 

 音がした木々の方を注意深く窺っていると、やがて木の上からポトリと何かが落ちてきた。

 思わず武器を持った手に力が入るが、落ちてきたものをよく見た瞬間、今度は逆に力が抜けてしまった。

 

 「なんでぇ、ただのスライムじゃないか」

 

 そう落ちてきたのは何の変哲もないスライム。

 遺跡にも時々出てくることがあるが、こいつらは特に問題ない脆弱な魔物だ。

 強く踏みつけただけで死んでしまうほど弱い魔物に怯えてしまう奴なんていないだろう。

 後ろからこわごわと様子を窺っていたバムも、現れたのがスライムだとわかるととたんに強気になる。

 

 「ホントっすね、ただのスライムじゃないですか。

 こいつ脅かしやがって」

 

 バムがそう言ってスライムを踏みつぶそうと足を踏み下ろす。

 普段ならこれだけでスライムを踏みつぶすことができるのだが、そのスライムは踏み落とされた足をするりと横に飛ぶことで回避する。

 

 「こ、こいつ~」

 

 スライムごときに避されたことで羞恥で顔を真っ赤にしたバムは、もう一度踏みつぶそうと足を踏み下ろすが、スライムはまたするりと避ける。

 そのうえ今度はお返しとばかりに、足を踏み下ろしたばかりのバムに体当たりをお見合いする。

 思わぬ反撃を喰らい、バムはバランスを崩しその場に尻もちをついてしまう。

 スライムの体当たりなど攻撃なんてたいしたものではないだろう。

 実際体当たりを受けたバムにはまったくダメージは無い。

 ダメージは無いが、それでもスライムに攻撃をかわされ、逆に攻撃を受け尻持ちを突かされた事がバムの怒りに火を付ける。

 

 「こいつ、許さないっす!」

 

 手に持った短刀を振り上げ、スライムを切り裂こうと振るわれるが、そんな攻撃など喰らわないよとばかりに、スライムは体を上手く弾ませてバムの攻撃を巧みに避けていく。

 

 その光景をハックはあきれたように見ていた。

 

 (スライムに遊ばれるなんて……、まだまだだな)

 

 

 

 だから気付くのに遅れた。

 

 ダンジョンに入ったことでずっと緊張し疲労していたせいだろうか?

 始めて現れた敵が最弱のスライムだったからだろうか?

 攻撃を受けても舎弟であるバムに怪我など無かったからだろうか?

 

 

 

 理由はどうであれ、ここはダンジョンの中なのだ。

 少しの油断が生死を分ける。

 

 そう―――、

 

 避けてばかりいたと思われるスライムが、いつの間にかハックとバムの距離を引き離しているように。

 バムがスライムを追いかけて木々が一層生い茂った場所に足を踏み入れるように。

 

 少しの油断が命取りとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これで終わりっす」

 

 今まで散々攻撃を避けてきたスライムをついに追い詰めた。

 背後には大木があり、もう逃げることはできない。

 

 「さぁ、観念して死ぬっすよ」

 

 振り上げていた短刀を勢いよく振り下ろそうとする。

 だが、その短刀が振り下ろされることは無かった。

 なぜなら振り下ろす前にバムの目にいきなり木から液体が勢いよく噴き出してきて、目にかかったのだから。

 液体を目に受けたバムは、ものすごい激痛を目に受け悲鳴を上げる。

 

 「ぎゃぁーーー!」

 

 激痛のせいで短刀を振り下ろすどころでは無い。

 目を押さえてバムはその場に転げ回ってしまう。

 

 

 

 バムの悲鳴聞き、転げ回るその姿を見て俺は初めて異変に気付いた。

 

 「バム!」

 

 名を叫び急いでバムの元に駆け付けようとするが、その前に木々の間から低い唸り声を上げながら魔狼が姿を現す事で足止目を喰らってしまう。

 

 (クソ、こいつらいつから隠れてやがった)

 

 隠れていた魔狼の気配に全く気付かなかった。

 それだけで魔狼の力の片鱗がうかがえる。

 急いでバムの元に駆けつけたいが、目の前にいる魔狼がそれを許さない。

 そしてなにより、魔狼が姿を現してから最後に現れた一匹のゴブリンを見てハックは迂闊に動けなくなってしまったのだ。

 

 今まで攻略してきた遺跡にもゴブリンはいた。

 そいつらはただ奇声を上げ、粗末な棒を片手に突っ込んでくるような単細胞たちだった。

 だが現れたそいつは明らか違う。

 姿形は同じだ。

 だがその目に宿る意志ある光が、あきらかに他とは違うのだ。

 

 そのゴブリンは、足を止めてこちらを窺う俺を見て感心したようにうなずく。

 

 「ほぉ、これまで窺っていた様子からすると、魔狼達を低く考え何も考えずに仲間のもとに駆け寄るかと思ったんだがな」

 

 人間のように流暢にしゃべるゴブリン。

 俺は思わず眉をひそめ小さく舌打ちをする。

 知性がある相手は厄介だ。

 野生のサルなどは知恵の無いうちは簡単に退治できるが、知恵を付けると途端に手に負えなくなってしまう。

 言葉を流暢にしゃべり、なおかつこれまでの俺達の様子を観察し分析していたゴブリンなど、普通では無い。

 

 「お前みたいな薄汚ねぇゴブリンがいるんだ。

 用心しねぇはずがないだろう!」

 

 すぐにバムの元に行きたいがそれができないのなら、少しでも俺に注意を向けさせバムから意識を逸らそうと考え、挑発してみる。

 知恵があり言葉が通じるなら、挑発も効果があるというものだ。

 

 「薄汚いとは心外だな。

 こう見えて俺は風呂が好きでな、毎日入ってるんだぜ」

 

 だがゴブリンは俺の挑発には乗らず、逆に落ち着いた態度で対応をしてくる。

 そして焦る俺を逆に挑発するように、チラリと後ろを振り返りバムの方に視線を送り、凶悪な笑みを浮かべる。

 

 (このクソゴブリンが!!)

 

 そんな態度にはらわたが煮えくりかえりそうになる。

 顔は真っ赤になり、手に力が入り怒りでブルブルと震えだす。

 そんな俺の様子を見ても、一向にゴブリンは態度を崩さない。

 

 「そうそう、挨拶がまだだったな。

 ようこそ我が主のダンジョン『ウワバミ』に。

 

 まぁ、冥土の土産になるぐらいは愉しんで、そして死んでいけ」

 

 

 

 ゴブリンがそう言った瞬間、木々の隙間から木々を折りながら現れた強大な蛇が一瞬にしてバムの体に巻き付く。

 バキッ、ボキッと嫌な音がバムの体から響いてく。

 全身の骨を砕かれているのだ。

 

 「バムーーーー!!!」

 

 口から大量の血を吐きだすバムに俺は大声で叫ぶ。

 体中を絞められ、血が頭に集まったのだろう。

 普段よりも二倍ほどに膨らみパンパンになったそんな顔で、バムは真っ赤に充血した眼から涙を流しながら俺の方に目を向け、助けを求める。

 

 「た、助k」

 

 その助けを求める言葉を言い切る前に、大蛇がバムの頭を一気に飲み込む。

 そしてそのままゆっくりと前進を大蛇は飲み込んでいく。

 

 「な、なんだよ。それは…」

 

 目の前で突然バムが喰われたことで俺の頭は真っ白になる。

 そんな俺にゴブリンは変わらず凶悪な笑みを浮かべたままつぶやく。

 

 「まずは一人。

 次はお前さんの番だぞ」

 

 ダンジョンで油断していたツケが、今一気に返される。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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