表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/103

集団戦  交渉

今回の視点オウレは第89話で出てきたキャラです

 オウレ=ミールク=ラッテ視点



 (ハァ~、これどう考えてもヤバいでしょう)


 俺はコウラ隊長の後ろで、小さく溜息を吐きだす。


 「それじゃあ交渉を始めるの」


 蛇髪魔族がコウラ隊長にそう宣言する。

 本来の蛇髪となった瞬間、普通の髪の姿とき以上の恐ろしい気配を放っている。

 だけど、俺が注意しているのはその背後にいる白い大蜘蛛だ。


 (蛇髪魔族も恐ろしいけど、あの白い大蜘蛛もそれ以上だろうな~。

 もう何なんだろうねアレは、さっきから冷や汗が止まらないんだけど)


 八つの紅い目は、一見交渉のため一歩前に出たコウラ隊長に向いているように見えるが、確実にこちらの様子もうかがっている。おそらくこちらが少しでも妙な真似をすればすぐさま牙を剥くだろう。

 全員で挑めば勝てなくもないが、戦わなくていいなら戦いたくないと思ってしまう。


 (ハァ~、なんで俺こんな所にいるんだろう)


 緊迫した状況のせいで、つい現実逃避をしたくなってしまう。

 面倒臭がり、怠け者、ごく潰しの三男。

 そう周りに言われているのは知っていた。

 まぁ実際、寝坊はするは、昼寝はするは、サボりはで面倒臭がり、怠け者と言われるのは仕方がないと思う。

 ただ、俺はごく潰しではなかった。

 魔法に優れていた貴族の三男として生まれ、小さい時から魔法の英才教育を受けていた。

 自慢するわけではないが、俺には魔法の才能があったようで、すぐに二人の兄よりも魔法の腕を上げた。

 幼かった俺は、面白いように上達する魔法が嬉しくて、ついつい周りに披露して周り、そのせいで二人の兄から恨みを買うことになった。

 最初は軽い悪口だったが、次第に罵詈雑言になり、両親に隠れて暴力を振るってくるようになり、最後の方には魔法失敗と見せかけて、俺を亡きものとしようとしてきた。

 さすがにその行為は魔法を見てくれていた先生により阻止されたが、その行為を見た俺は、それ以降自分の実力をわざと兄達よりも低く見せるようになった。

 才能があると思われていた俺の実力が伸びなくなったのを見て、周りは再び兄達を注目するようになり、兄達は安心し俺を攻撃することは無くなった。


 (おかげで俺は、わざと実力がない振りをする日々なんだよね~)


 下手に張り切って仕事をすると、また命を狙われる可能性がある。

 だからそうならないためにも怠け者のフリをしていた。


 (まぁ、そのおかげかいいスキルを身につけることもできたけどね)


 【魔法(スリーピング・マジック)(・パワー)て待て】、休めば休むだけ魔力を体に溜めこむ事ができるスキル。

 【(イージー・ロングコース)がば回れ】、持続性のある魔法を使うときにその効果や威力を上げるスキル。

 この二つのスキルを有効的に使うために、必要な時以外休んで力を溜めていたのだが、スキルの事を誰にも言わなかったため、傍から見たらサボっているようにしか見ず、事情を知らない父から強制的にこの隊に入隊させられてしまった。


 (命の狙われる可能性の日々から、命の危険のある日々を送るなんて、ほんとにハァ~)


 まったくもって溜息しか出てこない。

 俺がそんな現実逃避をしようとしている間にも、交渉は進んでいく。




 「まずはマしゅターの言葉をそのまま伝えるの」


 マしゅター?あぁマスターの事か。

 確かマスターっていうのはこのダンジョンを造った存在だったな。

 各地に表れたダンジョンについての情報を集めているとき、その存在が明らかになった。


 魔族が地上侵攻するために造られたダンジョン。

 魔族の侵攻を止めるにはダンジョンを封印するしかなく、封印の方法はダンジョンの支配者であるダンジョンマスターと呼ばれる人物を殺すしかない。


 (情報によると大抵の場合、ダンジョンマスターはダンジョンの一番奥にいて、強力な魔物に守られているって話だからな)


 まだまだ謎が多いダンジョンマスターからの交渉。これだけでも貴重な情報を得られたと言える。


 「『侵入者の諸君、私のダンジョンはどうだい?楽しめているかな?

