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閑話 創造神ライフ

 『いよいよだな』

 「はい、いよいよプロジェクトが開始されます」

 

 眼帯を外し、魔王として自身の威光を最大限に身にまとっているクラウンは、目の前にいる人物に片膝をついた姿勢で返事をする。

 

 『そうかしこまるな、ここには余とお主しかおらぬ、もっと気楽にしてよい』

 「はっ、ありがとうございます」

 

 そう言われてもクラウンは姿勢を崩すことは無い。

 なぜなら目の前にいる人物、いや神物こそこの世界の頂点であり生みの親、創造神ライフ様なのだから。

 

 『主にはいろいろ我が子たちが苦労かけているようだな』

 「とんでもございません。

 元はと言えばこれは戦に負けた魔族の王としての責でございます。

 苦労は当たり前でございますが、今回のことに関して言えばわたくし達も十分楽しみながら仕事に励んでおります」

 『そうか……、ならば良い』

 

 そう言って深く息を吐き出す。

 魔王として地上においては上位に入る力を持っているクラウンだが、そんなものこの神の前にすればたかが知れている。

 現に今も、その吐き出した息に含まれる力に冷や汗が浮かぶ。

 

 「僭越ながら創造神ライフ様、なにか悩みごとでしょうか?」

 『悩み事……とも言えぬかもしれぬがな、少し迷っておるよ。

 本当にプロジェクトを開始してよいのかとな』

 

 明日プロジェクトが始めるというのに、そんなこと今頃言うのか!!

 

 思わずそう言いそうになったが、何とか口に出さずクラウンは静かに創造神ライフ様の話を聞く。

 

 『もともとこの話は我が子らが持ち出してきたことだ。

 親として子供達が自分で考えて行動したなら、それを見守るべきなのだろう。

 だが、もし間違った行動した場合叱るのもまた親の務めなのだ』

 

 暇を持て余していた神々のすべては創造神ライフ様の子供に当たる。

 ライフ様はこの世界を創り、そして子供達である神々を産んだあとはずっとその姿を見守るだけだった。

 

 『子供が退屈しておるからと言って、孫達に争いをさせるこれは間違いではないか?』

 

 神々が創った種族のことをライフ様は孫達と言って下さる。

 全ての始まりであり、偉大なる創造神であるライフ様に孫と呼ばれるのは嬉しい限りだ。

 

 だが、ここはあえて言わなくてはいけない。

 

 「畏れながらよろしいでしょうか?」

 『よい、ここには余とお主しかおらぬ、忌憚のない意見を申せ』

 「はっ」

 

 そこで言葉を止めると、一度大きく深呼吸した後にまっすぐにライフ様を見つめる。

 男なのか女なのか、老人なのか子供なのか、その姿がはっきりとわからないほどの存在の大きさを持つ神に真っ向から意見を言う。

 

 「創造神ライフ様、此度のプロジェクトは既にあなたの手を離れた問題であります。

 確かに子が間違った場合叱るのは親の義務でしょう。

 ですが、正す機会があったのに正さず、間違ったときにだけ口を出すのもまた間違いだと思います」

 

 ライフ様が言っていることは正しい。

 だが、それを言うのが遅すぎる。

 

 「あなたは覚えていないのですか我等と人族に合った戦争のことを」

 『覚えておる。

 だからこそ、このプロジェクトを心配しておるのだ』

 「遅いんですよ!すでに我が種族は苦渋を飲まされております。

 助けられた時に助けなかったものが、今さら優しい言葉を言わないで下さい!!」

 

 助けて欲しかったのは戦争が起こる前。

 仲間が減って行く前。

 まだ魔族と人族が隣で笑え会えたとき。

 

 だが助けは無かった。

 こちらから願い、ようやく助けられた。

 

 今さら助けてくれなかったものが手を差し伸べるな!

 

 「このプロジェクトはあなたが助けなかった種族が総意でもあります。

 助けず見守っていたのですから、今度も見守っていて下さい」

 

 言うだけのことは言った。

 大神に対してクラウンの発言は、殺されてもおかしくないほどの不敬である。

 だがそれでも言っておかなくてはいけなかった。

 

 それが今回プロジェクトに参加した魔族達の長としての魔王の意地。

 

 しばらく無言の時が流れる。

 どちらも何も言わない。

 クラウンは言うだけのことをいい、ライフ様はクラウンの言葉を吟味している。

 やがてゆっくりとライフ様が息を吐き出す。

 

 『クラウンよ、お主の気持ちよくわかった。

 今回のプロジェクト、何があろうと余は手を出さぬ。

 ただ静かに見守ろう』

 「ありがとうございます」

 

 そう言いクラウンは頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『これでよかったのか?』

 「ありがとうございます父上」

 

 クラウンが仕事に戻った後、ライフはクラウンに気づかれないように気配を消して様子を窺っていた魔神ネスに声をかける。

 

 『まさか孫から怒られることになるとはな』

 「私の自慢の息子ですから」

 

 少しだけションボリとした様子のライフとは対照的にネスは嬉しそうにそう言う。

 

 『あの時気付くのがもう少し早ければ、孫も今とは違う人生を歩めただろうがな』

 「そうかもしれませんね。

 ですがそれはもしもの話ですよ。

 すでに決まってしまったことは父上でも、時の神イム姉さんでもどうしようもないですから」

 

 人魔戦争が起きたと創造神ライフが知ったのは、すでに魔族が敗戦まじかなときだった。

 そしてそれは魔族の神ネスも同様だ。

 なぜそんなことになったのか。

 それは神界三大問題児に原因があった。

 彼等は意図してライフやネスの耳と目にこの戦が入らないようにしたのだ。

 

 決して創造神ライフは助けなかったわけではない。

 

 だがそのことはクラウンには告げない。

 助けられなかったという言葉を、助けたかった相手に掛けることなどできるはずもなかった。

 今回のプロジェクトの話では助けることができた、だからこそクラウンにそう話を切り出そうとしたのだ。

 

 まぁ結果は話す前に怒られてしまったが。

 

 『これからどうなるのかのう』

 「さて、父上にわからないことが私にわかるはずありませんよ。

 ただ一つ言えることは、これから世界は動き出しますよ」

 『動き出すか、今のままでは満足できんか?』

 「できませんね」

 

 ネスははっきりとそう言う。

 

 「まだまだ私達は成長中ですので、足を止めるわけにはいかないんですよ。

 だから父上は、私達の成長を今まで通り見守っていて下さい」

 

 そう成長中なのだ。

 偉大なる創造神の父みたいになりたく、私達は進んでいるのだ。

 

 『わかった。ならば余は最後にしっかり仕事をしてから子供たちや孫達を見守ることにしよう』

 

 

 

 プロジェクトが動く時、世界も動き出す。

 それは神界にいる神々も同じであった。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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