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鍋会と盃

今回の話は私の好きなあるゲーム作品がモデルです。


 プロジェクト開始まで残り3日。

 

 今日も鍛錬や眷族との連携の特訓するためにダンジョンに行こうとするみんなに、早目に訓練を切り上げて帰って来るように伝える。

 

 「何か用事でもあるのか?」

 「夜にね、みんなで鍋会しようと思ってね」

 

 これは元の世界でも俺がしていた事なのだが、何かするときそれがチームで挑む場合は必ず一度はチームで鍋を食べることにしている。

 今考えている予定では、明日はプロジェクト開始前にしっかり体を休めるために休息日とし、最終日は最後の確認として連携や各自の武器や体調のチェック、ダンジョンの確認などをすることに決めている。

 なので休息日前の今日は、プロジェクト開始前の決起集会とダンジョンに住むみんなとの交流会を込めた意味で鍋会をすることにしたのだ。

 

 「なるほど、なら飯を腹一杯食えるように運動でもして腹ペコにしてくるかな」

 「メーサ、鍋会楽しみ!すごい楽しみ!」

 「いいですね鍋会。皆で楽しく食べるでござるよ」

 

 楽しそうに口々にそう言ってヤード達三人は、訓練のためにダンジョンに行く。

 

 「ムースも家事が終わったら鍋の準備手伝ってね。

 今日は少し奮発して食材出すから」

 「かしこまりました。

 私も楽しみですので頑張って腕を振るいたいと思います」

 

 口角をわずかに数ミリほど上げた笑みを浮かべたムース。

 最近そばにいることが多いので、数ミリだけの変化で分かりにくいが、無表情と思われているムースの表情の変化がわかるようになってきた。

 メイド服のスカートのすそをはためかせること無く、素早く移動し家事に取りかかるムースとみて、黒も普段購入している食材よりも、少し高く、そしておいしい食材を購入するため自室においてあるパソコンに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして夜、言葉通り激しい運動で極限まで腹ペコにして帰ってきた三人の目線の先には、蓋のふちからいい臭いとともに湯気が上がっている鍋が、部屋の中央にデーンと鎮座していた。

 

 「いい匂いなの!」

 

 目をキラキラさせたメーサは今か今かと鍋を見つめる。

 すでにその手には箸が握られ、すぐにでも食べたいと無言のアピールをしてくる。

 ヤードとスーさんもメーサと同じ気持ちなのか、ヤードは酒の入ったグラスを手に持ち、スーさんは何度も唾を飲み込みながら、待てを言い渡された犬のように忠実に待機して食事の合図を待っている。

 そんな三人を見て俺は笑顔を浮かべると、いまだ座らずこまごまとした準備をしていたムースを呼び、全員で食卓を囲む。

 

 「みんなちゃんと眷族や他の魔獣達にも食べ物配ってきた?」

 「是」

 「うん、みんないつもよりおいしいお肉が食べられることに大喜びしてたの!」

 

 今日の食事は魔獣達も俺達と同じで、いつもより豪華なお肉などをプレゼントしている。

 本当は一緒に食べたかったのだけど、俺がいたら気を使って食事が楽しめないだろうと思いそれは止めておいた。

 けして「生肉を隣で丸飲みする食べ方を見ながら、おいしく食事ができますか?」とムースに言われたため、俺達と彼等の食事場所を分けたわけでは無い。

 

 「そうかそれは良かった。

 それじゃあみんなも早く食事したいと思ってるだろうけど、食事する前に少しだけ俺の話を聞いてくれ」

 

 ゆっくりみんなの顔を見ながらそう言う。

 真剣にみんなの顔を見まわしたからだろう、それまで鍋にずっと視線を向けていが真剣な表情に変わりこちらを注目する。

 

 「いよいよ3日後、プロジェクトが動き出す。

 プロジェクトが始まったら、はっきり言ってこのダンジョンがどうなっていくかまったく予想がつかない。

 のんびりとDPが増えながら穏やかに過ごせていけるのか、それとも初日から大勢の侵入者が来てあっという間に殺されてしまうのか、本当に予想がつかない。

 もちろん全員が死ぬような最悪な展開にはならないよう、いろいろ考えて来て、そうならないようこれからも頑張るつもりだ。

 けど……、

 

 絶対死なないなんてことは言いきれない。

 

 これから起こる問題の多くは、俺一人の力じゃどうこうできる問題じゃないと思う。

 だから手を貸してくれ!

