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模擬戦

 プロジェクト開始まであと4日。


 今日はみんなに模擬戦をしてもらうことにした。




 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 侵入者役ヤード VS スーラ&眷族【狗】達


 戦闘場所 通路




 「侵入者役か……、主よどこまでやっていいんだ?」

 「武器は刃引きしたものを使ってもらってるし、回復薬も大量に準備したから死なない程度にはやってもらっていいよ。

 って言うか、一応本番を想定したいからそれなりに本気でやってくれ」

 「了解だ」


 その言葉を聞いてヤードが凶悪な顔で笑う。


 「聞こえていただろうスーラ、主の言葉だ本気で行くぞ。

 ……怪我をしても恨むな」

 「恨むなどとんでもないでござる。

 こちらも本番のつもりで挑ましてもらいますゆえ、返り討ちに合わないよう気をつけて下され」


 ヤードの言葉にスーラも戦意を高め、腰を落としすぐに攻撃できる態勢をとる。

 それに合わせ、スーラの傍にいたウインドウルフとシャドーウルフそれぞれ2匹達も身を低くして唸り声をあげる。

 一瞬即発の空気が通路に張りめぐる。


 「それじゃ、行くぜ」


 先に動いたのはヤード。

 片手に刃引きされた剣を持ち一直線に走り寄る。

 それを見たスーラが「ヒュッ」っと短く口笛を吹くと、その音に反応してすぐさま眷族達が動き出す。

 2匹のウインドウルフがそれぞれ左右に分かれ、ヤードに牙をむく。


 「短い間によく仕込んだじゃねぇか。

 だが、まだ甘い」


 右から来るウインドウルフに剣先を向けることで牽制し、飛びかかってきた左のウインドウルフにはその横顔に裏拳を喰らわせる。


 「甘いのはどちらですかね」

 「あぁ?」


 スーラの言葉を聞いたと同時に足に痛みが走る。

 足を見ればそこからは血が流れている。

 素早く辺りを見渡せば、シャドーウルフが影に紛れてこちらに飛び込んでくるのが見えた。


 「なるほど、ウインドウルフは囮か」


 その場から素早く動き、シャドーウルフの攻撃をかわす。

 再び攻撃を受けるのは避けることが出来たが、避けた先で今度はウインドウルフが飛びかかってくる。


 「面倒だな」


 剣を振るい攻撃を当てながら、シャドーウルフの動向にも気を配る。


 「魔狼はもともと集団で行動する生き物ですので、徐々に体力を削っていくでござるよ」


 狭い通路でのこの魔狼達の連携は有効だろう。

 昨日の訓練だけでここまで魔狼達に動きを教えたスーラの実力にも感心する。

 だが―、


 「やはり甘い」


 ヤードは剣を上段に構え気合を入れて振り下ろす。

 大振りの攻撃はすばやい動きをする魔狼達には当たることはない。

 当たることは無いが、その気迫は確実に伝わる。


 結果、気迫に飲まれた魔狼達は動きが止まってしまう。


 「連携が得意なら、確実に一匹一匹仕留めていけばいいだけの話だ」


 動きが止まった相手など倒すのに苦労しない。


 こうしてこの後すぐにヤードは魔狼達をすべて倒していった。






 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 侵入者役スーラ VS メーサ&眷族【蛇】達


 戦闘場所  密林エリア



 「次はメーサの番なの」

 「手加減はせんでござるよ」

 「もちろんなの。メーサも本気で行くから覚悟するの」


 二人の戦いは静かに幕を開けた。

 密林エリアに入ってすぐにメーサが一人立ってスーラを待ち構えていた。


 (何かの罠でござるか?)