 さて本来なら君達には、勝手に私のダンジョンに侵入してきた罰として、死ぬほど恐ろしい思いを骨の髄まで叩きこんだ後に、本当に死んでもらうつもりだったのだが、君達がけなげに頑張る姿を見て気が変わった。

 君達を殺すことはできる。

 だが、それではこちらの気が治まらない。


 仲間を傷つけられたんだ!

 普通に殺すだけじゃ、こっち腹の虫が治まらねぇんだよ!!


 だから今は、見逃してやる。

 そして再びこのダンジョンに挑んで来い。

 強くなったお前らを、復讐に燃えるお前らを、俺を殺そうとするお前らを、容赦も遠慮も躊躇も無く、殺しまくってやるよ!!』」


 足が震えだしてしまう。

 その言葉に込められている憤怒に。

 普通には殺さないという残虐性に。

 そして何よりも、再び挑んで来いと、挑んできた者達を圧倒して見せるという強者だけが持つ自信に。

 俺は自然と足が震えてしまった。


 「『さてここまでは私の前口上だ。

 それでは交渉を始めよう。交渉する内容は普通にお前らを返したのでは、もう二度とこちらに来ない可能性があるからな。

 お前達が再び挑んで来ると証明しろ。そしたら今回はそのまま返してやる』」


 脅してからの交渉に持ち込む。

 まさに魔族らしい脅迫交渉だ。


 今回はおそらく様子見だったのだろう。

 そして様子見でこの被害なのだ。

 本格的に待ち構えられたこのダンジョンに挑むのは自殺にも等しい。


 「少し仲間と相談したい」


 コウラ隊長がそう言うと、蛇髪魔族はうなずく。


 「相談していいの。ただし、無意味に時間をかけていたり、あやしい行動すれば交渉決裂とみなし、すぐさま攻撃するの」

 「わかった」


 相談が許され、コウラ隊長はすぐさま隊員に集めて尋ねる。


 「率直に聞こう。みなは再びこのダンジョンに挑めるか?」


 その問いに俺は思わず視線を落とす。

 他の多くの隊員も同じだ、同様に目を逸らし再び挑みたくないと言外に訴える。

 だが隊員の中には、数名挑んでもいいという声を上げる者もいた。


 「おりゃ挑んでもいいですぜ」


 体中に傷があり、顎を鉄板で補強しているため言葉が少しなまって聞こえてしまうショチュウさんだ。


 「こんな闘いがありそうな場所、何度でも来たいですわ」


 【戦闘中毒(バトルジャーキー)】のスキルを持っているせいで、この人は勝てないとわかっていても、強い人に挑んでいってしまう。

 ショチュウさんの声に続いて、戦闘好きな隊員が再戦すると声を上げる。


 「私も参加さえてもらうわ」


 そんな彼等に混じって、ダージンさんがボロボロになりながら声を上げる。


 「ブランに、ペッパー君の仇うってあげないといけないですしね」


 その言葉に彼等と仲が良かった隊員が、顔を上げる。

 あの二人の奮闘が無ければ、おそらくこんな交渉の場が開かれる事は無かっただろう。

 そう考えたのかその隊員も恐る恐るだが、自分も再戦すると言った。


 仇を討ちたいという気持ちはある。

 このまま、このダンジョンを放っておくことができないということもわかる。

 それでも、死ぬ恐怖が決心を妨げる。


 「難しい選択を迫ってすまない」


 決心ができない俺達にコウラ隊長が頭を下げる。


 「無理強いはしたくない。俺は仲間が死ぬのを見たくないからな。

 だが一言だけ言わせてくれ。


 ここで逃げ出しても誰も文句は言わない。

 だけど、逃げ出したあときっといつまでも後悔することになる。


 だから胸を張れる選択をしてくれ」


 胸を張れる選択。

