得た!増えた!ヤッター?
昨日ヤードと忠臣契約を結んだあと、いろいろあったため黒はすぐに寝てしまった。
そしてダンジョン生活三日目、昨日と同じようにムースが作る朝食の匂いで目を覚ました。
「おはよう」
「おはようございますマスター」
「おう。どうだい主、疲れはとれたかい?」
昨日より一つ増えた返事が、昨日のことが事実だと改めて実感させられる。
ヤードの返事にムースが目を鋭くさせ睨むがヤードはそんな視線を軽く流す。
俺にとっても、変に堅苦しいよりはヤードのそういう態度の方が気楽でいいから特に注意とかはしない。
「おかげさまで、まだ少し熱は持ってるけど特に問題ないよ」
「そうかい、だがきつかったらすぐ言ってくれよ」
ぶっきらぼうだが主を心配する気使いが見て取れる。
それからみんなで朝食を食べる段階になって黒はあることに気づく。
「あれ?ゴンラは」
昨日回復薬を使ったゴブリン、ゴンラ。
特に忠臣契約を結んだ訳ではないので、彼には元からの名前をそのまま読んでいる。
「もしかしてまだ昨日の怪我が治って無いの?」
回復薬を使って治療はしたが、あれだけ血が出ていたのだ。一日経ったぐらいでは思うように体が動かないのかもしれない。
「あ~、ゴンラだがな。怪我は治っているんだがな……」
そこまで言ってヤードが気まず気に視線をそらす。
何かあったのだろうか?
視線をムースに向けると、彼女がきっぱりと説明してくれる。
「この部屋は怖いとのことです」
昨日の突然見知らぬ場所に呼び出され、何が何だかわからぬうちに痛い思いをしたゴンラは、どうやらこの部屋にトラウマが出来たらしい。
「本人からは「助けていただき大変に感謝しています。でもこの部屋はイヤー」そう言って、ダンジョンの樹海エリアで過ごしています」
「まぁ、責めないでやってくれ、主も怖がっている奴に無理をさせるのは嫌だろう」
その通りだ。
最悪元の場所に返してくれって言われてもおかしくなかったのに、まだ残ってくれるだけありがたいと思わないといけない。
樹海エリアもまだ、他の生物がいるわけでもないし、一人分ぐらいなら木になる実で飢えを凌ぐことぐらいできるだろう。
ちなみに俺の癒しでもあったスラりん(最初に呼び出したスライムの名前)は、ゴンラと一緒に行ったらしい。
ヤードが小さく「……メイドの嬢ちゃんが無理やり連れて行かせたんじゃないか」と呟いたが、それは黒の耳に入ることは無かった。
そうして三人で朝食を食べ終わった後、黒は新しい情報が来てないかメールを確認する。
『神無月黒様、アクノマ商会からの賞与が来ています
【謀反撃退】:呼び出した魔族が主に反逆したが、それを見事撃退する
賞与2000DP
【義の杯】:義に熱き者と契約を結ぶ
賞与300DP
神様方から褒美が来ています
【不運に見舞われた者】:運命の神ルートから150DP授与されます。
【幸運に見舞われた者】:運命の神ルートから150DP授与されます。
【義の心を持つ者】:侠客の神ブライから100DP授与されます』
なんだかいろいろ来ている。
増えたDPは全部で2700DP。
しかし昨日の堕ちた者ゴンザやヤードを呼びだしたため当初よりも多くDPがかかり、しかもゴンラの治療のために使った回復薬は、慌てていたせいで市販のよりも高価なのを購入してしまってかなりDPを使っている。
全部計算したら現在のDPは3800ほどになった。
しばらくはどうやってDPを増やすかを考えていたから、これでだいぶ楽になる。
「ヤード何か欲しい武器とかある?」
昨日助けてもらったお礼を込めて聞いてみる。
「武器か……、俺にはこれがあるからしばらくは要らないな」
そう言って腰の後ろから取り出したのは、普通の短刀。
昨日ゴンザが気付かなかったのも、普段は腰の後ろに隠すように差しているため、簡単に見ただけでは短刀を持っているとは気付かれないからだ。
「少し抜いてみてもいい?」
「抜くのはいいが、切れ味がいいからな気をつけろよ」