 守られてばかりのDDMだけど、精一杯頑張るから、だから手を貸しくれ!!」

 

 自分の気持ちを正直に言って頭を下げる。

 

 自分の力が足りないのは、自分が一番よくわかっている。

 

 きっとこれから先、さまざまな苦労をみんなには強いることにもなると思う。

 それでも、出合って短い期間だけれども、今ここにいるみんなと俺は少しでも長く過ごしていきたいと思っている。

 だから俺はその気持ちを、思いを全て込めて頭を下げる。

 

 

 

 「マスター、頭をあげて下さい」

 

 頭を下げている俺にムースが静かに言葉をかける。

 その言葉にゆっくりと俺が頭をあげると、みんなが笑顔で俺のことを見ていた。

 

 「マスターに手を貸すなんて当たり前のことですよ」

 

 無表情なムースがその目に優しさを込めながら、

 

 「そうだな。

 俺は主を守るって決めたんだからよ、変な気使いなんてするな」

 

 ヤードが鋭い牙を見せた笑みを浮かべ、頼もしさを醸し出しながら、

 

 「メーサもマしゅターの傍で頑張るの!

 だからマしゅターはこれっぽっちも心配しなくていいの!!」

 

 メーサが天真爛漫という言葉が似合う笑顔を浮かべながら、

 

 「主よ、我々は主が精一杯我等を思っているのはわかっているでござる。

 ですので、我等こそ主に手を貸させて下さい」

 

 スーラが忠義を誇るかのように真剣な瞳でそう言う。

 

 

 

 頼もしく、そしてなにより心の底が温かくなるような気持ちを俺に向けてくれる。

 温かい思い胸から込み上げ、おもわず目からあふれ出しそうになるのを照れくささから我慢する。

 涙なんて、ここで流すもんじゃない。

 

 「これからもみんな頼りしてるよ」

 

 その一言だけ伝え、両手を合わす。

 

 「それじゃ、食べよう!」

 「「「「「 いただきます 」」」」」

 

 声を合わせて言ったと、みんなで仲良く一つの鍋を食べ始める。

 

 

 

 

 

 「メーサ一人で肉を取り過ぎだ。

 野菜も食べろ、野菜も」

 「そうでござるよ。好き嫌いしてはいけないでござるよ」

 「いいの、メーサまだ子供だから好き嫌いして当たり前なの」

 「当たり前ではありません!しっかり野菜も食べなさい。

 スーさん、あなたもネギ類をまったく食べて無いではないですか。

 ネギ類も避けないでちゃんと食べなさい」

 「ムース殿、某は種族的に食べれないのござるが……」

 「あ~そう言えば、犬にネギ類は駄目だったな」

 「ほら、スーさんも好き嫌いがあるからメーサも食べなくていいの」

 「……スーのは好き嫌いって言わないだろう」

 

 みんなでワイワイと騒ぎながら、それでも箸は休むことなく動き続ける。

 

 「おっ、この豆腐なかなかいい味だな!」

 「こちらの白滝も上手いでござるよ」

 「やっぱり一番はこのお肉なの!!」

 「なにを言っているのですかあなた達は、一番はこの出汁ですよ。

 この出汁があるからこそ、他の食材の良さが引き立っているのです」

 「おいしく食べるのはいいんだけど、君達もう少し食べてばっかりじゃなくて、アクを取るのも手伝ってくれよ……」

 

 だんだんと鍋の食材が少なくなっていく。

 

 「お肉が無くなってきたの。

 ここはカウフロッグのお肉を入れるの」

 「「「 いい(な)(ですね)(でござるな)!! 」」」

 「それは止めろ」

 「「「 え~、おいしいのに 」」」

 「いや、マジで止めてくれ」

 

 土下座をしてそれだけは阻止する。

 せっかくの鍋が残念なことになってしまう。

 そしてまたそんなアクシデントもまたいい思い出となる。

 

 「ほらそこ、まだその野菜は早いですよ。

 こちらの野菜から食べなさい」

 「ムースって意外に鍋奉行だったの?」

 「意外でも何でもないだろう、見た通りだと思うがよ」

 「肉が足りないの!もっともっと肉を入れるの!!」

 「肉よりキムチ入れてくれ、俺は辛口の鍋も好きなんだ」

 「いえ、某辛いものも駄目なのでござるが……」

 「まったく、好き嫌いが多いですよ」

 「ですから好き嫌いって問題では無く、種族的な問題なのでござるが……」

 「大分中身も減ってきたな。

 最後はご飯でシメるから、みんな少し腹に余裕持っといてね」

 

 同じ釜の飯を食った仲、って言う言葉がある。

 同じ食卓で同じ鍋を食べたみんなとはきっとこれからも仲良くやっていけると思う。

 そしてまた、この仲間と共に楽しく鍋を囲みたい。

 嬉しいことも、辛いこともきっとこの仲間となら乗り越えていける。

 

 「シメがご飯?