 兄達に命を狙われるのが嫌で、ずっと怠け者のフリをしてきた。

 本当の俺は違う。

 もっとできるんだ。もっとやれるんだ。

 そう心の中で叫びながらも、怠け者のフリをしているうちに、いつの間にか心が叫ぶのを怠け、ずるずると本当に怠けものになりかけていた。


 (ここで逃げ出したら、きっと俺は本当の怠け者になってしまう)


 この隊ならば、本当の俺でいられるのだ。

 だから俺は逃げない。


 決意を決め顔を上げると、同じように決意を固めた顔の仲間達がいた。

 隊員達の顔を見てコウラ隊長は、力強くうなずく。


 「相談は終わった。

 俺は、全員このダンジョンに挑む」

 「ふ~ん、全員ね」


 何かを確かめるように蛇髪魔族は俺達を見渡し、毒の言葉を口にする。


 「まぁいいの。

 それでその証明はどうするの?」

 「証明だと?」

 「そうなの。口で言うのは簡単なの。

 でも本当にもう一度来るの?

 ダンジョンを出て、平和な日常に戻ったら、戦いたくなくなるんじゃないの?」


 その言葉は決意した心を鈍らせる。

 この場でいう言葉だけでは信用できない。

 だがか、その言葉に嘘がないか証明しろと蛇髪魔族はいう。

 確かに、平和な時間を味わったら、ここに戻って来たくなくなるかもしれない。

 でもそれは――、


 「甘く見るな!!」


 コウラ隊長が一喝して、腰に差した剣を抜き剣先を蛇髪魔族に向ける。

 白い大蜘蛛が動き出そうとするが、それを蛇髪魔族が手で制す。


 「お前のマスターは言ったな、『仲間を傷つけられたんだ。腹の虫が治まらねぇ』と、それはこちらも同じ事だ!!

 俺達も仲間を傷つけられてるんだよ!!

 やられっぱなしで、終わるはずねぇだろうが!!

 いいか、よく聞け。


 首洗って待ってろ。

 お前らは一匹残らず殲滅してやる」


 コウラ隊長の宣言に続くように、俺達も自らの決意を示すかのように武器を向ける。

 舐めるな。

 その程度の甘言で曲がるような決意では無いと、今ここで戦ってもいいぞという覚悟で示す。


 俺達の行動を見て、一瞬蛇髪魔族は驚いたように目を見開くが、すぐに口元に笑みを浮かべて、年相応に、子供のように笑いだす。


 「いいの、いいの、いいの、本当に面白いの!!

 マしゅターも許可が下りたの。

 交渉は無事終了、あなた達と再び戦うのすっごく、すっごく、すっごーーく楽しみに待ってるの!!」


 こうして交渉は何とか無事に終えることができた。

 最後にダンジョンを去ろうとする俺達に、蛇髪魔族は土産を持たせる。


 「これ敢闘賞っていった所なの。

 これで今度来る時は、しっかり準備をそろえて来てなの!!」


 籠一杯に詰まった宝石の山。

 これが目的でダンジョンに入ったのに、今はその宝石の山を見てもなにも沸いてこない。

 俺達は静かに仲間の遺体と、宝石の山を背負いダンジョンをあとにした。










 ウワバミダンジョン VS ドリンク隊


 ウワバミダンジョン  重傷者一名、軽傷者一名。

 ドリンク隊      死者二名

            重傷者四名、軽傷者多数。


 こうしてウワバミダンジョン初めての集団戦は幕を下ろした。


最後までお読みいただきありがとうございます。

評価やブックマーク、感想などいただけると嬉しいです。


集団戦はあと一話、それぞれの戦後処理を書いて終了。

その後少し閑話を書いていきたいと思っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