これからの発展に向けて
ダンジョン生活四日目
昨日はムースとメーサが俺を挟んで言い合いしていて大変だった。
どちらも、またはどちらかが怒りだせば止めるには入れたのだろうが、どちらも表情は変わらず、ムースは無表情でメーサは笑顔で言い合いをしていたので止めるに止められなかった。
結局は精神が削られた俺が、疲れたとつぶやいたことで二人は言い合いを止めてくれた。
(その際どちらが黒は自室に連れていくか激しい視線での応酬があったが、疲れていた黒は気付かなかった)
今朝みんなで朝食をとるとき、俺を見捨てて逃げたヤードに鋭い目線をやるが、ヤードはその視線をさらりと流す。
まぁ俺が同じ立場に立てばそうなるから文句は言わない。
さてプロジェクト開始まであと6日、しっかりと準備しないとな。
まずは日課になりつつあるメール確認から。
『神無月黒様、アクノマ商会からの賞与が来ています
【蛇の巣穴】:ダンジョン内部に一定数以上の蛇系の魔獣がいる
賞与500DP
神様方から褒美が来ています
【愛される者】 :出会いと約束の神ランデから200DP授与されます
【蛇に慕われる者】:蛇神オロチから150DP授与されます
●お知らせ
現在のDDM数 992名
プロジェクト開始前にすでに8名の方が亡くなっております。
皆さまもプロジェクトが始まって無いと安心せずに、頑張って生活して下さい。
アクノマ商会 代表 カーニバル・クラウン』
すでに8名が死んでいるのか。
顔もわからない人間とは言え同じプロジェクトに参加する人間が亡くなったというのは、少なからず心にシコリを生む。
「マスター大丈夫ですか?」
「マしゅター平気、平気?」
暗くなったのが顔に出たのだろう、ムースとメーサが心配そうに声を掛けてくる。
ヤードも何も言わないがその目は俺を心配しているのがよくわかる。
暗くなっていても仕方ない、とにかくこの仲間達のためにも俺は前に進まないと。
「ごめんね、もう大丈夫」
笑顔を作りみんなを安心させる。
「さて今日は現在のダンジョンの出来について聞こうと思う」
大部屋の机の上に現在のダンジョンの図が描かれた紙を乗せる。
今できているダンジョンでどれぐらい侵入者に対抗できそうか、皆の意見を聞いて、その意見を元に修正していく。
「まずは、まだダンジョンの全容を知らないメーサに教える意味を込めて説明からするね。
俺のダンジョンは全体的に細長く長い通路とその間にある開けた空間に造られ密林でできている。
この造りの理由は時間をかけるということだ」
「時間をかける?」
メーサは意味がわからないのか首をコテンと倒す。
その可愛らしい行動に思わず頭を撫でようと手が動くが、ムースの冷たい目線に止められる。
そしてムースの視線を逃れるように話を続ける。
「ダンジョンにはいろいろな形があると思うんだ。
モンスターがうじゃうじゃいるダンジョン、罠ばっかりのダンジョン、一本道のダンジョン、何層もにもなる広大なダンジョン他にもたくさんの種類のダンジョンがあると思うけど、全部のダンジョンに共通して言える事、それは侵入者を殺すための造りになっているということだ」
「それと時間かけるのどう関係するの?」
殺すことと時間をかけることがどう繋がってくるのか?
「そうだな、ヤード君は一対一で人間に勝てる?」
「相手の実力にもよるが、そこらの一般人相手なら勝てると思うぞ」
「なら加護を受けた兵士なら?」
「それも相手しだいだな。
加護の能力によって戦い方が大分違ってくるからな」
加護の数はそれこそ無数にあり、そのため加護を持つものにも向き不向きの相手というのが出てくる。
「なら相手がヤードにとって不利の加護を持っていて、なおかつ実力が上なら勝てる?」
「……戦ってみないとわからないな。
戦いなんて何が起きるか分からないんだ、相手の実力が上でも勝てる可能性は零じゃないからな」
勝てないと言わないあたりがヤードのプライドというやつだろう。
だが、今言った条件ならヤードが負ける可能性が圧倒的に高い。
「確かに戦いなんて何が起きるか分からないからね。
もしかしたら、その相手は長時間ダンジョンを探索したせいで、疲労困憊で精神を削られて、おまけに奇襲を受けて麻痺や毒に罹っていたら戦闘を有利に運べるかもしれないからね」
「クックックッ、確かにそんな状態なら俺は有利に戦えるな。
主よ、主が作るダンジョンはそれが目的か?」
「違うよ。目的はあくまで侵入者を殺すこと、これはそのための手段だよ」
実力が足りないなら、実力を増やせばいい。
それは質であれ、数であれ手段はいくらでもある。
しかし増やした所で足りなければ、今度は逆に考えればいい。
自分達の実力が足りないなら、相手の実力を削り落とせばいい。
俺のダンジョンはそうやって時間をかけて相手を仕留めていく造りにしてある。
「マスターの考え、ダンジョンの造りの理由は理解しました。
ですが、失礼ながらそこまで上手く行くのでしょうか?」
「上手くいかないだろうね」
そうあくまでこれは理想であり、実際には上手くいかないだろう。
いや、上手く行く方がおかしいのだ。
「実際にどれくらい削れると思う?」
ヤードに尋ねてみると、しばらく考え込んだ後に、
「よくて3割ってところだろうな。
長い道のりに密林の環境、魔獣などの攻撃を考えても3割削れたら恩の字、普通に考えて1割削れたら良い方だろうな」
ヤードからの厳しい意見に俺も同意だ。
今いる魔獣の毒なんて効いてもそれほど効果はないし、それに侵入してくる相手もそれなりに準備してくるだろう。
よほど馬鹿でもない限りそこまで削れない。
「だろうね、俺もヤードの意見に同意だ。
だからこれからさらにダンジョンに手を加えていくよ」
足りないなら、足りるようにすればいい。
「まずは魔獣の数を増やす」
「マしゅター、メーサの蛇達じゃダメ?」
昨日頼むと言ったばかりなのに、他の魔獣を増やすと聞いてメーサが少し落ち込む。
「駄目じゃないよ。
メーサの蛇達は密林で活躍してもらうだろう。今度呼び出すのは通路で活躍してもらう魔獣達さ」
細長い通路で倒すことを目的とせずに、ヒット&ウェーが目的の足が速い魔獣を呼ぶつもりだ。
「あとはトラップの設置。
設置したら教えるからみんなは引っ掛からないように注意してね」
設置するトラップは殺傷能力こそ低いトラップだが、かわりに量をかなり用意するつもりだ。
「それで最後だけど、これは少しDPを多く使うことになると思う」
今考えていることが上手く行けば、かなり有利になるが、残りのDPが少し心配になってしまう状況になる。
この最後の考えだけは、皆の意見を尊重したいと考えている。
「気にすんな主、主が考えたことだ好きなようにやればいい。
俺達はそれについていくだけだ」
「その通りですマスター。マスターが思うようになさってください」
「マしゅター、メーサ頑張る!頑張る!」
そんな俺の心配をみんな優しく受け入れてくれる。
だからその優しさに答えるためにも、俺は悔いが残らないように行動する。
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