ヤードから受け取り、ゆっくりと鞘から刀身を抜き出す。
銀色の刀身は綺麗に手入れされているのが窺え、それと同時に使い込まれていることもよくわかった。
「銘とかは?」
「さてな、戦った相手から奪ったもんだ。銘があったとしても俺は知らん。
武器なんてもんは基本銘や名を知らなくても使えるからな」
そこには、命をかけて戦った者だけが語れる確かな理があった。
黒はもう一度短刀の刀身に目を落し、しっかりとその輝きを目に焼き付けると鞘に納めヤードに返す。
「いいものを見せてくれてありがとう。
武器は要らないか…、なら他に欲しいものとかある?」
「欲しいものか、なら安くてもいいから酒を頼む。
昔守った奴に教わってな、それ以来時々欲しくなるんだよ」
「それぐらいならいいよ。どうせなら安酒じゃなくて高級酒でもプレゼントしようか?」
「止めてくれ、高級酒なんか飲んでも俺には合わなくて腹を壊すだけだ」
苦虫を顔でそういうヤード。
その言葉があまりにも彼に合っているの、俺は思わず苦笑を洩らす。
確かに彼には高級酒よりも、安酒をチビチビと飲む姿の方が似合っている。
「マスター、お酒を出すのでしたら他にも食材を頼んでよろしいでしょうか?」
それまで朝食で使った食器を片づけながら、黙って聞いていたムースが話に入ってくる。
「もしかして結構食材類少なくなってる?」
「はい、何とか無駄が無いように工夫していたのですが、人数が増えたこともありもとからあった食材は持ってあと2日ほどです」
ダンジョンが開くまであと7日、これから増える人数のことも考え三倍の人数が賄えるだけの食材を一週間分準備することにする。
食材と調味料各種、そしてヤードのための酒と甘味類、すべて合わせて1000DPなかなかかかったが、甘いものが手に入ったから特に気にならない。
「他に何か必要なものってあるムース?」
生活に必要なものなど俺よりもムースの方が把握しているだろう。
「必要なものですか……、指輪でしょうか」
「へっ?」
「いえ、今の所急いで揃える物は無いと思います」
最初指輪とか言ったが、ムースは俺に何を求めているのだろう。
……怖くて深く追求できない。
ヤードなんかは「ちょいちょい本音が漏れるから、逆に怖いんだよな」と言い、関わらないように視線を逸らしている。
俺も指輪と言ってから、こちらを熱のこもった視線で見てくるムースに気づいていない振りをして、無理やり次の話を進める。
「さて、それじゃあ今日はダンジョンを少しいじりますか」
増えたDPで今日こそしっかりと魔獣たちを呼びだすことにする。
「昨日はいきなり知恵がある魔族を呼ぼうとしたのがいけなかったんだよな、だから今日はスライムみたいな魔獣を呼びだすことにするよ」
「呼ぶ魔獣は決めてるのか?」
「一応はね。もともと俺のダンジョンは戦闘のメインは密林エリアになりそうだからね、それに合った魔獣を呼ぶつもり」
密林に合う生き物と言えば、蛇などの爬虫類系や、クモなどの昆虫系になって来るだろう。
「それだけか?せっかくうっそうと木が生えてるんだ魔樹系も呼んだらどうだ?」
「魔樹?」
それは初めて聞く体系の名前だ。
ムースが補足してくれた説明によると、上半身が人型で下半身が人喰い花でできているラフレシア族や、触れると胞子をまき散らす傘を持ったキノココ族などの種族を総称した呼び名らしい。
万魔事典で調べてみると、確かに魔樹系も多く登録している。
だがどの種族もかなりDPが必要になる。
「気難しい一族が多くてな、気に入ったエリアからは滅多に動かないんだが、変わりに自分のエリアでは無類の強さを誇る奴が多いんだよ。
DPが高いのもそのせいだろう」
ヤードは昔誤って一人のラフレシア族のエリアに入り危うく食べられそうになったそうだ。
話を聞いて、いつか自分のダンジョンにも魔樹系の誰かを呼びたいと考えたが、今回は見送ることになった。
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