 スーラ自身の戦闘力はそこまで高くない、彼女は主に支援系の能力優れている魔族だ。

 そんな彼女が一人で待ち構えているなど考えられない。

 スーラは用心して、ゆっくりとした足取りでメーサに近づいて行く。


 「あれ、攻撃してこないの?」


 可愛らしい笑顔を浮かべ、小首をかしげながら聞いてくるがスーラはそれに答えずじっとメーサの様子を窺う。


 「いいの?メーサばっかり気を取られて、上とか気にしなくて本当にいいの?」


 そう言って上を指さすと、木の上から次々とホッピングスネークが降って来るが、スーラはそちらをろくに見もせず槍で振り払っていく。


 「この程度なら気にしないで十分でござる。

 先に言っておくならば、上に気を取られた隙に足元をポイズンスネークで狙っていることもわかっているでござるよ。

 某も同じようなことを眷族に教えたでござるからな」


 近くの木々の影から感じたポイズンスネークの気配を感じ、先にそう言っておく。


 「な~んだ、気付いてたのか。

 でも、メーサの手はそれだけじゃないから平気、平気なの」


 木々の間から這いずる音が聞こえたと思うと、背後から巨大な蛇アナコンダイが大口を開けて襲ってくる。

 背後からの奇襲に防御が間に合わないと判断し、スーラは横に飛び避ける。

 無事にアナコンダイの攻撃を避けることが出来たが、飛んだ先に手を付いた瞬間、地面に合ったネズミ獲りの罠に手を挟まれてしまう。


 「っつ」


 挟まれた痛みで思わず口から苦痛の声が出てしまう。

 そして動きが一瞬止まった隙に、木々の影に隠れていたポイズンスネークが一気に近寄ってくる。

 それを槍で振り払い、挟まれた手を素早く抜く。

 簡単な罠のおかげですぐに抜くことが出来たし、そこまで罠も強力では無かったので挟まれた手もそこまでひどくは無い。


 「気をつけてねスーさん、そこら辺罠だらけなの。

 殺傷能力は無いけど動きを一瞬止めることぐらいは簡単なの。そして止まった時蛇達が待ってるから、噛まれないように注意してね!」


 笑顔で言われたその言葉にスーラは頬に冷や汗を流す。

 どうやら自分は罠だと注意していたはずなのに、見事に罠にはまってしまったようだ。






 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 侵入者役ダンジョン内の全員 VS ヤード


 戦闘場所  広い部屋



 なにも無いただ石造りの広い部屋でダンジョン内のすべての魔獣達と向かい合うヤードは苦笑を浮かべる。


 「主よ、これは模擬戦というより一種のいじめではないか?」

 「俺さすがにこれを見てそう思ったけど、他にいい考えが浮かばなくてね」


 ヤードは黒のダンジョンの中では一番強い。

 だからこそヤードはダンジョンの最後の砦となのだ。


 「まぁどこまで戦えるか腕試しのつもりで頑張ってよ。

 無理だと思えばギブアップしていいから」

 「はぁ…、わかったよ」


 諦めたように溜息を吐くとヤードは気合を入れ直し向かい合う魔獣達を睨みつける。


 「お前ら半端な覚悟で来たら痛い目見るぞ。

 覚悟入れてかかってこいや!」


 怒声と共に剣を握りしめ魔獣達に突っ込んでいく。


 「相手は一人です。皆行くぞ!!」


 魔獣達の真ん中にいたゴンラが皆を鼓舞するように叫びヤード向かい打つ。

 ジャイアントスパイダーが糸を吐き、ウットカゲが毒液を飛ばしてくる。

 それをかわし剣で防ぎ接近すると、ウットカゲを剣の横払いで吹き飛ばしジャイアントスパイダーの顔に拳を叩きこむ。

 一撃でジャイアントスパイダーを混沌させたが、その腕をマッドアリゲーターが思いっきり噛みつく、牙が突き刺さった所からは血が出て急いで離させようともう片方の腕に握った剣で殴ろうとしたが、そうはさせまいとゴンラが剣を握った腕に抱き突く。


 「この野郎、離せ!」

 「離さないです!」


 必死の形相でしがみつくゴンラ。

 両手をふさがれその隙にとばかりに近づいてくる他の魔獣達。

 それを見て、危険だと判断して無理やりゴンラが捕まる腕を振るい魔獣達にぶつける。

 ぶつけられた衝撃でゴンラが手を離し、自由になった腕でいまだ噛みつくマッドアリゲーターを引き離す。

 まだ戦い始めて5分も経っていないというのに、すでにヤードはかなりの疲労に襲われていた。


 一端距離を置いた魔獣達は攻撃の機会を窺い、こちらをじっと睨んでくる。

 その視線を見て、ヤードは両手をあげギブアップする。


 「主、悪いがこれ以上は無理だ。

 さすがに数の暴力にはこれ以上対抗できない」


 そう言って、ヤードとダンジョン内の魔獣達との模擬戦が終了した。






 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 全ての模擬戦を見終わった俺は肺に溜まった息を吐き出す。


 皆大きな怪我もせず無事終わってよかったと安心してしまう。


 「マスターお茶です」


 そんな俺にムースがお茶を差し出してくれる。


 「ありがとう」

 「どうでしたか皆さまの戦いは?」

 「色々知ることが出来て良かったよ」


 スーさんの所はもっと連携の幅と引き際を覚えるべきだろう。

 一匹がやられた後、相手の実力を見極めて引くというのも重要だ。

 メーサの所は自分たちのエリアの特性をよく理解していた。

 ただあれはスーさんが罠にはまったから効率が良く仕留めるだけにすぎない。

 もし罠にかからなかったら、そこのところをもっと仕上げる必要がある。

 ヤードに関しては、もう少し腕をあげて欲しいと考えている。

 今のままでも強いが、それはダンジョンの中での事。

 もっと腕をあげなければ危ないということは本人もよくわかっているだろう。



 「まだまだ課題は多そうだな」


 模擬戦をやって出てきた問題を考えながら、黒はダンジョンを直していく。


 まだまだやることは山のようにある。

 プロジェクト開始まで頑張らないといけない。


最後までお読みいただきありがとうございます。

評価やブックマーク、感想などいただけると嬉しいです。

これからも頑張っていくのでよろしくお願いします。

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