 最後のシメはうどんだろう」

 「なにを言っているのですかあなたは、シメはご飯に決まっています。

 汁をたっぷり吸いこんだご飯に溶いた卵を混ぜ込む、あれこそ鍋のシメ、鍋の究極なのですよ」

 「メーサはどっちでもいいの。って言うか両方食べたいの」

 「さすがに両方は無理だな。

 とりあえず今日の鍋のシメはご飯にしておこう」

 「……仕方ない、だが次はうどんでシメるぞ」

 「もちろん、次はうどんにするよ」

 

 シメのご飯を食べ終え、鍋の中身が綺麗に無くなる。

 鍋の周りでは腹一杯になったみんなが満足した顔でゆっくりとしている。

 



 「主、ちょっといいか?」

 

 黒も満腹で食休みをしていると、ヤードが手に酒を持って近づいてくる。

 

 「酒かい?」

 「あぁ、でもこのあと一緒に飲んでくれって訳じゃないから安心しろ」

 

 さすがに満腹状態の今、酒豪のヤードと酒に付き合うのはキツイ。

 それを察してヤードが先にそう断りを入れる。

 そしてヤードが黒の前に腰を下ろすと、手に持っていた酒と二つのお猪口をそれぞれの前に置く。

 

 「主からは名前を貰って忠臣契約を結んでくれた。

 だが、それだと俺は主からの一方的な契約みたいに感じちまう」

 「ヤードも契約に同意したともうけど?」

 「確かに同意はしたさ。

 まぁ、今からやるのは一つの俺のケジメってやつだ。

 少しだけ付き合ってくれ」

 

 目の前に置かれたお猪口に酒を注ぐ。

 

 「これは俺に加護をくれた、任侠の神ブライにちなんだ契約みたいなもんだ」

 「……盃か」

 「なんだ知っていたのか。

 主よ、受け取ってもらえるかい?」

 

 前に見た古い任侠映画のワンシーンだ。

 互いのお猪口にそれぞれ互いの血を垂らし、相手の血が入った酒を一気に飲み干す。

 これで赤の他人から、血のつながった仲となる。

 

 血は何よりも重い互いの絆。

 

 これはそのための儀式だ。

 

 「喜んで、お前と盃を交わさせてもらうよ」

 

 親指を少し口で噛み切り、ヤードの前に置かれた酒に血を垂らす。

 同じようにヤードも自分の血を黒の酒に垂らす。

 そうして互いの血が入ったお猪口に手に取ると、二人同時に酒を飲み干す。

 

 酒の味とは別に、この盃にはくるものがある。

 

 「これで主を心から守ろうと思える」

 「あれ?それじゃぁ今までは?」

 「それは言わぬが花というものだろう」

 

 盃を交わし、何かで繋がったように感じる二人はそう軽愚痴を言い合い笑い合う。

 そんな二人を黙って見ていた他の三人だが、とうとう我慢できなくなり、

 

 「主よ、よければ某も盃を貰いたいのでござるが」

 「メーサも!メーサも!!」

 「私も許されるならば、マスターの血を体に取り込みたいですね」

 

 そう次々に言ってきたので、結局そのあと全員と盃を交わすことになった。

 

 

 

 食事で信頼が強まった。

 盃を交わし、みんなとの絆も強くなった。

 

 これで大丈夫。

 

 今日俺は初めてこの世界に来て、心から満足できた日となった。

 

 

 

 

 

 オマケ

 

 ヤード以外の三人と盃を交わした後少しだけ大変な目にあった。

 

 スーラは下戸だったのか、盃で飲んだ少しの量の酒で目を回して倒れた。

 メーサはまだ子供だからだろう、酒に免疫が無く、しかも笑い上戸だったのか盃を交わした後、一人でクルクル回りながら笑い続けていた。

 ムースの場合他の二人とは違い、酔うということでは無かったが、黒の血が入った盃を飲んだ後、しきりにお腹を撫で笑みを浮かべている姿が妙に精神的にくるものがあった。


最後までお読みいただきありがとうございます。

評価やブックマーク、感想などいただけると嬉しいです。

これからも頑張っていくのでよろしくお願いします。



ちなみにモデルとなったゲームは「サモンナイト3」です。

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